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『昭和が残した令和への督促状』 ――水があふれた街、水が消えた街。 日本の地下で、五十年目の時計が鳴った。――

✦『昭和が残した令和への督促状』


――水があふれた街、

  水が消えた街。

  日本の地下で、

  五十年目の時計が鳴った。――


………


「おじいちゃん。


 水が出ないのに、


 なんで水道代は上がるの?」


高校一年生のゆづきの問いに、


三十八年間、


証券会社で数字を見てきた僕は、


答えられなかった。


二〇二六年。


千葉では、


水があふれた。


熊本では、


蛇口から水が消えた。


その夏、


六十七歳の僕は、


初めて気づいた。


日本の安全にも、


寿命がある。


………


★目次


一 水が多すぎた街、

  水が届かなかった街


二 地下にも年齢がある


三 人は減った。

  地下は減らなかった


四 安全に値札が付く


五 九年だけ線を延ばした


六 まだ壊れていない日本


❥Z世代のあなたへ


★あとがき

 ホームズとワトソン

 『督促状を次へ回すな』


………


一 水が多すぎた街、

  水が届かなかった街


二〇二六年八月。


六十七歳の僕は、

千葉の道路が水に沈んでいく

ニュースを見ながら、

スマホを開いた。


日本ヒューム。


証券コード、五二六二。


「また株?」


高校一年生の孫、


ゆづきが

僕のスマホをのぞき込んだ。


「またとは何じゃ。」


「災害のニュース見ながら


 株を見る人、


 あんまりいないと思う。」


僕は三十八年間、


証券会社で働いた。


ニュースを見ると、


どうしても頭の中で


関連企業を探してしまう。


地震。


豪雨。


道路陥没。


耐震。


復旧。


国土強靱化。


職業病みたいなものだった。


「日本ヒュームいうのはな、


 下水道なんかに使う


 コンクリート製品を


 造っとる会社じゃ。」


ゆづきはテレビを見た。


茶色い水が、


道路を流れていた。


車が止まっていた。


人が、


水の中を歩いていた。


「雨が降ったら、


 儲かるの?」


僕の指が止まった。


「いや……。」


「じゃあ、


 誰かが困ったら上がる株?」


僕は、


答えられなかった。


………


千葉では、


短い時間に、


猛烈な雨が降った。


一時間に、


百ミリを超えるような雨。


半日ほどで、


八月一か月分を大きく上回る量の雨が、


街へ落ちた。


道路が冠水した。


アンダーパスに、


水がたまった。


排水が、


追いつかなかった。


ゆづきが聞いた。


「下水道が壊れたの?」


「そうとは限らん。」


「じゃあ、


 なんで水がたまるの?」


「流せる量より、


 降る量の方が多かったら、


 間に合わん。」


ゆづきは、


少し考えた。


「ちゃんと動いてるのに、


 負けたの?」


その言葉が、


妙に残った。


ちゃんと動いている。


でも、


負ける。


設備が故障したとは限らない。


ポンプも、


動いていたかもしれない。


管も、


つながっていたかもしれない。


ただ、


街を造ったころに想定した雨より、


雨の方が、


変わってしまった。


壊れたのは、


下水道ではないのかもしれない。


「普通の雨」


という、


昔の物差しの方なのかもしれなかった。


………


その少し前。


七月二十八日。


熊本で、


最大震度七の地震が起きていた。


道路が裂けた。


線路が曲がった。


そして、


多くの家から、


水が消えた。


ゆづきが言った。


「熊本って、


 水がいっぱいあるんでしょ?」


「ある。」


「地下水、有名じゃん。」


「そうじゃ。」


「じゃあ、


 なんで断水するの?」


僕は答えた。


「水がないんじゃない。」


「じゃあ何?」


「届けられんのじゃ。」


ゆづきは、


黙った。


僕は、


もう一つの数字を見ていた。


被害の大きかった地域の一つでは、


病院などの重要施設につながる


水道管の耐震化率が、


わずか四%ほどだった。


全国でも、


三割ほど。


「四%?」


ゆづきが聞いた。


「そうらしい。」


「じゃあ……。」


ゆづきは、


少し迷ってから言った。


「地震が来る前から、


 弱いって分かってたの?」


僕は、


また答えられなかった。


千葉では、


水が多すぎて、


逃がせなかった。


熊本では、


水はあるのに、


届けられなかった。


正反対のニュースだった。


でも二つとも、


最後には、


同じ場所へ行き着いた。


道路の下。


僕らが毎日、


その上を歩きながら、


ほとんど意識したことのない場所だった。


ゆづきが聞いた。


「その地下って、


 あと何年もつの?」


僕には、


その答えもなかった。


………


二 地下にも年齢がある


僕は、


数字を調べ始めた。


日本の下水道管路は、


全国で、


およそ五十万キロ。


一本につなげれば、


地球を十二周以上できる。


「十二周?」


ゆづきが言った。


「そんなに?」


「そうらしい。」


「じゃあ、


 全部点検するの?」


僕は、


黙った。


考えたこともなかった。


その中には、


造られてから五十年以上たった管が、


すでに何万キロもある。


そして、


これから急速に増えていく。


昭和から平成初期にかけて、


猛烈な勢いで造ったものが、


ほぼ同じ時期に、


年を取っていく。


水道管。


下水管。


道路。


橋。


トンネル。


ポンプ。


浄水場。


下水処理場。


日本の地下にも、


年齢があった。


僕は、


自分の手を見た。


六十七歳。


「わしと一緒じゃな。」


「何が?」


「日本のインフラ。」


ゆづきが笑った。


「おじいちゃんも交換する?」


「できるんなら、


 頭から頼む。」


「そこが一番古いの?」


「ほっとけ。」


二人で笑った。


でも、


数字は笑っていなかった。


………


僕ら昭和の世代は、


道路を造った。


橋を架けた。


水道を引いた。


下水道を整備した。


学校を建てた。


鉄道を延ばした。


それによって、


日本は豊かになった。


僕は、


それを誇っていいと思っている。


問題は、


造ったことではなかった。


使ったことでもなかった。


それが、


ずっと使えるような気に


なってしまったことだった。


………


数日前、


同年代の友人たちと話した。


旅行。


温泉。


ゴルフ。


株。


年金。


健康。


孫。


みんな、


一生懸命働いてきた。


だから、


余暇を楽しむのは、


悪いことではない。


その中の一人が、


笑って言った。


「わしらは、


 もう一丁上がりじゃ。」


僕も笑った。


その時は。


でも、


地下の数字を見れば見るほど、


その言葉が、


少しずつ重くなった。


僕らが、


一丁上がりになっても、


水道管は、


まだ仕事を続けている。


橋も。


道路も。


ポンプも。


では、


その治療費を、


誰が払うのだろう。


………


三 人は減った。地下は減らなかった


「でもさ。」


ゆづきが言った。


「人が減ったら、


 水道も楽になるんじゃないの?」


「どうして?」


「使う水が減るじゃん。」


なるほどと思った。


僕は、


地図を広げた。


人口十万人のために造った、


百キロの水道管。


三十年後。


人口は六万人。


では、


百キロの管は、


六十キロになるのか。


ならない。


「人は減った。」


「うん。」


僕は、


道路の下を指した。


「でも、


 地下は減らん。」


ゆづきは、


黙った。


………


人が減る。


水道料金を払う人が減る。


税金を払う人も減る。


自治体職員も減る。


工事をする人も減る。


でも、


直す管は減らない。


むしろ、


古くなる。


しかも、


地震は待ってくれない。


豪雨も、


待ってくれない。


僕はそこで初めて、


人口減少という言葉を、


出生数ではなく、


蛇口から考え始めた。


………


ゆづきが聞いた。


「じゃあさ。」


「何じゃ。」


「土地は安くなるのに、


 住むのは高くなるってこと?」


僕は、


その言葉をメモした。


土地は安い。


でも、


水道料金が高い。


電気も高い。


保険も高い。


車が必要。


病院が遠い。


道路や橋を維持する金もいる。


「そんな土地、


 誰が買うの?」


「安いから買う人もおる。」


「でも、


 水道代も保険も高いんでしょ?」


「そうじゃ。」


「じゃあ、


 安いって何?」


僕は、


答えられなかった。


安い土地と、


安く暮らせる土地は、


同じではなかった。


………


僕は、


また株価を開いた。


日本ヒューム。


月島ホールディングス。


水処理。


耐震。


雨水貯留。


官民連携。


三十八年間の癖は、


そう簡単には消えない。


《災害関連株》


《復興関連株》


《国土強靱化関連株》


株価は、


災害のニュースで上がることがある。


でも、


会社の利益が、


一晩で倍になったわけではない。


翌日になれば、


市場はまた数字を見始める。


僕は思った。


市場は、


災害を買う。


そして翌日には、


冷静に値段を付け直す。


市場は、


人間の不安ほど、


甘くない。


昔なら、


そこで終わっていた。


でも今は、


ゆづきの声が残った。


――誰かが困ったら上がる株?


災害を待つ会社と、


災害を直す会社は、


同じではない。


壊れた道路を直す会社には、


利益が必要だ。


水道を守る技術者にも、


給料がいる。


会社が残らなければ、


次の災害を直す人もいなくなる。


それでも。


災害のたびに、


インフラ関連株が買われる社会が、


本当に強い国なのだろうか。


それとも、


市場が人間より先に、


未来の不足へ、


値段を付けているだけなのだろうか。


………


四 安全に値札が付く


海外のニュースも、


妙につながって見え始めた。


タイ。


海には、


ジュゴンがいた。


ところが、


食べる海草が減っていた。


海はある。


でも、


食べるものがない。


一人の市民が、


ドローンを飛ばしながら、


今日も海を見続けていた。


………


スイスでは、


山の岩盤の奥深くに、


超富裕層向けの


巨大金庫が造られていた。


世界が不安になるほど、


安全そのものが商品になる。


ゆづきが聞いた。


「人は、


 どこに入るの?」


僕は、


答えられなかった。


………


そして、


インド。


道路に、


大きな穴が開いていた。


長い間、


大人たちは、


文句を言いながら通っていた。


ところが、


子どもたちは違った。


本物のマイクなんて持っていない。


空のペットボトル。


それを、


マイクにした。


スマホを向けた。


「ここを直してください。」


自分たちの言葉で、


困っていることを話した。


行政が動いた。


道路は修理された。


そのあと、


子どもたちは、


道路の横に木を植えようとした。


「たいした子らじゃな。」


僕が言うと、


ゆづきが僕を見た。


「おじいちゃんは?」


「何が?」


「ずっと日本の水道とか道路とか


 調べてるじゃん。」


「まあな。」


「誰かに言ったの?」


僕は、


黙った。


「株は買うかどうか考えたのに?」


また、


黙った。


十歳そこそこの子どもが、


これから自分が使う道路について、


大人へ質問していた。


六十七歳の僕は、


自分が五十年以上使ってきた


道路や水道を、


「これからは若い人が考えればいい」


と思いかけていた。


その夜。


――わしらは、もう一丁上がりじゃ。


友人の言葉を思い出した。


急に、


笑えなくなった。


………


暑い午後。


ゆづきと、


アイスクリームを食べた。


テレビでは、


アイスに空気を含ませる話をしていた。


ゆづきが笑った。


「空気にも、


 お金払ってるんだね。」


僕も笑った。


「昔はな、


 水と空気はタダじゃいう言葉が


 あったんじゃ。」


「水、


 タダじゃないじゃん。」


「そうなんよ。」


正確には、


昔からタダではなかった。


水をきれいにする人がいた。


管を直す人がいた。


夜中にポンプを見る人がいた。


道路を補修する人がいた。


僕らが、


その人たちを見なくなっただけだった。


水。


空気。


食べ物。


土地。


道路。


安全。


安心。


昔は、


値札が見えなかった。


今は、


少しずつ、


見えるようになってきた。


………


五 九年だけ線を延ばした


二〇三五年。


これは、


予言ではない。


二〇二六年に見えていた数字から、


九年だけ、


線を延ばしてみた日本だ。


コンビニはある。


新幹線も走っている。


株式市場も開いている。


スマホも使える。


東京では、


高層ビルも建っている。


日本は、


崩壊していない。


ただ。


ある朝、


二十五歳になったゆづきが、


一枚の紙を持ってきた。


「おじいちゃん。」


「なんじゃ。」


「また水道代、上がるって。」


僕は、


通知を受け取った。


「人が減ったからじゃろうな。」


「人が減ったのに?」


ゆづきは、


九年前と同じ顔をした。


僕は言った。


「人は減った。」


少し間を置いた。


「でも、


 地下は減らん。」


九年前に僕が言った言葉を、


今度は二十五歳になったゆづきが、


聞いていた。


………


別の町では、


古い管を全部更新することを諦めた。


ある学校では、


給食センターの統合で配送距離が伸びた。


ある地方では、


土地は安かった。


でも、


水道。


保険。


電気。


自動車。


医療。


維持費。


全部を合わせると、


若い家族には、


決して安い町ではなかった。


………


ゆづきが、


僕のメモを見て言った。


「これ、


 本当に起きるの?」


「分からん。」


「分からないのに書くの?」


「予言じゃないからな。」


「じゃあ何?」


「今ある数字を、


 そのまま九年だけ先へ


 伸ばしただけじゃ。」


「外れるかもしれない?」


「もちろん。」


「じゃあ、


 外れてほしい?」


僕は、


すぐに答えた。


「外れてほしい。」


ゆづきは、


少しだけ笑った。


僕も笑った。


でも、


メモは消さなかった。


………


不動産広告には、


昔は見なかった言葉が


並んでいた。


《浸水リスク低》


《耐震水道区域》


《非常時給水対応》


安全が、


住宅設備の一つになっていた。


ゆづきが、


広告を見ながら言った。


「昔は、


 駅から何分とかだったんでしょ?」


「そうじゃ。」


「これからは、


 水が出るかどうか?」


「そこまで行くかは分からん。」


「でも、ありそう。」


僕も、


そう思った。


………


人口の多い都市では、


巨大な雨水貯留施設が造られる。


大きな金をかけて、


街を守る。


一方、


人口の少ない町では、


「この先二十キロの水道管を、


 誰のために更新するのか」


という話し合いが始まる。


全部を守ることはできない。


全部を直す金もない。


全部を諦めることもできない。


何を残すのか。


何を直すのか。


何を諦めるのか。


誰が払うのか。


誰が決めるのか。


僕は、


未来を予言したわけではない。


今日の数字から、


九年分だけ、


線を延ばした。


その先にあった日本を、


僕は、


あまり見たくなかった。


でも。


見ないふりをすることと、


存在しないことは、


同じではなかった。


………


六 まだ壊れていない日本


ゆづきが、


空になったペットボトルを、


テーブルから取った。


口元へ持っていった。


「こちら、令和です。」


僕は笑った。


「何の真似じゃ。」


「インドの子の真似。」


「何を中継するんじゃ。」


ゆづきは、


窓の外を見た。


道路。


電柱。


家。


マンホール。


いつもの町だった。


そして言った。


「まだ壊れていない日本。」


僕は、


「壊れてないなら、


 ええじゃないか」


と言いかけた。


でも、


言えなかった。


千葉も、


あの雨が降る前までは、


普通の街だった。


熊本の蛇口も、


地震の前日までは、


普通に水が出ていた。


………


ゆづきが聞いた。


「ねえ、おじいちゃん。」


「なんじゃ。」


「いつ直すの?」


「何を?」


「古くなってるもの。」


僕は答えなかった。


「壊れる前?」


「……。」


「壊れたあと?」


僕には、


分からなかった。


全部を、


壊れる前に直す金はない。


全部を、


壊れてから直していたら遅い。


ゆづきは、


ペットボトルを、


僕へ差し出した。


「はい。」


「何じゃ。」


「昭和代表。」


「勝手に代表にするな。」


「どうぞ。」


僕は、


手を伸ばした。


でも、


指先がペットボトルに


触れる直前で、


止まった。


たかが、


空のペットボトルだった。


軽い。


中には、


何も入っていない。


なのに、


五十年分の重さがあるように見えた。


「重い?」


ゆづきが聞いた。


「軽い。」


「じゃあ、


 持てば?」


僕は、


答えなかった。


………


昭和は、


日本を造った。


道路を造った。


橋を架けた。


水道を引いた。


下水道を造った。


学校を造った。


それは、


誇っていい。


でも。


造ったものには、


寿命がある。


僕らが間違えたとすれば、


造ったことではない。


使ったことでもない。


それが、


永遠に使えるような気になって、


直す話を、


少しずつ、


次の世代へ送ってきたことなのかもしれない。


テーブルの上には、


空のペットボトル。


インドでは、


十歳そこそこの子どもが、


それをマイクにした。


日本では、


六十七歳の僕が、


まだ、


手に取れずにいた。


………


二〇二六年。


日本は、


まだ壊れていない。


蛇口をひねれば、


水が出る。


道路を走れば、


家へ帰れる。


雨がやめば、


街はまた動き始める。


だから、


気づきにくい。


督促状は、


赤い封筒では届かない。


ある日は、


道路の穴として。


ある日は、


蛇口から出ない水として。


ある日は、


逃がせない雨として。


少しずつ、


届く。


そして僕らは、


まだ、


封を切っていない。


………


❥Z世代のあなたへ


これは、


二〇三五年の予言ではありません。


二〇二六年に、


すでに見えているものを、


少し先まで伸ばしてみただけです。


僕ら昭和の世代は、


道路も、


水道も、


橋も、


学校も、


当たり前のように使ってきました。


六十七歳になった僕は、


ときどき、


「あとは若い人に」


と言いたくなります。


でも。


インドでは、


まだ選挙権もない子どもたちが、


空のペットボトルをマイクにして、


自分たちが使う道路について、


大人へ問いかけていました。


Z世代のあなたに、


「全部直してください」


と言うつもりはありません。


僕にも、


答えはありません。


だから、


せめて、


一緒に考えるところまでは、


僕らの世代の仕事なのではないか。


今は、


そう思っています。


………


★あとがき


ホームズとワトソン


『督促状を次へ回すな』


ホームズ

「ワトソン君。」


ワトソン

「なんや。」


ホームズ

「昭和から督促状が届いた。」


ワトソン

「何の督促状や。」


ホームズ

「水道管。」


ワトソン

「どうやって郵便受けに入れるねん。」


ホームズ

「五十万キロある。」


ワトソン

「郵便受けどころか、日本が埋まるわ!」


………


ホームズ

「日本の下水道管を全部つなぐと、

 地球を十二周以上できる。」


ワトソン

「すごいな。」


ホームズ

「そこで観光資源にする。」


ワトソン

「嫌な予感するな。」


ホームズ

「世界一長い

 地下ウォータースライダー。」


ワトソン

「下水や!」


ホームズ

「途中下車できます。」


ワトソン

「マンホールから出すな!」


………


ホームズ

「人口が半分になったら、

 百キロの水道管は何キロになる?」


ワトソン

「五十キロ。」


ホームズ

「百キロだ。」


ワトソン

「なんでや。」


ホームズ

「人は減っても、地下は減らない。」


ワトソン

「今日はえらい賢いな。」


ホームズ

「AIに聞いた。」


ワトソン

「お前の頭ちゃうんか!」


………


ホームズ

「昔、水と空気はタダだった。」


ワトソン

「そう言うたな。」


ホームズ

「だから昭和の空気を売る。」


ワトソン

「何が入っとる。」


ホームズ

「懐かしさ。」


ワトソン

「ちょっと欲しいな。」


ホームズ

「一缶五千円。」


ワトソン

「値札つけるな!」


………


ホームズ

「わしらは、もう一丁上がりや。」


ワトソン

「旅行して、

 温泉入って、のんびりしたらええ。」


ホームズ

「そう思っていた。」


ワトソン

「過去形か。」


ホームズ

「インドの子どもが、

 ペットボトルをマイクにして、

 道路を直してくれと

 言っとった。」


ワトソン

「うん。」


ホームズ

「わしは六十七年間、

 道路を使った。」


ワトソン

「うん。」


ホームズ

「水道も使った。」


ワトソン

「うん。」


ホームズ

「橋も使った。」


ワトソン

「うん。」


ホームズ

「そして、

 あとは若い人にと

 言おうとしていた。」


ワトソン

「……。」


ホームズ

「十歳の子どもより先に、

 引退してしもうた。」


ワトソン

「それは、ちょっと早かったな。」


………


ホームズ

「そこで私も、マイクを用意した。」


ワトソン

「ペットボトルか。」


ホームズ

「瓶ビール。」


ワトソン

「飲みたいだけやろ!」


ホームズ

「中身を空にしないと、

 マイクにならない。」


ワトソン

「理屈つけて飲むな!」


ホームズ

「インフラ問題は長いから、

 三本ほど。」


ワトソン

「肝臓が先に老朽化するわ!」


………


ホームズ

「最後の問題だ。」


ワトソン

「なんや。」


ホームズ

「古くなった日本を、いつ直す?」


ワトソン

「壊れる前。」


ホームズ

「金が足りない。」


ワトソン

「壊れてから。」


ホームズ

「それでは遅い。」


ワトソン

「……難しいな。」


ホームズ

「そうなんだ。」


ワトソン

「答えは?」


ホームズ

「ない。」


ワトソン

「ないんかい!」


ホームズ

「だから、この小説を書いた。」


ワトソン

「読者に丸投げするな!」


ホームズ

「丸投げではない。」


ワトソン

「ほな何や。」


ホームズ

「督促状だ。」


ワトソン

「誰宛てや。」


ホームズ

「わしら宛て。」


ワトソン

「Z世代やないんか。」


ホームズ

「その前に、


 わしらが封を開けんとな。」


ワトソン

「……せやな。」


………


ホームズ

「ところで、

 本物の水道料金の督促状も

 来ている。」


ワトソン

「お前のか!」


ホームズ

「先月分。」


ワトソン

「昭和の責任にするな!」


ホームズ

「これも次世代へ――」


ワトソン

「回すなーーーっ!」


              ――完――

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