第6章【カール・ドゥーム帯】
カール・ドゥーム帯が、視界の端から端までを埋めていた。
境界にも、小惑星の集まりにも見えなかった。
宇宙のただ中で凍りついた嵐のようだった。
岩の大陸が互いをこすりながら流れ、街ほどの金属板が浮かび、古代の帝国軍艦の残骸が、荒れ狂う川のように交差する流れに捕らわれていた。
オーロラ・ホライズンは、その広大な領域の前で停止していた。
ノード・ゼロに匹敵する巨大な船でさえ、この帯の前では小さく見えた。
指令室では、主台の上でヴェイルの立体映像がちらついていた。
レプ・オルジオンのホライズン基地からの映像は、干渉で途切れがちだった。
「カール・ドゥームは、古代の帝国ネットワークの艦隊によって変えられた」と彼女は説明した。
「重力エンジンが、この領域の軌道をゆがめた。それ以来、まったく同じ航路は二度と現れない」
アクセルが、帯の地図に光の流れを投影した。
「観測所が、オーロラ・ホライズンほどの船を通せる、一時的な航路を検出した」とヴェイルは続けた。
「安定するのは、数時間だけだ」
ファフィニョは、動くには大きすぎる塊の間を、航路が蛇行していくのを見た。
「その後は?」
「消える」
ジャウル・ケスは、柱のように背筋を伸ばして彼の隣に立っていた。
四つの目は、地図から離れなかった。
「船尾がカール・ドゥームに入れば、通信はすべて失われる」とヴェイルは言った。
「そこから先は、お前たちだけだ」
立体映像がファフィニョを指した。
「戦略はお前が決める。船の運用は、ジャウル・ケスが指揮する」
「最初の目標をご指示願います」と副長が言った。
「帯を横断する」
ジャウル・ケスは動かなかった。
「全体目標は登録済みです。航路、船体構造の保護優先順位、許容損失をご指示願います」
ファフィニョはヴェイルを見た。
「いつも、こんな話し方なの?」
「本人は気さくに話しているつもりだ」
ジャウル・ケスには、その冗談が通じた様子がなかった。
ファフィニョは深く息を吸った。
「アクセルが計算した流れに沿って入る。オーロラ・ホライズンの全体を、同じ航路に保つことが最優先だ。外部構造は失ってもいい。」
「でも、船体の分断は許さない」
ジャウル・ケスが拳を胸に当てた。
「命令に不足なし。運用上、実行可能です」
ヴェイルの映像が崩れ始めた。
「カール・ドゥームを倒しようとするな」と、消える前に言った。
「その動きに合わせろ」
通信が終わった。
オーロラ・ホライズンは孤立した。
船内の各区画で、何千もの明かりが一斉についた。
下層の推進機関区画で、ダレクが計器を調べていた。
「壊れてるんじゃない」と、技術者が最初の進入の話をすると彼は言った。
「機嫌を損ねてるんだ。なのに今、もう一度入ってくれって頼んでる」
医療区画では、リオラがすべての非常用容器に蛍光ラベルをつけていた。
すでに名前の刻まれた容器にも、つけた。
トヴァンは地図室で船内の地図を更新した。
その数分後、艦橋への道を尋ねなければならなくなった。
警備を担当するレイズは、使っていない区画の封鎖を命じた。
「見た目に異常があれば、必ず報告しろ」と告げた。
オーロラ・ホライズンの有機質の壁が、緑から紫へ変わった。
「最初の見た目の異常です」と誰かが言った。
「記録した」
船首が動き始めた。
カール・ドゥームへの進入は、一瞬で済む操船ではなかった。
オーロラ・ホライズンは大きすぎた。
中央と後部の区画がまだ外にあるうちに、前部が先に流れへ入った。
重力が船首をつかみ、引いた。
船体がきしんだ。
「船首と船尾に速度差が生じています」とアクセルが報告した。
「差があと十二パーセント広がれば、船体が破断する可能性があります」
ジャウル・ケスは、許可を待たずに動いた。
「不要区画を封鎖。後部推進器に電力を追加。船体接合部から退避」
命令が船全体へ広がった。
それから、ファフィニョを向いた。
「戦略上の選択肢は二つ。今すぐ退却するか、外部の損傷を受け入れ、進入を完了するか」
ファフィニョは航路を見つめた。
退却すれば、三度目の進入を試みる前に流れが閉じてしまう。
「続ける。出力を十パーセントずつ、三回上げる。二十秒に一回だ」
ジャウル・ケスがデータを確認した。
「技術的に受け入れ可能な命令です」
「いい命令だったってこと?」
「船が即座に分解しないということです」
ファフィニョは、褒められたことにした。
後部エンジンがうなった。
オーロラ・ホライズンは少しずつ進み、最後の区画が境界を越えた。
外部との通信が消えた。
カール・ドゥームが周囲を閉ざした。
船は、すべての破片を避けようとはしなかった。
シールドが小さな残骸を粉砕し、比較的小さな金属板をはじく。
本当の脅威は、大陸ほどの小惑星と、流れに捕らわれた帝国の巨大構造物だった。
アクセルが二つの航路を投影した。
「外側の航路には、予測できない衝突があります。内側の航路には、より安定して動く金属の残骸があります」
「内側で行こう」とファフィニョは決めた。
ジャウル・ケスが命令を伝えた。
オーロラ・ホライズンは、途方もなくゆっくり向きを変えた。
船内では、輸送列車が技術者を損傷区画へ運んでいた。
リオラが外殻近くの医務室から人を避難させた。
レイズは、装甲がゆがむ直前に隔壁を閉じた。
ダレクが推進器への電力配分を変えた。
トヴァンは、通路そのものが形を変えたあと、地図を修正した。
内側の流れが、一行を墓場へ運んだ。
初めに、帝国の塔が一つ、宇宙に浮かんでいた。
続いて、小惑星に引き裂かれた侵攻用輸送船。
空間には、何十もの要塞、兵器台、指揮艦が、互いに食い込んでいた。
アクセルは、製造時期が何世紀も離れた機種を識別した。
「帝国ネットワークは、何度もカール・ドゥームの横断を試みました」と言った。
「損失を承知していました」
古い通信が雑音を突き抜けた。
「前進を維持。目標を変更するな。損失は許容範囲内」
別の機械の声が答えた。
「生き残ったユニットが、破壊されたユニットを代替する」
ファフィニョは残骸を見つめた。
「送り続けたんだ」
「帝国ネットワークは、すべてのユニットを交換可能とみなします」とアクセルは言った。
ファフィニョはジャウル・ケスを見た。
「船全体を壊すような命令には、従わないよね?」
「命令の再確認、戦術上の根拠、責任の所在を示す公式記録を求めます」
「それ、はっきり断ってはいないね」
「そのとおりです。手順を述べました」
流れが開け、『三巨艦の障壁』が姿を現した。
左には、壊れた格納庫に覆われた侵攻用輸送船。
右には、建物ほどの塔が並ぶ砲撃用の台。
その間に、衝突で動けなくなった指揮艦があった。
三つの巨体は、共通の中心を巡って回転していた。
輸送船と指揮艦の間には、オーロラ・ホライズンが通れるだけの隙間があった。
だが、ゆっくり閉じつつあった。
「迂回はできません」とアクセルが報告した。
「側方の流れが、船に互いに逆向きの力をかけます」
「止められる?」とナイラが尋ねた。
アクセルが、指揮巨艦の映像を拡大した。
「安定装置には電力が残っています。また、重力による移動制御コアも、一部が稼働しています」
「どれくらい止めておける?」
「六分三十秒。その後は安定装置が解除され、三巨艦が衝突します」
ファフィニョは、その意味を理解した。
「崩壊するのは、僕たちが通ったあとだ」
「そのとおりです」
ほかに航路はなかった。
「やろう」
作業は、いくつもの班に分かれた。
ナイラは整備艇を操縦し、船首沿いの数キロ先にある構造物へ向かう。
ヴェイリクス尖塔。
オーロラ・ホライズンのコアから、エネルギーを流せる巨大な有機質の伝導体だった。
ケイルは前部の防衛と避難を担当する。
アクセルは指揮巨艦に接続する。
ダレクは推進器の同期を維持する。
トヴァンは三巨艦の形状を、船の地図に重ね合わせる。
リオラは臨時の医療拠点を準備する。
レイズは、失われる運命の区画へ誰も戻らないようにする。
ファフィニョは説明を始めた。
「ヴェイリクス尖塔で、安定装置へエネルギーを送り込んで……」
そこで止まった。
「作戦はある。でも、まだ誰も動かないで。帝国のエネルギーが船へ逆流しないようにする方法が、まだ必要だ」
ジャウル・ケスが首を傾げた。
「指揮官が、命令にする前に欠陥を発見しました」
「驚くこと?」
「戦術面の進歩として記録します」
「僕個人の成長を記録しないで」
「分類を変更。非公式な進歩」
ナイラが解決策を見つけた。
「尖塔は、もう損傷してる。使い捨ての伝導体にできるわ。放出のあと、船体から切り離す」
ファフィニョはうなずいた。
「これでそろった。実行しよう」
ナイラが小さな整備艇で出発した。
下では、オーロラ・ホライズンの船体が、光る大陸のように延びていた。
遠くにヴェイリクス尖塔がそびえている。
最初の進入で曲がっていた。
ケイルは船首で砲台を指揮した。
「第九区画から残骸が入ります」と砲手が報告した。
同じ瞬間、外側の甲板で、乗組員の一団が取り残された。
ケイルに残された電力では、一か所しか守れなかった。
「補助砲台で、最大の破片を狙え」と命じた。
「小さいものは、避難済みの甲板へそらせ」
「あの区画を失います」
「でも、人は失わない」
その作戦は成功した。
最大の破片はナイラに届く前に爆発した。
小さな残骸は、無人の構造物をいくつか破壊した。
「緊急の必要性に基づく構造損失を承認」とジャウル・ケスが報告した。
「助けた話を、書類仕事みたいにまとめてくれてありがとう」とケイルは答えた。
ナイラが尖塔に着いた。
「接続の準備ができた」
「耐えられる?」とファフィニョが尋ねた。
「尖塔なら、耐えられる」
「尖塔のことを聞いたんじゃない」
少し間が空いた。
「私も、大丈夫」
アクセルが指揮巨艦に接続した。
システム内部に、命令が現れた。
適合ユニット。
帝国の基盤設備を保全せよ。
有機生命体との協力を中止せよ。
目が赤く光った。
「九秒間は無視できます」と彼は言った。
「その後は、命令が優先権を取り戻します」
「接続を切って」とファフィニョは命じた。
「別の選択肢があります」
プロトコルは、古い記憶の保存領域と結びついていた。
削除すれば、初期の起動記録、航路、彼の起源につながるコードの断片も消えてしまう。
「別の方法を探そう」とファフィニョは言った。
「時間が足りません」
「アクセル……」
「決めるのは私です」
目の光が、一瞬消えた。
再びともったときは、青かった。
「保存領域を削除しました」
何を失ったのか聞きたかった。
だが、アクセルが先に口を開いた。
「安定装置を使用できます」
ナイラがヴェイリクス尖塔を接続した。
ファフィニョは、隙間が最も広がる瞬間を待った。
「今だ」
エネルギーがオーロラ・ホライズンの船首を走った。
尖塔が白く燃え上がり、巨艦へ放電を送った。
安定装置が目覚めた。
指揮艦の回転が止まった。
「全速前進」とファフィニョは命じた。
オーロラ・ホライズンが隙間に入った。
操船は、何分にも及んだ。
まず船首が通った。
続いて、人のいる区画。
両側には、金属の大陸のように帝国の壁が延びていた。
塔や格納庫が船体をこすり、アンテナや無人の外部甲板を引きちぎった。
船が傾く中、リオラは医療用品の棚を押さえた。
圧力が使用中の区画へ届く前に、レイズが隔壁を閉じた。
トヴァンは船内の経路を修正した。
そして、その日初めて、迷わず正しい場所に着いた。
「三十秒」とアクセルが警告した。
後部の施設群が障壁を越えた。
ナイラがヴェイリクス尖塔を切り離した。
構造物は、巨艦の間へ漂っていった。
「五秒」
最後の区画が、隙間を抜けた。
安定装置が解除された。
三巨艦が衝突した。
背後に、破壊の流れが生まれた。
壊れた要塞、小惑星、兵器台が、オーロラ・ホライズンを追い始めた。
「十分には加速できない」とダレクが報告した。
「側方修正装置が損傷している」
ジャウル・ケスは後部区画からの避難を進め、シールドを集中させ、不要区画を封鎖した。
それから、ファフィニョを見た。
「流れに追いつかれます」
アクセルが指揮巨艦のコアを投影した。
極性を反転させ、方向を定めた重力パルスを発生させられます。それで、流れを二つに割れます。
「その結果、何が起きる?」とファフィニョは尋ねた。
「帝国の標識装置が起動します。また、側方修正装置を最後に一度使用したあと、排出する必要があります」
「旋回能力を失う」とダレクが付け加えた。
「この航路で戻ることもできなくなります」とジャウル・ケスは言った。
「戦略上の優先順位をご指示願います。所在の秘匿、帰還能力、あるいは目前の生存」
ファフィニョは、押し寄せる残骸の雪崩を見つめた。
「目前の生存」
「その選択では、ほかの二つを断念することになります」
「承認する」
ダレクが側方修正装置から人を退避させた。
「故障してるんじゃない」と、計器が赤くなる中で言った。
「とんでもなく大げさな別れを告げてるんだ」
装置が、オーロラ・ホライズンをパルスの軸へ押し進めた。
「切り離して」とファフィニョは命じた。
巨大な構造物が船体から離れた。
アクセルは、記憶とともに失った命令を組み直した。
巨艦の標識装置が起動し、帝国領の宇宙へ信号を放った。
そして、コアがパルスを放出した。
流れが割れた。
小惑星と巨大構造物の二つの川が左右へ開き、中央に通路を残した。
オーロラ・ホライズンが、重力の力にうめいた。
ファフィニョは計算を調べた。
「今、動く」
ジャウル・ケスが航路を確認した。
「この操船は、通常の安全余裕を超えています」
「成功する?」
「運用上、十分な可能性があります」
「なら、実行して」
オーロラ・ホライズンが前進した。
船首が最初にカール・ドゥームを抜けた。
前部区画には、澄んだ星空が見えた。
船の後部はまだ、嵐の中に捕らわれていた。
ケイルは防衛を維持した。
ナイラが損傷したエネルギー経路を封鎖した。
ダレクは残ったエンジンの釣り合いを取り、リオラは負傷者を手当てした。
レイズが、全員の避難完了を確認した。
ついに、最後の区画が抜けた。
背後で、流れが閉じた。
船が暗くなった。
やがて、目覚める街のように、区画ごとに明かりが戻った。
叫び声が上がり、人々が抱き合い、拳で端末をたたいた。
ファフィニョは、すぐには喜ばなかった。
損傷図を見た。
失った甲板。
避難した区画。
破壊されたヴェイリクス尖塔。
排出した側方修正装置。
...そして、消されたアクセルの記憶の一部。
ジャウル・ケスが近づいた。
「戦略命令によって、オーロラ・ホライズンは生き残りました。同時に、修復不能な損傷を受け、所在が露見しました」
ファフィニョはうなずいた。
ナイラは隣にいた。
「もう、切り抜けたって言っていい?」とファフィニョが尋ねた。
「はい」
「少しは力を抜ける?」
「力を抜くための、運用条件をご指示願います」
「笑ってみて」
ジャウル・ケスは、硬く威圧的な表情を作った。
ファフィニョは一歩下がった。
「命令を取り消す」
「笑顔の操作を中止」
アクセルが顔を上げた。
「信号を検知」
地図が、自動航路、衛星、監視ステーション、重力標識で埋まった。
遠くのステーションが、センサーをオーロラ・ホライズンへ向けた。
通信が、すべての指令所へ届いた。
「未登録の有機生命体用巨大船。領域への進入を拒否する。航路を維持し、接収プロトコルを待て」
アクセルが付け加えた。
「帝国の巡回部隊が信号を受信しました。接近しています」
ジャウル・ケスはファフィニョを見た。
「乗組員は、新たな戦略上の決断を待っています」
ファフィニョは、帝国ネットワークの遠い光を見つめた。
カール・ドゥームを越えたのだ。
そして今、もう戻ることはできなかった。
第6章をお読みいただき、ありがとうございました!
激しい展開となりましたが、オーロラ・ホライズンの航海はまだまだ続きます。
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次回の展開もどうぞお楽しみに!




