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星の指輪  作者: 結城 凪
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日常の終わり

千代の家は俺の家から十分程度だ。公園の角を右に曲がって真っすぐ進むとT字路が見えてくる。T字路の先に小さくはあるが屋敷が見えてくる。それが、千代の家だ。俺は鼻歌交じりでゆっくり歩きながら公園の角を曲がる。そろそろ屋敷が見えてくるかと思ったが、そこで俺は立ち止まってしまった。

「気配がない?」

もう日が暮れているとはいえまだ六時を過ぎたころ。この道路は部活帰りの高校生や、家族連れ、仕事を終えた社会人と沢山の人が使う道路である。であるにも関わらず、いないのだ。人っ子一人として。そんな異常に気づけないほど俺は鈍感ではない。悪寒がする。まるで、今から目にするものがよくないものだと警告するように。冷たい風が吹く。吹いている方へ視線を移すといた。そこには幽霊がいた。白い外套を纏った黒髪ロングの女性。一切言葉を発しない。しかし、これだけなら普通の人間だ。それは浮いていたのだ。確かに、空を飛んでいるのだ。

「ありえない!そんなこと。あっていいはずがない。」

今、起こっていることを全力で否定する。必死に自分自身を正確な判断に戻さないと。一刻も早くあれから離れないと。一歩後ずさりしたところに、何か飛んでくる。

「まずい!」

俺は、全力で後ろに下がった。数秒前まで、立っていたそこには約一メートルの巨大な何かが突き刺さっている。僅かに、冷気を感じる。これは、氷だ。あの幽霊は巨大な氷塊を俺に向かって発射したのだ。つまり、あいつの狙いは俺なのだ。もう一度、幽霊に視線を合わせると、幽霊の手の付近にまた氷が発生している。しかもどんどん大きくなっている。

「逃げないと。」

俺は、一目散に逃げだした。幽霊に背を向けて俺は全力で走る。止まったら終わりだ。事実、後ろから大きな落下音が聞こえてくる。幽霊が何をしているのか分からないが見当はつく。きっと巨大な氷を降らしているのだろう。落下音と同時に発生する地鳴りがそれを物語っている。

「クソ!なんでこんなことに。」

悔やんでも悔やみきれない。あれだけ夜が物騒だと教えられたのに。俺に限ってそんなこと起こるわけがない。楽観視していた。しかも、相手が人間ではなく、ましてあれは生物としてカウントしていいのか分からない化物だ。武術を何も会得していない俺に成す術はない。今は逃げて、あの幽霊がいなくなるのを待つしかない。住宅路の入り組んだ細い道を利用して逃走を図るが依然として落下音と地鳴りがしている。もうかれこれ十分は全力疾走している。

「なんで俺なんかを。」

疑問を口にしながら、俺は家から二キロメートル程離れた大公園に出た。大公園の中を突っ切ってまた細い路地を使おうと考えていたとき、

「あっ。」

気づいた時には、地面に倒れこんでいた。何かに躓いたわけではない。それなのに何故なのか。理由は至極単純で、足が限界を迎えたのだ。ここまで十数分一切スピードを緩めることなく走ってきた。これは、多分俺だけでなくアスリート選手だって音を上げるかもしれない。足に力が入らない、足の感覚も感じない。それだけ俺は必死に逃げてきたということだ。慌てて後ろを振り返ってみる。そこにはもう次弾装填完了と言わんばかりに巨大な氷塊が浮いている。先ほどより一回り大きい。どうやら、ここで決着をつけたいようだ。

「ここまでか。」

本能が嘆いている。どうしようもない。あれが放たれたら間違いなく俺は押しつぶされるだろう。

「短い人生だったな。」

そう言葉を口にしたとき、巨大な氷塊が発射された。結局、俺は人として何かを達成することもなく、生命を終えてしまうのか。たくさんの恩をもらっておいて。ほんとに、済まないことをした。と、目をつぶり、死を受け入れた。だが、氷塊は落ちない。今までの落下音とは違い、パリィーン、と氷塊が砕け散る音が聞こえた。俺は、目を開くとそこには金髪のショートヘアの女性が空中に立っていた。彼女の前に巨大な氷塊は砕け散っていた。俺の方へ振り返り、

「大丈夫?そこの人間さん?」


優しい声がする。見た目はおよそ二十歳前後。白い肌に、ワインレッドとエメラルドグリーンのオッドアイが特徴的な綺麗な顔立ち。白色のパーカーに紺色のロングスカートをなびかせている。あまりの、美しさに声が出なかった。

「ちょっとー?聞こえてますかー?」

「あ、ああ。俺は大丈夫です。」

つい、敬語が出てしまった。いや、あの人は俺を助けてくれたのだから当然か。

「ちょっと話があるから、そこで待っててね。」

彼女は幽霊のほうに向きなおり、腕を振り上げた。すると、とてつもない強風が発生し、その風圧で幽霊の姿は消えてしまった。まるで、空気中に霧散していくかのように。そして地面に降りてくる。けれど、さっきの幽霊とは違い恐怖はない。間違いなくこの人だって、人外のなにかだ。幽霊と比べても規格外だと肌で感じる。それでも俺はこの人から俺に対する敵意を感じなかった。

「立てそう?あそこのテーブルのところで話をしたいんだけど。」

 俺の前にきた彼女は手を指し出す。

「いいですよ。助けてもらったし。俺も聞きたいことがたくさんあるので。」

 彼女の手を取り立ち上がる。まだ、走ることはできそうにないが歩くくらいまでには体力が回復している。俺たちは公園の休憩所にあるテーブルに座った。

「ちょっと待ってね。結界を張り替えるから。」

 そういって彼女が腕を振るう。さっきとは違い、強風を巻き起こすわけでもなく特に変化は見当たらなかった。

「結界?結界ってなんですか?」

「知らないの?まぁいいわ。その辺の話もしないといけなそうだし。」

 そういって彼女は俺の向かい側に腰を掛けた。

「じゃあ、まずは自己紹介ね。私の名前はアヴァロン・アークレーヴェル。長いからアヴァロンって呼んでね。」

「俺は一ノ瀬朔夜。」

「ふーん。よろしくね、朔夜。それで単刀直入に聞くけど、あの悪霊に面識があったりする?」

 いきなり、そんなことを聞かれて少し動揺した。なんせ、今までの十六年間初めての出来事だったのだから、

「いや。初対面だし、あんな人外の何かに出会ったのも初めてです。」

「まぁ、そうよね。朔夜はそっち側の人間じゃなさそうだし。いいわ、全部説明してあげる。」

 そういって、彼女は何もないところから眼鏡を取り出した。

「お、おい!今のはなんだ?なにもないところから眼鏡が出てきたぞ。」

「これは私のスキルね。物質創造っていうもの。ある程度なら好きなものを作れるわ。」

「スキルって?それになんで眼鏡?」

「えっ?人間の先生って眼鏡かけてるんじゃなにの?」

 さも当り前じゃないの?という顔で聞いてくる。この人、人間に対しての偏見すごいんじゃないのか?

「いや、眼鏡=先生とはならん。まぁそのイメージがあるのはなんとなくわかるんだけど。それよりも!」

「うん。まずは根本的な話からね。朔夜は精霊って知ってる?」

「精霊?おとぎ話に出てくるあの精霊?」

「うん、まぁ間違ってはいないわ。けれど、意味合いとしてはもっと広いわ。精霊とは、すべての生命体がもつ星の自然存在のことよ。人間だけじゃなく、動物や植物にも宿っているわ。」

「じゃあ、俺にもあんな力が?」

「ううん。基本的に肉体に精霊が宿っているときは肉体の上限を超えた出力は出せないわ。」

「ってことは、さっき襲ってきたやつは?」

「本来、肉体が死ぬと、魂はこの次元ではない場所に隔離される。所謂、天国とか地獄、あの世って呼ばれてるところね。けれど、何事にも例外が存在する。あなたを襲ったやつは何らかの手違いでこの世に残ってしまったものね。」

「何らかの手違い?」

「この世に未練があるとか、行きそびれたものとか原因は様々ね。だけれど、地球の表に残ってしまった精霊は例外なく汚染されてしまう。」

「汚染って何が原因で?」

「人間。ううん、人間社会ね。」

「なんで、人間社会が原因なんだよ。元々は人間の肉体の中から出てきた精霊だっているんだろう?」

「逆に聞くけど、人間社会はどうやって成り立っているの?」

「それは、地域によるだろけど。森や海を開拓して建造物を建てて文明を繁栄して・・・あっ。」

「そう。人間社会は地球の自然を壊して成り立っているわ。別に悪いことではないと思う。人口七十億人を超えた今はそうしないとこの地球の表では滅んでいくでしょうし。けれど、さっき言ったように、精霊とは星から生み出された自然存在。その、自然を壊して成り立っている人間社会は精霊にとって毒素でしかないわ。」

「それが俺を襲ってきたあいつ。」

「そう。人間的に言うのなら悪霊ね。」

 悪霊。俺はそんなものに追い掛け回されて殺されそうになってたのか。

「で、ここからがあなたに関わってくることなんだけど。本来、悪霊になってしまったものは自我を持たないの。だから、さっきみたいにあなたをずっと追いかけるなんてことはしないはず。」

「でも俺は・・・」

「うん。さっきのやつは操られていたの。何処かの誰かさんによってね。」

「操られていた?」

「うん。裏で手を引いてた何者かがいるはずよ。朔夜は逃げてる途中、他の生命体に遭遇しなかったことに違和感を感じなかった?」

 確かに。俺は約二十分も走り続けた。けれど、誰一人として出会わなかった。逃げることにしか意識を向けてなかったので、今に思うと違和感だ。

「あれはさっき言った結界が原因よ。人除けに防音、何者かによる監視の効力があった。私はその監視を取り除いてより強固な結界に張り替えたの。」

「なるほど。」

 俺に気を使ってくれてたのか。この会話が聞かれるのがこいつにとって都合が悪いのか。わからないが少なくとも俺は今こいつに助けられている。それだけは分かった。

「ざっと説明したけど、どうするの?あなた今回はたまたま私が人間社会の観光をしてるときに、見つけたから助けてあげたけど、このままだと確実に殺されるわ。」

「それは・・・」

 正直、どうすればいいか。俺はただの一般人だ。あんな化物みたいなものみたいなやつと戦う力はない。けれど、方法がないわけでもない。今その可能性ができただけであっていけるかどうかは賭けだがここはイチかバチか・・・

物語の始まりです!


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