資源がある国ほど、先に止まる ――ホルムズ海峡封鎖と、逆コスパ・ショックの春――
✦資源がある国ほど、先に止まる
――ホルムズ海峡封鎖と、
逆コスパ・ショックの春――
………
海峡が閉じると、
石油が止まると思うとった。
けど、ほんまに先に
止まり始めたんは、
袋であり、
バーコードであり、
タクシーであり、
そしてZ世代のスマホ画面に映る
「無言のタイムライン」
じゃった。
………
★目次
■第一章 資源がない国、資源がある国
■第二章 袋が先に死ぬ国
■第三章 人参にバーコードは貼れない
■第四章 団子一本三百五十円の国
■第五章 タクシーが贅沢品になる日
■第六章 まだ大丈夫と言い続ける国
■第七章 黙り始めたイギリス
■第八章 逆コスパ・ショック
★あとがき
ホームズとワトソンの逆コスパ漫才
………
■第一章
資源がない国、資源がある国
Z世代の君ら、
教科書で習った
「資源大国オーストラリア」と
「資源貧困国日本」の話、
覚えとるか?
2026年3月、
ホルムズ海峡が
実質封鎖されてから、
全部ひっくり返った。
日本は地面の下から
石油なんかようけ出てこん。
けど経産省が
2026年3月に公表した数字は、
官民合わせて254日分の石油備蓄。
さらにIEAの協調放出で
日本分79.8百万バレル
(約45日分)を担う。
数字だけ見たら
「まだ大丈夫」顔。
一方、オーストラリア。
掘る力はある、
輸出する力もある。
資源国の看板を背負っとる。
なのに国内の
ガソリン在庫は39日分、
軽油・ジェット燃料は
30日前後。
政府は冬のガス不足を恐れて
輸出事業者に
「30日以内に国内供給案出せ」
と通達、
輸出規制まで視野に入れた。
ここで話が180度変わる。
日本は
「資源がない国」じゃなかった。
「資源を回す段取りを持っとる国」
じゃった。
オーストラリアは
「資源がある国」じゃなかった。
「掘れても、町まで安心して
使える形にできん国」じゃった。
長所が短所に、短所が長所に。
この春、世界はそんな
行ったり来たりの顔を
し始めたんじゃ。
■第二章 袋が先に死ぬ国
石油いうたら
ガソリンスタンドの看板を
思い浮かべるやろ?
けど暮らしは、
石油がそのまま台所に
流れてくるわけやない。
✲ナフサ→樹脂→フィルム
→ラベル→包装→袋
ようやく「中身」が届く。
つまり先に死ぬんは
中身じゃのうて、
外側なんじゃ。
2026年4月3日、
東洋紡が公式発表した。
中東情勢長期化で
主原料・製造コストが急騰。
包装用フィルム製品8種類で
供給影響・納期遅延・
数量制限の可能性を公表。
値上げ幅は
・PETフィルム
700円/連(12μm換算)
・ONYフィルム
1,000円/連(15μm換算)
・熱収縮ポリエステルフィルム
1,500円/連(30μm換算)
「企業努力のみでは吸収困難」
とまで書いとる。
スーパーの棚で、
野菜が急になくなるんじゃない。
お菓子が消えるんじゃない。
まず
「包めん」「貼れん」「印刷できん」
から崩れる。
Z世代がTikTokでやってた
「無包装エコチャレンジ」、
あれが皮肉にも
現実になってしもうた。
✲袋が足らん→梱包遅延→配送アプリ
の遅れ表示が赤くなる。
一つのフィルム不足が、
君の「明日届く予定」の注文を、
来週に先送りする。
文明の皮膚が、
荒れ始めたんじゃ。
■第三章
人参にバーコードは貼れない
スーパーで人参が並んどる風景は、
まだ平和に見える。
けどあれは奇跡じゃ。
畑から掘ってきただけでは
棚に並ばん。
数をそろえ、袋に入れ、ラベル貼り、
バーコード通し、在庫管理、
次の発注……
全部、現代物流の
「知恵の象徴」じゃった。
そのバーコードも、
袋もラベルも
「全部そろう」ことを
前提に回っとる。
部材が一つ欠けると、
急に不器用になる。
人参一本一本に
「わしは人参です」シールを
手貼りするわけにもいかん。
じゃがいもに
直接ピッと読める札を
付けるわけにもいかん。
効率化の長所が、
部材不足の前では
「身動き取れん硬直性」
に変わる。
これが
逆コスパ・ショックの、
いちばん分かりやすい顔。
✲速い・安い・正確・人手少なめ
――平時には褒め言葉。
でも歯車一つ欠けると、
「そんな仕組みにしすぎたこと」
そのものが弱点になる。
Z世代の君らが
Amazonでポチった
「明日着」が「来週着」に
変わる瞬間、
君は気づくんじゃ。
便利すぎた世界は、
脆すぎたんやと。
■第四章
団子一本三百五十円の国
戦争や海峡封鎖の話は、
まだ遠い。
けど
「みたらし団子一本350円」
いうたら、
たいていの心に刺さる。
2026年4月、食品・飲料
2,700品目超が値上げラッシュ。
エネルギー代、包装費、輸送費が
全部乗っとる。
浅草の老舗団子屋では、
みたらし団子一本が
250円→350円に
跳ね上がった店も出始めた。
たかが団子。
されど団子。
世界経済の教科書には載らん。
けど庶民の財布には、
いちばん正直に響く。
一本百円で買えたもんが
三百五十円になった時、
「これは
原油やガスの話なんじゃ」
と、
ようやく腹に落ちる。
大きな数字より、
小さい値札の方が、
生活には残酷じゃ。
Z世代の
「安い飯で耐える」生活が、
じわじわ削られていく。
団子が高いだけやない。
そこにエネルギー代、包装、
運び方、店の維持費、
ぜんぶが乗っとるんじゃ。
■第五章
タクシーが贅沢品になる日
✲昔はタクシー
=「ちょっと高いけど便利な足」。
酔った帰り、雨の日、
荷物多い時、終電逃した時。
今、静かに減り始めとる。
帝国データバンクによると、
2024年度だけでタクシー業の
✲休廃業・解散66件+倒産36件
=102件
(2000年度以降初の100件超)
2025年度も
過去最高ペースで続いとる。
原因は
ドライバー不足+燃料高による
利益圧迫。
車だけあれば
走るわけじゃない。
燃料、タイヤ、整備、保険、
無線、配車、事務、人の給料。
便利さは、
ようけのコストの上に乗っとる。
そのコストが全部重なったら、
便利さは「維持できん贅沢」になる。
Z世代の君らが
「Uber呼べばすぐ来る」
と思ってた世界が、
「30分待ち→1時間待ち
→呼んでも来ん」
へ変わる。
町は一気には壊れん。
じわじわ不便になる。
そのじわじわが、
いちばん堪えるんじゃ。
■第六章
まだ大丈夫と言い続ける国
国は言う。
「備蓄がある。大丈夫じゃ」。
たしかに254日分の石油はある。
燃料補助も
1リットルあたり49.8円で
抑えとる。
予備費使って
見た目の急騰は抑え込んどる。
けど
問題は言葉じゃない。
その言葉だけで現場の苦しさ
を言い表せるかどうか、
なんじゃ。
石油はある。
けど袋が来ん。
燃料は抑えとる。
けどフィルムが高い。
備蓄はある。
けどラベルや包装や
運び方の方が
先にきしんどる。
国が見とるんはマクロの量。
現場が困っとるんは
ミクロの手順。
このズレが、ほんまに怖い。
「まだ大丈夫」が、
現場の違和感を
飲み込む蓋になるとき、
国は立っとる顔をしながら、
中で少しずつ疲れていく。
■第七章 黙り始めたイギリス
ここで急に
イギリスの話が出てくる。
一見、
ホルムズ海峡とは関係なさそう。
けど、わしには全部つながっとる。
英国では、
成人ネット利用者の89%が
SNSを使う。
けど「投稿・共有・コメント」
する人は、
**2024年の61%から2026年には
49%**まで下がった
(Ofcom調査)。
みんな見る、読む、使う。
けど書かん、残さん、
消える投稿へ寄っていく。
ただの
SNS疲れで片付けられるか?
在庫を持つのが怖い。
長い契約を抱えるのが怖い。
価格表を約束するのが怖い。
投稿を残すのが怖い。
世界全体が、
痕跡を残すコストを
怖がり始めた。
物流も、企業も、人間の心も、
縮み始めた。
石油の海峡封鎖と、
ロンドンの沈黙。
どっちも
「最適化しすぎた世界が、
自分の重さを怖がり始めた」
一点でつながっとる。
Z世代の君らが
「ストーリーズ24時間で消える」
文化を好むようになったのも、
偶然なんかやない。
痕跡を残したくない時代が、
静かに来とるんじゃ。
■第八章 逆コスパ・ショック
ここまで来たら、
名前を付けよう。
わしはこの現象を
逆コスパ・ショックと呼ぶ。
安い方がええ。
早い方がええ。
在庫持たん方がええ。
人は少ない方がええ。
データは全部
つないどいた方がええ。
発信は多い方がええ。
答えは早い方がええ。
世界中がコスパを
神様みたいに拝んできた。
結果、どうなった?
オーストラリアは資源国なのに、
使える燃料の安心が薄い。
日本は資源がないのに、
流通と備蓄の装置が
強みになった
……けど装置が詰まると
一気に弱い。
包装は脇役じゃったのに、
今は主役級の不安要因。
タクシーは便利の象徴じゃったのに、
維持できんインフラに。
SNSは
自由の象徴じゃったのに、
痕跡が怖い場所に。
長所が短所に、
短所が長所に。
あっちが垂れたら
こっちが張る。
こっちの得意技が、
明日には一番の弱点になる。
ほんまのパニックは、
最初から大きい顔では来ん。
団子一本、じゃがいも一袋、
タクシー一台、投稿一つ。
小さい異変から、
だんだん大きゅうなる。
世界が壊れる時、
たいていそういうふうに
始まるんじゃ。
………
★あとがき
――ホームズとワトソンの
逆コスパ漫才――
✲ワトソン
いやあホームズ君、
今回も重たい話やったなあ。
資源国が弱うて、
資源のない国が強い顔。
袋が足らん、団子が三百五十円、
タクシーが消える、投稿は怖い。
もう何が正解か、
わしにもさっぱりやわ。
✲ホームズ
君は普段から
半分ぐらい分かっとらん。
✲ワトソン
半分も分かっとるなら
優秀やろが!
✲ホームズ
君の場合、
分かっとらん半分の声が
でかいんじゃ。
✲ワトソン
それは漫才の基本や。
しかし不思議やなあ。
昔は資源がある国が強い、
で済んどったのに。
✲ホームズ
昔は教科書が短かったんじゃ。
今は現実の方がひねくれとる。
資源があるだけでは足りん。
使えるかどうか、
町まで届くかどうか、
そこまで入れて
初めて“強い”んじゃ。
✲ワトソン
ほんなら日本も、
ちょっとは資源国なんですか?
✲ホームズ
地下にはあまりない。
けど段取りはある。
備蓄して、精製して、
包んで、貼って、運ぶ。
その“めんどくさいことを
黙って回す力”が、
今まで日本を生かしとったんじゃ。
✲ワトソン
なるほど。
日本の宝は石油じゃのうて、
段取り力やったわけですな。
けどその力も、
今はしんどいんでしょう?
袋がない、フィルムが高い、
バーコード前提で固まりすぎた。
便利にしすぎたツケや。
✲ホームズ
そうじゃ。
便利さいうんは
平時には拍手される。
けど有事には
「そんなに前提を増やしたこと」
そのものが弱点になる。
✲ワトソン
まるでわしの体みたいやな。
若い頃は食べ放題が
長所やったのに、
今は胃薬代が短所や。
✲ホームズ
君は自分の内臓で
世界経済を説明するな。
✲ワトソン
でも似とるやろ?
若い頃に便利じゃったもんが、
年取ったら全部コストになる。
社会も同じなんや。
✲ホームズ
うむ。
今回の話の核心はそこじゃ。
速い・安い・在庫持たん・
人減らす・投稿増やす・痕跡残す。
全部“ええこと”にしすぎた。
✲ワトソン
ほしたら今度は逆に、
持つのが怖い、残すのが怖い、
運ぶのが怖い、書くのが怖い。
そういう世界に
なってしもうたんやな。
英国で投稿が減っとるのも、
石油の話の続きに見える。
物流だけやない。
人間の心まで
慎重化し始めたんじゃ。
✲ワトソン
いやあ、怖いですなあ。
けどホームズ君、
読者さんは
どうしたらええんです?
怖がったらええんですか、
笑うたらええんですか。
✲ホームズ
両方じゃ。
✲ワトソン
え?
✲ホームズ
怖がるべき所は
ちゃんと怖がる。
小さい異変を見逃さん。
「まだ大丈夫」を
丸のみせん。
そこまでは真面目にやる。
✲ワトソン
ほいで?
✲ホームズ
その上で、最後は笑う。
笑えんようになったら、
それこそほんまに干上がる。
✲ワトソン
おお。
笑いは最後の備蓄ですな。
✲ホームズ
うまいこと言うたつもりか。
✲ワトソン
つもりです。
石油が切れたら困る。
けど笑いが切れても、
人は案外すぐ弱るけえ。
✲ホームズ
その通りじゃ。
悲劇の時代ほど、
笑いはぜいたく品じゃない。
生活必需品じゃ。
✲ワトソン
ほんなら読者の皆さん。
もしこの小説を読んで
「なんか怖いなあ」
と思うたら、
その感覚は大事にしてください。
✲ホームズ
けど、それだけで終わるな。
✲ワトソン
そうです。
団子が高いなあでも、
タクシー減ったなあでも、
袋が足らんなあでも、
「まあええか」
で流しすぎたら、
最後に困るんは自分ですけえ。
✲ホームズ
人の話も、ニュースも、
最後まで聞くんじゃ。
途中で答えだけ欲しがるな。
✲ワトソン
そこ急に人生訓になりますな。
✲ホームズ
君みたいなのが増えたから、
国まで二倍速で
沈みかけとるんじゃ。
✲ワトソン
わしだけの責任みたいに
言わんでくださいよ。
でもたしかに、
大事なもんほど、
たいていちょっと遅いですな。
✲ホームズ
うむ。小説もそうじゃ。
生活もそうじゃ。
人間関係もそうじゃ。
✲ワトソン
ほんなら最後に一つだけ。
Z世代の皆さん、
二倍速でここまで
スクロールした人は、
できたら一回、
心の中だけでも
一倍速に戻してください。
✲ホームズ
うまいこと言うたつもりか。
✲ワトソン
つもりです。
✲ホームズ
まあええ。
それでは皆さん――
✲ワトソン
次の異変が来る前に、
団子は味わうて食べて、
タクシーには感謝して乗って、
自転車の上で
スマホは見んようにして。
✲ホームズ
最後だけ急に
生活指導を入れるな。
✲ワトソン
そこ大事ですから。
✲二人
また次の逆転で、
お会いしましょう。
(幕)
………
Z世代の君らへ。
この春、君らの日常を
少しずつ変えていく小さな異変を、
笑いながら、
怖がりながら、
ちゃんと見ててくれ。
それが、
次の「段取り力」になるんじゃ。




