白黒ポテチと、ビル・ゲイツの小さな予言 ――AIが空を飛び、高校1年生のゆづきは、ポテチの袋から世界の危機を読んだ――
◆白黒ポテチと、
ビル・ゲイツの小さな予言
――AIが空を飛び、
高校1年生のゆづきは、
ポテチの袋から
世界の危機を読んだ――
………
ほんまに怖い未来いうんは、
空からロボットが
攻めてくることやない。
AIが
人間を支配することでもない。
もっと静かで、
もっと身近で、
もっと生活くさい形で来る。
ある朝、
スーパーの棚に並んだ
ポテトチップスの袋から、
赤と黄色が消えた。
白と黒だけになった袋を見て、
高校1年生のゆづきはつぶやいた。
「え……これ、限定デザイン?」
違った。
それは限定デザインではなかった。
未来だった。
同じ朝、
ニュースはこう言った。
「Google親会社が、
日本で円建て社債を発行。
AIインフラ投資へ」
67歳の元証券マンの
おじいちゃんは、
テレビの前で湯のみを置いた。
「ほう。
Googleは円を借りて、
日本の地下に
AIの血管を通すんか」
ゆづきは眉をひそめた。
「おじいちゃん、
AIに血管なんてあるの?」
おじいちゃんは、
白黒になったポテチの袋を
指さした。
「あるんじゃ。
電気、水、冷却、
海底ケーブル、
半導体、データセンター。
AIは
雲の上におるように見えて、
本当は
地面と海の底にぶら下がっとる」
ゆづきはスマホを見た。
韓国KOSPI、今年プラス85%。
AIメモリー株が爆騰。
米国では社名にAIをつけた
小型株が急騰。
インドではモディ首相が、
ガソリンを控えろ、
海外旅行を控えろ、
金を買うなと国民へ呼びかけ。
そして日本では、
ナフサショックで、
4万6741社が調達危機。
ゆづきは、
白黒のポテチ袋を見つめた。
「おじいちゃん。
これ、もしかして……
世界、かなりヤバい?」
おじいちゃんは、
静かにうなずいた。
「ヤバい。
けど、爆発音はせん。
値札と袋と電気代と、
会社の名前から
壊れていくんじゃ」
そのとき、
テレビの中で
別のニュースが流れた。
ビル・ゲイツの過去の警告。
「もし将来、
1000万人以上が
亡くなるようなことが
あるなら、
それは戦争ではなく、
急速に広がる
感染症かもしれない」
ゆづきは首をかしげた。
「感染症?
今はAIとかナフサとか
戦争の話じゃないの?」
おじいちゃんは、
ゆっくり言った。
「そこじゃ、ゆづき。
ビル・ゲイツはな、
世界をパソコンみたいに
見とったんじゃ」
「パソコン?」
「そうじゃ。
表の画面だけ見てもだめ。
中の配線、電源、冷却、
ウイルス対策、
全部見んと壊れる」
ゆづきは、
白黒ポテチの袋を見た。
おじいちゃんは続けた。
「これは、
ゲイツさん目線で見たら、
こういうことじゃ」
………
★目次
■第一章
ポテチの袋から色が消えた日
■第二章
ビル・ゲイツなら、小学生にこう言う
■第三章
ナフサという透明な骨
■第四章
四万六千七百四十一社の悲鳴
■第五章
AIと名乗れば株が跳ねる
■第六章
韓国KOSPI、空を飛ぶ
■第七章
Googleは円を借りた
■第八章
海底国道とAIの血管
■第九章
モディ首相のお願い配給
■第十章
金を買うな、海外で結婚するな
■第十一章
感染症は下水から来る
■第十二章
病院も、ポテチの袋も、
石油でできている
■第十三章
AIは光り、棚は白黒になった
■第十四章
ゆづきの未来ノート
■第十五章
未来は来た。
ただし、色を失って
❥Z世代のあなたへ
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風・笑いと涙の締め
………
■第一章
ポテチの袋から色が消えた日
スーパーの菓子売り場は、
いつもより静かだった。
赤い袋。
黄色い袋。
緑の袋。
いつもなら、
ポテトチップス売り場は
小さなお祭りみたいに見えた。
けれど、その日は違った。
白黒だった。
うすしおも、
コンソメも、
見慣れた顔を失っていた。
高校1年生のゆづきは、
最初それを限定デザインだと
思った。
「おじいちゃん、これ何?
レトロ企画?」
おじいちゃんは首を振った。
「レトロやない。
インク不足じゃ」
「インク?
ポテチに?」
「袋にじゃ。
ポテチは、
じゃがいもと油と塩だけで
売れると思うか?」
「そりゃ、袋がいるけど」
「その袋には、色がいる。
文字がいる。
バーコードがいる。
賞味期限がいる。
アレルギー表示がいる。
会社の顔がいる。
つまりな、
ポテチは中身だけでは
商品にならん」
ゆづきは黙った。
おじいちゃんは、
白黒の袋を手に取った。
「戦争はな、
ミサイルだけで
来るんやない。
袋の色を奪って
来ることもある」
「大げさじゃない?」
「大げさに聞こえる時は、
まだ棚に商品がある時じゃ。
本当に怖いのは、
棚が空になる前の
段階なんじゃ」
ゆづきはもう一度、
白黒の袋を見た。
そこには確かにポテチがあった。
でも、何かが消えていた。
それは味ではなかった。
日本の余裕だった。
■第二章
ビル・ゲイツなら、
小学生にこう言う
家に帰ると、
おじいちゃんは
タブレットで古い動画を見せた。
画面には、
ビル・ゲイツの顔が映っていた。
おじいちゃんは言った。
「ゲイツさんは昔、
こう警告しとった。
これから大勢の人が
亡くなるとしたら、
戦争より感染症の方が
危ないかもしれん、と」
ゆづきは聞いた。
「なんでパソコンの人が
感染症の話をするの?」
おじいちゃんは笑った。
「そこが面白い。
パソコンを作った人は、
世界の弱点を見るのが
うまいんじゃ」
「弱点?」
「たとえば、
ゆづきのスマホを考えてみい」
「スマホ?」
「画面はピカピカしとる。
アプリも動く。
でも、充電が切れたら
終わりじゃろ」
「うん」
「水に落としたら
壊れるじゃろ」
「うん」
「ウイルスに入られたら
困るじゃろ」
「それは困る」
「国も同じじゃ。
ビル・ゲイツの目線で見ると、
世界は巨大な
スマホみたいなもんなんじゃ」
ゆづきは笑った。
「世界がスマホ?」
「そうじゃ。
戦争は、
スマホを
ハンマーで叩くような
もんじゃ。
分かりやすい。
みんな怖がる。
でも感染症は違う。
小さなウイルスが中に入って、
気づいた時には
全部のアプリが止まる」
「なるほど……」
おじいちゃんは、
紙に絵を描いた。
スマホの画面。
その下に小さな虫。
その下に病院。
その下に下水管。
その横にトラック。
その横に薬の箱。
「小学生に説明するなら、
こうじゃ」
おじいちゃんは、
先生みたいな声で言った。
「戦車は大きい。
ウイルスは小さい。
でも小さい方が、
学校も、病院も、会社も、
飛行機も止めることがある」
ゆづきはうなずいた。
おじいちゃんは続けた。
「ゲイツさん目線のアイテム、
その一」
ゆづきはノートを開いた。
おじいちゃんは書いた。
アイテム①
ミサイルより微生物
「ミサイルは建物を壊す。
でも微生物は、
人の動きを止める。
人が止まると、経済が止まる」
アイテム②
病院は国のバッテリー
「病院に余裕がない国は、
スマホの充電が
1%のままゲームしている
ようなもんじゃ」
ゆづきは吹き出した。
「それ、
すぐ落ちるやつじゃん」
「そうじゃ。
病床、看護師、薬、
注射器、防護服。
これが国の充電なんじゃ」
アイテム③
下水は町の体温計
「人が病院に行く前に、
町の下水に
ウイルスのサインが出る。
だから下水を調べると、
町が熱を出し始めたか分かる」
ゆづきは目を丸くした。
「下水って、
汚いだけじゃないんだ」
「未来のレーダーじゃ」
アイテム④
在庫は国の免疫力
「薬も、マスクも、
検査キットも、
全部ギリギリしか
持っていない国は弱い。
在庫は無駄やない。
いざという時の白血球じゃ」
「白血球?」
「体を守る兵隊じゃ」
ゆづきは書いた。
在庫は国の白血球。
アイテム⑤
効率だけの国は風邪に弱い
「安く作る。
在庫を減らす。
人を減らす。
全部ギリギリにする。
これは平和な時は強い。
でも危機の時は、すぐ倒れる」
ゆづきは言った。
「学校で、
いつも効率よくって
言われるけど」
「効率は大事じゃ。
でも余裕を全部削ったら、
国も会社も風邪をひく」
ゆづきは、
白黒ポテチの袋を見た。
「これも、
効率を削りすぎた結果?」
おじいちゃんは言った。
「一部はそうじゃ。
安さと効率を追いすぎて、
原料や包装やインクの
余裕が薄くなった。
そこへ中東危機が来た」
ゆづきは、
ノートの端にこう書いた。
未来を見るには、
AIの画面だけでは足りない。
病院、下水、在庫、袋を見る。
■第三章
ナフサという透明な骨
おじいちゃんは
古いノートを開いた。
表紙には、こう書いてあった。
「見えない原価ノート」
ゆづきは笑った。
「おじいちゃん、
また怪しいノート出してる」
「怪しいもんほど、
今の時代は大事なんじゃ」
おじいちゃんは、
鉛筆で大きく書いた。
ナフサ。
「これ、何?」
「石油からできる、
化学工業の
出発点みたいなもんじゃ」
「ガソリンとは違うの?」
「違う。
ガソリンは燃やす。
ナフサは形になる」
「形?」
「袋になる。
トレーになる。
ラップになる。
塗料になる。
接着剤になる。
ゴムになる。
電線の被覆になる。
薬の包装になる。
家の建材になる。
食品容器になる」
ゆづきは眉をひそめた。
「つまり、
プラスチックの
親みたいなもの?」
「そうじゃ。
もっと言えば、
日本社会の透明な骨じゃ」
「透明な骨?」
「目には見えん。
けど折れたら歩けん」
おじいちゃんは、
冷蔵庫を指さした。
「冷蔵庫の中の食品。
その容器。
ラベル。
ドアのパッキン。
電線。
断熱材。
全部、
石油化学と関係しとる」
次に洗面所を指さした。
「歯磨き粉のチューブ。
シャンプーボトル。
洗剤の詰め替え袋。
薬のシート。
湿布の袋。
おむつ。
マスク」
ゆづきは、
急に家の中が違って見えた。
木の机も、
プラスチックの椅子も、
スマホのケースも、
冷蔵庫のトレーも、
全部が何かに
ぶら下がっている。
「じゃあ、
ナフサが足りないって……」
おじいちゃんはうなずいた。
「ガソリンが高いより、
もっと奥が深い。
燃料切れやなくて、
形切れじゃ」
「形切れ?」
「物が、物になる
一歩手前で止まるんじゃ」
おじいちゃんは、
またゲイツさん風に言った。
「小学生に言うならこうじゃ。
カレーを作る時、
肉も野菜もある。
でも鍋がない。
皿がない。
スプーンがない。
ラップもない。
そうなったら、
食べられんじゃろ」
「うん」
「ナフサ不足は、
食べ物そのものが
ないだけではない。
食べ物を商品にする
道具が足りなくなる
話なんじゃ」
ゆづきは、
白黒ポテチの袋を見た。
袋は、
ただの袋ではなかった。
未来の皿だった。
■第四章
四万六千七百四十一社の悲鳴
ニュースは、
淡々とした声で数字を読み上げた。
ナフサ関連製品の調達危機に
直面する可能性がある国内製造業。
四万六千七百四十一社。
ゆづきは、
思わず声を出した。
「四万六千?」
おじいちゃんは
湯のみを持ったまま答えた。
「多いじゃろ」
「多いっていうか、
町ごとじゃん」
「しかも、
その多くは中小企業じゃ」
「中小企業って、
町工場みたいな?」
「町工場。
成形屋。
塗装屋。
印刷屋。
包装屋。
接着剤の会社。
建材加工。
ゴム部品。
食品包装。
薬の包装。
そういうところじゃ」
ゆづきはスマホで検索した。
「でも、大企業があるじゃん。
大企業が
何とかするんじゃないの?」
おじいちゃんは、
ゆっくり首を振った。
「大企業は頭じゃ。
中小企業は関節じゃ」
「関節?」
「頭が良くても、
膝や肘が
焼き付いたら動けん。
日本経済はな、
頭から倒れるんやない。
関節から
動かなくなるんじゃ」
ゆづきは、
その言葉をノートに書いた。
日本経済は、
関節から焼き付く。
おじいちゃんは続けた。
「ここでも
ゲイツさん目線が使える」
「どういうこと?」
「パソコンは
CPUだけでは動かん。
小さな部品が
一つ壊れても止まる。
国も同じじゃ」
ゆづきはうなずいた。
「大企業がCPUで、
中小企業が小さな部品?」
「そうじゃ。
見えん部品ほど、
壊れた時に困る」
おじいちゃんは続けた。
「怖いのは、
仕事がない倒産やない。
仕事はある。
注文もある。
でも材料がない。
納期が読めん。
値上げも通らん。
それで倒産する」
「仕事があるのに倒産?」
「そうじゃ。
これが
作れないインフレじゃ」
「値段が上がる
インフレじゃなくて?」
「値段を上げても、
物が作れん。
これが次の怖さじゃ」
ゆづきは、
白黒ポテチの袋を思い出した。
「中身はあるのに、袋がない」
おじいちゃんは言った。
「そのうち、こうなる。
家はあるのに直せない。
薬はあるのに包めない。
食品はあるのに売れない。
部品はあるのに完成しない」
ゆづきは、
初めて寒気がした。
■第五章
AIと名乗れば株が跳ねる
その夜、
ゆづきはSNSを見ていた。
米国で、
上場維持に苦しむ小型企業が、
社名にAIを加えて株価急騰。
「おじいちゃん、これ見て。
会社名にAIってつけるだけで
株が上がるんだって」
おじいちゃんは笑った。
「昔はドットコムじゃった」
「ドットコム?」
「二十年以上前、
会社名に.comとつけるだけで
株が上がった時代が
あったんじゃ」
「それ、今のAIと同じ?」
「よく似とる。
もちろん
AIは本物の技術じゃ。
けど、本物の技術の横に、
看板だけの会社が
必ず出てくる」
「AI社名詐欺?」
「詐欺とまでは言わん。
でも、
AI社名ロンダリングじゃな」
ゆづきは笑った。
「おじいちゃん、言葉が強い」
「弱い言葉では市場は見えん」
おじいちゃんは、
ノートに書いた。
AI社名ロンダリング。
「苦しい会社が、
AIを名乗る。
株価を救う。
補助金を狙う。
採用をよく見せる。
中身はまだ昔のまま」
「でもAIって言われたら、
なんか未来っぽいもんな」
「そこが怖い。
店の中身は空っぽでも、
看板だけ光れば人は集まる」
ゆづきは、
スマホ画面の株価チャートを
見た。
急騰。
急落。
急騰。
まるで心電図だった。
おじいちゃんは言った。
「ここでも
ゲイツさん目線じゃ」
「また?」
「本物のパソコンと、
箱だけパソコン風の空箱を
見分ける力じゃ」
「空箱?」
「名前にAIと書いてあっても、
中に何が入っているか見る。
電力はあるか。
サーバーはあるか。
技術者はいるか。
売上はあるか。
顧客はいるか。
そう見んといかん」
ゆづきはつぶやいた。
「AIって、
名前じゃなくて中身なんだ」
「その通りじゃ」
「おじいちゃん、
これ投資したら儲かる?」
おじいちゃんは即答した。
「儲かるかもしれん。
でもな、
看板に投資するのか、
血管に投資するのか、
それを間違えたら終わりじゃ」
「血管?」
「AIを本当に動かすものじゃ。
電力。
冷却。
海底ケーブル。
半導体メモリー。
水処理。
変圧器。
データセンター。
そっちが本物の血管じゃ」
ゆづきはつぶやいた。
「AIって、
アプリじゃなくて土木なんだ」
おじいちゃんは笑った。
「やっと分かってきたな」
■第六章
韓国KOSPI、空を飛ぶ
次の日、
ニュースは韓国株の急騰を伝えた。
KOSPI、今年プラス85%。
ゆづきは目を丸くした。
「85%って、
ゲームのバグみたいじゃん」
おじいちゃんは、
古い証券マンの顔になった。
「バグではない。
資金の集中じゃ」
「なんで
韓国がそんなに上がるの?」
「AIの記憶装置を
握っとるからじゃ」
「記憶装置?」
「サムスン。
SKハイニックス。
AIサーバーには
大量のメモリーがいる。
人間でいえば、脳の記憶じゃな」
「AIって
NVIDIAだけじゃないの?」
「NVIDIAは脳の計算役。
でも記憶がなければ動けん。
AIは、
脳みそだけでは生きられん。
記憶と電気と冷却水がいる」
ゆづきは、
またノートに書いた。
AIは脳みそだけでは
生きられない。
おじいちゃんは続けた。
「ゲイツさん目線で言えば、
AIは巨大な学校みたいな
もんじゃ」
「学校?」
「先生がGPU。
黒板がデータセンター。
ノートがメモリー。
電気が給食。
冷却水が保健室じゃ」
ゆづきは笑った。
「給食ないと
授業できないもんね」
「そうじゃ。
どれか一つ足りんと、
学校は回らん」
おじいちゃんは続けた。
「世界の資金は、
国名ではなく
急所を買い始めた」
「急所?」
「台湾は半導体製造。
韓国はメモリー。
アメリカはGPUとクラウド。
日本は材料、装置、部材、
電力、水処理、冷却、保全。
そういう急所じゃ」
「じゃあ
日経平均とかKOSPIとか
見るだけじゃダメ?」
「ダメじゃ。
これからは国別指数やなく、
供給網指数で見る時代じゃ」
ゆづきは、
白黒ポテチの袋を見た。
「韓国では
AIメモリーで株が飛んで、
日本では包装の色が消える」
おじいちゃんは言った。
「同じAI時代の、表と裏じゃ」
■第七章
Googleは円を借りた
その日の夕方、
おじいちゃんは新聞を読んでいた。
「Google親会社、初の円建て社債」
ゆづきはスマホから顔を上げた。
「それ、すごいの?」
「すごい」
「なんで?
Googleってお金持ちじゃん」
「お金持ちほど、
安いお金を
上手に借りるんじゃ」
「円で借りるってこと?」
「そうじゃ。
日本は金利が低い。
円安でもある。
Googleは
日本でデータセンターや
海底ケーブルや
AIインフラに投資する。
日本で円を使うなら、
円で借りるのは自然じゃ」
「自然ヘッジってやつ?」
「おお、分かっとるな」
おじいちゃんは
うれしそうに笑った。
「バークシャーが
円建て社債で資金を借りて、
日本の商社株を買ったのと
似とる。
今回は、
商社株ではなく
AIインフラじゃ」
ゆづきは天井を見た。
「つまり、
日本の円が
GoogleのAIに使われる?」
「そうじゃ。
日本の低金利が、
世界AI競争の燃料になる」
「なんかカッコいいような、
怖いような」
「両方じゃ。
投資が来るのはいい。
雇用も出る。
インフラも強くなる。
けど、
電力も土地も水も使われる」
「日本が
買われるんじゃなくて……」
おじいちゃんが続けた。
「使われる国になる」
ゆづきは黙った。
その言葉は、
なぜか胸に引っかかった。
おじいちゃんは、
ビル・ゲイツ風にやさしく言った。
「小学生に言うなら、
こうじゃ」
ゆづきは顔を上げた。
「Googleは、
日本という
家のコンセントを借りて、
世界中のAIを動かす
大きなゲーム機を
置こうとしている」
「ゲーム機?」
「そうじゃ。
でもそのゲーム機は、
ものすごく電気を食う。
ものすごく
冷やさないといけない。
ものすごく速い通信がいる」
ゆづきは、
自分のスマホの充電残量を見た。
23%。
「AIも充電切れしたら
止まるんだね」
「そうじゃ。
AIも腹が減る。
その飯が電気じゃ」
■第八章
海底国道とAIの血管
おじいちゃんは、
日本地図を広げた。
「見ろ、ゆづき。
日本は島国じゃ」
「知ってるよ」
「知っとるだけでは足りん。
島国は、
海底ケーブルが命なんじゃ」
「海底ケーブル?」
「インターネットの大部分は、
空を飛んでいるわけじゃない。
海の底のケーブルを通っとる」
「え、
Wi-Fiって空じゃないの?」
「家の中は空中。
国と国の間は海底じゃ」
ゆづきは驚いた。
「海の底に
国道があるみたいな?」
「その通り。
海底国道じゃ」
おじいちゃんは、
赤いペンで
日本の周りに線を引いた。
「AI。
金融。
証券取引。
動画。
病院。
物流。
行政。
防衛。
全部この見えない国道に乗る」
「そこをGoogleが強くする?」
「そうじゃ。
でも同時に、
日本のデジタル道路が
外資の経済圏に組み込まれる」
「便利になるけど、
依存も増える?」
「まさにそれじゃ」
おじいちゃんは、
またゲイツさん目線で
説明した。
「昔の国道は、
トラックが走った。
今の海底国道は、
データが走る。
米も薬も銀行も学校も、
全部データなしでは
動けなくなっとる」
「じゃあ
海底ケーブルが切れたら?」
「町の道路が
崩れたようなもんじゃ。
物はあるのに、情報が届かん。
情報が届かんと、物も動かん」
ゆづきは、
ふと冷蔵庫の音を聞いた。
ブーン。
AIも冷やさなければ
動かない。
データセンターも
電気がなければ
動かない。
電気も燃料や
送電網がなければ
届かない。
スマホの中の未来は、
家の中の冷蔵庫と同じように、
音を立てて電気を食っていた。
「おじいちゃん」
「なんじゃ」
「AIって、
軽いものだと思ってた」
おじいちゃんは言った。
「AIほど重いものはない。
見えんだけじゃ」
■第九章
モディ首相のお願い配給
テレビでは、
インドのモディ首相の
演説が流れていた。
ガソリンとディーゼルの使用を
控えよ。
海外旅行や海外挙式を
控えよ。
金の購入を
控えよ。
ゆづきは目を丸くした。
「首相が、結婚式まで言うの?」
おじいちゃんは
真剣な顔でうなずいた。
「そこが重要なんじゃ」
「なんで?」
「戦争や中東危機で原油が
高くなる。
インドは原油をたくさん
輸入する。
燃料を使えば
外貨が出ていく。
海外旅行でも
外貨が出ていく。
金を買っても
外貨が出ていく」
「つまり、
国のお金を守るため?」
「そうじゃ。
国の外貨防衛が、
家庭の予定表に降りてきた」
ゆづきは、
その言葉にぞっとした。
家庭の予定表。
旅行。
結婚式。
買い物。
車。
金の指輪。
それらが、
世界経済とつながっている。
「これって配給なの?」
「切符は配っていない。
でも方向は近い。
わしはこれを、
お願い配給国家と呼ぶ」
「お願い配給国家……」
「強制ではない。
でも国民に、
消費の仕方を変えてくれと頼む。
自由市場から
国家誘導消費へ変わるんじゃ」
おじいちゃんは言った。
「ゲイツさん目線なら、
これはこうじゃ。
スマホの電池が
少なくなった時、
動画を見るのをやめるじゃろ」
「うん」
「明るさを下げるじゃろ」
「うん」
「使っていないアプリを
閉じるじゃろ」
「うん」
「国家も同じじゃ。
外貨と燃料の
バッテリーが減ると、
海外旅行、金購入、
ガソリン使用という
アプリを閉じてくれと
言い始める」
ゆづきは笑いながら、
少し怖くなった。
「国も省エネモードになるんだ」
「そうじゃ。
戦時経済の省エネモードじゃ」
■第十章
金を買うな、海外で結婚するな
インドでは、
金はただの投資ではない。
結婚。
家族。
安全資産。
伝統。
女性の守り。
その金を、
一年買わないでくれと
首相が言う。
ゆづきは、
スマホで
インドの結婚式の写真を見た。
花嫁の腕に光る金。
首飾り。
耳飾り。
親族の笑顔。
「これを控えろって、
かなり大きいね」
「大きい。
戦争は前線だけでなく、
花嫁の腕輪まで届くんじゃ」
おじいちゃんは、
その言葉をノートに書いた。
花嫁の腕輪まで届く戦争。
「でも、
なんで国民は
金を買いたがるの?」
「通貨が心配だからじゃ。
インフレが怖い。
紙のお金が怖い。
だから金を持つ」
「国は?」
「国は外貨流出が怖い。
だから買わないでほしい」
「国民が自分を守る行動が、
国から見ると
困る行動になるんだ」
「そこじゃ。
これからの世界で増えるぞ」
「日本なら?」
「円が不安で、
外貨、金、暗号資産、
備蓄品へ逃げる。
でも国は円を守りたい。
ここに衝突が起きる」
ゆづきは、
白黒ポテチの袋、
Googleの円債、
KOSPI急騰、
モディ首相の演説を思い出した。
全部が別々のニュースに見えて、
実は同じことを言っている。
誰が何を持つのか。
誰が何を我慢するのか。
誰が未来を買い、
誰が色を失うのか。
■第十一章
感染症は下水から来る
夜、
おじいちゃんはまた、
ビル・ゲイツの言葉を
話し始めた。
「ゲイツさんは、
戦争より
感染症が怖いと言った。
これはな、
小学生にも分かるように
言えば、
学校中に風邪が広がる話じゃ」
ゆづきは言った。
「学級閉鎖みたいな?」
「そうじゃ。
一人が風邪をひく。
二人にうつる。
四人にうつる。
八人にうつる。
クラスが止まる。
学年が止まる。
学校が止まる」
「それが世界で起きる?」
「そうじゃ。
会社が止まる。
空港が止まる。
病院がいっぱいになる。
物流が止まる。
工場が止まる。
観光が止まる」
ゆづきは言った。
「でも感染症って、
見えないよね」
「だから下水を見るんじゃ」
「また下水?」
「大事なんじゃ。
人が病院に行く前に、
町の下水に
ウイルスの痕跡が出る。
下水は都市の体温計じゃ」
「下水が体温計?」
「そうじゃ。
町が熱を出す前に
分かるかもしれん」
ゆづきは、
少し気持ち悪そうに、
でも真剣に聞いていた。
おじいちゃんは続けた。
「ゲイツさん目線の
アイテムじゃ」
アイテム⑥
下水は町の体温計。
アイテム⑦
病院は国のバッテリー。
アイテム⑧
在庫は国の白血球。
アイテム⑨
薬の包装は、薬の鎧。
アイテム⑩
感染症は、
経済のアプリを
一斉停止させるウイルス。
ゆづきは書いた。
「薬の包装は、
薬の鎧っていいね」
「そうじゃろ。
薬は中身だけでは守れん。
湿気から守る。
光から守る。
間違えずに届ける。
そこに包装がいる」
ゆづきは、
白黒ポテチの袋を見た。
ポテチの袋。
薬の包装。
下水の体温計。
AIの血管。
全部がつながり始めた。
■第十二章
病院も、ポテチの袋も、
石油でできている
ゆづきは言った。
「でもおじいちゃん、
感染症とナフサって
関係あるの?」
おじいちゃんは、
待ってましたという顔をした。
「大ありじゃ」
「どういうこと?」
「病院を見てみい」
おじいちゃんは、
指を折りながら数えた。
注射器。
点滴バッグ。
チューブ。
手袋。
マスク。
検査キット。
薬の包装。
消毒液の容器。
おむつ。
防水シーツ。
医療用フィルム。
「これらの多くは、
石油化学に支えられとる」
ゆづきは驚いた。
「病院も石油でできてるの?」
「かなりの部分はそうじゃ。
もちろん
医師や看護師の力が
一番大事じゃ。
でも道具がなければ
医療は回らん」
「じゃあ
ナフサ不足の時に
感染症が来たら……」
おじいちゃんはうなずいた。
「薬はある。
でも包装が足りない。
検査キットの部材が
足りない。
手袋やチューブが
足りない。
救急車の燃料も高い。
病院の電気も必要。
全部つながる」
ゆづきは、
ゆっくり言った。
「ポテチの袋と病院が
つながってるなんて、
普通思わないよ」
「そこが
現代社会の怖さじゃ。
別々に見えるものが、
上流では同じ原料に
ぶら下がっとる」
おじいちゃんは、
ゲイツさん風に言った。
「小学生に言うなら、
こうじゃ」
ゆづきは笑った。
「また出た」
「ポテチの袋と病院の手袋は、
遠い親戚なんじゃ」
「親戚?」
「同じ石油化学の家系から
来とる」
ゆづきは笑いながら、
その比喩をノートに書いた。
ポテチの袋と病院の手袋は、
遠い親戚。
でも書いたあと、
急に笑えなくなった。
親戚なら、
同じ家が火事になれば、
両方困る。
■第十三章
AIは光り、棚は白黒になった
数日後、
街の景色は少しずつ
変わり始めた。
コンビニの新商品棚は、
いつもより静かだった。
限定味が減った。
キャンペーン袋が減った。
印刷の色が少なくなった。
商品の入荷予定に、
「未定」の文字が増えた。
一方で、
ニュースは明るかった。
AI関連株が上昇。
データセンター投資拡大。
円建て社債に投資家需要。
韓国メモリー株が高値更新。
AI半導体需要は強い。
ゆづきは混乱した。
「おじいちゃん。
どっちが本当なの?
景気いいの?
悪いの?」
おじいちゃんは言った。
「両方本当じゃ」
「両方?」
「画面の中では
未来が光っとる。
棚の上では生活が
白黒になっとる。
上と下で、
違うことが
同時に起きとるんじゃ」
「それって格差?」
「格差でもある。
でももっと大きい。
未来が来る場所と、
生活が薄くなる場所が
分かれ始めとる」
ゆづきは、
店の棚を見た。
白黒の袋。
小さくなったパッケージ。
値上げされたパン。
数量制限の貼り紙。
スマホの中では、
AIが美しい画像を
生成していた。
現実の棚からは、
色が消えていた。
おじいちゃんは言った。
「ビル・ゲイツ目線で見れば、
これは一つの問いじゃ」
「どんな問い?」
「未来の技術を進めることと、
生活の土台を守ること。
どちらも同時にできるか、
という問いじゃ」
ゆづきは黙った。
おじいちゃんは続けた。
「AIを作る力も大事。
でも、
病院を守る力も大事。
ポテチの袋を作る力も、
実は生活を守る力なんじゃ」
ゆづきは思った。
未来は、
全員に同じ形で
来るわけではない。
ある人には株価として来る。
ある人には電気代として来る。
ある人には求人として来る。
ある人には
袋の色の消失として来る。
■第十四章
ゆづきの未来ノート
ゆづきのノートは、
いつの間にか
いっぱいになっていた。
白黒包装ショック。
ナフサ兵糧攻め。
AI社名ロンダリング。
韓国AIメモリー国家バブル。
Google円建てAIインフラ投資。
お願い配給国家。
公衆衛生安全保障。
下水レーダー経済。
作れないインフレ。
中小関節焼き付き経済。
そして新しく、
ビル・ゲイツ目線の
小学生アイテムが加わった。
ミサイルより微生物。
病院は国のバッテリー。
下水は町の体温計。
在庫は国の白血球。
薬の包装は、薬の鎧。
ポテチの袋と病院の手袋は
遠い親戚。
AIは雲ではなく、
電気を食べる巨大な生き物。
国もスマホと同じで、
省エネモードになる。
効率だけの国は風邪に弱い。
未来は、
画面ではなく
棚と病院と下水にも出る。
ゆづきは言った。
「おじいちゃん、
これ投資ノートなの?
小説ノートなの?
社会の授業なの?」
おじいちゃんは笑った。
「全部じゃ」
「全部?」
「相場は物語で動く。
社会も物語で動く。
数字だけ見ても分からん。
でも物語だけでも危ない。
数字と物語をつなぐんじゃ」
「それ、高校生にも必要?」
「必要じゃ。
AI時代は、
答えはすぐ出る。
でも、
何を問うかは
人間が決める」
ゆづきは黙った。
おじいちゃんは続けた。
「これから大事なのは、
AIを使えることだけやない。
AIが見落とす現場を
見ることじゃ」
「現場?」
「白黒のポテチ袋。
印刷会社の電話。
電気代の請求書。
修理部品の納期未定。
病院の待合室。
下水処理場のデータ。
そういうものじゃ」
ゆづきは、
スマホを伏せた。
「おじいちゃん」
「なんじゃ」
「私、
ちょっと分かってきた。
未来って、
ニュースの中に
あるんじゃなくて、
棚とか袋とか
電気代に出るんだね」
おじいちゃんは、
少しうれしそうに笑った。
「そうじゃ。
未来は大きな顔をして来ん。
小さな違和感で来る」
■第十五章
未来は来た。
ただし、色を失って
夏が近づくころ、
ゆづきは一人で
スーパーへ行った。
菓子売り場には、
まだポテトチップスがあった。
でも棚の景色は、
前より地味だった。
白黒包装。
簡素なラベル。
少ない新商品。
値上げされた定番品。
ゆづきは一袋を手に取った。
昔なら、
ただのお菓子だった。
でも今は違った。
その袋の向こうに、
中東の原油が見えた。
ナフサが見えた。
インク工場が見えた。
町の印刷会社が見えた。
Googleのデータセンターが
見えた。
韓国のメモリー工場が
見えた。
インドの花嫁の腕輪が
見えた。
下水処理場のモニターが
見えた。
病院の注射器が見えた。
日本の中小企業の関節が
見えた。
そして、
ビル・ゲイツの
小さな予言が見えた。
ミサイルより、
微生物。
戦車より、
病床。
株価より、
在庫。
AIより、
電気。
未来より、
足元。
ゆづきは、
ポテチをカゴに入れた。
その時、
スマホにニュース速報が出た。
「AI関連株、再び高値更新」
ゆづきは笑った。
悲しい笑いだった。
世界は
まだ未来を信じている。
AIはまだ光っている。
株価はまだ上がっている。
けれど、
ゆづきの手の中の
未来は白黒だった。
家に帰ると、
おじいちゃんが待っていた。
「買えたか」
「買えた」
「色は?」
「なかった」
おじいちゃんは
静かにうなずいた。
ゆづきは、
白黒の袋を机に置いた。
「おじいちゃん。
未来って、明るいの?」
おじいちゃんは少し考えた。
「明るいだけの未来は、
たぶん嘘じゃ」
「じゃあ暗いの?」
「暗いだけでもない」
「じゃあ何?」
おじいちゃんは、
白黒の袋を見つめて言った。
「色を失った未来に、
もう一度、
人間が色を塗れるかどうか。
そこが勝負じゃ」
ゆづきは、
ゆっくりうなずいた。
そしてノートの最後に書いた。
未来は来た。
ただし、色を失って。
だから私は、
もう一度、
色の意味を考えなければならない。
………
❥Z世代のあなたへ
この物語は、
遠い国の戦争や、
株価や、
AI企業の話に
見えるかもしれない。
でも本当は、
君のコンビニの棚の話だ。
ポテチの袋。
スマホの充電。
ネットの通信。
バイト先のシフト。
親の電気代。
旅行の航空券。
学校の進路。
就職先の会社名。
米の値段。
薬の包装。
病院の待合室。
町の下水。
全部つながっている。
ビル・ゲイツの目線で見ると、
世界は巨大なパソコン
みたいなものだ。
画面だけきれいでも、
電源が落ちたら止まる。
アプリが便利でも、
ウイルスに入られたら
止まる。
AIがすごくても、
電気と水と冷却がなければ
止まる。
病院がいっぱいになれば、
経済も止まる。
包装が足りなければ、
食べ物も薬も店に並ばない。
これからの時代、
「AIを使えます」だけでは
足りない。
AIが答えを出しても、
現実のどこが詰まっているかを
見抜ける人が強い。
画面の中の未来だけを見るな。
棚を見ろ。
袋を見ろ。
電気代を見ろ。
物流を見ろ。
下水を見ろ。
町工場を見ろ。
親のため息を見ろ。
そこに、
本当の未来が出ている。
そして、
もし君が少しでも
不安を感じたなら、
それは弱さではない。
危険に気づく力だ。
世界は今、
自由市場から配分経済へ
変わり始めている。
でも、
配分される側で
終わる必要はない。
考える人になれ。
比べる人になれ。
見抜く人になれ。
小さな違和感を
拾える人になれ。
AIの時代に一番強いのは、
AIより速く答える人ではない。
AIが見落とした、
白黒のポテチ袋の
意味に気づける人だ。
………
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風・
笑いと涙の締め
ホームズ
「ワトソン君、
今回の事件は
実に奇妙だったね」
ワトソン
「奇妙どころやないで、
ホームズ。
ポテチの袋が
白黒になっただけで、
ビル・ゲイツまで出てきて、
世界経済まで
行ってしもうたがな」
ホームズ
「そこが事件の核心だよ。
袋の色は証拠品だったのだ」
ワトソン
「証拠品?
わし、
ただのうすしお味やと
思っとったわ」
ホームズ
「甘いね、ワトソン君。
いや、
うすしおだから
甘くはないが」
ワトソン
「やかましいわ。
そこボケるとこちゃうやろ」
ホームズ
「ポテチの袋から色が消えた。
その背後には、ナフサ不足、
インク不足、包装材不足、
原油高、地政学リスクがある」
ワトソン
「ほな、
ポテチ一袋に
世界史が入っとるんかい」
ホームズ
「その通り」
ワトソン
「食べにくいわ!
そんなもん、
袋開ける前に
胃が重くなるわ!」
ホームズ
「さらに
ビル・ゲイツの
目線を入れると、
病院、下水、在庫、
感染症まで見えてくる」
ワトソン
「ポテチから
下水まで行くんかい!
高低差ありすぎて
耳キーンなるわ!」
ホームズ
「未来を見るには、
上も下も見る必要がある」
ワトソン
「上はAI、下は下水。
真ん中にポテチ。
なんちゅうサンドイッチや」
ホームズ
「実に現代的だ」
ワトソン
「食欲なくなるわ!」
ホームズ
「Googleは円を借り、
日本にAIの血管を
通そうとしている」
ワトソン
「血管?
わしの血管は
コレステロールで
詰まり気味やけどな」
ホームズ
「君の健康診断の話は
後にしよう」
ワトソン
「冷たいなあ。
AIより冷却されとるやないか」
ホームズ
「韓国では
AIメモリーでKOSPIが飛び、
米国ではAIと名乗る企業の
株が跳ねる」
ワトソン
「ほな、
わしも明日から
ワトソンAIに
改名したら株が上がるか?」
ホームズ
「まず君は上場していない」
ワトソン
「そこからかい!」
ホームズ
「そしてインドでは、
首相がガソリンを控えろ、
金を買うな、
海外挙式を控えろと
呼びかけた」
ワトソン
「結婚式まで
経済安全保障かいな。
新郎新婦も大変やで。
誓いますか? の前に、
外貨を守りますか?
って聞かれるんか」
ホームズ
「あり得る時代になってきた」
ワトソン
「怖いなあ。
昔は愛があれば
大丈夫言うたのに、
今は
燃油サーチャージがなければ
大丈夫や」
ホームズ
「さらに感染症対策では、
下水監視が重要になる」
ワトソン
「また下水かい!
今回、
話が上から下まで
忙しすぎるわ。
AIは雲の上、ケーブルは海の底、
ウイルスは下水、ポテチは棚。
わしの目線が追いつかん!」
ホームズ
「それが現代経済だよ。
上だけ見ても、
下だけ見ても分からない」
ワトソン
「つまり、
これからの名探偵は、
虫眼鏡じゃなくて、
スーパーのチラシと
電気代の請求書と、
下水処理場のデータを
見るんやな」
ホームズ
「見事だ、ワトソン君」
ワトソン
「ほんまか?
初めて褒められた
気がするわ」
ホームズ
「ただし、
君はまだ
大事なことを忘れている」
ワトソン
「何や?」
ホームズ
「ポテチは、
開けたら早めに食べることだ」
ワトソン
「そこかい!
最後に生活感がすごいな!」
ホームズ
「経済とは生活だからね」
ワトソン
「うまいこと締めたつもりか」
ホームズ
「では、最後に一言」
ワトソン
「どうぞ」
ホームズ
「AIが未来を描いても、
人間が袋を作れなければ、
その未来は店頭に並ばない」
ワトソン
「おお
……ええこと言うやないか」
ホームズ
「そして、
病院に余裕がなく、
下水を読めず、
在庫を持たず、
包装も作れない国は、
どれほどAIが進んでも
風邪に弱い」
ワトソン
「ビル・ゲイツ風に言うたら?」
ホームズ
「世界は巨大なパソコンだ。
だが、ウイルス対策ソフトも、
バッテリーも、
冷却ファンも、
予備の部品もないまま、
美しい画面だけ見ている」
ワトソン
「うわ、
急に賢そうになったな」
ホームズ
「もともと賢い」
ワトソン
「自分で言うな!」
ホームズ
「色を失った袋を見て、
もう一度
色を塗ろうとする者だけが、
次の時代を作る」
ワトソン
「泣かせるなあ、ホームズ」
ホームズ
「泣いているのかい?」
ワトソン
「いや、
ポテチの塩が
目に入っただけや」
ホームズ
「袋は白黒でも、
涙はしょっぱい」
ワトソン
「最後までうすしお味かい!」
二人は笑った。
けれど、
その笑いの奥で、
白黒のポテチ袋が静かに鳴った。
パリッ。
それは、
ただの袋の音ではなかった。
日本の未来が、
少しだけ折れた音だった。
そして同時に、
まだ人間が気づけるという、
小さな希望の音でもあった。




