日曜日の正午
前世乙女ゲームの記憶にはなかった決闘が、遂に行われる日を迎えることになった。
時刻は正午、場所は学院の剣の練習場だ。
男子生徒の授業では剣術と馬術があり、そのための練習場も用意されていた。そして学院は王立である。カミュ第二王子が学院長と話し、日曜日であるにも関わらず、使用を取り付けたのだ。
こうして双方、三人の立会人を連れ、そしてカミュ第二王子とリアスが決闘する理由である私も含めた全員が、剣の練習場に集合した。
カミュ第二王子とリアスは、剣術の授業でお馴染みの軽装備。すなわち胸当て・脛当て・籠手を着け、共に白シャツに黒のズボンで、腰に帯びているのは模擬剣だ。
立会人と私は制服を着ている。日曜日ではあるが、学院に足を踏み入れるのだ。学院内は原則制服着用のルールに従った形だった。
公爵家の令息であるロンと談笑しているマーガレット。その軽快な笑いは、まるでお茶会に来たかのように、寛いでいる。
(カミュ第二王子が勝てば、本来あるべき姿にシナリオが強制補正されるわ。マーガレットはカミュ第二王子の勝利を確信して、ああも余裕なのかしら?)
だがマーガレットがそうなるのも理解出来てしまう。というのもセーブルがリサーチした結果、判明したことがある。それはカミュ第二王子が剣術の授業で、ずば抜けた腕前を披露していたということ。クラスメイトでは、手合わせの相手にならない。よって教官相手で手合わせをしていたが、あわや教官が負けそうになる瞬間が、何度もあったと言うのだ。
(リアスを信じたい。信じたいけれど……。この世界は全力でリアスと私の婚約解消を目論んでいる。かつ剣術の練習歴に明確な差があった。こうなると、信じるだけでは救われないのではないかしら……?)
それでも。どんなに不安であっても。
リアスが私のためにする決闘。
不安は呑み込み、ここは凛とした態度を取ることにした。
(リアスは私よりも乙女な時がある。こんな形でカミュ第二王子と決闘することになり、本当は不安でいっぱいなのかもしれないのよ。でもそんなことおくびにも出していないわ)
そこで私は自分が言った言葉を思い出す。
『……リアスのこと、守りたいんです。リアスを泣かせる人のことなんて認めないですし、リアスを危険な目に遭わせる人も許しません!』
リアスを守ると決めた。
今、ここで私は剣を抜いて、リアスの代わりで戦うことはできない。
(だから信じよう。信じるの、リアスを!)
もう待ったなしの状況に、ついに私の腹も据わった。
まるでそれが合図だったかのように、カミュ第二王子が声を上げる。
「誓約書は用意してありますか?」
カミュ第二王子に問われたリアスはアンバーから、濃紺のシルクのリボンが封蝋で止められた巻物を受け取る。
「きちんと用意してあります」
「こちらもです」
カミュ第二王子も宰相の息子ダグから、金色のシルクのリボンが封蝋で止められた巻物を受け取り、リアスに示した。
この誓約書には、それぞれが負けた時の対応が書かれ、サインも入っている。公的な契約書の一つと見なされる書類だった。
「ではお互いに準備は整っているということで、決闘開始の合図はサンフォード公爵令嬢、お願いします」
カミュ第二王子が私を見る。
既にカミュ第二王子とリアスは、剣の練習場の真ん中に移動している。私はその二人と規定の距離をとった場所にいた。
「分かりました」
私が返事をすると、カミュ第二王子がエメラルドグリーンの瞳を細め、微笑む。その笑みからは「この決闘に勝利して、君を手に入れます」という自信が感じられた。
だが私はその微笑みを、無表情で一瞥する。
(カミュ第二王子には婚約者がいて、相思相愛と思っていたから、つい親身になっていたわ。でも事情が変わった。何よりリアスを守ると決めたのだから。カミュ第二王子の笑みに応じるつもりはないわ)
こうして私はゆっくり口を開く。
「では決闘の合図としてこの金貨を投げます。金貨が地面に落ちた瞬間が、決闘開始の合図になります。フライングは失格で不戦勝となるので、両者注意してください」
カミュ第二王子は私の無表情に傷ついたような表情をしているが、見なかったことにして、話を進めた。
「では、投げます」
金貨を天高く投げる。
しばらくは回転しながら、金貨は青空へ向かい飛んでいく。だが九月の陽光を受け、金貨は煌めき、急速に落下を始めた。
金貨が地面に落ちる。
次の瞬間、カミュ第二王子、リアス、両方が同時に動いた。
お読みいただき、ありがとうございます!
ハラハラドキドキ展開です……!
もう1話公開します~



























































