「世界は二つのニュースでできている(笑)」 ――トランプ大統領は怪物か。それとも、家計の救世主か。同じ大統領令を見て、世界が180度ひっくり返った夜――
✦「世界は
二つのニュースでできている(笑)」
――トランプ大統領は怪物か。
それとも、家計の救世主か。
同じ大統領令を見て、
世界が180度ひっくり返った夜――
………
世界は、
二つに割れているんじゃない。
同じニュースを、
二つの値札で見ているだけだ。
片方には、
「人道」と書いてある。
もう片方には、
「家計」と書いてある。
そして、
どちらの値札にも、
誰かの命がぶら下がっている。
………
五年後。
ゆづきは二十一歳になっていた。
就職活動用のAIは、
今日も元気だった。
《あなたの強みは、
多角的な視点を持ち――》
「多角的って、
なに?」
ゆづきが聞いた。
祖父は、
古い新聞をたたんだ。
「同じ事件を見ても、
右から見るか、
左から見るかで、
犯人が変わることじゃ」
「怖い言い方やなあ」
「もっと怖いのはな。
自分は真ん中から
見とると思っとる人じゃ」
「おじいちゃん、
またニュースで
戦っとるん?」
「戦っとらん。
ニュースの裏側にある
もう一枚のニュースを
探しとるだけじゃ」
「それ、
陰謀論の入口じゃない?」
「違う違う。
陰謀論は、
証拠のない答えを
先に決めることじゃ。
わしが探しとるのは、
証拠のある別の質問じゃ」
ゆづきは、
スマホを伏せた。
「じゃあ今日は、
何の話?」
祖父は言った。
「アメリカじゃ。
民主党の画面で見れば、
とんでもない大統領。
共和党の画面で見れば、
生活費を下げる
革命家かもしれん大統領」
「またトランプ大統領?」
「またトランプ大統領じゃ。
だって、
世界の値札を
ひっくり返そうと
しとるからな」
………
★目次
■第1章
●人が18.1%減った国
■第2章
国境管理は、
巨大な物流になる
■第3章
海峡の小舟、3万9,271人
■第4章
熱波は、街の怒りを蒸し上げる
■第5章
ロンドンだけが英国ではない
■第6章
年28%のカード金利に、
10%のふた
■第7章
薬の値札は、命の値札
■第8章
17社の製薬会社と、
最恵国価格
■第9章
食料の値札を握る、
巨大企業
■第10章
家を買うのは家族か、
投資ファンドか
■第11章
AIは人を切るのか、
生活費を切るのか
■第12章
値上げしない代わりに、
中身を減らす企業
■第13章
コスパ型デフレという、
もう一つの未来
■第14章
人道と秩序が、
同じホテルの前でぶつかる
■第15章
二つのニュースを持つ人だけが、
未来を選べる
………
■第1章
●人が18.1%減った国
「おじいちゃん。
トランプ大統領って、
ほんまに治安を
良くしたん?」
祖父は、
二つの画面を出した。
左の画面には、
覆面の捜査官がいた。
右の画面には、
FBIの数字があった。
二〇二五年。
アメリカの暴力犯罪は、
前年より九・三%減。
●人は、
十八・一%減。
強盗は、
十八・五%減。
財産犯罪も、
十二・四%減。
「これは、
かなり大きい数字じゃ」
「でも、
トランプ大統領の前から
下がってたんでしょ?」
「そうじゃ。
二〇二四年にも、
暴力犯罪は四・五%下がっとる。
殺人も、
十四・九%下がっとる」
「じゃあ、
何が本当なの?」
祖父は言った。
「共和党の見方ではな。
犯罪が下がり始めたところへ、
国境管理、
送還、
拘束、
地下経済の取締りを
重ねた。
つまり、
下り坂を
もっと急にしたかもしれん、
という話じゃ」
「民主党の画面では?」
「犯罪は前から下がっていた。
なのに、
家族が引き裂かれる映像だけを
増やして、
自分の手柄にしとる、
になる」
ゆづきは、
しばらく黙った。
「同じ十八・一%が、
ヒーローにも
人狼にもなるんだ」
「そうじゃ。
数字は、
話せん。
だから人間が、
数字の代わりに
大声を出す」
………
■第2章
国境管理は、巨大な物流になる
祖父は、
アメリカ地図の上に
赤い矢印を引いた。
空港。
国境。
拘束施設。
裁判所。
そして、
帰国便。
「国境管理って、
壁を作る話だけじゃ
ないんだね」
「違う。
人を入れるのも、
出すのも、
巨大な物流じゃ」
ICEは二〇二六年、
逮捕、拘束、送還の数字を
以前より細かく公開する
ダッシュボードを始めた。
「送還は、
ニュースの一行じゃない。
飛行機の座席。
通訳。
書類。
受け入れ国との交渉。
裁判。
家族の連絡。
国は人を送るための
巨大な物流会社にもなる」
「でも、
子どもがいる人も?」
「送還命令が確定すれば、
家族がいるだけでは
残れんことがある」
「ひどい」
「そう思う人もおる。
だけど共和党の画面ではな。
違法滞在を放置したら、
偽造書類屋、
現金払いの雇用主、
過密住宅の大家、
人身売買屋が儲かる。
優しい顔をして、
一番悪い人間を
太らせることになる」
「じゃあ送還は、
人を追い出す話じゃなくて、
悪い商売を潰す話?」
「そこが共和党の理屈じゃ。
ただし、
送られる本人から見れば、
理屈より先に
帰りの飛行機が来る」
………
■第3章
海峡の小舟、3万9,271人
ゆづきは、
英国の地図を開いた。
ドーバー海峡は、
指で隠せそうなくらい細い。
「ここを、
ボートで渡るの?」
「渡る。
二〇二六年三月までの一年で、
英国へ小型ボートで来た人は、
三万九千二百七十一人」
「そんなに?」
「違法ルートで確認された
到着者は約四万四千人。
その九割が、
小舟じゃ」
「英国って島なのに?」
「島じゃからこそ、
国民は思うんじゃ。
海で囲まれとるのに、
なぜ止められんのか、と」
しかも、
二〇二二年のピークは、
四万五千七百七十四人。
その後も、
年間二万九千人から
四万六千人近い人が
小舟で来る時代が続いた。
小舟は、
ただの船ではない。
住宅不足。
病院待ち。
難民ホテル。
地方都市の学校。
その全部に貼られた、
怒りのラベルだった。
「民主党の画面では?」
「危ない海を渡らんと
生きられん人の話じゃ」
「共和党の画面では?」
「人身売買屋が、
一人何千ポンドも取って、
国境を商売にしとる話じゃ」
ゆづきは言った。
「どっちも本当っぽい」
「だから、
難しいんじゃ」
………
■第4章
熱波は、街の怒りを蒸し上げる
二〇二六年の夏。
ヨーロッパは、
先に壊れ始めた。
冷房のない古い建物。
電車の遅延。
混む病院。
乾いた畑。
英国へ入る
一年間の総到着者数は、
一億三千六百八十万人。
もちろん、
その五七%は
英国人自身の帰国や出国じゃ。
だが、
空港も鉄道も病院も住宅も、
「人の動き」が増えれば
混む。
「移民のせいじゃないよね」
ゆづきが言った。
「違う。
熱波は移民を作らん。
でも、
すでに足りない住宅、
水、
電気、
医療を、
もっと足りなくする」
祖父は、
コップの水を見た。
「人間も地球も同じじゃ。
口が乾いた時、
余裕がなくなる」
暑いホテルの一室で、
母親が子どもを扇いでいる。
ホテルの外では、
地元の老人が怒鳴っている。
「病院の予約も取れんのに、
なんでホテルだけ増えるんじゃ!」
どちらも、
悪人ではなかった。
ただ、
国の冷却装置が壊れていた。
………
■第5章
ロンドンだけが英国ではない
「首都をマンチェスターに
移す話があるん?」
「正確には違う。
首相官邸の機能の一部を、
北部にも置こうという
構想じゃ」
「でも、
すごい話だよね」
「すごい。
政治は、
建物を動かす前に
国民の怒りが動く」
英国では、
二〇二六年三月までの一年で、
強制送還が九千七百二十三人。
前年より十三%増えた。
「英国も、
何もしていないわけではない。
だが小舟で来る人は、
三万九千人を超えとる。
出口を増やしても、
入口の方が大きいと、
国民は追いつかんと感じる」
ロンドンには、
金融がある。
行政がある。
観光がある。
大学がある。
家賃の高い家がある。
マンチェスターには、
こういう声がある。
《ロンドンだけが
英国だと思うな。》
祖父は言った。
「これは移民だけの話じゃない。
中央に金が集まり、
地方に負担が落ちる。
日本でも同じじゃ」
「東京と地方?」
「そうじゃ。
東京だけが日本ではない。
だが、
東京だけがニュースでは
あるんじゃ」
………
■第6章
年28%のカード金利に、
10%のふた
ゆづきは、
カード明細を見た。
「アメリカって、
カードの金利、
そんなに高いの?」
「二十%を超えるカードも
珍しくない。
トランプ大統領は、
二十八%や三十%を
問題にした」
二〇二六年一月。
トランプ大統領は、
議会にこう求めた。
«クレジットカード金利を、
一年間、
年十%で上限にしてほしい。»
「共和党が?」
「昔の共和党なら、
銀行の自由じゃ。
市場に任せろじゃ。
でも今のトランプ大統領は、
少し違う」
祖父は、
机を指で叩いた。
《金利二十八%は、
自由市場ではない。
生活を食う税金だ。》
「民主党の画面では?」
「価格統制の入り口。
貸せない人が増える。
信用の弱い人ほど、
カードを持てなくなる」
「共和党の画面では?」
「大銀行が、
普通の人の借金で
太りすぎた。
だから、
ふたをする」
「どっちが正しいの?」
「カードを持てることと、
首が回らなくなること。
どっちを先に守るかじゃ」
………
■第7章 薬の値札は、命の値札
祖父は、
薬箱を取り出した。
「薬は、
世界で同じ成分でも、
アメリカだけ高いものがある」
トランプ大統領は、
二〇二五年五月十二日。
処方薬を、
他国の安値に近づける
最恵国価格の方針を出した。
「安くなるなら、
いいじゃん」
「そうじゃ。
だが製薬会社は言う。
研究開発費が減る。
新薬が遅れる。
アメリカだけが
世界の薬代を
払っとるのではない、と」
「また二つの画面だ」
「そうじゃ。
片方には、
薬を買えない母親。
片方には、
十年かけて新薬を作る研究者。
どちらも、
嘘をついとらん」
祖父は言った。
「だから政策は、
値段を下げるだけでは足りん。
薬を安くしても、
研究が死なない設計がいる」
………
■第8章
17社の製薬会社と、最恵国価格
二〇二六年五月。
ホワイトハウスは、
最恵国価格に関して、
世界の大手製薬会社十七社と
自主的な合意に達したと発表した。
「十七社も?」
「政府の発表ではな。
薬価を下げる方法は、
一種類ではない。
法律で値段を決める。
保険会社と交渉する。
企業と合意する。
海外と同じ値段に近づける。
いろんなやり方がある」
ゆづきは、
薬箱を持ち上げた。
「薬の値段を下げるのって、
大統領令だけで
できるの?」
「全部は無理じゃ。
だから、
大統領令、
行政交渉、
議会、
保険制度、
企業の合意を
つなげなければならん」
「めんどくさい」
「命の値札は、
めんどくさいぐらいで
ちょうどええんじゃ。
一人の大統領の気分だけで
決められたら、
もっと怖い」
………
■第9章
食料の値札を握る、巨大企業
二〇二五年十二月六日。
トランプ大統領は、
食品供給網の価格固定や
反競争行為を調べる
大統領令を出した。
司法省とFTCに、
食品供給網の特別チームを作らせた。
「牛肉や卵の値段を、
直接決めるんじゃないの?」
「今のところ、
そこまでは確認できん。
だが、
食料の値札を決める力が、
少数の企業へ寄りすぎとらんか。
そこを調べる方向じゃ」
二〇二六年二月には、
牛肉の価格を抑える政策も出た。
「共和党なのに、
大企業を調べるの?」
「今のトランプ大統領は、
昔の共和党とは違う。
自由市場を守るために、
大企業の自由を
調べるんじゃ」
「ややこしい」
「世の中は、
右と左より、
生活費が高いか安いかで
動くんじゃ」
………
■第10章
家を買うのは家族か、
投資ファンドか
住宅展示場の前に、
若い夫婦がいた。
その向こうには、
黒いバスから降りた
投資会社の社員がいた。
「家を十軒、
まとめて買います」
その言葉で、
夫婦の夢は
一行で消えた。
二〇二六年一月二十日。
トランプ大統領は、
大口投資家が一戸建てを買い集め、
一般家庭と競争する構造を
抑える大統領令を出した。
大統領令番号は、
一四三七六。
「これは共和党っぽいね」
「昔の共和党ではない。
昔なら、
金を持つ者が買う。
今のトランプ大統領の流れは、
家は投資商品より先に
住む場所じゃ、と言い始めた」
「民主党と似てない?」
「似とる。
政治は、
生活が苦しくなると、
左右の服を脱いで
家賃の話になる」
………
■第11章
AIは人を切るのか、
生活費を切るのか
ゆづきの会社では、
AIが経費精算を始めた。
人が十人でやっていた仕事を、
一台の画面がやった。
「やっぱり、
人が切られるんじゃん」
「そうなる会社もある」
「最悪」
「だが共和党の未来図ではな。
AIは、
人を切るためだけでなく、
医療事務、
物流、
役所の紙、
電気の無駄、
在庫の山を切る。
生活コストを
一割、
二割、
もっと下げるための機械じゃ」
ホワイトハウスは、
AIインフラへ
数兆ドル規模の民間投資が
進んでいると発表した。
「でも、
切られた人はどうするの?」
祖父は答えられなかった。
「そこを答えられんAI改革は、
ただのリストラじゃ」
「じゃあ、
AIは悪い?」
「違う。
AIに切られる社会が悪い。
AIで浮いたお金を、
誰が持つかが問題じゃ」
………
■第12章
値上げしない代わりに、
中身を減らす企業
ゆづきは、
ポテトチップスの袋を持った。
「これ、
前より軽くない?」
「それが、
ステルス値上げじゃ」
「値段は同じなのに?」
「中身を減らす。
成分を変える。
量を薄くする。
値札だけを守って、
中身を逃がす」
「ずるい」
「企業からすれば、
生き残る方法じゃ。
だが買う側からすれば、
財布の中身を
見えないところで
抜かれる話じゃ」
物語の中で、
ホワイトハウスから
未確認の文書が流れる。
《生活必需品の値上げ上限。
内容量の減少禁止。
成分劣化の禁止。
表示義務の強化。》
SNSは沸騰した。
《牛肉も薬も卵も安くなる!》
別の投稿は叫んだ。
《店から商品が消える!
配給制の始まりだ!》
ゆづきは言った。
「どっち?」
祖父は、
スマホを伏せた。
「まだ、
紙が本物かどうかも
分からん」
………
■第13章
コスパ型デフレという、
もう一つの未来
祖父は、
ノートに二つの円を書いた。
左の円には、
「悪いデフレ」と書いた。
《給料が減る。
仕事が減る。
物は安くても、
誰も買えない。》
右の円には、
「コスパ型デフレ」と書いた。
《AIで物流が安くなる。
薬が安くなる。
金利が下がる。
エネルギーが安くなる。
寡占が崩れる。
同じ給料で、
たくさん買える。》
「トランプ大統領が狙ってるのは、
右なの?」
「共和党の物語ではな。
高い物価を我慢するんじゃない。
高コストそのものを壊す。
それが、
コスパ国家じゃ」
「でも失敗したら?」
「安いけど買えない。
店に物がない。
農家が作らない。
薬会社が出さない。
転売屋だけが笑う」
「マスク騒動みたい」
「そうじゃ。
値札を叩くなら、
供給の背中も
同時に押さなければならん」
………
■第14章
人道と秩序が、
同じホテルの前でぶつかる
夜。
英国の地方都市。
熱波で寝られないホテルの窓に、
子どもの顔があった。
その下で、
住民がプラカードを持っていた。
《家がない。
病院がない。
学校がない。
なのに、なぜホテルはある。》
ホテルの中の父親は、
小声で言った。
《帰れば、
家もない。
病院もない。
学校もない。》
二〇二五年末。
小舟で英国へ着いた人のうち、
七千六百七十一人、
十九%が、
人身売買被害の可能性を調べる
制度へ回された。
祖父は、
ゆづきに聞いた。
「悪いのは誰じゃ?」
「分からない」
「それでいい。
すぐに悪人を決めるな。
悪人を決める前に、
制度の穴を見ろ」
「民主党の画面は、
ホテルの中を見る」
「共和党の画面は、
ホテルの外を見る」
「じゃあ本当のニュースは?」
「ホテル全体じゃ」
………
■第15章
二つのニュースを持つ人だけが、
未来を選べる
ゆづきは、
AIに尋ねた。
《トランプ大統領は悪人ですか?》
AIは、
一秒で答えた。
《評価は
政治的立場により異なります》
「ずるい答え」
祖父は笑った。
「でも、
間違っとらん」
ゆづきは打ち直した。
《トランプ大統領の政策で、
普通の人の生活は
良くなりますか?》
AIは少し長く考えた。
《国境管理、治安、薬価、金利、住宅、
エネルギー価格に関する政策は、
家計負担を軽くする
可能性があります。
一方、
送還の拡大、価格介入、
関税、供給制約は、
家族分断、商品不足、物価上昇、
雇用減少などのリスクも伴います》
「やっぱり、
どっちも言う」
「それが本当じゃ」
祖父は、
古い鉛筆を取り出した。
「未来は、
右か左かで決まらん。
片方のニュースだけを
信じた人から、
誰かの宣伝になる」
「じゃあ、
どうすればいい?」
祖父は言った。
《人道の値札を見る。
家計の値札も見る。
治安の数字を見る。
送られる人の顔も見る。
企業の利益を見る。
棚から消える物も見る。
二つの画面を
同時に見られる人だけが、
未来の値札を書き換えられる。》
ゆづきは、
ノートに書いた。
《世界は
二つに割れているんじゃない。
同じ世界を、
二つのニュースで
見ているだけだ。》
………
❥Z世代のあなたへ
あなたのスマホには、
一日に何百本もの
ニュースが流れてくる。
怒り。
涙。
正義。
差別。
戦争。
物価。
移民。
AI。
そして、
誰かが言う。
《これが真実だ。》
でも、
一つのニュースは、
たいてい一つの窓じゃ。
窓から見える景色は本物でも、
家の反対側は見えない。
移民を追い出すニュースを見たら、
国境の外で待つ人も見る。
人道支援のニュースを見たら、
その街の家賃と
病院の待ち時間も見る。
薬価を下げるニュースを見たら、
命を救われる人を見る。
同時に、
新薬が作れなくなるリスクも見る。
AIが仕事を奪うニュースを見たら、
失職する人を見る。
同時に、
AIが下げる物流費、
医療費、
電気代の可能性も見る。
右か左かではない。
人間が、
片目を閉じるか、
両目を開くかじゃ。
………
★あとがき
ホームズとワトソン、
そして、やすきよ風(笑)
ホームズが言った。
「ワトソン君。
事件は解決した。
トランプ大統領は、
悪人でも救世主でもない」
ワトソンが聞いた。
「じゃあ何なんです?」
「巨大な値札を持った、
選挙に強い不動産屋だ」
「雑すぎませんか?」
「トランプ大統領は
国境にも線を引く。
金利にも線を引く。
薬価にも線を引く。
住宅投資にも線を引く。
線を引くのが
得意なんじゃ」
そこへ、
やすしが入ってきた。
「ちょっと待ってくださいよ。
線を引くのはええけど、
わしの年金まで
線引かんでくださいよ!」
きよしが言った。
「やすし師匠。
それはキャップではなく、
残高です」
「残高?
わしの人生、
もう上限突破しとるわ!」
ホームズがパイプをくわえた。
「重要なのは、
線を引くことではない。
線の向こうに、
誰が落ちるかだ」
ワトソンがうなずいた。
「そして、
線の内側で、
誰が儲かるかですね」
やすしが言った。
「ほな結局、
大統領令より先に
わしの家計令を出してくれ!」
きよしが笑った。
「内容は?」
「牛肉は半額。
薬は三割引。
ガソリンは安うして、
酒だけは値上げ禁止じゃ!」
ホームズが言った。
「見事な政策だ。
だが財源は?」
やすしは、
胸を張った。
「知らん!」
全員が黙った。
ゆづきが、
小さく笑った。
「それ、
一番リアルな政治かも」
祖父も笑った。
ニュースは、
今日も二つに割れている。
だが夕飯は一つ。
そして、
空腹だけは、
共和党でも民主党でも、
待ってはくれない。




