林間学校
林間学校。
前世では小学校や中学校の時に経験した行事だった。でもこの世界の学校は、前世の高校と大学しかない。
乙女ゲームの運営としては、プレイヤーに馴染みのあるイベントを盛り込みたかったのだろう。そこで採用されたのが林間学校だった。
この林間学校ではヒロインと攻略対象のドキッと展開が用意されている。二人きりで濃密な時間を過ごし、攻略対象のヒロインへの好感度が爆上げされるのだ。
さすがにそんなイベントだからだろう。
デビュタント以降、公務で欠席し、そのままバカンスシーズンに突入していたカミュ第二王子だったが。さすがにこの林間学校には参加する。もちろん、ヒロインとカミュ第二王子以外の攻略対象も。そして悪役令嬢であるも私も、だ。
カミュ第二王子の公務。表向きはあくまで公務であるが、実情は違うらしい。
それを教えてくれたのはジャスパーだ。
父親は法務大臣で、政府の要職についている。
普通は知り得ない情報も耳にできてしまう。
「父上が母上と話しているのを偶然聞いちゃったんだ。カミュ第二王子殿下は、イストス帝国のデビュタントに参加しただろう? そこで第二皇女とは初めて会ったらしいんだ。婚約は、肖像画の交換で会うことなく決まっていたから。それで二人はお互いに一目惚れ。殿下は帰国を渋った。一か月待てばバカンスシーズンなのに。我慢できずそのまま帝国に滞在したらしい」
表向きは公務ということで帰国せず、学校は欠席し、帝国で第二皇女とカミュ第二王子は過ごしていた。つまりヒロインが攻略対象に選んだカミュ第二王子は、帝国の第二皇女にゾッコンということ。
バカンスシーズン中、カミュ第二王子が帰国したのか、それともやはり帝国で婚約者である第二皇女と過ごしたのか。それは分からない。でも林間学校に姿を見せることになったのは、ヒロインの攻略対象として、このイベントは欠かせないからだろう。
もしカミュ第二王子が悪役令嬢である私と婚約していれば、ヒロインであるマーガレットは、難なく攻略できただろう。ところが隣国の皇女などとカミュ第二王子が婚約してしまうから、攻略難易度は格段と上がってしまった気がする。
デビュタントでもカミュ第二王子との距離を縮められたなかったマーガレットが、この林間学校でどこまで挽回できるのか。それは……気になることでもある。だが触らぬ神に祟りなし。ここでもクラスが違うことで、チームだって別々なのだ。気にはするが、関わらないでおこう。
ということで首都の中心部から郊外へ移動し、林間学校の舞台となるレイクミラーに到着した。
レイクミラーはその名の通り、鏡面のような湖面を持つ透明度の高い湖があり、その周辺にロッジが点在している。二泊三日の滞在で生徒は湖を楽しみ、周辺の白樺の森を散策することになっていた。
侍女など同行しないので、身支度は自分たちでしなければならない。ゆえに令嬢も林間学校の間は乗馬服が着用だった。つまりは水色のブラウスに白のジャケット、水色のズボンに黒革のブーツというスタイルだった。
トランクを御者におろしてもらい、受け取ると集合場所に向け歩き出す。
(従者もいないから、自分で荷物も持たないといけない。林間学校は大変ね!)
そんなことを思っていたら。
「アドリアナ!」
声に振り返ると、白シャツに水色のジャケット、白のズボンに焦げ茶色の革のブーツという乗馬服のリアスが、笑顔でこちらへ駆け寄った。リアスのサラサラのブロンドは朝陽に煌めき、透明感のある美しい碧眼は甘く輝いている。
(朝から眼福ね……)
「おはよう、リアス」
「おはよう、アドリアナ」
そう言うとリアスは私の手を取り、甲へとキスを落とす。
「集合場所まで一緒に行こう。そのトランクは僕が持つよ」
「! え、いいわよ。これぐらい自分で持てるわ」
「大好きな婚約者のために何かしたいんだ。それに『ありがとう、リアス』って、アドリアナに言われたいから」
朝から糖度高めの提案をされ、悶絶死そうになる。
(「ありがとう、リアス」なんて、何もされなくても、言って欲しいと言われたら、何万回でも言ってあげるのに!)
「分かったわ……。じゃあ、お願い、リアス。助かるわ」
「喜んで! では行こうか」
リアスと並んで歩き出すと、そばにいる生徒たちの羨望の眼差しを感じる。婚約後のリアスはさらに美しさに磨きがかかっていた。身長もまた伸びた気がするし、私に向ける甘々な表情が増えたのだ。
その表情で私は、一日何度も悶絶死の危機を迎えているが、それは周囲にいる女生徒も同じ。私と婚約したリアスを見て、胸キュン死する女生徒多発案件になっていた。
「B組のリアス・テゼ・レイノルズ……。レイノルズ君はコテージ『エルム』ね。アドリアナ・セレネ・サンフォード……サンフォードさんはコテージ『ハルニレ』ね。場所はその地図を見て。既に先に向かっている生徒がいるから、鍵は開いているわ。荷物を置いたら、しおりに従い行動してね」
「「はい」」
リアスは私をコテージ『ハルニレ』まで見送った後、自身のコテージへと向かった。
お読みいただきありがとうございます!
校正しながらニマニマ
続きはまた今晩に!



























































