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闇航行する世界で、僕らは光を持つ ――ナフサが落ち、地銀が太り、タンカーが光を消した日、七十二歳へ向かう僕はZ世代に小さな地図を渡した――

✦ 闇航行する世界で、僕らは光を持つ


――ナフサが落ち、

 地銀が太り、

 タンカーが光を消した日、

 七十二歳へ向かう僕は

 Z世代に小さな地図を渡した――


………


世界は、

止まったのではない。


光を消して、

裏道を走り始めた。


原油タンカーは、

海の上で姿を隠した。


ナフサ価格は、

安くなったのに、

誰も心から笑わなかった。


地方銀行は、

田舎の金庫番だと

思われていたのに、

一兆円の心臓へ変わり始めた。


その時、

七十二歳へ向かう僕は、

ようやく気づいた。


五年後に生き残る人間は、

強い人間ではない。


見えない流れを読み、

小さな光を消さずに

持ち続ける人間だ。


………


★目次


■第1章 ナフサ急落


 ――安くなったのに、

  なぜ怖いのか――


■第2章 地銀一兆円クラブ 


 ――田舎の銀行が、

  地方経済の心臓になった――


■第3章 

 光を消したタンカー


 ――原油は消えたのではない。

  居場所の光が消えた――


■第4章 

 ゆづきはプリンを持っていた


 ――プリンは食べ物ではなく、

  世界経済の完成品だった――


■第5章 

 五年後のトレンド

 その一


 ✲透明性が値段になる


■第6章 

 五年後のトレンド

 その二


 ✲地方の信用が資産になる


■第7章 

 五年後のトレンド

 その三


 ✲裏道グローバル化


■第8章 

 五年後のトレンド

 その四


 ✲在庫は悪ではなく

  保険になる


■第9章 

 五年後のトレンド

 その五


 ✲AIは答えではなく、

  裏配管の虫眼鏡になる


■第10章 

 五年後の幸せは、

 勝ち組ではなく

 循環組になること


■第11章 

 ワシサバイバーの朝


■第12章 

 ゆづきの五年後


■第13章  

 グサッと来たら、

 未来の入口


■第14章 

 幸せは、

 大きな勝利ではなく

 小さな復旧


■第15章 

 光を消さない人間


❥ Z世代のあなたへ


★あとがき

 ホームズとワトソンの

 やすきよ漫才風


………


★本文


■第1章 ナフサ急落

――安くなったのに、

 なぜ怖いのか――


その朝、

僕は足湯に入りながら、

スマホのニュースを見ていた。


見出しは短かった。


✲ナフサ急落。


たった五文字だった。


けれど、

六十七歳の僕の胸に、

それは妙に刺さった。


ナフサ。


石油から生まれ、

透明な袋になり、


弁当のフタになり、

プリンのカップになり、


医療用チューブになり、

ゴミ袋になり、

接着剤になり、


日本の生活の下を流れている、

透明な原料。


その価格が急落した。


普通なら、

喜べばいい。


原料が安くなる。

メーカーが助かる。

物価が下がる。

暮らしが楽になる。


そう考えればいい。


だが、

僕の中の元証券マンの神経は、

そうは言わなかった。


急落という言葉には、

いつも別の匂いがある。


誰かが投げた

匂い。


誰かが諦めた

匂い。


買う側が疲れた

匂い。


市場が先に逃げた

匂い。


安くなったのに、

なぜか怖い。


僕は、

スーパーへ行った。


プリンを見た。


中身ではなく、

透明なカップを見た。


弁当を見た。


唐揚げではなく、

透明なフタを見た。


魚を見た。


切り身ではなく、

白いトレーを見た。


その日、

僕は初めて思った。


日本は、

中身の国ではなかった。


透明な外側に守られた

国だった。


………


■第2章 

 地銀一兆円クラブ


 ――田舎の銀行が、

  地方経済の心臓になった――


数日後、

また別の見出しが目に入った。


✲地銀一兆円クラブ。


僕は、

また指を止めた。


地方銀行が、

一兆円。


昔の僕なら、

地銀株など、

地味な金融株として

見ていたかもしれない。


駅前の支店。

年金の振込。

住宅ローン。


商店街の社長。

地元の建設会社。


相続相談。


そんな古い匂いがした。


だが、

記事を読んでいるうちに、

その見方は変わった。


九州の地銀は、

半導体工場の隣で、

台湾企業を迎える

玄関になっていた。


長野の地銀は、

移住者の人生を支える

住宅ローンを作っていた。


地銀は、

預金を集めて貸すだけの

銀行ではなくなっていた。


企業をつなぐ。

土地を動かす。

人材を紹介する。


相続を整理する。


空き家を

次の住まいに変える。


海外企業を

地方に着地させる。


若者の移住を

信用に変える。


地銀は、

地方のOSになり始めていた。


スマホにOSがあるように、

地方経済にもOSがいる。


企業。

土地。

住宅。

相続。

工場。

自治体。

若者。

外国企業。


それらをつなぐ見えない土台。


その中心に、

地銀が立ち始めていた。


僕はノートに書いた。


ナフサが物の血液なら、

地銀は地方の血管だ。


………


■第3章 

 光を消したタンカー


――原油は消えたのではない。

 居場所の光が消えた――


そして三つ目のニュースが来た。


ホルムズ海峡。

原油タンカー。


闇航行。

AISを切った船。

ダークモード。


僕は、

スマホの画面を見つめたまま、

しばらく黙った。


原油が消えたのではない。


原油の居場所を示す光が、

消されたのだ。


公式の数字では、

ホルムズ海峡を通るタンカーは

少ない。


だが、

海の上では、

光を消した船が動いている。


誰の船か?


どこへ向かうのか?


どのルートか?


誰が通航料を払うのか?


どの国が

暗黙に支えているのか?


見えない。


見えないのに、

原油は動いている。


それは、

回復ではなかった。

正常化でもなかった。


世界経済が、

表の道路から、

裏道へ入り始めたと 

いうことだった。


僕は思った。


これからの世界では、

物はある。


金もある。

船も動く。


だが、

全部が見えにくくなる。


原油は闇航行する。

ナフサは急落する。


地銀は

地方の信用を選別する。


企業は在庫を積む。


消費者は

値上げの理由が分からない。


AIだけが、

裏配管を読み始める。


五年後の世界は、

止まるのではない。


見えないまま、

動き続ける。


それが一番怖い。


………


■第4章 

 ゆづきはプリンを持っていた


――プリンは食べ物ではなく、

 世界経済の完成品だった――


夕方、

スーパーの前で、

高校一年生のゆづきに会った。


ゆづきは、

プリンを一つ持っていた。


「じいちゃん、

 また難しいニュース

 見とるん?」


「今日は、

 プリンの話じゃ」


「え?

 これ?」


ゆづきは、

手の中のプリンを見た。


「そうじゃ。

 そのプリンは、

 牛乳と卵と砂糖だけでは

 店に来られん」


「どういうこと?」


「カップがいる。

 フタがいる。

 ラベルがいる。

 冷蔵トラックがいる。

 賞味期限を印字するインクがいる。

 工場が動く電気がいる。

 それを運ぶ燃料がいる」


ゆづきは、

プリンをじっと見た。


「じゃあ、

 プリンって食べ物じゃなくて、

 世界経済なの?」


僕は笑った。


「そうじゃ。

 今のプリンは、

 世界経済の完成品なんよ」


ゆづきは少し黙った。


「なんか、

 プリンが急に重くなった」


「重くなったんじゃない。

 今まで見えなかったものが

 見えただけじゃ」


ゆづきは、

プリンの透明なカップを

指でなぞった。


「これもナフサ?」


「たぶん、

 ナフサの子どもか

 孫みたいなもんじゃ」


「じゃあ、

 ナフサが急落したら、

 プリンは安くなるの?」


「普通はそう思う。

 でもそうとは限らん」


「なんで?」


「安くなった理由が、

 供給が戻ったからとは

 限らん。


 買う工場が疲れて、

 需要が壊れたから

 安くなることもある」


ゆづきは顔をしかめた。


「安いのに怖いってこと?」


「そうじゃ。

 そこに相場の怖さがある」


………


■第5章 

 五年後のトレンド

 その一


 ✲透明性が値段になる


五年後、

世界では、

物の値段だけではなく、


見えるかどうかに

値段がつく。


原油があるかどうか?

それだけでは足りない。


その船は見えているか?

AISを切っていないか?


保険はつくか?

空船は戻るか?


港は積み替えできるか?


通航料は発生するか?

誰の許可で海峡を通るか?


見える原油は高くなる。


見えない原油は、

安いようで高くつく。


これを、

僕はノートにこう書いた。


透明性プレミアム。


五年後の世界では、

安心して見えること自体が、

価値になる。


食品もそうだ。

薬もそうだ。

金融もそうだ。


人間関係もそうだ。


どこから来たか?

誰が作ったか?

どんなルートで届いたか?


どの信用で

売られているか?


✲見えるものは、

 少し高くても選ばれる。


✲見えないものは、

 安くても疑われる。


ゆづきは言った。


「じゃあ、

 五年後は

 安さだけで選んだら

 危ないんだね」


僕はうなずいた。


「安い理由を読める人が、

 生き残るんよ」


………


■第6章 

 五年後のトレンド

 その二


 ✲地方の信用が資産になる


次に大事なのは、

地銀だった。


五年後、

地方銀行は、

ただお金を貸す場所では

なくなる。


町の過去を預かり、

町の未来へ金を流す

場所になる。


どの会社を残すか?

どの土地を動かすか?


どの空き家を

誰に渡すか?


どの若者に

住宅ローンを出すか?


どの外国企業を

受け入れるか?


どの社長の事業承継を

助けるか?


地方の未来は、

県庁だけで決まらない。


銀行の融資会議で、

静かに決まる。


五年後のZ世代は、

東京だけを見ていると、

未来を見誤る。


熊本の半導体。

長野の移住。


北海道の再エネ。

瀬戸内の造船。

九州の台湾企業。


地方のデータセンター。


空き家の再生。

相続不動産の再利用。


仕事は、

東京の高層ビルだけに

あるのではない。


地方の銀行が

金を流した場所に、

次の仕事が生まれる。


ゆづきは言った。


「じゃあ、

 地銀を見るって、

 町の未来を見ることなんだ」


「そうじゃ」


「株を

 見るんじゃなくて?」


「株の向こうにある町を

 見るんじゃ」


………


■第7章 

 五年後のトレンド

 その三


 ✲裏道グローバル化


昔のグローバル化は、

安く、早く、

遠くから運ぶことだった。


中国で作る。

中東から運ぶ。

アメリカで売る。


日本で加工する。


世界中が一本の

ベルトコンベヤーで

つながっていた。


だが五年後、

そのベルトコンベヤーには、

裏道が増える。


見えるルート。

見えないルート。


保険付きルート。

闇航行ルート。


米国側ルート。

中国側ルート。

イラン許可ルート。


✲高いが安全なルート。

✲安いが危ないルート。


世界は切れるのではない。


✲裏道だらけになる。


それが、

灰色グローバル化だ。


ゆづきは聞いた。


「それって悪いこと?」


僕は少し考えた。


「悪いだけじゃない。

 完全に止まるよりは、


 裏道でも物が流れる方が

 助かることもある。


 でも、

 

 ✲見えにくい世界では、

  だまされやすくなる」


「じゃあ何が大事?」


「自分の光を持つことじゃ」


「光?」


「読む力。

 調べる力。


 人に聞く力。

 AIに聞く力。


 生活に置き換える力。


 そして、

 安さに飛びつかない力じゃ」


………


■第8章 

 五年後のトレンド

 その四


 ✲在庫は悪ではなく

  保険になる


昔、

在庫は悪者だった。


在庫を持つな。

無駄をなくせ。


必要な時に

必要なだけ届けろ。


ジャストインタイム。


それが正義だった。


だが五年後、

世界は少し変わる。


船が光を消す。

港が詰まる。


保険料が上がる。

通航料がかかる。


原料価格が

急落と急騰を繰り返す。


空船が戻らない。


工場が動いたり

止まったりする。


そんな世界では、

在庫を持たないことが

危険になる。


企業は在庫を見直す。

家庭も在庫を見直す。


米。

水。

薬。

電池。


ゴミ袋。

ラップ。

保存袋。


補修テープ。

接着剤。


常備食。


自転車の消耗品。

スマホの充電手段。


小さな現金。


これは買い占めではない。


暮らしのクッションだ。


五年後に幸せになる人は、

大量に買い込む人ではない。


自分の生活に必要なものを知り、

少し余裕を持つ人だ。


ゆづきは言った。


「じゃあ、備蓄って 

 怖がりのすることじゃないんだ」


「違う。

 未来の自分へのやさしさじゃ」


………


■第9章  

 五年後のトレンド

 その五


 ✲AIは答えではなく、

  裏配管の虫眼鏡になる


五年後、

AIはもっと生活に入っている。


スマホの中だけではない。


メガネの中。

イヤホンの中。


家の中。

車の中。

店の中。


銀行の審査。

病院の予約。

学校の課題。


買い物のおすすめ。


AIは、

そばにいる。


だが、

AIに使われる人と、

AIを使う人に分かれる。


AIに使われる人は、

おすすめされたものを買う。


流れてきた

ニュースを信じる。


安いものに飛びつく。

怒りを増幅される。

ランキングに従う。


AIを使う人は、

問いを持つ。


この値下がりは

なぜか?


この値上げは

どこから来たか?


この会社は

何に困っているか?


この地域は

何で伸びるか?


このニュースは

自分の生活の

どこにつながるか?


僕はゆづきに言った。


「AIは神様じゃない。

 でも、虫眼鏡にはなる」


「虫眼鏡?」


「見えにくい裏配管を、

 一緒に見る道具じゃ」


「じゃあ、

 じいちゃんのAI小説って、

 ニュースの虫眼鏡なんだね」


「そうじゃ。

 難しい世界を、

 プリンのカップまで

 小さくする虫眼鏡じゃ」


………


■第10章 

 五年後の幸せは、

 勝ち組ではなく  

 循環組になること


五年後、

世界はもっと不安定になる。


原油は闇航行する。

素材価格は揺れる。


地銀は地方を選別する。

AIは人の信用を見る。

都市と地方の差は広がる。


安い便利は減っていく。

見えないコストが価格に乗る。


では、

僕たちは

不幸になるしかないのか?


そうではない。


五年後に幸せになる人は、

大金持ちだけではない。


循環を持つ人だ。


体の循環。

お金の循環。

信用の循環。


言葉の循環。

地域との循環。

学びの循環。


食べ物の循環。

助け合いの循環。


朝起きる。

体を動かす。

声を出す。


学ぶ。

働く。


少し貯める。

少し備える。


人に礼を言う。

困ったら相談する。


AIに聞く。

自分の頭で考える。


地元とつながる。

古いものを直す。


歌う。

書く。

戻ってくる場所を持つ。


これが、

五年後のサバイバーの生活だ。


勝ち組ではなく、

循環組。


流れが止まった時、

自分の中に

小さな流れを持っている人が強い。


………


■第11章 

 ワシサバイバーの朝


五年後、

僕は七十二歳になっていた。


朝六時に起きる。


体温を測る。

血圧を測る。

白湯を飲む。


ラジオ体操をする。

仏壇の前で声を出す。


玄米と納豆と卵を食べる。


足湯に入る。

コーヒーを飲む。


スマホを開く。

原油価格を見る。

ナフサを見る。


地銀株を見る。

海上在庫を見る。

ホルムズの航跡を見る。


スーパーのチラシを見る。

地元銀行のニュースを見る。


AIに聞く。


そして、

ノートに三つ書く。


今日見えたこと。


今日気づいたこと。


今日誰かに渡せる言葉。


昔の僕は、

相場を見て、

売買を考えていた。


七十二歳の僕は、

相場を見て、

生活を考える。


ナフサが動けば、

袋を見る。


地銀が動けば、

町を見る。


タンカーが光を消せば、

見えないコストを見る。


AIが答えを出せば、

その答えを生活に置き換える。


僕はもう、

若くはない。


だが、

若くないからこそ

見えるものがある。


長く生きた人間には、

点と点をつなぐ力が残っている。


それを、

Z世代に渡す。


それが、

ワシサバイバーの仕事だった。


………


■第12章 

 ゆづきの五年後


五年後、

ゆづきは二十一歳になっていた。


大学へ行く

友人もいた。


専門学校へ行く

友人もいた。


働き始める

友人もいた。


都会へ出る

友人もいた。


地方に残る

友人もいた。


ゆづきは、

迷っていた。


東京へ行くべきか?

地元に残るべきか?


AIを学ぶべきか?

医療系へ行くべきか?


物流か?

地域金融か?

観光か?

データセンターか?

半導体か?


ある日、

ゆづきは僕に言った。


「じいちゃん、

 五年後って、

 何を選べば正解なの?」


僕は答えた。


「正解を選ぼうとせんでええ」


「え?」


「流れを読める人になればええ」


「流れ?」


「物の流れ。

 金の流れ。

 信用の流れ。

 人の流れ。

 情報の流れ」


ゆづきは黙って聞いていた。


「世界は見えにくくなる。

 だから、

 一つの職業名に

 しがみつくより、

 流れを読める力の方が

 大事になる」


「どうやって?」


「ニュースを生活に置き換える。


 AIに聞く。

 地元を見る。

 体を壊さない。


 小さな信用を積み上げる。

 安さの理由を考える。

 誰かとつながる。


 そして、

 自分の違和感をメモする」


ゆづきは言った。


「違和感?」


「そうじゃ。

 グサッと来たことを

 逃がさんことじゃ」


………


■第13章 

 グサッと来たら、未来の入口


僕は、

ゆづきに

三つのニュースを話した。


✲ナフサ急落。

✲地銀一兆円クラブ。

✲ホルムズ闇航行。


ゆづきは笑った。


「普通の高校生、

 そんなニュースで

 グサッと来ないよ」


「それでええ。

 全員が気づく頃には、

 もう未来は始まっとる」


「じゃあ、

 グサッと来るって何?」


「自分の中の 

 未来センサーが鳴ることじゃ」


昔の僕は、

グサッと来た

銘柄を追いかけた。


今の僕は、

グサッと来た 

ニュースを小説にする。


それは、

ただの趣味ではない。


未来を読む練習だ。


Z世代にも、

同じことをしてほしい。


SNSの

正解を待つのではない。


誰かの感想を

先に読むのではない。


自分の胸が、

少し動いた瞬間をメモする。


なぜ気になったのか?


何が怖かったのか?


何が面白かったのか?


自分の生活の

どこにつながるのか?


それをAIに投げる。


細かくする。

生活へ落とす。


小説にする。


会話にする。

行動にする。


これが、

五年後の感想防衛だ。


他人の言葉に流される前に、

自分の違和感を保存する。


それだけで、

人は少し強くなる。


………


■第14章 

 幸せは、

 大きな勝利ではなく小さな復旧


五年後の世界は、

たぶん今より便利ではない。


遅れる。

高くなる。

見えにくくなる。


説明が複雑になる。

不安なニュースが増える。


でも、

それは不幸だけを意味しない。


便利すぎた世界が、

少しゆっくりになる。


安すぎたものに、

本当の値段が戻る。


遠すぎたものが、

近くで作られる。


使い捨てていたものを、

直すようになる。


地域の店を、

もう一度見るようになる。


家族の備えを、

話すようになる。


健康を、

数字で見るようになる。


歌うこと。

歩くこと。

食べること。

眠ること。


人にありがとうと言うこと。


そんな小さな行為が、

急に大切になる。


幸せは、

大きな勝利ではない。


壊れた流れを、

少しずつ復旧することだ。


寝不足を戻す。

血圧を整える。

冷えた体を温める。

減った信用を積み直す。


切れた人間関係を

細くつなぐ。


読めなかったニュースを

生活に置き換える。


怖かった未来に、

小さな準備を置く。


それが、

五年後の幸せだ。


………


■第15章 

 光を消さない人間


ホルムズ海峡で、

タンカーは光を消した。


だが、僕たちまで

光を消す必要はない。


むしろ、

見えにくい世界だからこそ、

自分の小さな光を持つ。


朝の声。

日々の記録。


AIへの問い。

地元のつながり。


小さな備蓄。

健康ログ。


信用の積み上げ。

違和感のメモ。


誰かへのありがとう。


下手でも歌う勇気。

分からないことを聞く勇気。


それらは、

ニュースにはならない。


株価にもすぐ反映されない。


だが、

五年後の人生を支える。


僕は、

七十二歳の自分を想像する。


スーパーで

プリンのカップを見る。


地銀のニュースを見る。

海峡のタンカーを見る。


AIに聞く。

ノートに書く。


そして、

ゆづきたちZ世代に言う。


「世界が光を消しても、

 君まで消さんでええ。


 見えない流れを

 読みながら、

 自分の生活に

 小さな灯りを置けばええ。


 それが、

 五年後の幸せの作り方じゃ」


ゆづきは、

プリンのカップを

光にかざした。


透明なカップの向こうに、

夕方の空が見えた。


それは、

何でもない光だった。


でも僕には、

未来の地図のように見えた。


………


❥ Z世代のあなたへ


五年後、

世界はもっと分かりにくく

なっているかもしれない。


原油は

光を消して動く。


AIは

答えを先に出す。


銀行は

君の信用を見る。


物価は

理由の見えないところで

上がる。


地方は

伸びる場所と

沈む場所に分かれる。


安い便利は、

少しずつ減っていく。


でも、

怖がるだけで

終わらなくていい。


君に必要なのは、

完璧な未来予測ではない。


小さな読み方だ。


ニュースを見たら、

自分の生活の

どこにつながるか考える。


安いものを見たら、

なぜ安いのか考える。


高いものを見たら、

何のコストが乗っているのか

考える。


AIの答えを見たら、

自分の言葉に置き換える。


地元の銀行を見たら、

町の未来を想像する。


スーパーの棚を見たら、

世界の船を想像する。


そして、

自分の信用を積み上げる。


支払いを守る。

約束を守る。


体を壊さない。

学び続ける。


助けを求める。

人に礼を言う。


小さな備えをする。

自分の違和感をメモする。


五年後の幸せは、

派手な勝ち組になる 

ことではない。


世界が揺れても、

自分の光を消さずに

暮らせることだ。


………


★あとがき

 ホームズとワトソンの

 やすきよ漫才風


ワトソン

「ホームズさん、

 今回はナフサ、地銀、

 闇航行ですか。


 なんですの、

 この地味三兄弟は」


ホームズ

「地味やない。

 五年後の世界を読む

 三種の神器や」


ワトソン

「三種の神器が、

 プリンのカップと

 地方銀行と

 タンカーですか」


ホームズ

「そうや」


ワトソン

「天照大神もびっくりですわ」


ホームズ

「ナフサは

 物の血液。


 地銀は

 信用の血管。


 闇航行は

 世界経済の裏帳簿や」


ワトソン

「また難しいこと言うて。

 つまりどういうことです?」


ホームズ

「世界は止まっていない。

 ただ、

 見えにくくなっている」


ワトソン

「見えにくいなら、

 老眼鏡が要りますな」


ホームズ

「老眼鏡だけでは足りん。

 AIと生活感覚と、

 少しの疑いがいる」


ワトソン

「疑いも必要ですか」


ホームズ

「必要や。


 安くなったから安心。

 大きくなったから安全。

 動いているから正常。


 そう決めつけると危ない」


ワトソン

「ナフサ急落も、

 安くなったのに怖い」


ホームズ

「そうや」


ワトソン

「地銀一兆円クラブも、

 銀行が大きくなった

 だけやない」


ホームズ

「地方の未来に

 値札が貼られたということや」


ワトソン

「闇航行タンカーは?」


ホームズ

「原油が

 なくなったのではない。


 原油の居場所を

 示す光が消えた」


ワトソン

「うわ、

 急にスリラーですやん」


ホームズ

「だから面白いんや」


ワトソン

「で、わしら庶民は

 どうしたらええんです?」


ホームズ

「小さな光を持つことや」


ワトソン

「懐中電灯ですか?」


ホームズ

「それもいる」


ワトソン

「いるんかい」


ホームズ

「だが本当の光は、

 読む力、

 聞く力、

 備える力、

 戻る力や」


ワトソン

「戻る力?」


ホームズ

「体調を崩したら

 戻す。


 信用を減らしたら

 積み直す。


 分からなかったら

 聞き直す。


 怖くなったら

 生活へ戻す」


ワトソン

「なるほど。

 五年後のサバイバーは、


 強い人やなくて、

 戻れる人なんですな」


ホームズ

「その通り」


ワトソン

「ほな最後に、

 今回の一言をお願いします」


ホームズ

「世界が光を消しても、

 君まで光を消すな」


ワトソン

「ちーん」


ホームズ

「それは仏壇の鐘か?」


ワトソン

「いえ、

 今回はプリンのスプーンが

 カップに当たった音です」


ホームズ

「どちらでもいい。

 聞こえた者から、

 五年後の物語は始まる」


………


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