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『室外機のない大陸』 ――1ユーロ184円。ジェット燃料は40%高。ホテルの上り回線は1.5Mbps。空では衛星が戦争を見ているのに、地上では再就職の動画すら送れなかった――

✦『室外機のない大陸』


――1ユーロ184円。

 ジェット燃料は40%高。

 ホテルの上り回線は1.5Mbps。


 空では衛星が戦争を見ているのに、

 地上では再就職の動画すら

 送れなかった――


………


「ひろしさん、ほんまに今、

 会社辞めたばかりなん?」


瀬戸内の田舎にある祖父の家で、

ゆづきが聞いた。


ひろしは、

少し困ったように笑った。


「うん。

 IT会社を辞めて、

 次の就職先を探してる途中」


「なのに新婚旅行?」


「だから新婚旅行(笑)」


さおりが言った。


「次の会社に入ったら、

 また休めなくなるかも

 しれないでしょ…」


祖父は、

湯のみを置いた。


「それでヨーロッパへ?」


「ローマ。

 アマルフィ。

 ポンペイ。

 ミュンヘン。

 ノイシュヴァンシュタイン城。

 フランクフルト」


ひろしは答えた。


「でも、帰ってきて思ったんです。


 ヨーロッパは、きれいでした。

 ものすごくきれいでした。


 ただ……」


「ただ?」


ゆづきが身を乗り出した。


ひろしは、

スマホを見た。


「何かが、

 壊れかけてました…」


………


★目次


■ 第1章

 退職したひろし、

 燃料の高い空へ飛ぶ


■ 第2章

 1ユーロ184円、

 パスタ一皿二千六百円


■ 第3章

 40℃なのに、

 室外機がない


■ 第4章

 浴槽のない四つ星ホテル


■ 第5章

 上り1.5Mbps、

 再就職の動画が送れない


■ 第6章

 石畳の下で、

 光ファイバーが止まった


■ 第7章

 百万基の充電器と、

 路上駐車の夜


■ 第8章

 代車はBYD、

 ドイツ車の国だった


■ 第9章

 アウトバーン180km、

 VW十万人削減の影


■ 第10章

 アマルフィの魚が、

 少しだけ遠かった


■ 第11章

 ポンペイ二万人、

 観光客が街を食べる日


■ 第12章

 二重ゲートの

 フランクフルト中央駅


■ 第13章

 中国製太陽光、

 屋根の上の通信機器


■ 第14章

 ユーロ高という、

 金色の首輪


■ 第15章

 AIは、

 次の就職先を教えなかった


………


■ 第1章

 退職したひろし、

 燃料の高い空へ飛ぶ


成田空港の出発ロビーで、

ひろしは電光掲示板を見ていた。


ローマ行き。


予定どおり。


だがスマホには、

別の数字が出ていた。


ジェット燃料価格。

二月から約40%上昇。


航空会社のコストのうち、

燃料が占める割合は25%から30%。


「飛行機って、

 空を飛んでるんじゃなくて、

 原油の上を滑ってるんだね」


さおりが言った。


「しかも、

 ジェット燃料が高くなると、

 地方空港の赤字路線から消える」


ひろしは答えた。


「ヨーロッパは

 燃料がないわけじゃない。


 でも、

 高すぎて飛びにくくなる」


祖父は、

報告を聞きながら言った。


「人間も同じじゃ。


 水が完全になくなる前に、

 高くなりすぎて

 飲めんようになる」


ひろしは、

その言葉を忘れなかった。


ヨーロッパへの新婚旅行は、

最初から少しだけ、

燃料切れの匂いがしていた。


………


■ 第2章

 1ユーロ184円、

 パスタ一皿二千六百円


ローマ最初の夜。


さおりは、

小さなレストランで

パスタを注文した。


14ユーロ。


「まあ観光地なら、

そんなもんだよね」


そう言っていた。


だが会計の時、

ひろしは黙った。


1ユーロ184円台。


パスタ一皿、

約2,600円。


「高いね」


さおりが言った。


「料理が高いというより、

 通貨が高い」


ひろしは答えた。


昔、

1ユーロ120円前後だった頃なら、

14ユーロは約1,680円。


今は、

同じ皿でも900円近く違う。


「ユーロって、

 そんなに強いの?」


さおりが聞いた。


「強い面もある」


ひろしは言った。


「でも強すぎる通貨は、

 輸出企業には重い。


 ドイツ車も高くなる。

 イタリアの機械も高くなる。

 観光客も来にくくなる。


 ユーロ高は、

 金色の首輪みたいなもの

 かもしれない」


「きれいだけど、

 首が締まる?」


「そう」


ユーロは、

欧州の誇りだった。


だがその夜、

ひろしには、

欧州の首に光る首輪にも見えた。


………


■ 第3章

 40℃なのに、室外機がない


南イタリアは、

昼間40℃近かった。


道路の向こうで、

空気が揺れていた。


アマルフィへ向かう海岸道路。


美しい。


青い海。

白い建物。

崖に貼りつくホテル。


世界中の人が、

写真を撮っていた。


「天国みたい」


さおりが言った。


「暑さを除けば」


ひろしは答えた。


ホテルへ入る。


部屋はきれいだった。


石の壁。

高い天井。

古い木の扉。


しかし、

エアコンがない。


窓を開ける。


入ってきたのは、

海風ではなかった。


熱風だった。


欧州の家庭で、

冷房を持つ割合は約20%。


五軒に一軒ほど。


「なんで?」


さおりは、

汗をぬぐいながら聞いた。


「昔は、

 ここまで暑くなかった」


ひろしは言った。


「それに、

 室外機を付けにくい。


 景観。

 石造りの壁。

 集合住宅の規約。

 賃貸。

 騒音。


 古い町を守るために、

 未来の機械を外へ出せない」


壁の外には、

百年以上前の街並み。


壁の内には、

眠れない新婚夫婦。


「美しいね」


さおりが言った。


「でも、

 美しいだけじゃ

 人間は寝られないね」


………


■ 第4章

 浴槽のない四つ星ホテル


さおりは、

汗だくのままシャワー室を見た。


床に浅いトレー。


半分だけのガラス板。


シャワー。


それだけ。


「お風呂ないの?」


「ないみたい…」


「水張って、

 ちょっと

 冷やすこともできないの?」


「できない…」


欧州のホテルでは、

浴槽を減らす流れがある。


掃除が早い。


水漏れが少ない。


浴槽をまたぐ転倒リスクも減る。


合理的である。


だが、

40℃近い日に、

体を冷やす場所がない。


「フランスで、

 セーヌ川に人が飛び込むの、

 分かる気がする」


さおりが言った。


ひろしは笑えなかった。


フランスでは、

熱波の影響で

約1,000人の超過死亡が出たと

報じられていた。


熱波は、

旅行の不快感ではない。


家の問題。


病院の問題。


電力の問題。


老人の問題。


冷える部屋を持つ人と、

持たない人の問題だった。


………


■ 第5章

 上り1.5Mbps、

 再就職の動画が送れない


ローマへ戻った夜。


ひろしのスマホに、

面接候補の会社からメールが来た。


《ポートフォリオ動画を、

 24時間以内にお送りください》


ひろしは息を止めた。


「どうしたの?」


「送らないと」


ホテルのWi-Fiにつなぐ。


動画をアップロードする。


上り速度。


約1.5Mbps。


残り時間。


3時間12分。


「遅すぎる」


さおりが言った。


「止まるなよ……」


ひろしは画面を見つめた。


送信は、

28%で止まった。


やり直す。


34%で止まった。


またやり直す。


その時、

ニュース画面には、

衛星通信と無人機の映像が流れていた。


戦争では、

空の衛星が地上を見ている。


ドローンが、

何百キロ先の標的を映す。


公開情報が、

兵器の動きを追う。


なのにローマの四つ星ホテルでは、

再就職中の男が、

自分の仕事の動画を送れない。


「空では衛星が戦争を見てるのに」


さおりが言った。


「地上では、

 俺の履歴書が送れない」


ひろしは笑った。


だが、

目は笑っていなかった。


………


■ 第6章

 石畳の下で、

 光ファイバーが止まった


イタリアの光回線整備率は、

70.7%。


数字だけ見れば、

悪くない。


だが、

国の平均速度と、

ホテルの507号室は別だった。


建物まで光が来ても、

館内配線が古い。


石壁が厚い。


ルーターが少ない。


客室に電波が届かない。


そして、

古い町では工事が難しい。


石畳を掘る。


景観許可を取る。


住民と話す。


道路を止める。


壁に穴を開ける。


「日本の田舎でも、

 Wi-Fiくらい普通につながるのにね」


さおりが言った。


ひろしはうなずいた。


「未来は、

 AIを作れるかどうかじゃない。


 AIが届くかどうかなんだ」


石畳の上では、

観光客が笑っていた。


石畳の下では、

光ファイバーが止まっていた。


………


■ 第7章

 百万基の充電器と、

 路上駐車の夜


ドイツへ入って、

レンタカーを借りた。


予約していたのは、

小さなドイツ車だった。


だが受付の女性は言った。


「アップグレードしました…」


出てきたのは、

BYDのプラグインハイブリッドだった。


「中国車?」


さおりが言った。


「らしい」


ひろしは、

少し驚いた。


欧州には、

公共充電器が100万基以上ある。


数字だけ見れば、

充電は進んでいる。


だが夜。


ホテルへ帰る。


周囲は路上駐車。


車はびっしり。


充電器は見つからない。


あっても、

先客がいる。


「百万基あるのに?」


さおりが聞いた。


「ヨーロッパ全体にある」


ひろしは答えた。


「でも今、

 俺たちの車の近くには

 一基もない」


EV政策は、

車の政策ではない。


家の前に駐車場があるか。


路上に充電器を置けるか。


電柱から線を引けるか。


古い集合住宅が、

工事に同意するか。


石畳を掘れるか。


未来の車は、

昔の道路で立ち往生していた。


………


■ 第8章

 代車はBYD、

 ドイツ車の国だった


翌朝。


ひろしはBYDを走らせた。


燃費は悪くない。


乗り心地も悪くない。


加速も悪くない。


「普通にいい車じゃん」


さおりが言った。


「そこが怖い」


ひろしは言った。


「中国車が、

 安いだけならよかった」


アウトバーン。


180km。


車は安定していた。


ドイツの道路を、

中国のPHEVが走る。


窓の外には、

ドイツ車の看板。


BMW。


メルセデス。


フォルクスワーゲン。


ひろしは、

スマホに出たニュースを見た。


VWが、

最大10万人規模の削減案を検討。


ドイツ国内4工場の

閉鎖案も報じられている。


「十万人?」


さおりが聞いた。


「まだ確定ではない」


ひろしは言った。


「でも、

 話が出るだけでも重い」


ドイツ車の国で、

中国車を借りた。


そしてその夜、

ドイツ最大級の自動車会社が、

十万人を減らすかもしれないと知った。


ひろしは、

ハンドルを握ったまま思った。


自分も、

IT会社を辞めた。


AIで人が減る会社。


中国車で人が減る会社。


違う業界なのに、

似た顔をしている。


………


■ 第9章

 アウトバーン180km、

 VW十万人削減の影


ひろしは、

PAでコーヒーを買った。


紙コップを持ったまま、

求人サイトを開いた。


日本の会社。


外資系。


インフラ。


AI。


物流。


エネルギー。


どの求人にも、

似た言葉が並んでいた。


《効率化》


《自動化》


《少数精鋭》


《AI活用》


「人を減らす仕事ばっかりだね」


さおりが言った。


ひろしは答えなかった。


VWの十万人。


確定ではない。


だが、

数字はすでに人の顔を持っていた。


工場で働く人。


部品会社の人。


町のレストラン。


駅前のホテル。


整備工場。


学校。


税金。


一つの工場が消えると、

町の中から、

少しずつ人の声が減る。


「車がいい車かどうか

 だけじゃないんだね」


さおりが言った。


「一台の車が売れないと、

 町が一個、

 静かになる」


ひろしは答えた。


………


■ 第10章

 アマルフィの魚が、

 少しだけ遠かった


アマルフィの海辺で、

さおりは魚料理を頼んだ。


海のすぐそば。


絶対においしいと思った。


だが一口食べて、

少しだけ黙った。


「どう?」


ひろしが聞いた。


「悪くない」


「でも?」


「海のそばなのに、

 海が遠い感じ」


観光客が多すぎる。


店は満席。


厨房は急ぐ。


魚は運ばれる。


冷蔵庫は酷使される。


熱波で物流も苦しい。


すべての店が悪いわけではない。


だが、

観光地では、新鮮なものが

必ず新鮮なまま届くとは限らない。


「暑さと観光客で、

 海まで疲れてるのかな」


さおりが言った。


ひろしは、

その言葉をメモした。


海が疲れる。


町が疲れる。


人が疲れる。


それでも写真だけは、

青く光る。


………


■ 第11章

 ポンペイ二万人、

 観光客が街を食べる日


ポンペイは、

一日の入場者を2万人に制限している。


遺跡を守るため。


それでも、

朝から列ができていた。


観光客。


観光客。


また観光客。


水を飲む。


トイレを使う。


バスに乗る。


道を埋める。


ホテルに泊まる。


町の家賃を上げる。


「観光って、悪いことなの?」


さおりが聞いた。


「悪くない」


ひろしは言った。


「でも、観光客が増えすぎると、

 町は観光客のために

 働き始める」


店は土産物屋になる。


家は民泊になる。


住民は中心部から出る。


観光客は、

町を好きで来る。


だが、

来すぎると町は、

住民のための場所ではなくなる。


ポンペイは、

二千年前に火山灰で止まった。


今の町は、

観光客の波で、

少しずつ止まり始めていた。


………


■ 第12章

 二重ゲートのフランクフルト中央駅


フランクフルト。


金融都市。


高層ビル。


銀行。


国際空港。


ドイツの心臓。


だが中央駅近くのホテルで、

ひろしは二重ゲートを見た。


車が入る。


一つ目の門が閉まる。


インターホン。


もう一つの門が開く。


「ここまで必要?」


さおりが聞いた。


ホテルの外。


夕方。


何人かの人が、

路上でふらついていた。


薬物。


貧困。


ホームレス。


怖いというより、

疲れた街の顔だった。


「フランクフルト全体が

 危ないわけじゃない…」


ひろしは言った。


「でも、

 駅前数百メートルで、

 街の印象が変わる」


観光客は、

最初に駅へ降りる。


駅前が荒れていれば、

国そのものが荒れて見える。


株価は、

駅前の匂いを映さない。


だが、

旅人は駅前で、

国の体温を測る。


………


■ 第13章

 中国製太陽光、

 屋根の上の通信機器


ドイツの町を走っていると、

屋根に太陽光パネルが並んでいた。


あちこちにある。


小学校。


倉庫。


住宅。


農家。


「環境に優しいね」


さおりが言った。


「そうだね」


ひろしは言った。


「でも、

 太陽光はパネルだけじゃない」


パネルで作った電気を、

電力網へ流す機械。


インバーター。


そこに、

通信機能がある。


遠隔操作。


保守。


更新。


管理。


中国製インバーターには、

説明されていない

通信機器が見つかったという

報道もあった。


一方で、調査では

悪意ある装置が見つからなかったという

報道もある。


つまり、

真実はまだ黒白ではない。


だが欧州は、

怖がり始めた。


EUは2026年、

公的資金を使う案件で

中国製インバーターを制限し始めた。


その影響は、

新しい太陽光設備の

5分の1以上に及ぶ可能性がある。


「環境のために買った機械が、

 安全保障の問題になるんだ」


さおりが言った。


「電気を作る機械は、

 情報も作れるから」


ひろしは答えた。


空では衛星。


地上では通信機器。


太陽光の屋根の下で、

新しい情報戦が始まっていた。


………


■ 第14章

 ユーロ高という、

 金色の首輪


帰国前夜。


ひろしは、

旅の支出を計算した。


ホテル。


食事。


レンタカー。


高速料金。


燃料。


駐車場。


予想より、

ずっと高かった。


「ヨーロッパって、

 豊かだね」


さおりが言った。


ひろしは、

首を振った。


「豊かに見える」


「違うの?」


「ユーロ高は、

 欧州の企業には痛い」


ユーロが高ければ、

ドイツ車は海外で高くなる。


イタリアの輸出品も高くなる。


観光客は減る。


中国車との価格差が広がる。


「じゃあ、

 高いユーロはいいことじゃない?」


「金色の首輪だよ」


ひろしは言った。


「きれいに見える。


 でも、

 輸出企業の首を締める」


ユーロは、

欧州を守る城壁だった。


だが城壁が高すぎれば、

中にいる人は、

外へ商品を運びにくくなる。


………


■ 第15章

 AIは、次の就職先を教えなかった


帰国後。


瀬戸内の田舎。


祖父の家。


ひろしは、

Wi-Fiにつないだ。


一瞬でつながった。


「早い」


さおりが言った。


「ここ、

 ローマのホテルより速いかも」


ゆづきが笑った。


「田舎をなめたらいけん」


ひろしは、

再就職用の動画を開いた。


旅の途中で、

送れなかった動画。


今なら送れる。


だが、

送信ボタンを押す前に、

AIへ聞いた。


《次に就くべき仕事は、

 どんな仕事でしょうか?》


AIは、

少し考えた。


そして答えた。


《職種を特定することはできません》


ひろしは苦笑した。


「そりゃそうだ」


だが、

続きがあった。


《ただし、

 これから必要になるのは、

 人を減らすためだけの

 仕事ではありません。


 暑い町を冷やす仕事。


 古い建物へ通信を通す仕事。


 EVを止めずに充電する仕事。


 水を守る仕事。


 太陽光を安全につなぐ仕事。


 混んだ街を、

 住民が暮らせる街へ戻す仕事です》


ひろしは画面を見た。


さおりが、

そっと言った。


「ヨーロッパ、壊れてた?」


ひろしは首を振った。


「壊れてはいない」


「じゃあ?」


「直す場所が、多すぎた」


外では、

瀬戸内の夜風が吹いていた。


石畳はない。


古城もない。


世界遺産もない。


でも、

Wi-Fiがつながる。


水が出る。


冷房が動く。


車を止める場所がある。


祖父は言った。


「地味じゃろ…」


ひろしは、

少し笑った。


「地味なものほど、

 最後に人を助けるんですね」


祖父はうなずいた。


「そうじゃ。


 未来は、

 空にある衛星だけでできとらん。


 地面の下の線。


 壁の外の室外機。


 夜中に働く変圧器。


 そして、

 壊れたものを直す人でできとる」


………


❥Z世代のあなたに


ヨーロッパは、

終わっていない。


歴史がある。


文化がある。


大学がある。


工場がある。


観光客を呼ぶ力がある。


ただし今、

大きな曲がり角にいる。


熱波。


水不足。


高い電気代。


高いユーロ。


中国車。


太陽光の情報戦。


Wi-Fiの遅れ。


駅前の治安。


観光客の洪水。


どれも別の問題に見える。


でも本当は、

一つの問題かもしれない。


«古い文明を守りながら、

新しいインフラをどう通すか。»


AIは、

答えを出してくれるかもしれない。


だが、

室外機を壁に取り付けるのは人間。


光ファイバーを

石畳の下へ通すのも人間。


夜の駅前を守るのも人間。


太陽光の中に、

誰の通信が入っているか

確かめるのも人間。


半導体は、

いつかコモディティになる。


AIも、

誰でも使える道具になる。


でも、


電気。

水。

通信。

冷房。

道路。

治安。

修理。


この七人衆は、

最後まで安くならない。


………


★あとがき

ホームズとワトソンの

『室外機のない屋敷』


ワトソン

「ホームズ君。

 ヨーロッパは、

 環境に優しいんじゃろ?」


ホームズ

「もちろんです、ワトソン君」


ワトソン

「じゃあ、

 40℃なのにエアコンがないのは?」


ホームズ

「自然の熱を、

 全身で感じるためです」


ワトソン

「熱中症になるわ!」


ホームズ

「石畳が美しいでしょう?」


ワトソン

「石畳で冷えるんか!」


ホームズ

「気分は冷えます」


ワトソン

「Wi-Fiが上り1.5Mbpsなのは?」


ホームズ

「二千年の歴史が、

 電波を吟味しているのです」


ワトソン

「吟味せんでええから送らせろ!」


ホームズ

「EVもあります」


ワトソン

「どこで充電するんじゃ!」


ホームズ

「路上です」


ワトソン

「空いとらん!」


ホームズ

「ではBYDで走りましょう」


ワトソン

「中国車か!」


ホームズ

「環境に優しい代車です」


ワトソン

「ドイツ車は?」


ホームズ

「十万人ほど、考え中です」


ワトソン

「笑えんぞ!」


ホームズ

「太陽光もあります」


ワトソン

「安心じゃな!」


ホームズ

「中の通信機器は、

 念のため調べましょう」


ワトソン

「もっと笑えんぞ!」


ホームズ

「大丈夫です。


 AIが

 『そこへ行くな』

 と言ってくれます」


ワトソン

「もうヨーロッパにおるわ!」


ホームズ

「人生も経済も、だいたい気づくのが

 少し遅いんです」


ワトソン

「お前が一番怖いわ!」


ホームズ

「では最後に、

 室外機を付けましょう」


ワトソン

「そこは最初にやれ!」


ホームズ

「地味な工事ほど、

 後回しにされるんです」


ワトソン

「だから今、

世界が暑いんじゃな」


ホームズ

「そうです。


 世界を救うのは、

 派手なAIより、

 ちゃんと動く室外機と、

 一本の光回線かもしれません」

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