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死亡扱いの最強冒険者、13歳の姪として再登録しました 〜“故人”のままバレずに現役復帰します〜  作者: 猫が寝転んだ
第二章 傷跡の残る森

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第二話 一人前になるまで

こちらは本日二話目です。

全く初めての方は第一章から遡ってご覧いただけると嬉しいです。

 クルド東門を抜け、森へ続く街道を歩く。


 朝の依頼帰りらしい冒険者たちと何度かすれ違った。


 鎧姿の冒険者に混じって、革装備の少年少女たちの姿も見える。動きや装備の扱い方を見る限り、まだE級――見習い冒険者だろう。


 歩幅は揃っていないし、周囲を警戒する余裕も薄い。腰の短剣もまだ真新しく、いかにも駆け出しという雰囲気だった。


 そして何より、背負っている荷物が重すぎる――


 背中へ潰されそうな勢いで歩いている少年を見て、アタシは思わず声を掛けていた。


「おい、あんたたち」


 三人組がびくっと肩を震わせる。


「は、はいっ!」


 返事だけ妙に元気だった。

 アタシは少年の背負い袋を見上げる。


「なんだよ、その荷物。山越えでもする気か?」


「え?」


「その量抱えたまま森歩いたら、奥入る前に潰れるよ」


 実際、袋の膨らみ方が酷い。詰め込みすぎで重心がぶれているせいで、歩くたびに身体ごと左右へ振られていた。


「え、でも、準備は大事だって……」


「そりゃ大事だよ。でも、持ち歩けなきゃ意味ないだろ」


 アタシは苦笑しながら、重そうな背負い袋を顎で示した。


「森じゃ、一番危ないのは体力切れだ。帰り道で足が止まった時に限って、面倒なのと鉢合わせるからね。

 魔獣相手に逃げる余力も残ってない、なんて状況になったら笑えないよ」


 三人は顔を見合わせながら、自分たちの荷物を見下ろした。どうやら心当たりはあるらしい。


 そのうち、赤毛の少年が少しためらうように口を開く。


「あ、あの……マキさん、でしたっけ」


「ん?」


「この前の戦いで活躍したって聞きました」


「誰からそんな話聞いたの」


「ギルドで噂になってます」


 余計なことを――

 復旧作業組か、それとも受付連中か。どのみち、あの騒ぎの中で完全に目立たず終わるのは無理だったらしい。


「別に大したことしてないよ」


「でも、A級のライアンさんとも話してましたよね?

 あの、難しそうな感じで……」


「依頼の報告しただけ」


 完全な嘘ではない――


 少年は「おお……」と感心したような声を漏らした。


 どうやら“A級冒険者と話していた”というだけで、かなり特別なことに見えているらしい。


 その尊敬の眼差しに、アタシはなんとも言えない気分になる。


 やめてほしい――

 そういう目で見られるのは、どうにも落ち着かなかった。


「それより、あんたたち。階級の意味、ちゃんと理解してるの?」


「え?」


「E級だから雑用、A級だから英雄、くらいにしか思ってないなら危ないよ」


 三人が慌てて姿勢を正す。

 どうやら図星だったらしい。

 アタシは苦笑しながら、そのまま街道を歩き続けた。


「E級は、要するに見習いだね。まだ“冒険者として生き残る方法”を覚える段階。護衛依頼は禁止だし、討伐も基本は先輩同行。単独行動なんてもってのほかだ」


「は、はい」


「森で死なないための訓練期間――って思った方が近いかな」


 三人は真面目な顔で頷いている。


「D級で、ようやく一人前扱い。薬草採取とか低級魔物討伐、簡単な護衛依頼なんかを任されるようになる」


 今のアタシも、表向きはここだ。


「C級まで行くと中堅だね。新人指導を任されたり、小規模な依頼で指揮を執ることも増えてくる」


「へえ……」


「B級は都市防衛の主力。街に何か起きた時、一番最初に前線へ放り込まれる連中だよ」


 そこまで口にしたところで、自然とオーガ襲撃の時の光景が頭をよぎった。

 門上で戦っていた冒険者たち。  血まみれになっても、最後まで武器を手放さなかった連中。

 あの時、最前線を支えていたのは間違いなくB級以上だった。


「そしてA級」


 アタシは少しだけ声を落とした。


「ここまで来ると、もう単なる“強い冒険者”じゃない。一人いるだけで戦況そのものを変えられる。下手な騎士団より、よっぽど厄介だよ」


 三人の目が揃って丸くなる。


「じゃ、じゃあライアンさんは……」


「A級。しかも現場指揮までできる。クルドじゃ別格だよ」


 実際、あの男がいなければ東西門の統率は崩れていた。


 オーガキング戦ばかり目立って語られがちだが、本当に厄介だったのは、あの混乱した状況で防衛線そのものを維持し続けたことだ。

 少なくとも、ライアンがいなければ被害はもっと増えていただろう。


「それじゃあ……S級って?」


 今度は少女の方が恐る恐る訊いてくる。


 アタシは少しだけ空を見上げた。


 脳裏に浮かぶのは、昔たった一度だけ共闘した“アレ”の姿だ。


「……人間やめてる連中」


「えっ」


「冗談じゃないよ。ああいうのは、もう災害側って言った方が近い」


 三人とも揃って黙り込んだ。

 まあ、普通はそういう反応になる。


 実際、アタシだって初めて見た時は同じような顔をした覚えがある。


「でも、覚えときな」


 アタシは前を向いたまま言葉を続けた。


「冒険者ってのは、強ければ偉いわけじゃない」


「え?」


「最後まで生きて帰る奴が一番偉いんだよ」


 森へ続く街道を歩きながら、アタシは静かに続ける。


「依頼達成しても死んだら意味ない。無茶して仲間巻き込む奴なんて論外だしね。ギルドが本当に見てるのは、生存率と判断力だ」


「判断力……」


 三人は真面目な顔で話を聞いていた。


 ギルドでも表向きの説明くらいはされる。


 だが実際には、“どういう時に死ぬのか”みたいな話を、ここまで踏み込んで教えてくれる人間は案外少ない。


 結局、最後は現場で覚えろ、になるのだ。


「危ないと思ったら撤退する。報告をちゃんと上げる。おかしいと思ったことを無視しない。それだけでも、生き残れる確率はかなり変わるからね」


 実際――

 森の異変報告がもっと早く真面目に扱われていたら、東門の被害は少し減っていたかもしれない。


 ……まあ、今さら言ってもしょうがないんだけど。


「あと、危ない情報を抱え込まないこと」


「情報、ですか?」


「危険区域とか、魔物の群れとかね。たまに“自分だけ知ってれば得”みたいに隠す奴いるけど、あれ最悪だから」


 アタシは少しだけ表情を曇らせた。


「情報が遅れれば、それだけ対応も遅れる。場合によっては街そのものが巻き込まれることだってあるんだよ」


 三人の顔つきが少し引き締まる。


 どうやら、ただ説教を流し聞きしているわけではないらしい。

 悪くない――


「ま、今のあんたたちは、まず“ちゃんと生きて帰る”こと覚えな」


 そう言うと、赤毛の少年が苦笑混じりに口を開いた。


「なんか……先生みたいですね」


「やめて。そんな歳じゃないから」


「でも詳しいです」


「現場が長いだけだよ」


 軽く肩をすくめながら、アタシは森への分岐路で足を止めた。


「あんたたちは南側行きなよ。今日は風向きよくないから、北側はやめといた方がいい」


「風向きで分かるんですか?」


「まあ、なんとなくね」


 本当は探知で周辺の魔物配置まである程度把握している。


 けれど、そんな説明をしたところで、この子たちには現実味がなさすぎるだろう。


「じゃ、気をつけて」


「あ、ありがとうございました!」


 三人は慌てて頭を下げると、そのままぎこちない足取りで南側の森へ向かっていった。


 その背中を見送りながら、アタシは小さく息を吐く。


 昔なら、こういう新人教育はクランの後輩たちへ任せていた。

 なのに結局、今でも似たようなことをしている。


 ……性分ってやつは、なかなか変わらないらしい。

すみません。予定変わりました。

明日は13時10分に一本目を更新します。

そして18時10分二本目更新です。


お読みいただきありがとうございました。


面白いと思われたら、ブックマーク、評価、リアクション等よろしくお願いします。


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