第4話:王子ルート完全攻略
庭園に、やわらかな風が吹く。
白い花弁が舞い、午後の光がそれを透かしていた。
「本日は、時間を取っていただきありがとうございます」
王子が微笑む。
完璧な角度。
完璧な距離。
完璧な声音。
——すべて、想定通り。
「こちらこそ、光栄ですわ」
同じく微笑みを返す。
視界の端。
【好感度:87】
高い。
そして、安定している。
このイベントは、本来なら中盤の重要分岐。
選択肢を誤れば関係は停滞し、場合によっては後退する。
だが。
私には関係ない。
すでに最適解は把握済み。
会話の順序も、話題の選び方も、すべて検証済み。
「最近は、学園生活にも慣れてきましたわ」
軽やかに言葉を置く。
——ここで、王子は“共感”を返す。
「それは何よりだ。君の努力の賜物だろう」
予測通りの返答。
ならば次。
「殿下こそ、お忙しい中でのご公務、大変でしょう」
——労い。
ほんの少し、間を置く。
すると。
「……気にかけてくれるのだな」
声が、柔らかくなる。
視界の端。
【好感度:87 → 90】
上がる。
迷いなく。
積み上げた通りに。
「当然ですわ」
言葉を重ねる。
「わたくしは、殿下の——」
そこで、ほんの一瞬だけ息を止める。
——“婚約者”と続けるのが最適。
わかっている。
わかっているのに。
なぜか、ほんの僅かに。
言葉が、引っかかった。
「……婚約者ですもの」
口にする。
問題はない。
何も、間違っていない。
王子は満足そうに頷く。
「そうだな。君のような女性が隣にいてくれるのは、心強い」
完璧な返答。
非の打ち所がない。
視界の端。
【好感度:90 → 93】
数字が、積み上がる。
予定通りに。
設計通りに。
まるで、最初から決まっていたかのように。
「……順調ですわね」
小さく、呟く。
この関係は理想的だ。
安定していて。
無駄がなく。
すべてが噛み合っている。
間違いはない。
選択ミスもない。
だから——
ほんの一瞬。
胸の奥に、言葉にできない違和感がよぎる。
それは、ノイズのように小さくて。
気に留めるほどのものではない。
それでも。
確かに、そこにあった。
「……あまりにも」
完璧すぎる。
整いすぎている。
まるで——
“作られた関係”のように。
……。
「どうかしたか?」
王子の声に、意識を戻す。
「いいえ、何でもありませんわ」
微笑む。
いつも通りに。
正確に。
何一つ、狂いなく。
——それが、最適解だから。
視界の端で、数値がまたわずかに揺れた。
上昇。
変動。
安定。
すべてが、計算の範囲内。
それなのに。
どうしてだろう。
ほんの少しだけ。
この完璧さが——
息苦しく感じた。
(第4話 終)




