表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死亡扱いの最強冒険者、13歳の姪として再登録しました 〜“故人”のままバレずに現役復帰します〜  作者: 猫が寝転んだ
第二章 傷跡の残る森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/23

第四話 風を制御する

少し短めです。


明日からは、18時10分更新いたします。

 森へ入ってさらに奥へ進むと、人の手が入った痕跡は急激に減っていった。


 街道沿いなら、薬草採取や木材運搬の人間もそれなりに見かける。だが、この辺りまで来ると違う。

 聞こえるのは風の音と、枝葉の擦れる音ばかりだ。


 アタシは立ち止まり、ゆっくりと息を吐いた。


「……さて」


 今日は依頼ついでの訓練日だ。


 単純な魔力放出なら、もうある程度形になっている。

 問題は、その先だった。


 戦場で本当に役立つのは、“強い魔法”より“崩れない制御”だ。


 広域探知を維持しながら移動し、さらに補助や攻撃まで同時運用する。今のアタシはそういう戦い方へ変わり始めている。


 だが、出来ることが増えたせいで、一つ一つの精度がまだ甘い――


 シャロンにも何度言われたことか。


『雑に強いわねぇ……』


 あの時は軽く流したが、今なら意味が分かる。


 以前のアタシは、身体強化で前へ出て斬る戦い方が中心だった。

 多少制御が荒くても、力任せに押し切れる相手が多かったのだ。


 だが、オーガ戦ではそうはいかなかった――


 正体を隠したまま戦場全体へ補助を撒き、周囲へ気取られないよう魔法を重ねる必要があったのである。


 魔術師の火力を僅かに底上げし、剣士の斬撃へ風を合わせ、軌道を逸らし、気づかれない範囲で戦況を調整する。


 ほんの少し制御を誤るだけで、“誰かが介入している”と勘づかれかねなかった。


 だからこそ、あの戦いでは出力より精度を求め続けることになった。


 今思えば、あれもかなり良い実戦訓練だったのだろう。


「まずは探知からだな」


 アタシは木へ背を預け、目を閉じる。


 風の流れへ意識を乗せる――

 魔力を周囲へ広げる感覚は、水面へ静かに墨を落とす感覚に近い。


 慌てて広げると濁る。

 雑念が混じると輪郭が崩れる。

 ゆっくりと、丁寧に――


 森を流れる風へ、自分の感覚を混ぜ込んでいく。


 数秒後、周囲の地形が頭の中へ浮かび上がった。


 東側、二百メートル先に小型魔物が三体。

 地中近くを移動している。たぶんロックモールだ。


 西側には角ウサギが一匹。


 さらに上空――樹上付近には鳥型魔物らしき反応もある。ただ、種別までは判別できなかった。


「……魔力浸透がまだ甘いな」


 アタシは眉をひそめる。


 位置把握だけなら問題ない。

 だが、生体情報の輪郭がぼやけているせいで、細かな識別精度が足りなかった。


 風が枝葉へぶつかる音や木々の揺れまで拾いすぎていて、探知情報へ余計なノイズが混ざっているのである。


 これでは乱戦時に味方と敵を誤認しかねない。


「もう少し絞れるか……?」


 アタシは魔力の流し方を調整する。


 まずは魔力を広範囲へ薄く均一に広げる。


 そのうえで、反応を拾った箇所へだけ魔力が自然と集中するよう制御し、必要な情報だけを掬い上げていく。


 すると、探知の感触が少し変わった。


 さっきまで曖昧だった魔物の輪郭が、わずかに鮮明になる。


「……なるほど」


 魔力消費も軽い――


 ただ、その分だけ集中力を使う。長時間維持するなら、もっと感覚へ馴染ませる必要がありそうだった。


 その時――不意に東側の探知へ小さな反応が引っかかった。


 木々の隙間を、小型魔獣が移動している。


 アタシはすぐに足元へ風魔法を流し込んだ。


 身体がふっと軽くなる。

 踏み込みと同時に、地面を滑るように加速した。


 風魔法による移動補助は、単純な身体強化より静かで地面への負担も少ない。

 反面、制御を誤れば勢いを殺しきれず、そのまま木へ突っ込む危険もあった。


「――っと」


 アタシは幹を蹴って進路を修正する。


 枝葉を避けながら加速を維持し、そのまま前方へ視線を向けた。


 視界の先には、牙獣がいた。


 分類上は小型魔物だが、それでも体格は大型犬ほどある。牙も太く、見習い冒険者なら一匹でも十分危険な相手だった。


 まだこちらには気づいていない。


 アタシは木陰へ滑り込み、そのまま薄く風魔法の結界を展開する。


 周囲の空気へ魔力を馴染ませながら、自分の周囲だけ風の流れを静かに制御していった。


 足音による空気の震えや体温の拡散。 呼吸に伴う微かな乱れ、さらには生物特有の魔力反応まで、少しずつ周囲の風へ紛れ込ませていく。


 そうして存在の輪郭そのものを森の気配へ埋もれさせる。


 派手さはない――


 だが、索敵能力を持つ魔物相手には、こういう細かな隠密制御の方がよほど重要だった。


 牙獣が耳を動かした。


 だが、警戒は続かない。

 アタシを見失ったまま、獲物を探して歩いている。


「よし――」


 アタシは腰の短剣へ手を伸ばさなかった。


 今日は風魔法だけを使う訓練日だ。


 右手へ集めた風を、できる限り薄く圧縮していく。


 必要以上の威力はいらない。

 重要なのは、“狙った場所へ必要な威力だけを通す”制御精度だった。


 狙いは首筋――


 アタシが指先を軽く振ると、圧縮された風刃が音もなく走る。


 次の瞬間――牙獣の首筋へ鋭い裂傷が刻まれた。


 牙獣は短く身体を痙攣させ、そのまま地面へ崩れ落ちる。


「……少し深いか」


 アタシは眉をひそめた。


 切断までは届いていない。

 狙い自体は悪くなかったが、最後の瞬間に魔力を乗せすぎたせいで、必要以上に出力が跳ねている。


 これでは魔力消費の効率が悪い。


 アタシは倒れた牙獣へ近づきながら、小さく息を吐いた。


「まだまだ調整が必要か……」

お読みいただきありがとうございました。


面白いと思われたら、ブックマーク、評価、リアクション等よろしくお願いします。


作者の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ