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全てをやり直せる悪役令嬢ですが、本命の好感度だけ操作できませんわ  作者: 南蛇井


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第15話:セラフィーナの評価

昼下がりの中庭。


 


 整えられた花壇。

 均一に刈り揃えられた芝。

 風の流れすら、どこか計算されているような静けさ。


 


 ——変化のない景色。


 


 その中央に。


 


 ひときわ整った存在が立っていた。


 


 セラフィーナ。


 


 視線が、自然と合う。


 


 彼女は、最初からこちらに気づいていたかのように。


 


 ゆっくりと、微笑んだ。


 


「ごきげんよう」


 


「ごきげんよう」


 


 形式的な挨拶。


 


 距離も、角度も、正確。


 


 ——だが。


 


 次の瞬間。


 


 その均衡が、わずかに崩れる。


 


「迷いが増えましたわね」


 唐突な言葉。


 


 説明もなく。


 


 前置きもなく。


 


 ただ、断定だけが置かれる。


 


「……何のことですの?」


 


 即座に返す。


 


 声は崩さない。


 


 表情も乱さない。


 


 だが。


 


 内側では、わずかに警戒が走る。


 


 セラフィーナは、首を傾げる。


 


 ほんの少しだけ。


 


「自覚がないのですね」


 


 淡々とした声音。


 


 責めるでもなく。


 


 ただ、事実を述べるように。


 


「以前のあなたは、もっと明確でしたわ」


 


 一歩、近づく。


 


 距離が縮まる。


 


 逃げ場はない。


 


「選択に無駄がない。反応に揺らぎがない」


 


 その言葉は、正確だった。


 


 かつての自分。


 


 最適化された存在。


 


 誤差のない選択。


 


 完璧な進行。


 


 ——それが、正しかった。


 


 はずなのに。


 


「ですが、今は違う」


 


 視線が、まっすぐに刺さる。


 


 逃げられない。


 


 見透かされている。


 


「非効率ですわ」


 静かな断言。


 


 感情は、乗っていない。


 


 ただ、評価として。


 


 結果として。


 


 “誤り”を示すように。


 


「……」


 


 一瞬、言葉が出ない。


 


 否定するべきか。


 


 反論するべきか。


 


 だが。


 


 どちらも、すぐには選べなかった。


 


「迷いは、結果を鈍らせます」


 


 セラフィーナは続ける。


 


 淡々と。


 


 迷いなく。


 


「選択の精度が落ちる。到達までの時間が延びる」


 


 すべて、合理的な言葉。


 


 否定できない。


 


 事実として、正しい。


 


 だからこそ。


 


 息が詰まる。


 


「……それでも」


 


 ようやく、声を出す。


 


 ほんのわずかに。


 


 ためらいを含んで。


 


「すべてが、正しければいいわけではないのではなくて?」


 


 言葉にする。


 


 まだ曖昧なままの違和感を。


 


 形にしようとして。


 


 セラフィーナは、一瞬だけ目を細めた。


 


 ほんのわずかに。


 


 興味を持ったように。


 


「“正しくない選択”に、価値があると?」


 


 問い返される。


 


 静かに。


 


 逃げ場を与えない形で。


 


「……分かりませんわ」


 


 正直に答える。


 


 今は、まだ。


 


 言い切れない。


 


 理解しきれていない。


 


 それでも。


 


「ですが——」


 


 続ける。


 


 自分の中に残っている感覚を、拾い上げるように。


 


「正しいはずのものが、空虚に感じることもありますの」


 


 言葉が落ちる。


 


 静かに。


 


 不安定なまま。


 


 セラフィーナは、しばらく黙っていた。


 


 その沈黙は短く。


 


 すぐに、答えが返る。


 


「それは、錯覚ですわ」


 即断。


 


 揺らぎはない。


 


 迷いもない。


 


 完全な否定。


 


「最適化された結果に、不足は生じません」


 


 その言葉は、あまりにも明確で。


 


 あまりにも強固だった。


 


「感じ方の問題です」


 


「……感じ方、ですの?」


 


「ええ」


 


 セラフィーナは、微笑む。


 


 完璧に整った微笑み。


 


「不要な感情が混ざっているだけですわ」


 


 静かに言い切る。


 


 まるで。


 


 それが“不要なノイズ”であるかのように。


 


「迷いは誤差ですわ」


 その一言で。


 


 すべてが、切り捨てられる。


 


 疑問も。

 違和感も。

 揺らぎも。


 


 すべて。


 


 ——排除すべきものとして。


 


「……」


 


 言葉が出ない。


 


 否定できない。


 


 だが。


 


 肯定も、できない。


 


 胸の奥に残っている感覚。


 


 あの“軽さ”。


 


 あの“空虚”。


 


 それを、ただの誤差だとは——


 


 どうしても、思えなかった。


 


「ご理解いただけましたか?」


 


 セラフィーナが問う。


 


 穏やかに。


 


 優しく。


 


 逃げ道を残さないまま。


 


「……ええ」


 


 小さく、頷く。


 


 形式的に。


 


 整った形で。


 


 だが。


 


 その内側で。


 


 何かが、確実にズレていた。


 


 セラフィーナは満足げに頷くと、背を向ける。


 


 迷いのない歩み。


 


 一直線の軌道。


 


 ——完璧な存在。


 


 その背中を見送りながら。


 


 ゆっくりと、息を吐く。


 


「……」


 


 残された静寂の中。


 


 胸の奥にあるものを、確かめる。


 


 消えていない。


 


 消せない。


 


 削れない。


 


 それは。


 


 “誤差”では、なかった。


(第15話 終)

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