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戦争は通知で来る ――ホルムズで学ばれた封鎖は、台湾海峡で本番になるんか――

✦戦争は通知で来る


――ホルムズで学ばれた封鎖は、

台湾海峡で本番になるんか――


………


昔の戦争は、

ラジオや号外で始まった。


今の戦争は、

通知で始まる。


「配送遅延」

「価格改定」

「接続障害」

「節電要請」

「避難計画」


爆発音が聞こえる頃には、

暮らしの方が

先に崩れとるんじゃ。


………


★目次


■第一章 平和な顔をした

     ゴールデンウィーク

■第二章 ホルムズは 

     予習問題じゃった

■第三章 二・四五兆ドルの喉

■第四章 十二万人を逃がす国

■第五章 ガソリンはある、

     けど平和はない

■第六章 スマホが死ぬ前に

     心が死ぬ

■第七章 株価は明るい、

     町は暗い

■第八章 戦争は通知で来る


………


■第一章 平和な顔をした

     ゴールデンウィーク


その朝、

テレビはよう笑うとった。


ゴールデンウィークの海外旅行、

去年より増えとる、

いう特集じゃ。


空港。

スーツケース。

笑顔。

カップル。

家族連れ。


「円安ですけど

 思い切って行きます」


「久しぶりの海外で

 楽しみです」


よう言うわ、と思うた。


その同じ画面の端っこで、

ホルムズ海峡、

原油急騰、

中東緊張、

そんな文字が流れとった。


こっちは

海峡が閉じるかもしれん。

こっちは

旅行予約完了じゃ。


同じ朝。

同じ国。


同じスマホ画面の中で、

両方が並んどる。


わしはそこで、

なんとも言えん

気持ちになった。


わしゃ軍事の専門家じゃねえ。

ただの田舎のおじいちゃんじゃ。


けどな、

長いこと証券会社で、

相場と人間の顔つきを見てきた。


人間が何に安心し、

何を見んふりし、

どこで急に逃げ出すか。

それだけは、

少し見てきたつもりじゃ。


そういう勘で言うなら、

ほんまに危ねえ時いうんは、

みんながまだ

笑うとる時なんよ。


■第二章 ホルムズは

     予習問題じゃった


その日、FTの特集で、

わしの背中が

ひやっとする話をしよった。


ホルムズ海峡封鎖は、

ただの中東の話やねえ。


中国にとって、

台湾海峡封鎖の

予習問題になるかもしれん。

そういう話じゃった。


なるほどな、と思うた。


中国は、いきなり台湾へ

上陸せんでもええんよ。


ホルムズで見えたみたいに、

「ここは危ない海です」

「入ったら何が起きるか

 分かりません」

そう思わせるだけでええ。


船を全部沈める必要はねえ。

一隻沈めんでもええ。


脅す。

妨害するふりをする。

管理すると一方的に言う。

検査すると言う。


それだけでええ。


そしたら次に動くんは、

海軍やねえ。


保険会社じゃ。

船会社じゃ。

荷主じゃ。

銀行じゃ。

相場じゃ。


つまり戦争いうんは、

ミサイルの本数で始まるんやねえ。

リスク計算で始まるんじゃ。


「この海は割に合わん」


そう思う会社が増えた時点で、

その海峡はもう半分閉じとる。


ホルムズは終点やなかった。


あれは、

次の海峡をどう締めれば、

世界がどこまで黙るかいう

予習問題じゃったんかもしれん。


そう思うた瞬間、

わしはぞくっとした。


■第三章 二・四五兆ドルの喉


台湾海峡を通る貨物は、

約二・四五兆ドル。


世界の海上貿易の

二割超。

二割じゃ。

五分の一じゃ。


世界の船の五分の一が、

あの細い海のあたりの

空気次第で震えるいうことじゃ。


しかも日本は、

台湾海峡へ

輸入の三二%、

輸出の二五%、

金額にして

約四四四〇億ドルを頼っとる。


四四四〇億ドル。

これ、若い人には

よう分からんかもしれん。

けど分からんでええ。


要はな、

日本の暮らしのかなりの部分が、

あそこを通る船の上に

乗っかっとるいうことじゃ。


しかも台湾は、

ただの島やない。


半導体の島じゃ。


世界の半導体の約六割。

最先端チップに限れば約九割。


スマホ。

GPU。

サーバー。

自動車。

工場の機械。

AI。

ゲーム機。

医療機器。


石油が止まったら、しんどい。

それは誰でも分かる。


けど半導体が止まったら、

石油みたいに

「ほんなら代わりを探そうか」

で済まんのんよ。


最先端の半導体には、

代わりがない。


ここが、石油より怖い。

台湾の輸出の**七四%**が

ICTと電子部品。


つまり台湾は、島そのものが

世界の電子の心臓みたいな

もんなんじゃ。


その心臓を、中国が

低コストで、

じわじわ締めに来る。


それがいちばん怖い。


■第四章 十二万人を逃がす国


もっと現実的で、

もっと気味が悪い話がある。


日本政府は、

先島諸島の住民約十一万人と、

観光客約一万人、

合わせて約十二万人を、

六日ほどで九州七県と山口県へ

避難させる想定をしとる。


十二万人じゃ。


これ、

もう戦争映画の数字やない。

町の数字じゃ。


学校。

病院。

ホテル。

避難所。

バス。

フェリー。

トイレ。

薬。

ミルク。

弁当。

体育館。


そういう現実の数字じゃ。


十二万人いうたら、

小さい市ならまるごと一つ

動くようなもんじゃろう。 


しかも

六日でじゃ。

一日二万人ペースでも

足らんのんで。


これが計画されとる時点で、

わしは思うた。


戦争はまだ始まっとらん、

言う人もおるじゃろう。


けどな、避難計画が

具体的な数字で動き始めた時点で、

平和はもう終わりかけとる。


砲声の前に、行政文書が来る。

爆弾の前に、割り当て表が来る。


戦争いうんは、

まず紙の上で始まるんじゃ。


■第五章 ガソリンはある、

     けど平和はない


日本は今のところ、

見た目は静かじゃ。


ガソリン価格は、

政府が

八〇〇〇億円も予備費を入れて、

なんとか

一七〇円前後へ抑えようとしとる。


電力も、LNG不足に備えて、

石炭火力のルールを緩めて、

脅かされとる供給の

一割超相当を

節約しようとしとる。


つまり、見た目は普通でも、

中身はもう非常運転なんじゃ。


けど、世の中はまだ

よう笑うとる。


「次は何が上がるかね」

「株はまだ強いな」

「金が下がったけえ、

 今度はこっちか」 


そういう会話ばあしとる。

わしはそれを見て、

なんとも言えん気持ちになる。


ガソリンがまだあることと、

平和であることは違う。


補助金で抑えとるいうことは、

裏で国がお金を燃やしとる

いうことじゃ。 


石炭火力を無理やり

回しとるいうことは、

裏で未来を前借りしとる

いうことじゃ。


見た目は平和。

中身は戦時。


そのズレが、

ほんまに不気味なんよ。


■第六章 スマホが死ぬ前に

     心が死ぬ


若い人は戦争いうたら、

戦車とかミサイルとか

そういう絵を

思い浮かべるかもしれん。


じゃけど、今度の戦争は、

もっと静かに来る。


まず止まるんは、

たぶんスマホの値段じゃ。

PCの納期じゃ。

GPUの在庫じゃ。

配信の遅延じゃ。

就活サイトのサーバーじゃ。


あるいは、コンビニの棚の

まだら欠品かもしれん。

夜の店が少し暗いことかもしれん。

バイト先の節電かもしれん。

配送が一日二日

遅れることかもしれん。


戦争は、人を殺める前に、

当たり前を殺める。


いつでも届く。

いつでもつながる。

いつでも買える。

いつでも動く。

その前提を、先に殺める。


そして人間は、

その時になって初めて

「あれ、これ戦争なんか」

と気づくんじゃ。


サイレンの前に、不具合が来る。

砲声の前に、通知が来る。


「価格改定」

「配送遅延」

「一部サービス停止」

「現在つながりにくく

 なっています」


ほんで、その通知を見た時、

いちばん先になくなるんは、

平和ボケした心かもしれん。


■第七章 株価は明るい、

     町は暗い


相場いうもんは、なかなか死なん。

むしろ、こんな時でもよう上がる。


補助金期待。

防衛関連。

資源関連。

AI関連。

円安メリット。


いろんな理屈をつけて、金は動く。

それは分かる。

相場いうもんは、そういうもんじゃ。


けどな、わしが長いこと 

見てきて思うんは、

株価は最後まで

明るい顔をしようとする

いうことなんよ。


死にかけとるのに、よう笑う。

町の方が先に暗うなる。


営業時間。

配送便。

スーパーの棚。

工場の稼働。

電気の明るさ。

家計簿。

人の声。


そういうもんが、

先に静かに変わる。


相場はまだ笑う。

町はもう笑えん。


このズレが、ほんまに怖い。


インド中銀は、原油ショックで

通貨を守るために

二〇〇億ドル超も使うた。

ルピーは

**二・六%**下がった。


ファンドのBlue Owlでは、

五四億ドルの解約申請が来て、

ある車両では

**四〇・七%**が逃げたがったのに、

出せるのは

**五%**だけじゃった。


ええか。

戦争いうんはな、

弾の前に、

出口が細うなるんじゃ。 


これ、

ほんま怖いで。


■第八章 戦争は通知で来る


その晩、孫のゆづきが

スマホ見ながら言うた。


「おじいちゃん、

 また陰謀論みてえなこと

 考えよるんじゃろ」


わしは笑うた。


「そうかもしれん。わしゃ 

 ただの田舎の

 おじいちゃんじゃけんな」


孫も笑うた。

けどその笑いは、

昼までの笑いと少し違うかった。


昼間、

数字を見たんじゃろう。


二・四五兆ドル。

四四四〇億ドル。

十二万人。

六日。

六割。

九割。

それに、

ホルムズの話。

台湾海峡の話。

半導体の話。

ガソリン補助の話。


全部が、遠いようで、

全部がスマホの中へ入ってくる。


わしは窓の外を見た。


町はいつも通りじゃった。 

車も走りょる。

スーパーも開いとる。

灯りもついとる。


けど、もう分かる。

戦争いうんは、

こういう静けさの中へ

入ってくるんじゃ。


爆発音を立ててやのうて、

言い訳みてえな顔して、

通知音を鳴らしながら来る。


「配送遅延」

「価格改定」

「接続障害」

「節電にご協力ください」

「避難計画を発表しました」


そうやって、

暮らしの中へ入ってくる。


昔の戦争は、

空を見上げたら分かった。


今の戦争は、

画面を見てもすぐには分からん。


じゃけど、だからこそ怖い。

ホルムズは終点やなかった。


あれは、次の海峡を

どう締めれば

世界がどこまで黙るか、

その予習問題じゃったんかもしれん。


もしそうなら、

台湾海峡が本番になる。


そして日本は、戦場に立つ前に、

通知の中で戦争を知る国になる。


わしはそう思うた。

その時、ようやく分かったんじゃ。


戦争は、通知で来る。


★あとがき


ここまで読んでくれて、

ありがとう。 


この話は、

未来を断言したいわけやねえ。


わしも軍事の専門家やねえし、

ほんまのことは誰にも分からん。


けどな、数字の並びと、

ニュースの違和感と、

暮らしの小さい変化を見よったら、

どうにも落ち着かんのんじゃ。


昔は戦争いうたら、

遠い国の話じゃった。


けど今は違う。 

スマホ。

クラウド。

物流。

半導体。

燃料。

避難計画。

保険。

相場。

通知。 


全部つながっとる。


じゃけえ、

この小説で書きたかったんは、

「怖がれ」いうことやねえ。


気づいてほしいいうことじゃ。


爆発音が鳴る前に、

暮らしのどこが先に揺れるんか。


平和な顔をしたまま、

何が静かに変わり始めるんか。


そこに気づけたら、

この小説には意味があると思う。


信じるかどうかは、

読んだ人に任せる。


わしはただ、

田舎のおじいちゃんとして、


「ひょっとしたら、

もう始まっとるんじゃないか」


と、

ぽつっと言うただけじゃ。

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