その時
「えげつないな……」
「手加減など一切なしか」
「ほぼ防御に徹することしか出来ていません」
ジャスパー、セーブル、アンバーの言葉に、私は喝を入れる。
「あなたたち、どこを見ているの!? カミュ第二王子殿下は本気よ。それでもリアスは防御出来ている。そして勝敗はつかず、どれだけの時間が経過したと思う!? リアスがここまで耐えられる体力を、なぜ褒めないの!」
私の言葉に三人はハッとする。
「確かにこれだけ攻撃を防げるって、ある意味、最強」
「よく見るとカミュ第二王子殿下の方が、息が上がっている」
「実は防御と体力では、リアスの方が優っているのですね!」
そう、そうなのだ!
カミュ第二王子はリアスにあっさり勝てると思っていた。だが攻撃を何度も防がれ、次第に焦り始める。より強力な一撃を繰り出そうとして、じわじわと自身の動きで体力を消耗していた。
「強い踏み込みに、剣を大きく振りかぶれば、その分、筋肉を使うわ。しかもリアスは防御と言っても、受け流すだけではなく、攻撃も避けている。避けられたら、すぐに体勢を立て直すでしょう。余分な動作が増える。しかも連続攻撃を繰り出しているから、カミュ第二王子殿下の体力の消耗が激しいわ」
私の言葉に三人は頷きつつ、セーブルはこんな懸念を示す。
「でも攻撃を避けるには、相当な集中力が必要ですよね?」
「そうね。ある意味、息つく暇もない状態が続いている。体力的には何とか踏ん張れても、精神的にはかなりキツイとおも……」
その時だった。
リアスが膝から崩れ落ち、カミュ第二王子が動きを止める。
「すまないです。あまりにもレイノルズ侯爵令息の避けるタイミングが早く、本来禁じられている背に、剣が当たってしまいました」
カミュ第二王子が自己申告し、リアスに駆け寄る。
背中への攻撃、それは不意打ちにも等しい。特に神経が集中する背骨に当たると、大変危険だ。よって剣術大会では、禁止されている攻撃部位だった。
すぐにアンバーもリアスに駆け寄り、具合を尋ねる。
双方で怪我があった場合に駆け寄るメンバーは決められているため、他のメンバーは待機となるが……。
心臓がバクバクしていた。模擬剣であるし、血が流れたわけではない。それでもリアスが膝をついた事態に、落ち着いてはいられなかった。
決闘は剣術大会とは違う。本来のルールでは相手の命を奪っても許されるのが、この国での決闘だった。ゆえに一般的には禁じられている部位の攻撃も、決闘では無効にはならない。
もしこのままリアスが動かなければ、カミュ第二王子の勝利となってしまう。
(……もしそうなっても、それは仕方ないこと。リアスは剣術歴が、カミュ第二王子より短い。それなのにここまで頑張ってくれたのよ。しかも私を守ると誓い、ここまでやってくれたのだから……!)
涙で視界がぼやける中、アンバーが皆を見た。
ジャスパー、セーブルが肩を落とす。
私は恥じる結果ではないと、顔を上げる。
「続行です」
アンバーの言葉に耳を疑うが、リアスが立ち上がったのだ……!
これにはカミュ第二王子側の立会人たちは「えっ」と言う表情になる。
私は……涙を堪えるため、唇を噛む。
リアスは痛みに耐え、続行を決意してくれた。
私のために、ここで降参しなかったのだ。
昔は泣き虫だったリアス。
最近は乙女になるリアス。
でもいざとなった時のリアスは、この世界で誰よりも頼もしく、私を守ろうとするヒーローだった。
胸に熱いものが込み上げ、全身が震える。
(リアスが戦闘を続行するなら、私も諦めず戦うわ!)
「……続行、されるのですね」
カミュ第二王子はそう言ってから、こんな提案をする。
「僕のミスなので、ハンデを負います。右手ではなく、左手でこの後は戦います」
そう告げると、剣と盾を持つ手を持ち替えたのだ。
カミュ第二王子の剣が、リアスの背に当たってしまったこと。これもまた、この世界の抑止の力だったのかもしれない。よってカミュ第二王子自身は悪くない――とも言えた。それに続行を決めたリアスに、ハンデを負うと宣言したカミュ第二王子には、スポーツマンシップの精神を感じる。
決闘開始直前は、冷たい態度をとってしまった。
(でもカミュ第二王子もまた、この世界の理に翻弄されている一人なのだわ)
そこでリアスの透明感のある瞳と目が合う。もう限界なのかと思ったが、そんなことはなかった。確かにその瞳には、強い闘志を感じる。
(まだ戦えるのね、リアス……!)
私の心の問いかけに答えるように、リアスが頷く。
そこでアンバーが戻り、私が代わりに前へ出た。
もう一度金貨を投げ、決闘は再開となる。
「それでは決闘続行にあわせ、もう一度金貨を投げます」
私の手のひらを離れ、金貨が青空に向かった。
お読みいただき、ありがとうございます!
勝敗の行方を追うドキドキ感はリアルタイム読者様の醍醐味です。
続きはまた明日!!!
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