まだ平和だと言う国で、君だけが非常口を見つけた ――家賃20万円、年収600万円、休職中の夫婦が「最後まで必要な会社」を探した春――
✦まだ平和だと言う国で、
君だけが非常口を見つけた
――家賃20万円、年収600万円、
休職中の夫婦が
「最後まで必要な会社」
を探した春――
………
ほんまに怖い時代いうんは、
爆発音で始まるんやない。
家賃二十万円の部屋で、
夫婦が
「今月あと何回、
外食を我慢するか」
相談し始めた時、
もう始まっとるんじゃ。
………
★目次
■第一章
家賃20万円の非常口
■第二章
優しい人から
先に壊れる会社
■第三章
年収600万円では
足りない東京
■第四章
三十年働いて、
11万円しか
増えなかった国
■第五章
ブラックスワンが
3羽飛んでも、
株は笑っていた
■第六章
日銀という、
火事場で息切れした消防士
■第七章
成功体験の化石
■第八章
百七十円の麻酔
■第九章
見えない転売ヤーの海
■第十章
海峡が料金所になる日
■第十一章
黄色い飛行機は、
国のものになりかけた
■第十二章
ひろしだけが
見えていた地図
■第十三章
最後まで必要な会社
■第十四章
面接で初めて、
自分の言葉が出た日
■第十五章
まだ平和だと言う国で、
ひろしだけが
非常口を見つけた
❥Z世代のあなたへ
――非常口は、
たいてい地味な場所にある
★あとがき
ホームズとワトソンの、
やすきよ漫才風締め
………
■第一章
家賃20万円の非常口
ひろしは四十歳。
理工学系の大学を出た、
頭のええ男じゃった。
頭がええいうても、
人を押しのけて
出世するタイプやない。
むしろ逆で、
相手の顔色を
見すぎるぐらい優しかった。
その優しさが、
前の職場では
命取りになった。
今、ひろしは
練馬区のマンションに
住んどる。
家賃は月二十万円。
数字だけ見たら、
東京では珍しゅうもない。
けど、休職中の男にとって
それは毎月くる
請求書やなくて、
首のあたりへ
じわじわ巻きつく
ロープみたいなもんじゃった。
テレビではまだ、
「景気は緩やかに回復」
とか、
「賃上げ機運」
とか、
ええ言葉が流れとる。
けど二十万円いう数字は、
そんな言葉より正直じゃ。
払えんようになったら、
終わる。
文明いうんは、
最後はだいたい
家賃と水道と電気で
正体を現すんじゃ。
■第二章
優しい人から先に壊れる会社
前の会社におった
お局さんは、
怒鳴らんかった。
怒鳴らん代わりに、
静かに人を削ることにかけては
一流じゃった。
朝、あいさつしても
返事がない。
会議では笑顔。
終わったあと、
「普通ここ気づくよね」
と低い声。
一つ一つは小さい。
けど毎日続くと、
人間は壊れる。
ひろしは最初、
論理で整理しようとした。
時系列をメモした。
発言パターンも記録した。
けど、そういう攻撃は
数学みたいに解けん。
出社前に吐く。
眠れん。
将来の話をすると、
胸の奥に冷たい板が
差し込まれたみたいに
体が固まる。
仕事の話になると、
希望より先に
圧力が来る。
病院で診断書をもらった時、
ひろしはほっとした。
同時に、少し情けなかった。
体のどこかが
折れたわけやない。
でも、確かに動けん。
その時ひろしは、
ようやく気づいた。
会社は
人を一発では壊さん。
毎日少しずつ、
本人が
「これぐらいは
自分が我慢せんと」
と思う量だけ削っていく。
それがいちばん
残酷なんじゃ。
■第三章
年収600万円では
足りない東京
さおりは三十七歳。
ゲーム翻訳の仕事をしとる。
年収六百万円。
数字だけ見たら、
立派じゃ。
地方なら
「よう稼いどる」
で済むかもしれん。
けど東京で、
家賃二十万円、
休職中の夫、
先行き不安、
病院通い、
生活コストの上昇つき。
六百万円いう数字は、
余裕やのうて
“まだ沈んでない証拠”
ぐらいの意味しか持たん。
しかもさおりは、
ただの稼ぎ手やない。
家計も支え、
ひろしの心も支え、
仕事も落とさんようにしとる。
昔、オーストラリアの
日本語学校に通うとった縁で、
豪州にも、韓国にも、
東南アジアにも知人が多い。
最近、その知人らの
投稿が変わってきた。
値上がり。
給油の列。
送料。
飛行機の欠航。
「高い」
だけやなく、
「手に入りにくい」
が増えてきた。
さおりは、
スマホを見ながら言うた。
「高い、より、
手に入りにくいの方が
怖いね」
ひろしはうなずいた。
高いだけなら、
まだ値札の問題じゃ。
手に入りにくいは、
文明の流れそのものが
詰まり始めた合図じゃけえ。
■第四章
三十年働いて、
11万円しか増えなかった国
ひろしは、
感情が荒れると数字を見る。
グラフを開く。
表を並べる。
数字は少なくとも、
遠回しに嫌味を言わんからじゃ。
ある晩、
彼は平均給与の推移を見とった。
✲一九九七年、
四百六十七万円
✲二〇二四年、
四百七十八万円
「さおり、見てみ」
「なに?」
「三十年近う経って、
平均給与、
十一万円しか増えとらん」
さおりはしばらく黙った。
十一万円。
月にしたら
一万円にも届かん。
三十年いうたら、
人が大学を出て、
働いて、
結婚して、
子どもが育って、
親が老いて、
自分も老い始めるぐらいの時間じゃ。
その間に国全体の平均給与が
たった十一万円しか増えん。
一方で、
食べ物は上がる。
家賃は重い。
社会保険料は増える。
税の負担感も強なる。
“昔はなかった固定費”が
人の暮らしへ座り込む。
ひろしはノートに書いた。
日本は崩れる前に、
まず痩せる。
ドカンと死ぬんやない。
三十年かけて、
静かに細る。
それが一番、
気づきにくくて怖い。
■第五章
ブラックスワンが
3羽飛んでも、
株は笑っていた
株式市場の記事を見とると、
たまに現代詩みたいな
見出しに当たる。
✲ブラックスワンが三羽
見ないふりトレード。
✲原油高
✲長期金利の急上昇
✲AI期待の過熱
黒い鳥みたいな悪材料が
空によう見えとるのに、
相場は
「まあ大丈夫じゃろ」
いう顔で上がっていく。
ひろしはつぶやいた。
「これ、株だけじゃないな」
「どういうこと?」
「この国そのものが、
見ないふりトレードしとる」
✲給料は増えん。
✲人口は減る。
✲橋も水道も古い。
✲人手は足りん。
✲海峡は不安。
✲燃料は重たい。
でも生活者も市場も
“まだ前と同じように届くはず”
と思い込む。
✲願望で値段をつける
それがいちばん危ない。
株価が強いことと、
社会が強いことは、
ぜんぜん別なんよ。
■第六章
日銀という、
火事場で息切れした消防士
ひろしは日銀の資料も読んだ。
普通の夫婦は、
夕食後に
中央銀行の財務諸表なんか見ん。
けどひろしは、
壊れそうな機械を見る目で
それを見た。
✲国債保有は五百兆円超
✲ETFは簿価三十七兆円、
時価七十兆円級
✲将来は
二兆円級の赤字試算
✲当座預金も五百兆円超。
利上げすれば、
世の中は少し締まる。
けど自分も傷む。
「消防士が
火を消しに来たのに、
ホースに穴が
空いてる感じだな」
さおりは真顔になった。
「そんなに悪いん?」
「今すぐ終わるとは思わん。
でも、
昔みたいに“何でもできる顔”は
もうしてない」
「インフレが強くなったら?」
「薬はある。
でも飲ませると、
医者の方も倒れかねん」
国も、会社も、
人間も、
ほんまに危ないのは
いきなり死ぬ時やない。
壊れかけのまま、
責任だけ続く時じゃ。
■第七章
成功体験の化石
そのころひろしは、
石油化学のことも調べとった。
ナフサクラッカー。
コンビナート。
エタン。
LPG。
韓国の再編。
古いけど優秀な設備。
「日本って、
失敗したから
遅れたんじゃないんだな」
「何の話?」
「石油化学。
優秀すぎたんだよ」
日本のコンビナートは、
長いことよう稼いだ。
よう回った。
よう出来とった。
じゃけえ誰も、
それを大きく捨てる
決心をせんかった。
その間に世界の方が
原料もコストもルールも
変えていく。
ひろしは言うた。
「これ、
昔の日本車と
EVの話に似とる」
「車も、
まだ今ので稼げる、
まだ早い、
そのうち
世界のルールが変わる、
ってやつ?」
「そう。
石化も同じで、
まだ今の設備で回る、
まだ儲かる、
そのうちに
海峡リスクや原料転換で
後手に回る」
ノートに、
ひろしはまた太字で書いた。
✲成功体験の化石
古いから弱いんやない。
成功しすぎて、
手放せんかったから遅れた。
平時の最適解が、
有事の最悪解に変わる。
✲それは企業だけやない。
国家にも起こる。
■第八章
百七十円の麻酔
政府はガソリン価格を
百七十円前後に
抑えようとしとる。
見た目は安心じゃ。
まだ何とかなるように見える。
でもひろしは言うた。
「これ、麻酔だな」
「麻酔?」
「うん。
補助金で痛みを鈍らせとる」
元売り。
輸入。
代替調達。
高い玉でも確保。
止めんこと最優先。
「平時なら高すぎて
見送る仕入れでも、
補助があると
確保を優先しやすい」
「見た目だけ安い?」
✲「うん。
百七十円って数字は、
安心の値札に見える。
でも裏で国が
高い仕入れを
吸っとるかもしれん」
さおりは
冷蔵庫を閉めて言うた。
「値札って、
正直じゃないね」
「国が関わると、
なおさらな」
✲百七十円の麻酔
それは、
生活者には救いで、
同時に現実を見えにくくする
布でもあった。
■第九章
見えない転売ヤーの海
ひろしは
海運の記事を読み出した。
日本の中東依存は約95%。
製油所稼働率は67.8%。
VLCC運賃は日額17万ドル超。
✲「海の上に転売ヤーがおる」
さおりが眉をひそめた。
「転売ヤー?」
「うん。
たとえば危ない場所を
避けて、
比較的安全な海域で
玉が動く。
名義が変わる。
積み替える。
どこ産か、誰の玉か、
少しずつ見えにくくなる」
「メルカリみたいな?」
「もっとでかくて、
もっと汚い」
ひろしは言うた。
「日本は、
安く買う国じゃなくて、
高くても止まらん玉を
追いかける国に
なるかもしれん」
「そんなこと、
普通の人は知らんまま?」
「うん。
店頭では百七十円を見て
安心するから」
海は遠い。
遠いけど、
最後は値札になる。
それが今の時代の
怖さじゃった。
■第十章
海峡が料金所になる日
ホルムズが怖い。
紅海も怖い。
それだけやない。
✲今度はマラッカ海峡にも、
課金の話が出始めた
世界貿易の約四割、
年間五万隻超。
「海が、
道路になるんじゃなくて
高速料金所になるんだな」
海峡。
昔は地図帳の中の名前。
今は請求書の発生源。
「封鎖までいかんでも、
課金だけで文明は痩せる」
「通れるけど高い、
通れるけど遅い、
通れるけど保険が高い、
ってことよね」
「そう。
ほんまに怖いのは
“止まる”より、
“平時の値段と時間で届かない”
ことだ」
それは、
いちばん生活を壊す
変化かもしれんかった。
■第十一章
黄色い飛行機は、
国のものになりかけた
ある朝、ひろしは
アメリカの航空会社の
記事を読んどった。
燃料高。
支援。
ワラント。
政府融資。
最大九〇%近い持分。
「えげつないな……」
「なにが?」
「格安航空会社が、
ほぼ国のものに
なりかけとる」
「そんなことある?」
「ある。
戦争で燃料高になると、
最初に死ぬんは
ぜいたくな企業じゃない。
ぎりぎりの安さで
人を運んどる会社の方だ」
ひろしは妙に
冷たい笑いを浮かべた。
「自由競争の国も、
最後は弱い歯車から
国有化みたいなこと始める」
「共産主義みたいな?」
「いや。
もっと情けない。
理想でやるんじゃなくて、
止まると困るから
後から国がつかむだけ」
燃料。
物流。
航空。
株。
中央銀行。
海峡。
補助金。
全部が、
平時の所有構造から
少しずつ外れ始めとる。
■第十二章
ひろしだけが見えていた地図
ひろしは弱い。
それは事実じゃ。
人に強く出れん。
嫌味に鈍感なふりをして、
あとでひとりで壊れる。
すぐ
自分が悪いような気がする。
優しいから、
最後まで
相手の事情を考えてしまう。
けど、その代わりに
彼には一つ才能があった。
離れた点と点を、
一枚の地図にすること。
普通の人が
ニュースを
ニュースのまま消費する中で、
ひろしはそれをつないだ。
平均給与。
高齢化。
橋。
水道。
ナフサ。
海峡課金。
見えない海上転売。
燃料補助。
航空会社の半国有化。
日銀の赤字試算。
株市場の見ないふり。
全部、別の話に見える。
けどひろしには、
それが一つの図に見えた。
“安く、早く、止まらず届く”
を前提に作られた文明が、
少しずつ有料化し、
遅延化し、
老朽化していく図。
彼はノートに太字で書いた。
生き残る会社とは、
成長する会社やない。
まず、
文明が細っても
必要とされ続ける会社じゃ。
■第十三章
最後まで必要な会社
それからひろしは、
一社一社、会社を見た。
派手なAI企業でもない。
夢のEVでもない。
バズる半導体でもない。
彼が見つけたのは、
文明が痩せても必要な会社じゃった。
✲非常用電源。
✲下水・水処理。
✲補修・保守。
✲物流の最後の命綱。
「これから
伸びる会社いうより、
これから
“最後に必要になる会社”だな」
「具体的には?」
「発電機とか、
水とか、
下水とか、
インフラの腹を守る会社。
それと、
壊れたもんを直す側」
✲橋は、十年後に
48%が建設後五十年以上
✲高齢者は29.3%
✲企業の約三分の二が人手不足
「株で一発、
じゃなくていい。
社会がやせても
切られん場所。
その場所を持っとる会社は、
最後に強い」
さおりは少し笑って、
静かに言うた。
「わたし、その答え好き」
■第十四章
面接で初めて、
自分の言葉が出た日
ひろしは久しぶりに、
面接へ向かった。
業界は派手やない。
むしろ地味じゃ。
保守。
インフラ。
調整。
数字。
現場との橋渡し。
面接官が聞いた。
「あなたは前職で
かなりつらい経験を
されたようですが、
なぜうちなんですか」
ひろしは少し黙ったあと、
言うた。
「止まると困る場所に
関わりたいからです」
「止まると困る場所?」
「はい。
今の世の中、
みんな成長とか効率とか
夢のある言葉を言います。
でも、実際に人が生きるのは
止まらないことの上です。
水。
電気。
物流。
処理。
保守。
そこが細る時代に、
最後まで必要な側へ
行きたいと思いました」
その場で数字は言わんかった。
けど彼の頭の中には、
平均給与478万円と467万円、
政府債務1330兆円、
高齢化29.3%、
製油所67.8%稼働、
そういう現実が
一枚の地図として並んどった。
その瞬間、
ひろしは久しぶりに思うた。
ああ。
もしかしたら自分は、
壊れたんやなくて
時代に合う場所へ
ずれただけなんかもしれん。
■第十五章
まだ平和だと言う国で、
ひろしだけが
非常口を見つけた
その夜、
さおりとひろしは
練馬区のマンションの窓から
外を見とった。
遠くで電車の音。
コンビニの灯り。
救急車。
スマホの通知。
いつも通りの東京。
さおりが言うた。
「まだ平和に見えるね」
ひろしはうなずいた。
「うん。
でも、平和って
無料やないんだな」
「海も、
燃料も、
物流も、
中央銀行も、
全部ちょっとずつ
しんどそうだもんね」
「そう。
だから、
これからの強さって
派手さじゃない」
「何?」
ひろしは、
自分のノートを閉じた。
✲「最後まで
必要な場所に立つこと」
それは、
投資の話でもあり、
就職の話でもあり、
夫婦の暮らしの話でもあった。
日本はすぐには壊れん。
この国は、
まず静かに痩せる。
給料は増えず、
補助金で痛みをごまかし、
株は見ないふりで上がり、
海は料金所みたいになり、
昔の成功体験は
鉄の城みたいに
港のそばに立ち尽くす。
その中で、
ひろしはようやく
一つ分かった。
生き残る会社を
探しよったつもりが、
ほんまは
生き残る生き方
を探しよったんじゃと。
そしてその答えは、
案外地味じゃった。
✲人が嫌がる場所。
✲止まると困る場所。
✲誰も拍手せんけど、
なくなった瞬間に
みんなが困る場所。
そこへ立つ人間は、
株価がどうであれ、
流行がどうであれ、
最後までこの国に必要とされる。
窓の外では、
東京がまだ
何事もない顔で光っとった。
けどその光の下で、
ひろしだけはもう、
非常口の位置を見つけとった。
………
❥Z世代のあなたへ
――非常口は、
たいてい地味な場所にある
ここまで
読んでくれてありがとう。
この小説に出てきた話は、
少し重たかったと思う。
原油。
海峡。
日銀。
給料。
家賃。
補助金。
老朽インフラ。
半国有化。
見ないふりトレード。
「そんなの自分には
関係ない」
と思いたい気持ちも、
よう分かる。
けどな。
ほんまに
時代が変わる時いうんは、
歴史の教科書
みたいな顔をして
目の前へ来るんやない。
コンビニの値札。
家賃。
送料。
就職先。
親の年金。
水道代。
電車の本数。
そういう
生活の細い場所
から変わっていく。
この小説で
書きたかったのは、
「もう終わりじゃ」
いう絶望やない。
むしろ逆じゃ。
派手な夢が細る時代でも、
最後まで必要な場所は残る。
水。
電気。
物流。
保守。
翻訳。
介護。
修理。
地域。
誰かの不安を
一段やわらげる仕事。
そういう場所は、
バズらんかもしれん。
キラキラせんかもしれん。
けど、
人が生きるかぎり
必要であり続ける。
もし今、
将来がよう分からんのなら、
「いちばん儲かる場所」
より先に
「最後まで必要な場所」
を探してみてほしい。
時代が痩せても、
そこにはまだ
立つ意味が残るけえ。
そしてもう一つ。
見ないふりは、
たしかに楽じゃ。
けど、見ないふりした人より、
少し早めに
現実を見た人の方が
最後は落ち着いて動ける。
この小説のひろしは、
強い男やない。
優しすぎて、
会社で折れた男じゃ。
でも、
弱いままでも
見抜けることがある。
弱いままでも
生き残る道は探せる。
そこを、
わしは信じたい。
Z世代のあなたが、
この先
派手さよりも確かさを、
瞬間の熱狂よりも
長く役に立つものを
選べるようになったら、
この小説は
少し役に立ったことになる。
非常口は、
意外と地味な場所にある。
でも、
ほんまに大事なんは
だいたいそういう
地味な場所なんよ。
………
★おまけあとがき
ホームズとワトソンの、
やすきよ漫才風締め
✲ホームズ
どうもこんばんは。
練馬の家賃二十万円を
完全に“戦略要衝”として
読んでしもうた男、
ホームズです。
✲ワトソン
いやそれマンションや!
海峡でも油田でもないわ!
✲ホームズ
君は甘い。
二十万円の家賃を
毎月払ういうのはな、
もはや中東情勢の
延長なんだよ。
✲ワトソン
何でも中東につなげるな!
奥さんの翻訳代まで
ホルムズ通すな!
✲ホームズ
しかし見たまえ。
ガソリンは百七十円。
株は戻る。
海はまだ通る。
みんな笑ってる。
この“まだ大丈夫感”こそが
危ない。
✲ワトソン
お前、
読者を不安にさせる天才やな。
明日、
納豆買い占める人出るぞ。
✲ホームズ
納豆は
豆でできているように見えて、
実は
容器と物流と石油の都合で
できている。
✲ワトソン
そこだけ
妙に名言みたいに言うな!
✲ホームズ
だが一番の名言はこれだ。
「日本はすぐには壊れない。
まず痩せる」
✲ワトソン
痛いなあ、それ。
ドカンと死ぬんやなく、
じわじわ締まっていくんが
一番つらい。
✲ホームズ
そう。
しかも本人だけが
“最近ちょっと
引き締まってきたかな”
ぐらいに思っている。
✲ワトソン
それ
ダイエット番組やないんよ。
国家の衰弱なんよ。
✲ホームズ
そして、そんな時代に
最後に残るのは何か。
✲ワトソン
AIか? 半導体か? 量子か?
✲ホームズ
トイレだ。
✲ワトソン
急にリアルすぎるわ!
✲ホームズ
下水だ。
水だ。
発電機だ。
保守だ。
補修だ。
人が嫌がるが、
止まると全員困る場所だ。
✲ワトソン
つまりこの小説、
最終的に夢の話やのうて
うん●と電気の話へ
帰ってきたんか。
✲ホームズ
文明とは、
そういうものだよ。
✲ワトソン
妙に深いのやめえ!
笑うところか
泣くところか分からん!
✲ホームズ
どちらでもいい。
笑ったあと、
少しだけ生活の見方が
変われば。
✲ワトソン
そして読者の皆さん。
もし今、
「景気悪いな」
「給料増えんな」
「なんか最近しんどいな」
と思っとるなら、
それは気のせいやないかも
しれません。
✲ホームズ
壊れる前に、まず痩せる。
その途中で、
どこに立つかを決めることだ。
✲ワトソン
派手な場所やのうてもええ。
最後まで必要な場所を
見つけてください。
✲ホームズ
非常口は、
意外と地味なところにある。
✲ワトソン
ほなまた次の章で。
今度はもうちょっと
景気のええ話も
したいけどな!
✲ホームズ
その場合は、
まず原油と金利と
日銀に謝ってもらおう。
✲ワトソン
無理や!
ほな終わり!




