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星の指輪  作者: 結城 凪
5/13

休日

朝になった。軽く朝食をとり、リビングを整理して掃除機をかける。普段から、母さんが掃除しているので、さほどすることはなかった。その後、母親と一緒にコンソメスープを作った。レトルトではなくもちろん手料理だ。基本的に母さんがいるときは、すべて手料理だ。カップ麺などのジャンクフードは深夜腹が減ったときに、買いに行く程度だ。栄養あるものをつくるためにたくさんの野菜を入れており、味は少し薄目で完成させた。まぁ、俺は野菜を切る程度しかしてないんだけど。そうこうしているうちに、インターホンが鳴った。

「はーい。」

「あ、朔夜。どこで食べる?」

そこには片手にピクニックなどで使うバスケットをぶら下げた千代の姿があった。荷物はそれ以外見受けられない。どうやら先に道場によって道具を置いてきたようだ。

「リビング空いてるから、うちで食べよう。今、鍵を開けにいく。」

駆け足で玄関に向かい二つの鍵を開けて、千代を招き入れる。

「あれ、零夜君はさっき道場で挨拶したけど。お母さんは?」

「母さんは買い物に行ってる。」

「あ、そうなんだ。む、この匂いはコンソメスープだね。」

「おお、すげぇな正解。流石に何も作らずってわけにも行かないだろ。千代はこのあと動くんだし。重くならないものを、な

「へぇ、よくわかってるじゃん。あ、もうお皿用意してくれてる。」

何を作ってきたかは分からないが、お昼ご飯、しかも千代はこれから運動するのだからおのずと候補は絞られる。だから、あらかじめ用意しておいた。

「私が作ってきたものは、これです!」

そういってバスケットの中身を開く。そこには、様々な具材を取り入れたサンドイッチが綺麗に並んでいた。

「流石、母さん。予想通りだな。」

「まぁ、お昼ご飯だしね。そこにスープを作る朔夜のお母さんにはやっぱり叶わないな。」

「まぁ、あの人が特別なんだよ。調理師免許も持ってるし。」

「ほんとすごいね。」

「ああ、我ながらいい母さんに育てられてるなって思うし、感謝してる。」

母さんは親父とは正反対で、剣道を辞めてからはむしろ話す機会が増えたように感じる。きっと、母さんにまで見捨てられていたらきっとこの家から逃げ出していたに違いない。

「じゃあ、手を合わせて。」

「「いただきます。」」

手を合わせて、サンドイッチに手を伸ばす。

「うん。美味いな。特にこのハムとレタスシンプルだけどやっぱこれだよな。」

「そう?私は、アボカドとチーズサンド好きだよ?うん、コンソメスープ美味しいね。」

「まぁ、俺の母さんが作ったものだからな。」

敢えて、前者の意見軽くスルーさせてもらった。俺にはちょっと分かりかねる。

「そういえば、零夜君の受験勉強はどうなの?」

「ああ、全然問題ないよ。学校からもお墨付きつきだ。」

「すごいね。だって、受験する高校日本のトップクラスじゃん。私たちの通ってる普通の高校とは違うじゃん?」

「まぁな。」

「しかも、剣道は全中二連覇達成してるし。文武両道って言葉がぴったりだよね。零夜君。」

「それを言うなら、千代だってそうだろ?成績も常に上位だし、剣道だって一回地区大会準優勝してんじゃん。」

「ううん。私のは頑張れば誰でもいけるもんだよ?それに、うちの学校の文武両道はあの人しかいないでしょ?」

「あの人って?」

「コゼット先輩だよ。」

「先輩が?頭はいいって聞くけど、運動はあまり聞かないぞ?」

コゼット先輩、コゼット・ヴァルブレッド。先月一日に留学生としてやってきた、イタリア人だ。生まれて程なくしてスペインに移り住んだと聞いたことはあるが詳しいことは知らない。なんせ、先輩とは昨日話すまでは、廊下で数回すれ違った程度だ。知っていることがあるとすれば、十二月の最初にあった期末テストで全教科満点を取る快挙が学校中で話題になった。

「うん。私も昨日までそう思ってた。けど、昨日話してて分かったの。あの人は只者じゃない。」

ここまで、強く肯定されるとぐうの音も出ない。

「その根拠は?」

「先輩の姿勢よ。」

「姿勢?」

「そう。人間ってね、姿勢だけでこの人がどんな人なのかって判断がつくの。特に、私みたいな武道を習っていると、よりそれを感じ取りやすい。」

「あれか?この人猫背だから普段パソコン作業が多いんだな、とか?」

「うん。それと同じ。まぁ、昨日の先輩は立ってただけだし、朔夜はその道の人じゃないからわからなかったかもしれないけど、あの人の立ち姿はまるで武道を極めたものみたいに覇気のある立ち姿だったよ?」

「覇気のある立ち姿?」

「そう。まるで自分以外信じていないみたいな、ね。そして、それは恐らく自分の強さに絶対的な自信を持っているんだと思う。多分、剣道で挑んでも十回やって一本取れるかどうか。」

「え、そんなに⁉」

「うん。多分、基本的な肉体のスペックが高いんだと思うけど。」

「けど?」

「あの人の覇気は決して人間に向けられたものじゃない、と思う?もっとこう、別の何か。」

「別のって。熊とか?」

「先輩のこと野生人だと思ってる?」

「いやいや、そうじゃなくて。けど、人間に向けたものじゃないってそのくらいしか思いつかないけど?」

「まぁ、詳しくはわかんないけどね。少なくともあの人はすごい人だよ。食べ終わったし、そろそろ行くね。」

「おう。あ、バスケット置いといてくれ。パンのかすとか取っておくから。」

「え⁉いいよ、そんな。」

「遠慮すんなって。もう宿題も終わらせて今日はもうやることないから。」

「うーん。じゃあ、お願いするね。」

「任されました。」

そうして、昼食を終わらせた千代を道場に送り届けた。少し、道場を覗くとそこは冬が始まったとは思えないほどの熱気を放っていた。

(もしかしたら、俺もこうやって稽古をする世界があったのかな?)

なんて想像をしていると、

「何をしている?」

とても厳格な声。聞きたくない声。後ろを振り返ってみると、親父、一ノ瀬誠一が立っていた。

「お前は剣道を辞めた身だろ?それとも、何か。いまさら剣を習いたいと思ったのか愚か者。」

そうやって、俺を蔑むように、軽蔑するように。息子とは認めたくないものに話しかけている。

「今さら、教わる気はない。ただ、千代を送り届けただけだ。」

「なら、とっとと失せろ。部外者が神聖な道場に足を踏み入れることは許さん。」

「言われなくとも、そうするよ。誠一。」

俺は家に向かって歩き出した。俺は、中学生になってから親父の前では親父と呼んでいない。これは親父に、

「お前が親父と呼ぶな。」

ということから、親父の前では誠一と下の名前で呼んでいる。もちろん思うところはあるが、勘当されてないだけまだマシだと思ってなんとか自分の中で折り合いをつけている。あの人にとって、剣道を継がなかった俺は半端ものだから。そうして俺は、家に戻りバスケットの手入れを始めた。とはいえ、千代がクッキングシートを被せていたおかげで十分もたたない程度で終わってしまった。

「今は親父もいるし後で渡すか。」

バスケットをテーブルに置いて、自分の部屋で時間をつぶすことにした。


そこは花畑だった。綺麗な花が一面に広がっている。自分でもなんでこんなところにいるのかわからない。空を見上げると黄昏がそこにあった。時間が経過してもそれは色あせることはなく。美しい夕焼けの色をしている。周りを見渡してみる。どうも俺以外の気配を感じない。人間はおろか、鳥から、小さい虫まで動物の気配を感じない。少し歩いてみることにした。近くの丘に向かえば全体像が見えるだろうか。そんなことを考えて目的地の丘に向かっていた。揺らめく風になびかれ時折、花びらをちらつかせる。まるで、天国にいるような夢心地。ここはそもそもどこなのか、頭を働かせていると丘の上に、人影が見えた。迷わず俺は声をかけようとして――――


「朔夜。起きてる?」

部屋の外からぼんやり声が聞こえてくる。まだ、思考が働ききってはいないものの俺はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。

「なんか、変な夢を見ていたような。」

うまく思い出せない。けれど、思い出せないなら特に気にすることはない。むしろ、殺される夢みたいな刺激の強いものを見てしまっては記憶に残るし、嫌な思い出が一つ増えてしまう。これでいいのだ。そう、納得していると、

「朔夜―。あれ、もしかして起こしちゃった?」

ドアを開けて申し訳なさそうに母さんが、部屋に入ってくる。

「いーや。気にしなくていいよ。そもそも寝るつもりなんてなかったし。それよりどうしたの?夜ご飯?」

「あ!そうそう。これ」

母の手を視線を向けると、俺が昼間手入れした千代のバスケットがあった。

「千代のバスケット。ああ、返そうと思ったけど親父がいるから渡しそびれてたんだった。そろそろ練習終わりそう?」

「終わりそうって。もう一時間前に終わってるわよ?」

「え。」

慌てて、時計を見る。時刻は六時十五分を指していた。

「嘘だろ。そんなに寝てたのか、俺。」

「どうするの?もう外も暗いし、明日にする?」

「いいや、千代の家まですぐだし。さっと行ってくるよ。もしかしたら明日とかに使うかもしれないし。それと、夜ご飯だけど俺はいいや。お腹すいてないから。」

「え、でも・・・そうね。わかったわ。お父さんも後片付け終わって帰ってくるころだしね。」

「うん、助かるよ。」

俺は母さんからバスケットを受け取って、そそくさと家を出た。

今日も千代との会話が中心の回でした。

物語はそろそろ動き始めます!

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