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値札を貼る島 ――世界は爆発音じゃなく、1円の通知で終わる――

✦値札を貼る島


――世界は爆発音じゃなく、

 1円の通知で終わる――


………


ほんまに怖い戦争いうんは、

ミサイルが飛んでくる

ことだけじゃない。


遠い海の向こうで、

細い海峡が閉じた朝。


高校1年生のゆづきの

スマホに届いたのは、

ニュース速報ではなかった。


母から送られてきた、

一枚のスクリーンショットだった。


電気代の明細。


その下に、

母の短いLINE。


「電気代、ヤバい」


ゆづきはベッドの上で、

スマホを持ったまま固まった。


「え……また上がっとる」


その朝、

コンビニの棚からは、

ゆづきのお気に入りだった

チーズ入りパスタが消えていた。


代わりに並んでいたのは、

容器が少し薄くなり、

中身もこっそり減ったような、

妙に軽い弁当だった。


スーパーの値札は、

昨日と同じ顔をしているのに、

数字だけが少し高くなっていた。


ガソリンスタンドの

電光掲示板は、

まるで誰かが

ゲームのスコアを

競っているみたいに、

昨日よりまた高い数字を

叩き出していた。


スマホの充電器。

コンビニの弁当トレー。

スーパーの値札。

ガソリンスタンドの看板。


いつも見ていたものが、

その朝だけ、

ぜんぶ少し不気味に見えた。


ゆづきは

スマホでニュースを見た。


ホルムズ海峡。

オーストラリア。

天然ガス。

シンガポール。

シェル。

LNG。

保険料。

航路リスク。


知らない言葉ばかりだった。


でも、ひとつだけ分かった。


遠い国のニュースが、

自分の家の電気代になっている。


「なんで遠い国のガスの話が、

 うちのスマホの充電代に

 関係あるん?」


近所に住む

六十七歳の元証券マンの

おじいちゃんは、

冷えた麦茶を

一口飲んでから言った。


「ゆづきちゃん。

 これはな、

 推し活の裏側と同じなんよ」


「……推し活?」


「そうじゃ」


おじいちゃんは、

テーブルの上に

みかんを四つ並べた。


「オーストラリアは、

 才能ある原石を育てる

 田舎の養成所。


 日本は、

 その原石を応援して

 グッズを買うファン。


 シンガポールは、

 誰をデビューさせるか決める

 オーディション会場。


 そしてシェルは、

 チケットにもペンライトにも

 エグい値段をつける

 大手事務所じゃ」


ゆづきは、

スマホの画面をなぞった。


「じゃあ、

 原石を育てた

 オーストラリアが

 一番えらいんじゃないの?」


おじいちゃんは、

少し寂しそうに

首を横に振った。


「今の世界は、

 そこが残酷なんじゃ。


 汗水たらして資源を掘る人より、

 それを船に乗せて、

 保険をかけて、

 どこへ売るか決めて、

 最後に値札を貼る人の方が、

 圧倒的に儲かることがある」


ゆづきは、

母から届いた電気代の

スクリーンショットを見た。


ただの数字だった。


でもその数字の向こう側に、

真っ暗な海を進む

巨大なタンカーと、

シンガポールの冷房が

効いた高層ビルと、

キーボードひとつで

世界の値札を動かす

誰かの指先が、

ぼんやり透けて見えた気がした。


ゆづきは、ずっと感じていた。


なんか世の中、おかしい。


コンビニのパンは小さくなる。

スマホのサブスクは増える。

服も交通費も電気代も上がる。

でも大人たちは、

「仕方ない」

「世界情勢だから」

「物価高だから」

とだけ言う。


その「仕方ない」の中身を、

誰もちゃんと

見せてくれなかった。


でも今日、

おじいちゃんのみかん四つで、

少しだけ見えた。


ほんまに怖い未来は、

爆発音とともにやってこない。


「いつも通り」が、

1円ずつ値上がりしながら、

静かに首を絞めに来る。


………


★目次


■第一章

 電気代ヤバい、

 から始まった世界地図


■第二章

 オーストラリアは

 原石を育てる養成所だった


■第三章

 ガス田のないシンガポールが

 値札を貼る


■第四章

 シェルという大手事務所


■第五章

 日本の油田は会議室にあった


■第六章

 ホルムズ海峡は、

 世界の細い血管だった


■第七章

 ミサイルより先に、

 不安が値上がりする


■第八章

 船は浮かぶ

 モバイルバッテリーだった


■第九章

 コンビニ弁当の薄い容器が

 教えてくれたこと


■第十章

 日本のコンビナートは

 巨大な台所だった


■第十一章

 国民は請求書で泣き、

 商社は契約書で生き残る


■第十二章

 肥料が止まると、

 来年のパンが消える


■第十三章

 届く安心に課金する時代


■第十四章

 配管を守る者が、未来を守る


■第十五章

 世界は油田ではなく、

 配管で動いていた


★あとがき

 ホームズとワトソンの

 電気代ショック

 ――笑いと涙のボケと

  ツッコミ――


………


■第一章

 電気代ヤバい、

 から始まった世界地図


ゆづきは、

朝から機嫌が悪かった。


理由は単純だった。


スマホの充電が、

また30%を切っていたからだ。


寝る前に

充電器を差したはずなのに、

なぜかうまく刺さっていなかった。


「もう最悪……」


そうつぶやいた瞬間、

母からLINEが来た。


画像が一枚。


電気代の明細だった。


その下に、短い文字。


「電気代、ヤバい」


ゆづきは最初、

それを母の愚痴だと思った。


けれど、

数字を見た瞬間、

少しだけ息が止まった。


先月より高い。


節電していたはずなのに高い。


エアコンの温度も

下げすぎていない。

使わない部屋の電気も

消していた。

なのに高い。


「なんで?」


リビングに行くと、

母は明細を見ながら

ため息をついていた。


「また上がっとる。

 ほんま、何を削ったら

 ええんじゃろうね」


ゆづきは、

何も言えなかった。


その日の帰り道、

コンビニに寄った。


いつも買っていた

パスタがなかった。


代わりに並んでいた弁当は、

なぜか軽かった。


容器の底が少し高い。

透明なふたが少し薄い。

見た目は変わらないのに、

持つと分かる。


「あれ……これ、

 少なくなってない?」


隣の棚には、

新商品と書かれた

ポテトチップスがあった。


袋は大きい。

でも中身は軽い。


ゆづきは、

なんだか騙されたような

気分になった。


その気持ちは、

怒りというほど強くはない。


でも、

胸の奥に

小さな砂粒が入ったように、

ずっと気になる。


なんか世の中、おかしい。


でも、

何がおかしいのか分からない。


そのモヤモヤに、

名前をつけてくれる人は、

学校にもSNSにもいなかった。


その夜、

近所のおじいちゃんが家に来た。


六十七歳。

元証券マン。

昔は株価の数字を見ながら、

人間の欲と不安を

読んでいた人だった。


今は、

町内で一番

ニュースの裏側に詳しい、

変わったおじいちゃんだった。


ゆづきはスマホを見せた。


「これ、何?

 ホルムズ海峡とか、

 オーストラリアの天然ガスとか、

 シンガポールのシェルとか。

 うちの電気代と関係あるん?」


おじいちゃんは画面を見て、

静かにうなずいた。


「ある」


「え、マジで?」


「マジじゃ」


おじいちゃんは、

冷えた麦茶を飲みながら言った。


「ゆづきちゃん。

 この電気代の紙はな、

 世界地図なんじゃ」


「世界地図?」


「そうじゃ。

 数字に見えるじゃろ。

 でもその裏には、

 海峡があり、

 タンカーがあり、

 保険会社があり、

 契約書があり、

 シンガポールの高層ビルがあり、

 日本のコンビナートがある」


ゆづきは電気代の明細を見た。


ただの紙だった。


でもおじいちゃんの

言葉を聞いたあと、

それはもう

ただの紙ではなかった。


遠い世界が、

家のテーブルに置かれていた。


「ニュースって、

 こんなところまで 

 来るんじゃ……」


「そうじゃ。

 ニュースは

 テレビの中で終わらん。

 最後は家計簿に来る」


ゆづきは黙った。


その瞬間、

世界経済は

暗記科目ではなくなった。


それは、

自分のスマホの

充電代の話になった。


❥Z世代のあなたへ


「なんか世の中おかしい」

その感覚は、

気のせいではありません。


コンビニの棚が薄い。

電気代が上がる。

スマホの充電にも罪悪感が出る。

親がため息をつく。


それは全部、

世界のどこかの配管が

細くなっているサイン

かもしれません。


■第二章

 オーストラリアは

 原石を育てる養成所だった


おじいちゃんは、

ゆづきの前にみかんを置いた。


「まず、

 オーストラリアじゃ」


「資源大国でしょ?

 天然ガスとか、石炭とか、

 鉄鉱石とか」


「そうじゃ。

 オーストラリアは、

 才能ある原石を育てる

 養成所みたいな国じゃ」


「養成所?」


「地下や海底に、

 ガスや鉱物という原石がある。

 世界中がそれを欲しがる。

 日本も欲しがる」


ゆづきはうなずいた。


「じゃあ、強いじゃん」


「そこが落とし穴じゃ」


おじいちゃんは、

みかんの皮をむきながら言った。


「原石を持っていることと、

 それで国民が幸せになることは、

 同じじゃない」


「どういうこと?」


「たとえば、

 すごい歌がうまい子が

 おるとする。

 でも録音スタジオがない。

 マネージャーもいない。

 配信サイトにも載せられない。

 ライブ会場も押さえられない。

 それで、

 その子は有名になれるか?」


「なれない」


「資源も同じじゃ」


オーストラリアには資源がある。


けれど、

それを国内の燃料に変える

製油所は減った。

国内の燃料備蓄も

不安だった。

農家を動かす軽油も、

肥料も、

世界の流れに左右される。


資源はある。


でも、

それが国民の車に入り、

農家のトラクターを動かし、

病院の電気を守り、

税金として学校や道路に戻る。


そこまで行かないと、

本当の意味で

「国民の資源」にはならない。


ゆづきは少し驚いた。


「資源って、

 掘れば勝ちじゃないんだ」


「そうじゃ。

 持っているだけでは勝てん。

 使える形にして、

 国民へ戻す配管がいる」


「配管……」


「そう。

 見えない配管じゃ」


オーストラリアの人々は、

今回それに気づき始めた。


自分たちの国には資源がある。

なのに燃料は不安。

電気代は高い。

企業は儲かる。

でも国民には十分戻ってこない。


ゆづきは、

それを聞いて少しゾワッとした。


「資源国なのに、

 安心が足りないんだ」


「そうじゃ。

 それが資源国の

 空洞化ショックじゃ」


ゆづきはノートに書いた。


資源があることと、

安心が届くことは、

別ゲー。


その言葉を見た瞬間、

ゆづきは自分の人生にも

少し似ていると思った。


スマホには情報がある。

SNSには友達がいる。

動画には勉強法がある。

アプリには便利がある。


でも、

それが自分の安心に

届いているかは、

別の話だった。


❥Z世代のあなたへ


レアキャラを持っていても、

育成素材がなければ戦えない。

資源も同じです。


ガスや石炭があっても、

それを燃料、電気、税金、

食料へ変える仕組みがなければ、

国民の安心にはなりません。


■第三章

 ガス田のないシンガポールが

 値札を貼る


「次はシンガポールじゃ」


おじいちゃんは、

二つ目のみかんを指さした。


ゆづきは首をかしげた。


「シンガポールって

 小さい国でしょ?

 ガス出るの?」


「大きなガス田はない。

 油田もない。

 でも、めちゃくちゃ強い」


「なんで?」


「値札を貼る力があるからじゃ」


ゆづきは、

一瞬意味が分からなかった。


「値札?」


「そう。

 世界ではな、

 物を作る人より、

 物に値札を貼る場所が

 強くなることがある」


シンガポールには、

大きな港がある。


船が集まる。

銀行が集まる。

保険会社が集まる。

商社が集まる。

英語の契約書が集まる。

税金の仕組みも整っている。


ガス田はない。


でも、

ガスの売買ができる。

石油の取引ができる。

船の燃料を売れる。

保険もつけられる。

契約書も作れる。


「つまり、

 ステージを持ってるってこと?」


ゆづきが言った。


「そうじゃ。

 原石を持っているのは

 オーストラリア。

 でも、誰をデビューさせるか、

 どんな値段で売るか、

 どの国へ回すか。

 その舞台を持っているのが

 シンガポールじゃ」


ゆづきは思わず言った。


「え、ガスも油も出ないのに、

 値段を決められるの?

 それ、

 ずるいくらい強いじゃん」


おじいちゃんは笑った。


「そうじゃ。

 資源を持たなくても、

 資源が集まる市場を持てば

 強くなれるんじゃ」


シンガポールは、

資源を掘らない。


でも

資源の値段を決める

場所になれる。


それはまるで、

ステージに立たな

いプロデューサーが、

アイドルの人生を

動かすようなものだった。


ゆづきはノートに書いた。


シンガポール。

資源なき市場国家。

魔法タイプ。


おじいちゃんは言った。


「これからの世界は、

 油田を持つ国だけでなく、

 値札を貼る国が強くなる」


ゆづきはスマホの画面を見た。


地図の上では、

シンガポールは小さかった。


でも経済の画面では、

ものすごく大きく見えた。


その時、ゆづきは思った。


世界の強さは、

面積では決まらない。


どこに立っているか。

何を握っているか。

誰の値段を決められるか。


それで決まる。


❥Z世代のあなたへ


シンガポールは、

ガスも油もあまり出ない。

でも港、金融、保険、契約、

税制を握ることで、

世界中の資源に値札を貼れます。


物理攻撃ではなく、

魔法で勝つ国。

それがシンガポール型の強さです。


■第四章

 シェルという大手事務所


「じゃあシェルは何?」


ゆづきが聞いた。


「大手事務所じゃ」


おじいちゃんは、

三つ目のみかんを指さした。


「ガソリンスタンドの

 会社ってイメージだった」


「それだけじゃない。

 世界中の油とガスを買い、

 船を動かし、

 保険を考え、

 契約を組み、

 どこへ売るか決める

 巨大な会社じゃ」


「事務所っていうより、

 国じゃん」


「そうじゃ。

 国境を持たない

 影の国家みたいなものじゃ」


ゆづきは黙った。


国なら選挙がある。

でも巨大企業の社長を、

ゆづきたちは選べない。


それなのに、

その企業が

どこへガスを売るかで、

日本の電気代が変わる。


どこに利益を計上するかで、

オーストラリアの

税収が変わる。


どの船を動かすかで、

国の工場が動くか

止まるかが変わる。


「怖っ」


ゆづきは小さく言った。


「そうじゃ。

 現代の世界は、

 政府だけで

 動いとるわけじゃない。

 巨大企業が、

 国と国の間に立っている」


シェルは、

オーストラリアのガスを扱う。

シンガポールで取引する。

日本やアジアへ売る。

価格差を読む。

リスクを読む。

船を読む。

税金を読む。


「つまり、

 原石を見つけて、

 どの国で

 デビューさせるか決めて、

 グッズの値段まで

 決める事務所みたいなもん?」


「まさにそれじゃ」


ゆづきは、

推し活のチケットを思い出した。


チケット代。

手数料。

配送料。

システム利用料。

発券手数料。


気づいたら、

本体価格より

周りの料金が重いことがある。


「資源も同じなんだ……」


「そうじゃ。

 ガスそのものより、

 その周りの値札が重くなる」


ゆづきはノートに書いた。


シェル。

大手事務所。

影の国家。

値札職人。


そして小さく付け足した。


自分の人生の値札も、

どこか知らない場所で

決まっているのかもしれない。


❥Z世代のあなたへ


巨大エネルギー企業は、

資源を掘るだけではありません。

船、契約、保険、在庫、税金、

売り先まで設計します。


それは国境を持たない

「影の国家」のような力です。


■第五章

 日本の油田は会議室にあった


「じゃあ日本は?」


ゆづきが聞いた。


「資源がないファンじゃ」


おじいちゃんは言った。


「ファン?」


「自分では

 原石を持っていない。

 でも応援したい。

 グッズも買いたい。

 ライブにも行きたい。

 だから、

 どうやって手に入れるかを

 必死で考える」


日本には、

大きな油田がない。

大きなガス田も少ない。

鉄鉱石も少ない。


だから日本は、

ずっと知恵を絞ってきた。


商社。

電力会社。

長期契約。

タンカー。

備蓄。

保険。

政府金融。

同盟。

コンビナート。


「難しい」


ゆづきは顔をしかめた。


「簡単に言うと、

 日本は地面の下に

 油田を持てなかった。

 だから会議室に

 油田を作ったんじゃ」


「会議室?」


「契約書じゃ」


日本の油田は、

地面の下にはなかった。


商社の会議室にあった。

霞が関の書類にあった。

電力会社の長期契約にあった。

タンカーの航路図にあった。

コンビナートの配管にあった。


「紙でできた油田?」


「そうじゃ。

 日本の命綱は、

 コンクリートだけで

 できているんじゃない。

 紙と契約と信用でできとる」


ゆづきは思った。


地面を掘っても何も出ない国が、

世界中に細い糸を張りめぐらせる。


その糸を伝って、

ガスが来る。

油が来る。

材料が来る。

電気がつく。

コンビニに弁当が並ぶ。


でも、

その糸は切れるかもしれない。


ホルムズ海峡。

戦争保険。

タンカー不足。

契約変更。

ドル高。

金利上昇。


ひとつずつ、

糸を引っ張る手が増えていく。


「日本って、

 すごいけど、

 めっちゃ怖いところに

 立ってるんだね」


「そうじゃ。

 資源がない国は、

 知恵で生きる。

 でも知恵で作った配管も、

 守らんと切れる」


ゆづきはノートに書いた。


日本の油田は、

会議室にある。


読み返すと、

その一文は変だった。


でもなぜか、

今まで聞いた

どんな経済ニュースより、

腑に落ちた。


❥Z世代のあなたへ


日本は資源がない。

だから、商社、電力会社、契約書、

船、保険、コンビナートで

生きてきました。


日本の命綱は、

地下資源ではなく、

世界中に張った見えない糸です。


■第六章

 ホルムズ海峡は、

 世界の細い血管だった


ゆづきは、

地図アプリで

ホルムズ海峡を見た。


思ったより細かった。


「え、

 こんな細いところで

 世界が困るの?」


おじいちゃんはうなずいた。


「人間の血管と同じじゃ。

 細いからこそ詰まると怖い」


ホルムズ海峡は、

中東の原油やLNGが通る

大事な道だった。


そこが危なくなると、

船は通りにくくなる。

保険料が上がる。

船が遠回りする。

燃料の到着が遅れる。

価格が上がる。


「でも、日本から遠いじゃん」


「遠い。

 でも近い」


「どっち?」


「生活には近い」


ゆづきは、

スマホの充電器を見た。


エアコン。

冷蔵庫。

電子レンジ。

コンビニ弁当。

駅の照明。

学校の暖房。

推しのライブ会場の電気。


全部どこかで

エネルギーにつながっている。


ホルムズ海峡は、

ゆづきの通学路にはない。


でも、

ゆづきの通学路を照らす

電気には、

どこかでつながっている。


「戦争って、

 爆発するものだと思ってた」


「それもある。

 でも今の戦争は、

 値札を変える」


ガソリンが上がる。

電気代が上がる。

航空券が上がる。

食品が上がる。

送料が上がる。


「爆発音じゃなくて、

 1円の通知で来るんだ」


ゆづきが言った。


おじいちゃんは、

少し驚いた顔をしたあと、

静かにうなずいた。


「その通りじゃ」


ゆづきはノートに書いた。


世界は爆発音じゃなく、

1円の通知で終わる。


その言葉を見た瞬間、

自分の中のモヤモヤに、

ひとつ名前がついた気がした。


❥Z世代のあなたへ


遠い海峡が閉じると、

近くの値札が変わります。

世界の血管が詰まると、

家計の血流も悪くなる。


戦争はニュース速報だけでなく、

毎月の支払い通知として

届きます。


■第七章

 ミサイルより先に、

 不安が値上がりする


「でも、

 実際に船が沈んだ

 わけじゃないんでしょ?」


ゆづきは聞いた。


「それでも値段は上がる」


「なんで?」


「不安が値段になるからじゃ」


おじいちゃんは言った。


船が通る。

でも危ないかもしれない。


拿捕されるかもしれない。

ミサイルが飛ぶかもしれない。

機雷があるかもしれない。

港が閉まるかもしれない。


そう思われただけで、

保険料が上がる。


保険料が上がると、

船賃が上がる。


船賃が上がると、

燃料も、

食べ物も、

日用品も高くなる。


「実際に起きてなくても?」


「起きるかもしれない、

 で上がる」


ゆづきは、

学校の空気を思い出した。


誰かが、

「あの子、怒ってるらしいよ」

と言っただけで、

まだ何も起きていないのに、

教室の空気が変わる。


経済も同じだった。


事実だけでなく、

空気感で動く。


「世界って、

 メンタル弱いんだね」


おじいちゃんは笑った。


「市場はな、

 大人の顔をしとるけど、

 中身はけっこうビビりなんじゃ」


ゆづきはノートに書いた。


ミサイルより先に、

不安が値上がりする。


その言葉は、

なぜか妙にリアルだった。


ゆづきが買うパンも、

母が払う電気代も、

まだ起きていない不安に、

先払いさせられているのかも

しれない。


❥Z世代のあなたへ


世界の値段は

「事実」だけでは動きません。

危ないかもしれない。

届かないかもしれない。

足りないかもしれない。


その不安だけで、

保険料も送料も

商品価格も上がります。


■第八章

 船は浮かぶ

 モバイルバッテリーだった


テレビに、

巨大なLNG船が映った。


ゆづきは思わず言った。


「でかっ」


おじいちゃんは笑った。


「あれは、

 浮かぶモバイルバッテリーじゃ」


「モバイルバッテリー?」


「そうじゃ。

 スマホの電池が切れそうな時、

 モバイルバッテリーがあれば

 安心じゃろ」


「うん」


「国も同じじゃ。

 燃料が足りない時、

 船の上に

 エネルギーがあることは、

 大きな安心になる」


LNG船。

タンカー。

燃料船。


それらは

ただの乗り物ではない。


海の上を動く在庫だった。

浮かぶ倉庫だった。

巨大な

モバイルバッテリーだった。


「でも、

 船があっても通れなかったら?」


「そこが問題じゃ。

 船はある。

 でも保険がつかない。

 船員が嫌がる。

 港が混んでいる。

 燃料代が高い。

 通航許可がいる。

 そうなると、

 船は宝物にもなるし、

 足かせにもなる」


ゆづきは、

スマホのバッテリー残量を見た。


17%。


いつもなら不安になる数字だった。


国も同じかもしれない。


備蓄が少なくなると、

だんだん不安になる。


誰も口には出さない。

でも政府も企業も、

心の中で残量表示を見ている。


「国にも

 バッテリー残量があるんだね」


「ある。

 燃料備蓄。

 食料在庫。

 部品在庫。

 現金。

 信用。

 全部、残量表示じゃ」


ゆづきはノートに書いた。


船は、

浮かぶモバイルバッテリー。


そして思った。


自分のスマホの17%と、

国の燃料残量は、

思ったより似ている。


❥Z世代のあなたへ


船は

ただの乗り物ではありません。

LNG船やタンカーは、

海の上を動く巨大な在庫です。


スマホの

モバイルバッテリーみたいに、

危機の時の安心を運びます。


■第九章

 コンビニ弁当の薄い容器が

 教えてくれたこと


次の日、

ゆづきはコンビニで

弁当を買った。


手に取った瞬間、

違和感があった。


軽い。


前より軽い。


容器の底が高い。

ふたが薄い。

中身が少し寄っている。


「これ、上げ底じゃん」


ゆづきは小さくつぶやいた。


おじいちゃんにその話をすると、

彼は笑わなかった。


「その容器も、

 世界経済なんじゃ」


「弁当容器が?」


「そうじゃ」


弁当容器。

食品トレー。

包装フィルム。

ペットボトル。

詰め替えパック。

医療用の袋。

点滴バッグ。

シャンプー容器。


それらの多くは、

石油化学につながっている。


原油やナフサが来る。

コンビナートで材料になる。

工場で容器になる。

トラックで運ばれる。

店に並ぶ。


「つまり、

 容器も海を渡ってるの?」


「原料や材料としてな」


ゆづきは、

さっきの弁当容器を見た。


それはただの

プラスチックではなかった。


遠い海峡。

タンカー。

保険料。

ナフサ。

コンビナート。

工場。

配送トラック。


その全部が、

薄い容器の中に

折りたたまれていた。


「上げ底って、

 ただのケチじゃないんだ」


「もちろん

 企業努力や

 値上げ回避もある。

 でもその裏には、

 材料費、

 物流費、

 電気代、

 燃料代がある」


ゆづきは言った。


「コンビニの棚って、

 世界の縮図なんだね」


「そうじゃ。

 棚を見る者は、

 世界を見る者じゃ」


ゆづきはノートに書いた。


弁当容器の薄さは、

世界経済の薄さ。


その日から、

ゆづきはコンビニの棚を

二度見するようになった。


ただの商品棚ではない。


そこには、

世界の疲れ方が並んでいた。


❥Z世代のあなたへ


コンビニ弁当の

容器や食品トレーは、

ただの包装ではありません。

石油化学、物流、燃料、

電気代とつながっています。


棚の変化は、

世界経済の小さなサインです。


■第十章

 日本のコンビナートは

 巨大な台所だった


おじいちゃんは、

ゆづきを港の見える場所へ

連れて行った。


遠くにタンクが並んでいた。

配管が銀色に光っていた。

煙突から白い煙が上がっていた。


「これが日本の台所じゃ」


「台所?」


「石油化学コンビナートじゃ」


ゆづきは、

社会科の資料集で

見たことがあった。


でも今まで、

それをただの工場だと

思っていた。


おじいちゃんは言った。


「日本は資源がない。

 だから、

 海外から来た材料を、

 とことん使い切る技術を磨いた」


原油。

ナフサ。

LNG。


それらを、

電気にする。

プラスチックにする。

包装フィルムにする。

医療用品にする。

自動車部品にする。

洗剤原料にする。

塗料にする。

接着剤にする。


「すごい……」


「日本はな、

 材料を持っていない

 料理人じゃ。

 でも料理の腕はある。

 だから

 材料を世界中から集めて、

 生活に変えてきた」


ゆづきは、

コンビナートを見つめた。


それは冷たい工場ではなく、

巨大な台所に見えた。


でも台所には、

材料が必要だった。


材料が来なければ、

どんな名人でも

料理はできない。


「ホルムズ海峡が詰まると、

 この台所も困るんだ」


「そうじゃ」


「じゃあ国を守るって、

 ミサイルだけじゃないんだね」


「そうじゃ。

 配管を守ること。

 港を守ること。

 材料の流れを守ること。

 それも国防じゃ」


ゆづきはノートに書いた。


コンビナートは、

日本の巨大な台所。


その言葉を見て、

社会科の資料集に載っていた

工場夜景が、

急に違って見えた。


きれいな夜景ではない。


日本の生活を調理している、

巨大な台所の明かりだった。


❥Z世代のあなたへ


日本のコンビナートは、

ただの工場ではありません。

輸入した資源を、

電気、容器、医療用品、部品、

生活用品に変える

巨大な台所です。


資源のない日本にとって、

配管は命綱です。


■第十一章

 国民は請求書で泣き、

 商社は契約書で生き残る


その夜、

母はまた 

電気代の明細を見ていた。


「節電しとるのに、

 なんでこんなに

 高いんじゃろう」


ゆづきは、

何も言えなかった。


その同じニュースで、

日本の商社や電力会社が、

LNGの契約や再販売で

利益を得ている可能性が

語られていた。


ゆづきはムッとした。


「家では

 電気代で困ってるのに、

 会社は儲かるの?」


おじいちゃんは言った。


「そこが現代経済の

 ねじれじゃ」


日本の一部企業は、

LNGの長期契約を持っている。


買う。

使う。

余れば売る。

足りない国へ回す。

価格差を取る。


資源がない日本でも、

契約を持っていれば、

少しだけ資源を回す側になれる。


「ずるくない?」


ゆづきは言った。


「そう見える。

 でもその契約があるから、

 日本が完全に買い負けずに

 済む面もある」


「じゃあ、いいことなの?」


「いい面もある。

 でも国民から見ると、

 なぜ自分たちの電気代は

 高いのに、

 企業は利益を出せるのか、

 分かりにくい」


ゆづきはノートに書いた。


国民は請求書で泣き、

商社は契約書で生き残る。


請求書と契約書。


どちらも紙だった。


でも片方は、

家庭を苦しめる。


もう片方は、

企業を守る。


ゆづきは思った。


世界は、

紙でできている。


そして

紙に書かれた小さな条件が、

人の暮らしを大きく変える。


自分の人生にも、

見えない契約書が

あるのだろうか。


親の給料。

学校の学費。

スマホ代。

交通費。

将来の家賃。

就職先の給料。


全部、

どこかの値札と

つながっている。


ゆづきは少し怖くなった。


でも同時に、

知りたいと思った。


❥Z世代のあなたへ


日本の一部企業は、

資源を買うだけでなく、

契約を使って

資源を回す側にも

なっています。

それは

国を守る力にもなりますが、

家計から見ると

不公平にも見えます。


請求書と契約書の差が、

現代経済の毒です。


■第十二章

 肥料が止まると、

 来年のパンが消える


ゆづきは、

燃料危機と聞くと、

車や飛行機のことばかり

考えていた。


でもおじいちゃんは、

スーパーのパン売り場で

立ち止まった。


「本当に怖いのは、

 来年のパンかもしれん」


「パン?」


「肥料じゃ」


農業は、

太陽と水だけでは動かない。


トラクターには軽油がいる。

肥料には

天然ガス由来の原料が関わる。

収穫には機械がいる。

運ぶにはトラックがいる。

保存には倉庫と電気がいる。


燃料が止まると、

今週の通勤が困る。


肥料が止まると、

来年のパンが困る。


ゆづきは、

パンの棚を見た。


いつも当たり前に

買っていたパンが、

急に未来から届いた

奇跡みたいに見えた。


「食べ物って、

 畑だけでできてるんじゃ

 ないんだね」


「そうじゃ。

 食べ物は、

 燃料と肥料と物流と

 冷蔵でできとる」


「なんか、夢がない」


「夢を守るには、

 現実を知らんといけん」


ゆづきは黙った。


推しのライブに行くにも

電気がいる。

学校の給食にも燃料がいる。

パンにも肥料がいる。

コンビニの棚にも

トラックがいる。


全部つながっている。


「ホルムズ海峡って、

 パンにもつながってるんだ」


「そうじゃ。

 海峡は食卓にも

 つながっとる」


ゆづきはノートに書いた。


肥料が止まると、

来年のパンが消える。


その一文は、

ちょっと大げさに見えた。


でも、

パンの値札を見たあとでは、

もう笑えなかった。


❥Z世代のあなたへ


燃料危機は

ガソリン代だけでは

終わりません。

肥料、農機、物流、

冷蔵に波及すると、

半年後や一年後の

食料価格に出ます。


食卓は、

遠い海峡とつながっています。


■第十三章

 届く安心に課金する時代


ある日、

ゆづきの母がネットで

水を注文しようとした。


画面にはこう出ていた。


在庫あり。

明日届く。


母は安心して

注文ボタンを押した。


ところが決済画面で、

到着予定が

三日後に変わった。


さらに数時間後、

メールが来た。


「配送状況により

 遅延する可能性が

 あります」


ゆづきは言った。


「在庫ありって

 何だったの?」


おじいちゃんは答えた。


「画面の在庫と、

 現実の在庫は違う」


「現実の在庫?」


「倉庫にある。

 箱がある。

 トラックがある。

 燃料がある。

 運転手がいる。

 道路が動いている。

 家まで届く。

 そこまで行って初めて在庫じゃ」


ゆづきは、

スマホの画面を見た。


在庫あり。


その四文字が、

急に薄っぺらく見えた。


これから高く売れるのは、

商品そのものだけではない。


届くこと。

遅れないこと。

冷えていること。

壊れないこと。

保険がつくこと。

代替ルートがあること。


「つまり、明日届くって、

 無料サービスじゃ

 なくなるんだ」


「そうじゃ。

 届く安心に

 課金する時代になる」


ゆづきは思った。


今まで当たり前だったこと。


スマホが充電できる。

コンビニに商品がある。

水が届く。

電気がつく。

パンが買える。


それは全部、

誰かが見えない配管を

守ってくれていたからだった。


ゆづきはノートに書いた。


明日届く安心は、

もう無料ではない。


その一文を見た時、

Amazonの配送状況も、

駅の電光掲示板も、

スーパーの値札も、

少しだけ怖く見えた。


❥Z世代のあなたへ


これからは

「物」だけでなく

「届くこと」が

価値になります。

在庫、物流、燃料、運転手、

保険、冷蔵、代替ルート。


全部そろって初めて、

商品はあなたの手元に届きます。


■第十四章

 配管を守る者が、未来を守る


「じゃあ、どうすればいいの?」


ゆづきは聞いた。


「配管を守るんじゃ」


おじいちゃんは言った。


「配管って、工場の?」


「それだけじゃない」


おじいちゃんは指を折った。


エネルギーの配管。

食料の配管。

物流の配管。

契約の配管。

保険の配管。

地域の配管。

家族の配管。


「難しい」


「簡単に言うと、

 ひとつの道に

 頼りすぎないことじゃ」


買い物先を分ける。

少し備える。

電気だけに頼りすぎない。

車だけに頼りすぎない。

遠くの安さだけを信じすぎない。

近くの店を残す。

修理できるものを持つ。

地域の人とつながる。

ニュースを値札として読む。


「高校生でもできる?」


「できる」


「何を?」


「まず気づくことじゃ」


ゆづきは黙った。


気づくこと。


コンビニの棚が薄い。

配送が遅い。

電気代が上がる。

弁当容器が軽い。

パンが高い。

ガソリン看板が毎日変わる。


それらを、

ただの値上げとして見ない。


配管のどこかが

細くなっている

サインとして見る。


「気づくだけで変わるの?」


「変わる。

 気づく者は、

 少し早く動ける。

 少し早く備えられる。

 少し早く考えられる」


ゆづきはノートに書いた。


配管を守る者が、

未来を守る。


それは

派手な言葉ではなかった。


でも、

妙に強かった。


その日から、

ゆづきは何かを見るたびに、

少しだけ

裏側を考えるようになった。


スマホの充電器。

コンビニの棚。

スーパーの値札。

ガソリンスタンドの看板。


どれも、

ただの日常ではなくなった。


それは

世界の配管の出口だった。


❥Z世代のあなたへ


配管を守るとは、

エネルギーや物流だけの

話ではありません。

生活の選択肢を

一つにしないことです。


買う場所、移動手段、備え、

地域の店、修理、情報。

小さな分散が、

未来の安全になります。


■第十五章

 世界は油田ではなく、

 配管で動いていた


ゆづきは、

ノートを読み返した。


オーストラリアは

原石を育てる養成所。

シンガポールは

値札を貼るステージ。

シェルは大手事務所。

日本は

資源を持たないファンであり、

台所。

ホルムズ海峡は

世界の細い血管。

船は浮かぶ

モバイルバッテリー。

保険料は見えない関所。

コンビニ弁当の薄い容器は

世界経済のサイン。

コンビナートは

日本の巨大な台所。

商社は契約書で生き残る。

肥料は来年のパン。

明日届く安心は無料ではない。

配管を守る者が未来を守る。


全部がつながった。


世界は、

油田だけで動いているのでは

なかった。


油田。

船。

保険。

契約。

帳簿。

港。

コンビナート。

備蓄。

配分。

値札。


そのどこを握るかで、

国も企業も勝ち負けが決まる。


そして

最後に請求書を受け取るのは、

いつも普通の人だった。


ゆづきは、

スマホの充電器を見た。


ただの白いケーブルだった。


でも今は違う。


それは、

遠い海と、

巨大な船と、

見えない契約書と、

コンビナートの配管と、

母の電気代に

つながっているように見えた。


「世界って、

 こんなに近かったんだ」


おじいちゃんは笑った。


「そうじゃ。

 ニュースは暗記科目じゃない。

 推理小説なんじゃ」


「犯人は誰?」


ゆづきが聞いた。


おじいちゃんは

少し考えてから言った。


「ひとりではない。

 見えない配管を

 見ようとしなかった、

 わしら全員じゃ」


ゆづきは黙った。


その言葉は重かった。


でも、絶望ではなかった。


見えなかったものが

見えたなら、

次は守れるかもしれない。


ゆづきは

ノートの最後に書いた。


世界は爆発音じゃなく、

1円の通知で終わる。


でも、

その1円に気づいた人から、

次の世界を作り直せる。


読み終えたあと、

ゆづきはもう一度、

コンビニの弁当トレーを見た。


スマホの充電器を見た。


スーパーの値札を見た。


ガソリンスタンドの看板を見た。


全部が、

昨日とは違って見えた。


そして思った。


この話は、

遠い世界の経済ニュースじゃない。


自分の人生の値札が、

どこで、誰に、

どう決められているかの話だった。


❥Z世代のあなたへ


世界経済は、

難しい言葉を覚えるだけでは

分かりません。

誰が掘り、誰が運び、

誰が保険をつけ、

誰が値札を貼り、

誰が請求書を受け取るのか。


そこを見ると、

ニュースは推理小説になります。


そしてあなたは、

ただの読者ではありません。


最後の請求書を受け取る

当事者です。


………


★あとがき

 ホームズとワトソンの

 電気代ショック

 ――笑いと涙の

  ボケとツッコミ――


ワトソン:

ホームズ、

今回の事件は複雑すぎます!

オーストラリアが養成所で、

シンガポールが

オーディション会場で、

シェルが大手事務所で、

日本がファン?

私は何を

読まされているんですか!


ホームズ:

世界経済だよ、

ワトソン君。


ワトソン:

いや、

推し活の地獄みたいに

なってますよ!


ホームズ:

その通り。

現代の資源経済は、

推し活より手数料が重い。


ワトソン:

やめてください。

チケット代を思い出して

胸が痛いです。


ホームズ:

では電気代を見たまえ。

もっと痛い。


ワトソン:

刺さる!

それは名探偵の推理ではなく、

家計への暴力です!


ホームズ:

現代の事件現場は、

殺人現場ではない。

請求書だ。


ワトソン:

では犯人は誰なんです?

シェルですか?

シンガポールですか?

ホルムズ海峡ですか?


ホームズ:

犯人をひとりにするから

間違える。

本当の犯人は、

見えない配管を見なかった

私たちだ。


ワトソン:

うわっ、急に哲学!

僕はボケの準備を

していたのに、

涙が出そうです。


ホームズ:

泣いてもいい。

だが泣きながら、

コンビニ弁当の容器を

よく見たまえ。


ワトソン:

容器ですか?


ホームズ:

その薄さには、

海峡と、

ナフサと、

コンビナートと、

物流と、

保険料と、

企業努力と、

君の財布の限界が

詰まっている。


ワトソン:

弁当が食べにくい!


ホームズ:

食べにくくなった時こそ、

世界が見え始める。


ワトソン:

ホームズ、

結局ぼくたちは

どうすればいいんです?


ホームズ:

笑うんだよ、ワトソン君。


ワトソン:

笑う?


ホームズ:

そうだ。

この値札だらけの世界を、

笑いながら観察する。

そして誰よりも早く、

次の配管を探すんだ。


ワトソン:

次の配管?


ホームズ:

ひとつの店に頼りすぎない。

ひとつの国に頼りすぎない。

ひとつのエネルギーに

頼りすぎない。

ひとつの答えに

頼りすぎない。


ワトソン:

なるほど。

つまり人生も分散投資ですか?


ホームズ:

やっと分かってきたね、

ワトソン君。


ワトソン:

では最後に一言。


ホームズ:

ホルムズ海峡が閉じた日、

世界で一番高くなったのは、

石油でもガスでもなかった。


ワトソン:

何だったんです?


ホームズ:

「明日も

 いつも通りでいられる」

という、

傲慢なほどの安心感だ。


ワトソン:

その安心の値段は?


ホームズ:

もう、サブスク料金のように、

毎月こっそり上がっている。


ワトソン:

怖い!

でも、うまい!


ホームズ:

怖がりながら笑いたまえ。

笑いながら気づきたまえ。

気づいた者だけが、

次の請求書を見る前に、

少しだけ早く動ける。


………


ホルムズ海峡が閉じた日、

世界で一番高くなったのは、

石油でもガスでもなかった。


それは、

「明日もいつも通りでいられる」

という安心だった。


そしてその安心のサブスク料金は、

もう、

僕たちの想像を超え始めている。

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