『AIゴールドラッシュと、ジーパンを縫う国』 ――ファン会長が韓国で未来を売った日、六十七歳の元証券マンは、日本の床下に残った勝ち筋を見つけた――
✦『AIゴールドラッシュと、
ジーパンを縫う国』
――ファン会長が韓国で
未来を売った日、
六十七歳の元証券マンは、
日本の床下に残った
勝ち筋を見つけた――
………
世界は、AIという金を掘り始めた。
ファン会長は、
GPUという巨大なつるはしを
売った。
マスクは、
空に通信道路を
敷いた。
韓国は、
AIの記憶装置を
差し出した。
中国は、
山の奥でレアアースを
握った。
そして日本は、
誰にも拍手されない工場の床で、
ネジと車と水と電源を、
黙って並べていた。
金を掘る者が増えるほど、
ジーパン屋は忙しくなる。
そのことに気づいたのは、
足湯をしていた
六十七歳の元証券マンだった。
………
★目次
■第1章
ファン会長が
韓国で売っていたもの
■第2章
AIは雲ではなく、
工場だった
■第3章
韓国は
AIの記憶装置になる
■第4章
中国は
山の奥でネジを握る
■第5章
アメリカは
100分の1コストの国を目指す
■第6章
ホルムズ海峡が詰まった日
■第7章
石油の国が、
石油を売れなくなった
■第8章
日本は
なぜすぐ倒れなかったのか
■第9章
トヨタは古い会社なのか
■第10章
AI時代のジーパン屋
■第11章
Starlinkという空の非常口
■第12章
AIは水を飲み、
電気を食べる
■第13章
日本パッシングではなく、
日本床下化
■第14章
Z世代は金を掘るのか、
道具を売るのか
■第15章
止まらない国が勝つ
………
★本文
■第1章
ファン会長が
韓国で売っていたもの
韓国のニュースで、
NVIDIAのファン会長が
大きく映っていた。
黒い服。
ラフな格好。
まるでロックスターのようだった。
財界人と会い、
学生と会い、
若者文化の場所にも顔を出す。
テレビで見ると、
ただの人気者に見える。
けれど、
僕には少し違って見えた。
あの人は、
チップを売りに来たのではない。
未来の工場を売りに来たのだ。
「これからの国は、
AIを使うだけでは足りません。
AIを作り、
AIを動かし、
AIで
産業を回す国に
ならないといけません」
そう言っているように見えた。
昔なら、
工場には煙突があった。
鉄を溶かし、
車を作り、
テレビを作り、
船を作った。
でもこれからの工場は違う。
巨大な建物の中に、
GPUが並ぶ。
メモリが熱を持つ。
冷却水が流れる。
電気が食われる。
光通信が走る。
そこから文章が生まれ、
画像が生まれ、
設計図が生まれ、
ロボットの動きが生まれる。
それが、
AI工場だった。
ファン会長は、
韓国に来て言っていた。
「あなたたちの国には、
AIの記憶装置がある。
自動車もある。
ロボットもある。
ゲーム文化もある。
若者もいる。
一緒に、
新しいAI工場を
作りませんか?」
テレビの画面では、
革ジャンの経営者が
笑っていた。
けれど僕には、
未来の工場長が、
国ごとスカウトしているように
見えた。
………
■第2章
AIは雲ではなく、工場だった
若い人は、
AIというと、
スマホの中のアプリを
思い浮かべるかもしれない。
質問すると答えてくれる。
絵を作ってくれる。
文章を書いてくれる。
翻訳してくれる。
だからAIは、
軽いものに見える。
雲の上に浮かぶ、
便利な魔法みたいに見える。
でも本当は違う。
AIは、
めちゃくちゃ重い。
電気を食べる。
水を飲む。
半導体を熱くする。
冷却装置を回す。
変圧器を必要とする。
通信回線を必要とする。
工場のように、
土地と水と電力を食べる。
だからAIは、
空に浮いているのではない。
地面に食い込んでいる。
僕はそれを知った時、
昔の製鉄所を思い出した。
煙突から煙が出る工場は、
誰が見ても工場だった。
ところがAI工場は、
外から見ると静かだ。
煙も出ない。
火花も散らない。
作業服の人も少ない。
でも中では、
ものすごい量の
電気が流れている。
大量の熱が出ている。
水が冷やしている。
半導体が唸っている。
つまり、
AIは雲ではない。
AIは、
新しい重厚長大産業なのだ。
ここを間違えると、
これからの世界経済は読めない。
AIで
文章を書く人だけが
勝つのではない。
AIを
冷やす人も勝つ。
AIへ
電気を送る人も勝つ。
AIの部品を
作る人も勝つ。
AIが壊れないように、
床下で支える人も勝つ。
そこに、
日本の出番があるのかもしれない。
………
■第3章
韓国はAIの記憶装置になる
AIにも、
記憶がいる。
人間も同じだ。
どれだけ頭がよくても、
さっき聞いた話を忘れたら、
会話にならない。
AIも、
大量のデータを一瞬で
出し入れしなければならない。
そこで必要になるのが、
高性能なメモリだ。
韓国には、
それがある。
Samsung。
SK Hynix。
この名前は、
普通の人には少し遠い。
けれどAIの世界では、
ものすごく
重要な名前になっている。
AIの脳がアメリカなら、
AIの記憶は韓国。
そう言ってもいい。
だからファン会長は、
韓国へ行く。
そこには、
AIの記憶装置を作る力が
あるからだ。
しかも韓国には、
メモリだけではない。
車がある。
ロボットがある。
ゲームがある。
ネットカフェ文化がある。
若者がいる。
ここが強い。
AIを作るだけではなく、
AIを生活に入れる土壌がある。
若者がゲームをする。
配信を見る。
PCを使う。
アバターと遊ぶ。
AIキャラクターと話す。
そこから、
新しいAI文化が生まれる。
つまり韓国は、
部品の国であり、
同時に実験場でもある。
ファン会長は、
それを見ている。
「この国なら、
AIを部品から文化まで
一気に広げられる」
そう読んでいるのだと思う。
僕は少し寂しくなった。
日本はどうなんだろう。
日本には、
世界に見せられる
AI物語があるのだろうか?
その時、
足湯の湯気の向こうで、
別の考えが浮かんだ。
日本は、
表舞台ではないのかもしれない。
でも、
床下にはいる。
………
■第4章
中国は山の奥でネジを握る
アメリカは、
AIの脳を作ろうとしている。
韓国は、
AIの記憶を作ろうとしている。
台湾は、
AIの心臓を作っている。
では
中国は何を握っているのか。
それは、
山の奥だ。
レアアース。
レアメタル。
磁石。
太陽光パネル。
化学品。
肥料。
精錬。
素材。
地味だ。
ニュース映えしない。
けれど、
これがないとAI工場は動かない。
最先端の半導体にも、
ロボットにも、
EVにも、
ドローンにも、
通信設備にも、
素材がいる。
どれだけ立派なAIを作っても、
ネジがなければ機械は止まる。
どれだけ賢いロボットでも、
磁石がなければ動きが悪くなる。
どれだけ強い軍隊でも、
部品がなければ整備できない。
中国は、
世界の首都を取ったわけではない。
しかし、
世界のネジを握った。
ここが怖い。
アメリカは中国と対立する。
けれど完全には切れない。
AIの時代になっても、
山の奥で掘られた
素材が必要だからだ。
僕は思った。
神様のようなAIにも、
ネジがいる。
そしてそのネジの材料を、
誰が握っているのか。
そこを見ないと、
未来は読めない。
………
■第5章
アメリカは
100分の1コストの国を目指す
著名 アナリストが、
AIによって社会のコストが
大きく下がると言っていた。
もしかすると、
今の100分の1のコストで
できる仕事が増えるかもしれない。
それを聞くと、
夢のように思える。
文章を書く。
設計する。
翻訳する。
計算する。
相談に乗る。
資料を作る。
プログラムを書く。
こういう知的作業が、
AIによって一気に安くなる。
すると企業は強くなる。
国も強くなる。
一人でできることが増える。
でも、
そこには怖さもある。
100人でやっていた仕事が、
1人とAIでできるなら、
残りの99人はどうなるのか。
便利になる社会は、
同時に、
人間の居場所を
問い直す社会でもある。
だから
このアナリストの話は、
AI万歳だけではない。
AIで供給力が増えるなら、
新しい需要を
作らなければならない。
人間が失業するなら、
新しい仕事、
新しい投資、
新しい公共事業が必要になる。
昔の公共事業は、
道路や橋やダムだった。
これからの公共事業は、
AI工場、
データセンター、
送電網、
冷却水、
衛星通信、
ロボット工場になる。
つまり、
国がAIの地面を作る時代になる。
アメリカは、
その先頭を走ろうとしている。
伝統産業では、
中国が強くなった。
だからアメリカは、
AIで新しい経済圏を作り、
コスト100分の1の国を目指す。
僕はそれを聞いて、
証券会社時代の相場を
思い出した。
一番怖い相場は、
みんなが意味を理解する前に、
先に株価が動き出す相場だった。
AIも同じだ。
世の中の多くの人が
「便利なチャットだね」
と言っている間に、
世界の一部では、
国家の作り替えが始まっている。
………
■第6章
ホルムズ海峡が詰まった日
ホルムズ海峡が詰まった。
そう聞くと、
多くの人はガソリン価格を見る。
車の燃料が上がる。
電気代が上がる。
灯油が高くなる。
もちろんそれも大事だ。
でも本当に怖いのは、
そこだけではない。
石油は、
燃やすだけのものではない。
プラスチックになる。
化学品になる。
包装材になる。
接着剤になる。
繊維になる。
肥料になる。
医療用品になる。
ナフサになる。
エチレンになる。
だから
ホルムズ海峡が詰まると、
ガソリンスタンドだけでなく、
コンビニの弁当容器も、
病院のチューブも、
工場の部品も、
農業の肥料も揺れる。
世界の裏配管が、
少しずつ詰まる。
でも不思議なことが起きた。
日本は、
すぐには倒れなかった。
もちろん苦しい。
原油も足りない。
ナフサも苦しい。
エチレンも厳しい。
輸入も大変だ。
それでも、
輸出が粘った。
自動車が粘った。
部品が粘った。
現場が粘った。
僕はそこに、
日本の古い体質を見た。
日本は
豊かな資源国ではない。
石油もない。
食料も弱い。
地震もある。
台風もある。
だからずっと、
足りない国として生きてきた。
足りないから、
軽くする。
足りないから、
長持ちさせる。
足りないから、
直して使う。
足りないから、
工夫する。
足りないことに慣れている国は、
危機の時、
意外にしぶとい。
それは華やかな強さではない。
貧乏くさい強さだ。
でも、
ホルムズ後の世界では、
その貧乏くさい強さが、
値段を持ち始める。
………
■第7章
石油の国が、
石油を売れなくなった
石油を持っている国は強い。
僕もずっと、
そう思っていた。
でもホルムズ海峡が詰まると、
別の現実が見えてくる。
石油があっても、
船が出せなければ売れない。
エチレンがあっても、
輸出できなければ在庫になる。
肥料があっても、
港が詰まれば届かない。
保険がつかなければ、
船会社は動かない。
資源は、
掘っただけでは力にならない。
運べて、
売れて、
支払いができて、
相手の港に届いて、
初めて力になる。
ここが大事だ。
資源国は、
資源を持っているから
安心とは限らない。
出口が詰まると、
資源は金ではなく、
重い荷物になる。
一方で日本は、
資源を持たない。
だから昔から、
どうやって買うか、
どうやって運ぶか、
どうやって節約するか、
どうやって代わりを探すかを
考えてきた。
ホルムズ後の世界では、
この差が出る。
資源を持つ国が苦しむ。
資源を持たない国が、
足りないなりに回す。
これは逆転の物語だ。
僕は思った。
世界は、
石油を掘る力だけでなく、
✲石油が来ない時に耐える力を
評価し始めている。
………
■第8章
日本は
なぜすぐ倒れなかったのか
日本は、
よく弱い国だと言われる。
食料自給率が低い。
エネルギー自給率が低い。
資源がない。
人口が減る。
高齢化する。
どれも本当だ。
でも弱い国には、
弱い国の技術がある。
それは、
「ないものを前提にして動く技術」
だ。
戦後の日本は、
足りないところから始まった。
石油もない。
土地も狭い。
資源も少ない。
だから日本企業は、
省エネに強くなった。
小型化に強くなった。
品質管理に強くなった。
壊れにくい物を作った。
現場改善を続けた。
ムダを減らした。
言い方を変えれば、
日本はずっと、
不足に鍛えられてきた。
だからホルムズ後に、
すぐに全滅するとは限らない。
苦しい。
それは間違いない。
でも、
足りない時の粘り方を知っている。
自動車もそうだ。
古い産業に見える。
でも自動車は、
部品の塊だ。
センサー。
電池。
モーター。
半導体。
樹脂。
鉄。
ゴム。
ガラス。
ソフトウェア。
物流。
整備網。
自動車が輸出で粘るということは、
日本の床下の産業が
まだ生きているということだ。
これは大きい。
日本は、
AIの表舞台にはいないかもしれない。
でもAIが
現実世界に降りてくる時、
車と部品と
現場改善は必要になる。
日本はそこで、
もう一度
買い戻されるかもしれない。
………
■第9章
トヨタは古い会社なのか
若い人から見ると、
自動車会社は
古く見えるかもしれない。
AI。
宇宙。
ロボット。
半導体。
生成AI。
こういう言葉に比べると、
車は昭和っぽい。
でも本当にそうだろうか。
車は、
人間が使う最大級のロボットだ。
移動する。
判断する。
止まる。
曲がる。
荷物を運ぶ。
人を守る。
都市を変える。
自動運転になれば、
車はただの車ではなくなる。
道路を
走るAI端末になる。
物流ロボットになる。
移動する発電池になる。
災害時の電源になる。
高齢者の足になる。
田舎の公共交通になる。
つまり、
車はAIの身体になりうる。
ファン会長が
韓国でHyundaiなどを見るのも、
そこだと思う。
AIは
文章だけでは終わらない。
最後には、
物を動かす。
人を運ぶ。
工場を回す。
ロボットを歩かせる。
その時、
車を作る力は古くない。
むしろ、
AIが現実世界に降りるための
巨大な足場になる。
トヨタが
すべて勝つとは限らない。
でも、
自動車産業が終わったと
見るのは早い。
AIの脳が発達するほど、
AIの身体が必要になる。
そして日本は、
その身体を作る技術を
まだ持っている。
………
■第10章
AI時代のジーパン屋
昔、
アメリカで
ゴールドラッシュがあった。
多くの人が、
金を掘りに行った。
一攫千金を夢見て、
山へ入り、
川を掘り、
土を掘った。
でも本当に儲けたのは、
金を掘った人だけではなかった。
作業着を売った人。
道具を売った人。
宿を貸した人。
食べ物を売った人。
馬車を出した人。
つまり、
金鉱の周りの商売だった。
AI時代も同じかもしれない。
NVIDIAは
つるはしを売る。
OpenAIは
金鉱の地図を売る。
SpaceXは
空の道を売る。
韓国は
記憶装置を売る。
中国は
レアアースを売る。
では
日本は何を売るのか。
ジーパンだ。
つるはしの柄だ。
作業靴だ。
給水ポンプだ。
ネジだ。
現場の工具だ。
冷却水だ。
非常用電源だ。
車だ。
整備だ。
壊れた時に直す技術だ。
これは派手ではない。
でも金を掘る人が増えるほど、
必要になる。
日本は、
AIそのものを作る
主役ではないかもしれない。
けれど、
AIを動かす
現場の道具屋にはなれる。
その方が、
日本らしいのかもしれない。
天下を取るのではない。
天下を支える。
天下布武ではなく、
天下補給。
僕は、
足湯の湯気を見ながら、
その言葉をメモした。
………
■第11章
Starlinkという空の非常口
マスクは、
空に通信道路を敷いている。
Starlink。
小さな衛星をたくさん飛ばし、
地上のケーブルが
届かない場所にも
インターネットを届ける。
山の中。
海の上。
戦場。
災害地。
離島。
砂漠。
地上の通信が切れても、
空からつながる。
これは
便利なサービスというだけではない。
AI時代の非常口だ。
AIは通信が切れると弱い。
データが届かない。
指示が出ない。
監視できない。
物流が止まる。
工場が止まる。
だから通信は、
水道や電気と同じくらい重要になる。
地上の海底ケーブルが
切れる。
戦争で通信網が
壊れる。
災害で基地局が
倒れる。
その時、
空に逃げ道があるかどうか。
これが国力になる。
SpaceXのIPOは、
ただの
宇宙企業の株式公開ではない。
未来の通信道路を、
世界中の投資家に
売るようなものだ。
昔、
人々は鉄道会社に
投資した。
次に電話会社に
投資した。
その次に
インターネット企業に
投資した。
そして今、
空の通信道路に
投資しようとしている。
マスクは、
宇宙を夢として
売っているのではない。
地上が壊れた時の保険として、
空を売っている。
………
■第12章
AIは水を飲み、
電気を食べる
AIは、
質問に答える。
でもその裏で、
水を飲んでいる。
電気を食べている。
熱を出している。
データセンターが増えると、
電力需要が増える。
冷却水も必要になる。
送電線もいる。
変圧器もいる。
非常用発電機もいる。
ここで地域社会とぶつかる。
「AIは便利です」
そう言われても、
地元の人は思う。
その
電気代は誰が払うのか?
その
水はどこから来るのか?
その
土地に何が残るのか?
雇用は増えるのか?
災害の時、
その電力は病院に行くのか?
それとも、
AI工場に行くのか?
これからの時代、
AI反対運動は、
単なる機械嫌いではなくなる。
水。
電気。
土地。
税金。
雇用。
地元還元。
こういう現実の問題になる。
AIは
雲の上にあるように見えて、
実は町の水道管に
手を突っ込んでくる。
僕は思った。
これからのAI小説は、
ロボットが
人間を襲う話では足りない。
もっと怖いのは、
AIが町の水と電気を
静かに食べていく話だ。
………
■第13章
日本パッシングではなく、
日本床下化
ファン会長は韓国へ行った。
ニュースを見ると、
日本は通過されたように見える。
寂しい。
日本はもう、
AI時代の中心ではないのか。
そう思う。
でも、
少し見方を変える。
家には、
リビングがある。
客間がある。
テレビがある。
きれいな照明がある。
そこは目立つ。
でも
家を本当に支えているのは、
床下かもしれない。
配管。
電線。
基礎。
柱。
断熱。
排水。
換気。
ふだんは見えない。
でもそこが壊れたら、
家は住めなくなる。
日本は、
AI時代のリビングには
いないのかもしれない。
でも床下にはいる。
材料。
部品。
工作機械。
水処理。
電源。
車。
ロボット部品。
精密加工。
検査装置。
保守。
現場改善。
これらは、
ニュース映えしない。
でも止まると困る。
だから
日本パッシングではなく、
日本床下化。
表舞台で拍手される国ではなく、
床下で止まらない国になる。
これは寂しいようで、
実は強い。
舞台の役者は交代する。
でも床が抜けたら、
舞台そのものが終わる。
日本は、
その床を作れる国でありたい。
………
■第14章
Z世代は金を掘るのか、
道具を売るのか
Z世代の君たちは、
これからAIの時代を生きる。
たぶん、
僕らより大変だ。
AIは便利だ。
でも同時に、
君たちの
仕事を奪うかもしれない。
文章を書く。
絵を作る。
翻訳する。
プログラムを書く。
資料を作る。
接客する。
相談に乗る。
いろんな仕事が、
AIに近づいていく。
だから君たちは、
考えないといけない。
自分は、
AIという
金鉱を掘るのか?
AIに
掘られる側になるのか?
それとも、
金鉱へ向かう人たちに
道具を売る側になるのか?
これは投資の話だけではない。
人生の話だ。
AIを使う人になる。
AIに使われる人になる。
AIの裏側を支える人になる。
AIで生まれた社会の
問題を解く人になる。
どの場所に立つのか?
それを早く考えた人ほど、
未来の地図を持てる。
金を掘る人は派手だ。
でも全員が金を掘れば、
つるはしが足りなくなる。
水が足りなくなる。
宿が足りなくなる。
修理する人が足りなくなる。
そこで儲かる人が出る。
未来は、
主役だけでできていない。
脇役の場所にも、
大きな勝ち筋がある。
僕は六十七歳になって、
やっとそれが分かってきた。
………
■第15章
止まらない国が勝つ
これからの世界で勝つのは、
いちばん賢い
AIを持つ国だろうか?
たぶん、
それだけではない。
いちばん大きな
半導体工場を持つ国だろうか?
それも大事だ。
でも最後に勝つのは、
止まらない国だと思う。
電気が止まらない。
水が止まらない。
通信が止まらない。
部品が止まらない。
物流が止まらない。
病院が止まらない。
工場が止まらない。
学校が止まらない。
若者の朝ごはんが止まらない。
AIも同じだ。
モデルが賢くても、
電気がなければ止まる。
GPUがあっても、
冷却水がなければ止まる。
ロボットがあっても、
部品がなければ止まる。
衛星があっても、
地上の受信機がなければ止まる。
ホルムズ海峡が詰まった世界で、
人間は気づく。
資源を持つだけでは
足りない。
AIを持つだけでも
足りない。
止めずに
動かす力が
いる。
直す力が
いる。
代わりを探す力が
いる。
少ないもので回す力が
いる。
そこに日本の未来がある。
金鉱の主役には
なれないかもしれない。
でも、
ジーパンを縫える。
つるはしを直せる。
水を送れる。
車を走らせる。
床を支える。
それでいい。
いや、
これからはそれが強い。
僕は足湯から足を出し、
ノートに書いた。
「AI時代の勝者は、
AIを作る国ではない。
AIを止めずに
動かせる国だ」
そして小さく笑った。
六十七歳の僕にも、
まだ見える未来がある。
七十二歳までに、僕も
自分の中のAI工場を作ろう。
ラジオ体操。
英語。
カラオケ。
小説。
正信偈。
足湯。
チョコザップ。
電動自転車。
AIとの会話。
小さな道具を、
毎日ひとつずつ並べる。
僕自身も、
金鉱を掘る人間ではない。
でも、
自分の人生のジーパンくらいは、
まだ縫える。
………
❥Z世代のあなたへ
君たちは、
AIの時代に生まれた。
それはラッキーでもあり、
かなりしんどいことでもある。
AIは便利だ。
でも、
便利なものは、
人間にこう聞いてくる。
「君は何をするの?」
AIが文章を書くなら、
君は何を感じるのか?
AIが絵を描くなら、
君は何を見つけるのか?
AIが答えを出すなら、
君はどんな問いを持つのか?
これからの時代、
「正解を早く出す人」
だけでは苦しくなる。
AIが
正解を出すからだ。
でも、
世界のどこが詰まっているのかを
見つける人。
誰が困っているのかを
感じる人。
表舞台ではなく、
床下を見る人。
主役ではなく、
道具を売る場所に
気づく人。
そういう人は、
たぶん強い。
君が
金を掘る人になってもいい。
でも、
みんなが金を掘っている時に、
ジーパンを縫う人になってもいい。
みんながAIモデルを見ている時に、
電気、水、部品、物流、
食べ物、睡眠、声、
健康を見る人になってもいい。
未来は、
派手な人だけのものではない。
止まらない人のものだ。
続ける人のものだ。
直せる人のものだ。
そして、
自分の人生を
他人任せにしない人のものだ。
君の未来は、
AIに奪われるだけではない。
AIを使って、
自分の場所を
見つけることもできる。
だから、
スマホの画面だけを見るな。
その画面を動かしている
電気と水と部品と人間を見ろ。
そこに、
君の仕事があるかもしれない。
………
★あとがき
ホームズとワトソンの
やすきよ漫才風
ワトソン
「ホームズさん、今日の話、
難しすぎませんか。
AI、GPU、HBM、ホルムズ海峡、
レアアース、Starlink……。
もう途中で
脳みそがフリーズしましたよ」
ホームズ
「ワトソン君、
簡単に言えばこうだ。
世界中がAIという
金を掘りに行ったんだ」
ワトソン
「ほうほう。
金ですか。
分かりやすいですね」
ホームズ
「NVIDIAは、
つるはしを売った」
ワトソン
「なるほど」
ホームズ
「韓国は、
掘った金を記録する
ノートを売った」
ワトソン
「それがメモリですか」
ホームズ
「中国は、
つるはしを作る金属を握った」
ワトソン
「怖いですねえ」
ホームズ
「マスクは、
山奥の金鉱までつながる
空の道路を作った」
ワトソン
「Starlinkですね」
ホームズ
「そして日本は、
作業ズボンを縫い、
靴を直し、
水を運び、
壊れた道具を修理した」
ワトソン
「地味ですねえ」
ホームズ
「地味だが、
金鉱ではズボンが破れたら
仕事にならん」
ワトソン
「たしかに。
パンツ一丁で金掘ってたら、
ただの変な人です」
ホームズ
「そこだ、ワトソン君」
ワトソン
「どこですか」
ホームズ
「未来は、
派手な人だけで動くのではない。
派手な人のズボンを
縫う人がいて、
初めて動くのだ」
ワトソン
「つまり日本は、
AI時代のズボン屋?」
ホームズ
「ズボン屋であり、
ネジ屋であり、
水道屋であり、
修理屋だ」
ワトソン
「でも、
それって主役じゃないですよね」
ホームズ
「君はまだ分かっていない。
芝居でいちばん大事なのは、
主役だけではない」
ワトソン
「なんですか?」
ホームズ
「床だ」
ワトソン
「床?」
ホームズ
「主役がどれだけ名演技をしても、
床が抜けたら終わりだ」
ワトソン
「なるほど。
日本は舞台の床ですか」
ホームズ
「そうだ。
拍手はされにくい。
だが抜けたら全員落ちる」
ワトソン
「それ、
なんか日本らしいですねえ。
褒められないけど、
止まったら困る」
ホームズ
「だからこそ、
これからの日本は
堂々と言えばいい」
ワトソン
「何をですか?」
ホームズ
「うちは主役ではありません。
けれど、
あなたのAI工場の床、
抜けないようにしておきます」
ワトソン
「かっこいいんだか、
地味なんだか分かりませんね」
ホームズ
「そこが日本の味だ」
ワトソン
「でもホームズさん、
六十七歳のおじいちゃんは
どうすればいいんですか?」
ホームズ
「同じだよ」
ワトソン
「同じ?」
ホームズ
「自分の人生の床を直せばいい」
ワトソン
「ラジオ体操とか?」
ホームズ
「そうだ」
ワトソン
「足湯とか?」
ホームズ
「そうだ」
ワトソン
「カラオケとか?」
ホームズ
「もちろんだ」
ワトソン
「AI小説とか?」
ホームズ
「それが彼のつるはしだ」
ワトソン
「じゃあ、
七十二歳までに
金鉱を掘るんですか?」
ホームズ
「いや」
ワトソン
「違うんですか」
ホームズ
「彼は、
自分の人生の
ジーパンを縫っている」
ワトソン
「うまいこと言いましたね」
ホームズ
「やすきよ風に言えば、
こうだ」
ワトソン
「はい」
ホームズ
「AIがなんぼ賢うなっても、
ズボン破れたら
外に出られへん!」
ワトソン
「ほんまや!
未来社会も、
まずズボンからや!」
ホームズ
「そして日本は言うのだ」
ワトソン
「何と?」
ホームズ
「金は掘れんかもしれん。
けど、破れた未来は縫うたるで」
ワトソン
「泣けるやないですか」
ホームズ
「笑いながら泣ける。
そこが人生だ」
ワトソン
「ほな最後に一言」
ホームズ
「AI時代、
主役になれなくてもいい」
ワトソン
「いいんですか?」
ホームズ
「床を支える人間は、
最後まで必要とされる」
ワトソン
「つまり?」
ホームズ
「止まらない人が、
最後に勝つ」
ワトソン
「よっしゃ。
まずは足湯から始めますわ」
ホームズ
「そこからかい!」
………
おしまい




