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第3章【眠れる船】

第3章 眠れる船


 常識のある者なら誰でも不安になるほどの金属くずを抱え、ファフィニョはホライズン基地の作業場にやってきた。

 困ったことに、ケイルには常識がありすぎるくらいあった。

 ファフィニョは作業台に、帝国軍ロボットの装甲板を二枚、エネルギー蓄積器を一基、運動エネルギーの伝伝部品を数本放り出した。

 さらに、灰色の機体から取った不完全な腕も。

 ケイルはゆっくり顔を上げた。


「俺が想像してるものじゃないと言ってくれ」


 ファフィニョはオレンジ色のマントについたほこりを払った。


「何を想像してるかによるね」

「金がかかって、かさばって、やたら張り切った挙げ句に両腕をなくす方法」

「じゃあ違うよ。ロボットをぶん殴る画期的な方法だ」


 ケイルは修理していた端末を放置して近づいた。

 複数の腕がすぐに部品を調べ、ケーブルをよけ、緑色の煙を吐いている小さなコンデンサーを取り外す。


「こんなもの、どこで拾ってきた?」

「帝国軍の残骸の山」

「山のどの辺だ?」

「まだ光ってた辺り」


 ケイルの動きがぴたりと止まった。


「ファフィニョ」

「何?」

「戦闘が終わっても光ってるものには、大抵、二つの理由のどっちかがある」

「まだ動くから?」

「これから爆発するから」


 ファフィニョはコンデンサーを見た。


「じゃあ、まだ動くんだ」


 ケイルは一度にいくつもの目を閉じた。


「オラクは助言を聞かせるだけじゃなく、頭に叩き込んでやるべきだったな」


 オラクの名を聞くと、ファフィニョの笑顔が一瞬消えた。

 医療室を思い出す。

 包帯。

 正式には、かつての上司の揺るぎない声。

 学ぶ敵に、同じ戦い方をするな。

 ファフィニョは自分の手を見た。


「帝国ネットワークは、僕の戦い方をもう知ってる」と彼は言った。

「使う武器も、動き方も。誰かが危ないと、僕がまっすぐ突っ込むことも」

「計画が半分しかないのに『作戦はある』と言うこともな」

「四分の三くらいあるときもあるよ」

「お前に四分の三まであったことは、一度もない」


 ファフィニョは湾曲した装甲板を二枚持ち上げ、両方の前腕に当てた。


「予想できないものが欲しいんだ。剣でも、射撃でもない。運動エネルギーをためて、殴った瞬間に放出するガントレット」


 ケイルは丸一秒、からかうのをやめた。

 装甲板を一枚取り、内側を調べ、接続線を一本の指でなぞる。


「これは、とんでもなく危険だ」


 ファフィニョは笑った。


「気に入ったんだね」

「技術者として懸念している」

「技術者として気に入ったんだ」


 ケイルは無視して部品を並べ始めた。


「安定装置と絶縁、それから衝撃が全部お前の肩に逆流するのを防ぐ仕組みが要る」

「簡単そうだね」

「今の言葉を一つも理解してないから、そう聞こえるんだ」


 作業場の扉が開いた。

 片手にタブレットを持ったセイルが入ってきた。

 疑わしげな顔は、作業台を見るなり、どっと疲れた表情に変わった。


「何をしてるの?」


 ファフィニョは両手を上げた。


「大丈夫。ちゃんと制御できてる」


 ケイルは二歩下がった。

 セイルも二歩下がった。

 ファフィニョは二人を見つめた。


「なんで二人とも下がるの?」


 背後で、煙を吐いていたコンデンサーが、緑の閃光を放って破裂した。

 セイルは小さな火を指さした。


「それ」


 ファフィニョは布をかぶせ、火を消した。


「熱意が火花になったんだよ」

「避難しろって合図よ」


 セイルは部品を調べ、眉をひそめた。


「この帝国製部品、まだ浄化処理をしてない」

「でも、きれいだよ」

「ほこりを落としても、敵性プロトコルは消えないの」

「道理で、一つが僕に悪口を言ったわけだ」


 ケイルは彼を見た。


「部品に悪口を言われた?」

「攻撃的な音を出したんだ」

「それは警報だ」

「僕個人に向けた感じだったよ」


 セイルはタブレットを台に置いた。


「試験区画と封じ込め用シールド、それから放出量の上限が必要ね」


 ケイルはファフィニョを指さした。


「こいつが後ろに吹っ飛ばない仕組みも要る」

「後ろになんか吹っ飛ばないよ」


 ケイルとセイルは二歩下がった。

 ファフィニョは腕を組んだ。


「それ、やめて」


 ケイルは安全制御モジュールのプログラムを組み始めた。


「名前は『お願いだから後ろに飛ぶな』にする」

「かっこよくないな」

「かっこよさは担当外だ。お前が壁を突き破るのを防ぐのが仕事だ」

「『星の衝撃モード』は?」

「その名前だと安心できそうだろ。この装置にそんな信用を与えちゃいけない」


 一時間後、最初の試験が始まった。

 試作品はファフィニョの拳から肘のすぐ手前までを覆っていた。

 大きく、重く、つながっているケーブルの数も、セイルにはとても賢明とは思えなかった。

 装甲板の隙間で、緑と黄色の線が光っていた。

 ケイルは作業場の奥に試験用のブロックを置いていた。

 セイルが封じ込め用の障壁を起動した。

 ファフィニョが拳を上げた、そのとき扉が開いた。

 アクスが慎重な足取りで入ってきた。

 体にはまだ、ふさいだ亀裂や焦げ跡、ちぐはぐな交換用装甲板が残っている。

 ファフィニョは彼を見た。


「休んでなきゃいけないんじゃないの?」

「適度な運動を伴う部分的な休養です」


 ケイルはロボットを指さした。


「研究室から脱走してきたんだ」

「感情を込めた非難表現です」


 セイルは両手を腰に当てた。


「これが終わったら、修理台に戻るのよ」

「交渉成立と認めます」


 ケイルは障壁の後ろに移動した。


「よし。肘を伸ばしきるな。両方のガントレットを同時に起動するな。前に傾きすぎるな。そして何より、必殺技の名前を叫ぶな」


 ファフィニョはゆっくり拳を下ろした。


「どうして必殺技の名前は駄目なの?」

「お前は叫ぶと、ろくでもないことをするからだ」

「それは証明されてないよ」


 セイルがタブレットの一覧を掲げた。


「記録ならあるわ」


 ファフィニョはまた拳を上げた。


「わかった。叫ばない」


 右のガントレットが低くうなり始めた。

 拳の周囲にエネルギーが集まる。

 ファフィニョは一歩踏み出した。


「ラストワールド・インパクト!」


 拳を突き出した。

 ブロックが爆ぜた。

 衝撃波が工具を巻き上げ、作業台をひっくり返し、ファフィニョを作業場の端へ吹き飛ばした。

 マントを背中に広げたまま宙を飛び、金属くずの山に着地する。

 沈黙。

 頭の上にナットが一つ落ちた。


「無事だよ」


 小さな装甲板が滑り落ち、顔を覆った。


「ただいま、その発言が正しいか検討しています」


 ケイルはタブレットを確認した。


「結果。ブロックは死亡、壁は負傷、そして物理法則に嫌われた」


 アクスが首を傾げた。


「記録を更新。ファフィニョは硬い面との相性が悪いと判明」


 セイルは試験ブロックの後ろにできた穴を見た。


「壁まで無許可で試験に参加したわね」


 ファフィニョは金属くずの山からはい出した。


「でも、成功したよ」

「ああ」とケイルは言った。

「敵と使用者を一緒に倒すのが目的ならな」


 二度目の試験に向け、ケイルは出力を下げた。

 ファフィニョは拳を上げた。


「今度は叫ばないよ」


 全員が二歩下がった。


「だから、それやめて!」


 拳を突き出した。

 ガントレットから弱々しい音がした。

 ぽすっ。

 それ以外、何も起きなかった。

 ケイルは武器を見つめた。


「今度は恥ずかしくなったらしい」


 アクスが近づいた。


「放出不足。補正が過剰なため、作動が制限された可能性があります」


 ファフィニョはガントレットを見つめた。


「裏切られた」

「髪も, 武器も、作戦も」とケイルは言った。

「お前の人生にあるものは全部、何か訴えようとしてるんだ」


 さらに何度か調整したあと、三度目の試験を行った。

 ファフィニョは呼吸を整え、肘を曲げたまま殴った。

 運動エネルギーの波が、新しい試験ブロックを破壊した。

 数メートル後ろへ滑ったが、今度は立っていられた。

 偶然、いかにも英雄らしい構えになっていた。

 ちょうどその瞬間、ナイラが入ってきた。

 レイズの隣に立ち止まり、ファフィニョを見る。

 拳を一つ突き出し、マントをなびかせ、ガントレットから煙を上げていた。


「今の、訓練? それとも、転びそうになったのをごまかしたの?」


 ファフィニョは背筋を伸ばした。


「高度な技だよ」


 髪の先がピンク色になった。

 レイズはナイラを見て、それからファフィニョを見た。


「集中しろ」


 ファフィニョは拳を下ろした。


「ちゃんと集中してたよ」


 アクスが髪を指さした。


「色彩情報が、その主張と矛盾しています」

「僕の髪は技術評価に参加してない」


 ケイルは笑った。


「髪だけ先に本音を届けに来たな」


 ケイルが装甲板を固定している間、アクスはガントレットを解析した。


「帝国ネットワークは、ファフィニョが以前使っていた武器と行動パターンを記録しています」と彼は説明した。

「運動エネルギーを放出する近接戦闘によって、敵の予測能力を低下させられる可能性があります」


 ファフィニョはみんなを見た。


「聞いた? アクスが、僕の案はいいって」

「訂正。危険ですが、機能はします」

「ロボットなりの賛成だね」

「不正確な解釈です」


 ケイルは最後の調整を終えた。


「もう一度、試験するぞ」


 ファフィニョは三つ目のブロックを殴った。

 放出されたエネルギーがそれを破壊した。

 今度は、後ろに三歩動いただけで済んだ。

 ケイルが一度、手をたたいた。


「上出来だ。両腕と、いくらかの尊厳は残った」


 ファフィニョはガントレットを見た。


「名前をつけなきゃ」


 ケイルはうなだれた。


「やめろ」

「星の拳」

「やめろ」

「銀河パンチ」

「やめろ」

/「運命の両手」

「絶対にやめろ」

「マシン・クラッシャー四千」

「最初の三千九百九十九はどうした?」

「試作品」


 レイズが機構を調べた。


「運動エネルギー破断装置」


 ファフィニョは顔をしかめた。


「誰も読みたがらない書類みたいだ」


 アクスが技術仕様の画面を投影した。


「有機生命体補助式二連衝撃推進ユニット」


 全員が黙った。


「技術上、最適な名称です」とアクスは付け加えた。

 ケイルは首を振った。

「日常会話じゃ使えない名称だ」


 ナイラが、蓄積器の一つに刻まれた印を指さした。


「これは何の意味?」


 アクスが読み取った。


「旧有機生命体同盟の防衛部隊で使用された部品です。分類名は、カイロン」


 ファフィニョはその言葉を繰り返した。


「カイロン」


 ナイラが笑った。


「カイロン・ガントレット」


 ファフィニョは、必要な時間より一秒長く彼女を見つめた。


「うん。なんか……戦略的でいいね」


 髪にピンク色が広がった。

 ケイルは二本の手を台に置いた。


「純粋に軍事的な理由で、その名前を採用する」

「集中しろ」とレイズが言った。

「集中してるよ!」とファフィニョは抗議した。


 少しして、ヴェイルが一行を臨時の指令室へ呼んだ。

 カイロン・ガントレットを着けて入ったファフィニョは、真剣な姿勢を取ろうとした。

 右腕の重みで体の釣り合いが崩れ、横へ傾く。

 倒れる前に、ナイラが受け止めた。

 一瞬、二人の距離がとても近くなった。


「気をつけて、アウラル・カイ」

「有能に見せようとしてるときに、それで呼ばないで」

「じゃあ、別のときにするね」


 アクスが、髪のピンク色の先を観察した。


「色彩の変化を検知」

「僕の髪は、この会議には参加してない」

「髪だけ先に来たな」とケイルは繰り返した。


 レイズが座った。


「集中しろ」


 ヴェイルは全員が席に着くのを待った。

 ファフィニョは、オラクから聞いたオーロラ・ホライズンのことを話した。

 ヴェイルの表情が変わった。


「その船は実在した」と彼女は認めた。

「有機生命体同盟の移動基地として造られたものだ。兵士、避難民、工房、病院、さらには飛行部隊を丸ごと運べた」

「どうして、今まで使わなかったの?」とナイラが尋ねた。

「コアが停止した。そのあと、正確な所在もわからなくなった」


 アクスが記録にアクセスした。


「情報不足。オーロラ・ホライズンの存在は確認済み。隠されていることも確認済み。座標は不明です」


 ファフィニョは彼を向いた。


「それだけでも役に立つよ」

「感情に基づく評価として記録しました」


 セイルが端末に向かった。


「同盟の古い記録に、何かあるかもしれない」


 ケイルは彼女の隣に座った。


「侵入するのか?」

「管理上の復旧作業を行うの」

「制服を着た不正侵入だな」


 セイルは無視した。

 二人は何分もの間、何層ものセキュリティーや破損ファイル、古い軍用プロトコルを調べた。

 あまりに古く、ケイルは『パスワードつきの化石』と呼んだ。

 ファフィニョが近づいた。


「何か見つかった?」

「四十三パーセント」とケイルは答えた。


 一分後。


「今は?」

「三十八」

「下がったの?」

「お前が聞いたからな」


 ファフィニョは離れた。

 ナイラは笑みを隠した。

 ついにセイルが不完全な地図を復元した。

 ケイルは、破壊されたと記されていたファイルの中から、埋もれていた座標を見つけた。


「アウリオンテの地下よ」とセイルは言った。

「ホライズン基地につながる旧区画にある」


 レジスタンスの一行は、ヴェイル、セイル、兵士や技術者たちとともに地下へ下りた。

 壊れた昇降機、ほこりに覆われたトンネル、古い紋章のある廊下を通り過ぎていく。

 ケイルはファフィニョのガントレットを見た。


「何か動いても、殴るな」

「怪しい動きだったら?」

「目的を聞け」

「そんなことでロボットが止まったことはないよ」

「お前の質問で止まったこともない」


 最後のトンネルの先で、巨大な扉を見つけた。

 アクスがシステムの一部を起動した。

 ケイルとセイルがエネルギー経路を復旧させ、レイズが機構を照らす。

 ナイラは足元の振動を感じた。

 ファフィニョが古いレバーを引いた。

 折れた。

 全員が彼を見た。


「過去にしがみつきすぎてたんだね」


 ケイルが別の接続口を見つけた。

 扉が開き始めた。

 向こうの格納庫はあまりに巨大で、音が戻ってくるまでに時間がかかるようだった。

 その中央に、オーロラ・ホライズンが横たわっていた。

 巨大で、暗く、ほこりに覆われていた。

 翼が格納庫の両側へ延びている。

 船体から通信塔がそびえ、光の弱い結晶が、命を失った中央コアを囲んでいた。

 珍しく、誰も冗談を言わなかった。

 最初に口を開いたのはアクスだった。


「機体の識別を確認。オーロラ・ホライズンです」


 ファフィニョは見上げた。


「オラクの言ったとおりだった」


 ヴェイルは船を見つめた。


「なら、目を覚まさせよう」


 内部の端末は、一つ残らず停止していた。

 ケイル、セイル、アクスがシステムの再起動を試みたが、コアは反応しなかった。

 ナイラは目を閉じた。


「死んでるんじゃない。封じられてる」


 アクスが構造を解析した。


「中央システムは有機生命体の共鳴と連動しています。Ω共鳴ゲノムに適合する可能性があります」


 ファフィニョは自分の腕を見た。


「また、僕の印に誰も教えてくれなかった機能があるんだ」

「説明書が要るな」とケイルは言った。

「説明書はありません」とアクスが答えた。

「だと思った」


 ファフィニョはコアに手を置いた。

 Ωの印が光り始めた。

 ナイラが自分の紋様を流れにつないだ。

 レイズが配管に光を通し、ケイルとセイルが経路を復旧する。

 アクスは中央システムに接続し、ヴェイルは通路の安全確保を命じた。

 明かりが一つついた。

 続いて、もう一つ。

 船内のエンジンが、深いうなり声を上げた。

 突然、エネルギーが過剰に膨れ上がった。

 ファフィニョは手を引こうとしたが、離れなかった。


「吸い込まれる!」


 ナイラが駆け寄り、空いているほうの手を取った。


「ファフィニョ、私を見て」

「このコア、無視できないことをいくつもやってるんだけど!」

「コアを見ないで。私を見て」


 彼は彼女の目を見つめた。


「私に合わせて呼吸して」とナイラは言った。

「支配しようとしないで。通り抜けさせて」


 ファフィニョは彼女の声に従った。

 輝きが安定した。

 アクスが過負荷を別の経路へ逃がした。

 ケイルが損傷した経路を封鎖し、セイルが伝導部品を調整する。

 レイズはエネルギーを流し続けた。

 オーロラ・ホライズンが目覚めた。

 通路、格納庫、船体の塔に、光が走った。

 すべてが終わったあとも、ファフィニョとナイラは手を握り合っていた。

 距離が、近すぎるほどだった。

 ファフィニョの髪の先が、すっかりピンク色になった。

ナイラは彼を見て笑った。


「無事だったみたいね」

「僕の髪には、僕の代わりに答える許可は出してない」


 コアの反対側から、レイズの声がした。


「集中しろ」


 ケイルがいくつもの手を上げた。


「緊急事態は終わったぞ」

「だからだ」


 オーロラ・ホライズンはアウリオンテの地下を離れ、三つの太陽に照らされた紫の空へ上昇した。

 街中の人々が、それを見に外へ出た。

 出航の準備が進む中、新たな乗組員たちが仕事に取りかかった。

 四つの目を持つ操縦士、ドラール・ヴェクが宣言した。


「滑らかに操船します」


 船が激しく傾いた。

 全員が、何かにつかまった。

 医療主任のミナエ・ルールは、医務室でガントレットを調べているファフィニョを見つけた。


「ここでそれを起動したら、三日間、鎮静剤で眠ってもらいますね」


 あまりに優しい笑顔で言うものだから、ファフィニョは即座に両腕を背中へ隠した。

 トルク・バルが、何階分もの高さのある反応炉の側面をたたいた。


「よしよし、繊細なおちびちゃん」


 エリアル・ノックスは、触角を不穏な赤色に光らせながら、通信は問題ないと言い張った。

 スマ・ケイが静かに航路を修正した。

 計算で正しさが証明されるまで、誰も彼女の声を聞いていなかった。

 最後の準備の間に、ヴェイルはファフィニョと仲間たちを集めた。


「セイルと私は、レプ・オルジオンに残る」


 ファフィニョの目が大きく開いた。


「一緒に来ないの?」

「この惑星には、復興と指揮と防衛が必要だ」とヴェイルは言った。

「レプ・オルジオンから指導者をなくすわけにはいかない」


 セイルが、ガントレットの緩んだ部品を一つ直した。


「それに、あなたたちが帰ってこられる場所を守る人も必要でしょ」


 ファフィニョは目を伏せた。

 人生で最も困難な任務が始まるときに、大切な支えを二つ失うことになる。

 ヴェイルは毅然とした声で言った。


「オーロラ・ホライズンの責任は、お前に任せる」

「そう言われると、ずっと大きなことに聞こえるよ」

「実際、大きな責任だ」


 セイルがガントレットを軽くたたいた。


「ちゃんと無事に持ち帰ってね」

「ガントレットを?」

「あなたも」


 兵士、医療従事者、技術者、操縦士、志願した避難民たちが、乗船を始めた。

 ファフィニョは足場からアウリオンテを眺めた。

 アクス、ナイラ、ケイル、レイズ、性能新しい乗組員たちが周囲にいた。

 下では、ヴェイルとセイルが惑星に残っていた。

 エンジンがうなった。

 街の廃墟に、Ωの印が輝いていた。

 ファフィニョはオラクを思った。

 ブラックを。

 故郷へ帰りたいと願う避難民たちを。

 オーロラ・ホライズンが上昇を始めた。

 初めて、その印は、一人ですべてを成し遂げろと求めているようには見えなかった。

 何千もの人が、共に進もうとしていると伝えているようだった。

 船首が星々へ向いた。

 そして初めて、希望は母艦を手に入れた。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


読者の皆様がこうして『ファフィニョ 帝国ネットワーク』の世界に触れ、物語を共にしてくださることに、作者一同、心より深く感謝しております。皆様の温かいお時間が、この作品を描き続ける何よりの支えです。


物語はここからさらに加速し、ファフィニョたちの次なる熱い戦いと運命へと繋がっていきます。彼らを待ち受ける新たな展開を、ぜひ次の章でも見届けていただければ幸いです。


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皆様の応援を胸に、次章も全力でお届けします。どうぞよろしくお願いいたします!

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