アドリアナお姉様!
祖父の家から首都へ戻る時、驚いたことに同行していたメイドと侍女の数が半分になっていた。
というのもイケメン使用人と恋に落ちたメイドと侍女がいて、彼女たちはある者は婚約を解消し、ある者は離婚して、祖父の屋敷にそのまま残ることになったのだ。
祖父も優しいので、メイドと侍女が屋敷に残り使用人として仕えることを許した。両親も祖父が許しているなら……と彼女たちが戻らないことを認めている。
(あれだけ暗い顔で旅立ったのに。最終的にみんなが笑顔になって、本当によかったわ)
こうして私は首都に戻り、六年ぶりで両親と再会した。
「おかえり、アドリアナ!」
「アドリアナ、大きくなったわね!」
六年ぶりに会う両親。
明るいグレーのスーツ姿の父親は、少し貫禄が出た感じがした。一方の若草色のドレスを着た母親は、相変わらず若々しく見える。
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
ベリー色のドレスの私はきちんとお辞儀し、二人に歩み寄る。両親は泣きながら私を抱きしめ、長旅の労をねぎらい、この日はゆっくり休むように言ってくれた。
ここまでは両親も、私が無事に帰館したことを喜んでいたと思う。だが夕食の席では私を探るように観察している。
(私がちゃんとマナーや礼儀を身につけたのか、心配しているのね)
気持ちが分かるので、私は完璧なテーブルマナーを披露した。
「まあ……アドリアナ。とても上品だったわ。もしかしてお義父様が?」
「はい、お母様。お祖父様は元公爵ですから、そこはもうこの六年、きっちりご指導してもらいました。さらにお祖父様は、絵画や音楽、外国語や歴史、数学や古典文学、経営学に天文学など、多岐に渡りいろいろと教えてくださいましたわ」
これを聞いた父親は食後の紅茶でむせてしまう。
「あ、あなた、大丈夫ですの!?」
「あ、ああ、すまないね、パルシェ。つい、取り乱してしまった。それにしても数学……さらに経営学に天文学……。父上はアドリアナを公爵家の当主にするおつもりなのか!?」
こんなふうに両親を驚かせてしまったが、その場で祖父に習った絵画や音楽について語ってみせると、二人は驚きから一転、安堵の表情へ変わる。
私がちゃんとレディらしく振る舞い、教養を身につけたらしいと分かり、それはそれは安心したようだ。そしてこれなら大丈夫だと思ったのだろう。山猿令嬢になっていないかと不安だったが、テーブルマナーは完璧だし、教養も身につけている。そこでということで、翌日の朝食の席、母親からこんな話が出た。
「オーリック伯爵夫人のお嬢さんは、アドリアナと同い年なのよ。それでね、アドリアナが首都に戻ったら、ぜひお茶をしたいとおっしゃってくれていたの。そうしたらアドリアナがまさに帰館したでしょう。早速オーリック伯爵夫人から連絡が来て『よかったらお茶会に来ませんか』ってお誘いいただいたの。ちょうど三日後に、オーリック伯爵邸で開催よ。どうかしら、アドリアナ?」
オーリック伯爵夫人といえば、母親と昔から仲のいいマダムだ。妊婦時代に知り合い、以後毎週のようにお茶をしているはず。
(きっと私のマナーを実践の場で確認するために、お母様がオーリック伯爵夫人に頼んだのね。急遽だけど、お茶会に私が顔を出せるようにと)
「お母様、そのお茶会は令息も参加されるのですか……?」
私は「令息が参加するお茶会だと緊張しそうです」と、無邪気に付け加える。
「今回のお茶会は、レディのみよ。そこは安心していいのよ、アドリアナ」
ヒロインの攻略対象が参加するお茶会だったら……と思ったが、そうではないようだ。ならば事前準備もいらない。気軽に参加し、ちゃんと公爵令嬢として人前で振る舞える姿を見せ、両親を安心させるのがよさそうだ。
(山猿令嬢にむやみやたらになる必要はないわ。第二王子がいる時に、山猿令嬢になればOKよ!)
「分かりました。そのお茶会、参加させていただきます。同年代の令嬢に会えるのは楽しみです。お母様、お誘い、ありがとうございます」
きっちりそう伝えると母親は喜んでくれる。
そしてお茶会までの三日間。
私は淑女教育を受けた令嬢らしく振る舞った。
早朝は乗馬や剣術の練習をしているが、それ以外は読書をしたり、刺繍をしたり。母親と買い物に行き、そこでは流行のデザインの帽子をおねだりしたり。
ちゃんと公爵令嬢らしくして迎えたお茶会当日。
新緑の季節に合わせたシトラス色のドレスを着て、素敵な羽根飾りのついた帽子を被り、馬車に乗り込んだ私は、十二歳には見えない。もう大人の女性に思える。付き添いとして同乗しているアンティークグリーンのドレス姿の母親も、とてもご機嫌だった。
馬車は問題なくオーリック伯爵邸に到着し、オーリック伯爵夫人とその娘であるクリスタに迎えられ、お茶会の会場となるテラスへと案内してもらう。
令嬢たちが座るテーブルと、付き添いであるマダムためのテーブルが距離をあけて設けられている。
今回参加する令嬢は、ホストであるクリスタも含め五人。すぐに全員揃い、和やかにスタートとなる。公爵令嬢である私の隣には、一つ年上の侯爵令嬢、伯爵令嬢はクリスタともう一人で、あとは一つ年下の子爵令嬢。
皆、私が祖父の領地から帰館したばかりと知っているので、この六年をどんなふうに過ごしたのかと尋ねてくれる。そこで山猿令嬢になるべく励んだとは言えないので、淑女教育として祖父がいろいろ教えてくれたことを話して聞かせた。
ここで私ばかり話してもということで、首都で流行しているスイーツのお店や話題のオペラについて教えて欲しいと、質問を投げかける。そうすることで皆がまんべなく話す状況が作れた。
離れた席でこの様子を見ている母親は何度も頷き、私のレディぶりに安心している様子が伝わってくる。
優雅にスコーンを食べ、ペイストリーを楽しみ、お茶会は順調に思えたその時。
カアッ。カアッ、カアッ。
カラスの鳴き声が頭上で聞こえていた。
春、カラスは営巣のため活発に動き回る。それは主に巣作りの材料集めのためだ。かつキラキラしているものを収集するのが大好き。かつ食べ物がそこにあれば――。
「きゃあ」「きゃーっ」
数羽のカラスが素敵な帽子を被り、お茶会をする私たちを狙って急降下してきた。狙いは帽子についている飾り、模造宝石、そしてテーブルの上のスイーツなどの食べ物だ!
祖父の森の生活でカラスについてはしっかり学び、こう言った時の撃退方法は会得している。
「テーブルの下に隠れてください」
まずは令嬢たちを避難させ、「そのクロスを貸してください!」とメイドが手に持っているクロスを受け取って広げると、テーブルの上の食べ物の上に被せた。
食べ物をカラスの視界から消し、同時に巾着袋から手鏡を出し、太陽光をカラスたちに向け、反射させる。さらにテーブルに置かれた使用人を呼ぶためのベルを激しく振り、大きな音を立てた。
カラスは突然の鋭い音、眩しい光に慌てふためく。しかも食べ物は消え、キラキラした巣の素材もなくなったので、あっという間に撤退して行った。
(良し。撃退完了!)
私はガッツポーズだったが、母親を始めとしたマダムと使用人は仰天している。その一方で、テーブルの下から出てきた令嬢たちは……。
「「「「アドリアナお姉様
ありがとうございます」」」」
みんなが一斉に私に抱きついた。
お読みいただきありがとうございます!
お姉様!
アドリアナにファンができました(笑)
この後、もう1話公開します~



























































