第10章【反攻】
オーロラ・ホライズンは、傷ついたと認めたくない巨大な獣のように、ファブリカ07へ進んでいた。
主砲台が一つなくなっていた。
外側のシールドは、かろうじて許容水準に達していた。
ヴァル・トル環は、まだ仮設部品でつながれていた。
ダレクによれば『誰も細かく見なければ、完全に機能する』部品だった。
横方向の移動は、さらに悪かった。
船が横へ動こうとするたび、船体全体が低く、不快な音を立てた。
「これ、正常なの?」とファフィニョが尋ねた。
ダレクは計器を調べた。
「オーロラ・ホライズンが抗議してる」
「動くことに?」
「全部に」
指令室で、ジャウル・ケスが主画面に残り時間を投影した。
「現在のシールドの状態では、集中砲火に十八分間耐えられます」
「十八分なら、結構長いよ」とファフィニョは言った。
「戦闘中は、長くありません」
「どれだけ早く勝つかによるね」
ジャウル・ケスは、四つの目を細めて彼を見た。
「その考え方で、これまでの修理の多くに説明がつきます」
ファフィニョが弁明する前に、ナイラの端末に信号が現れた。
弱く、不規則。
帝国の雑音の、何層もの下に隠れていた。
ナイラが周波数を分離した。
「ファブリカ07からよ」
フードをかぶった異星人の映像が、数秒現れた。
背後では、煙の下で工場の明かりがちらついていた。
「オーロラ・ホライズン、これを受信したら……まだ入るな」
通信が途絶した。
ナイラが続きを復元した。
「ヴェクトル12が封鎖を維持している。惑星全体の航路、巡回部隊、許可、通信を制御している」
ジャウル・ケスが、ファブリカ07の軌道の外に浮かぶ構造物を拡大した。
三つの金属環が、塔と砲で埋まった中央コアの周りを回っていた。
「ヴェクトル12封鎖ノードです」と説明した。
「稼働している限り、どんな反乱も始まる前に検知されます」
二つ目の信号が現れた。
今度は、惑星からではなかった。
アクセルが調べた。
「帝国の護送船団が、ヴェクトル12へ接近しています。有機生命体同盟の捕虜を輸送中です」
レイズが近づいた。
「キャッシュ404へ行く前に、見失った操縦士たちか?」
「識別情報の一致率、八十七パーセント」
捕虜の中には、セイラ・ヴォン隊長がいた。
ファブリカ07の秘密抵抗組織のコードを管理する士官、イヴェン・コルもいた。
「尋問されたら、反乱軍が見つかってしまう」とナイラが言った。
ファフィニョは船団を見て、次に要塞を見た。
「作戦はある」
アクセルが、すぐに顔を向けた。
「何段階まで完成していますか?」
レイズは出口を確認した。
リオラは医療用の収納を開いた。
ダレクは両腕で端末を覆った。
トヴァンは地図を回した。
ファフィニョが両手を上げた。
「完成してるよ」
誰も答えなかった。
ジャウル・ケスが首を傾げた。
「完全に、完成していますか?」
「うん」
「この出来事を記録する前に、戦略をお聞かせ願います」
ファフィニョは船団を指した。
「ヴェクトル12を正面から攻撃しない。まず、鍵を盗む」
帝国の護送船団は、何年も前に破壊された船からなる残骸群を通った。
中央を監獄船が進んでいた。
二隻の巡洋艦が護衛し、迎撃機、弾薬貨物船、通信船も同行していた。
オーロラ・ホライズンは、古い輸送船の壊れた船体の後ろに隠れていた。
システムの出力を最低限に落としていた。
「補助反応炉、すべて停止」とナイラが報告した。
ダレクは首を振った。
「停止してるんじゃない」
「計器には、そう出てる」
「息を止めてるんだ」
アクセルが顔を向けた。
「オーロラ・ホライズンには、呼吸器系がありません」
「そんな態度で接してたら、そうだろうな」
トヴァンが船団の航路を投影した。
「この通路に入ってくる」
ケイルは地図を見た。
「上下が逆だ」
トヴァンが地図を回した。
「試験だった」
「俺たちのか、お前のか?」
「地図の」
偽の信号が送信を始めた。
電磁的な残骸の中で動けなくなった、帝国の船から出ているように見えた。
船団が減速した。
巡洋艦の一隻が、調査のため隊列を離れた。
ファフィニョは笑った。
「今だ」
オーロラ・ホライズンが目覚めた。
エンジンが残骸群を照らし、監獄船のすぐ近くへ現れた。
帝国の砲の反応は、遅すぎた。
オーロラ・ホライズンの動く砲台が、監獄船のエンジンを撃った。
有機生命体同盟の戦闘機が残骸の間を抜け、通信船を航路から追い出した。
最初の巡洋艦が、回り込もうとした。
「側方移動」とジャウル・ケスが命じた。
ダレクが操縦装置を動かした。
オーロラ・ホライズンは数メートルずれ、巨大なうめき声を上げた。
「今、船が何か言ったね」とファフィニョがつぶやいた。
「指令室では、繰り返せない言葉だ」とダレクが答えた。
トヴァンが、二つの船体の間の細い隙間を指した。
「右へ」
「そっちは左だ」とケイルが言った。
「予防的な、地図上の偏差だ」
オーロラ・ホライズンは船首傾け、巡洋艦の進路をふさいだ。
弾薬貨物船は後退しようとしたが、レイズが牽引していた残骸に退路を閉ざされた。
通信船が孤立した。
「監獄船のエンジン、停止」とナイラが報告した。
「突入班、準備完了」とレイズが言った。
ファフィニョは出口へ走った。
リオラが箱を持って待っていた。
側面には、こうあった。
ファフィニョが『まだ使える』と言うもの。
「僕のガントレット」と彼は言った。
「左は修理できた」
「右が必要なんだ」
リオラが箱を開いた。
右のガントレットが火花を放った。
ファフィニョは一歩下がった。
「エネルギーの実演だよ」
「脅しよ」
リオラは左だけを渡した。
「腕の数を減らさずに帰ってきて」
「できるだけ頑張る」
「その答えじゃ、安心できないわ」
監獄船は、焦げた金属と再生空気のにおいがした。
レイズが先頭を進んだ。
ファフィニョ、ナイラ、ケイル、アクセルが、有機生命体同盟の兵士六人と続いた。
主通路で、最初の帝国軍ユニットが待っていた。
ファフィニョは左のガントレットを上げ、二体のロボットを倒す放電を撃った。
反動で、後ろへ飛んだ。
ナイラがマントをつかんだ。
「ちゃんと制御できてたよ」
「壁に向かって飛んでたけど」
「攻撃用の軌道だよ」
重力が消えた。
兵士、武器、金属片が浮かび始めた。
ファフィニョはガントレットで姿勢を安定させようとしたが、ゆっくり回り始めた。
「まだ、ちゃんと制御できてる」と言い張った。
「もちろん」とナイラが答えた。
彼女は手を取り、足場へ引いた。
「放さないで」
ファフィニョの髪がピンク色になった。
「放すつもりはなかったよ」
ナイラは体を押し出し、ハッチへ向かった。
「今度は、好きに受け取っていいよ」
ファフィニョは完全に固まった。
重力が戻った。
天井へ頭から落ちた。
そこは突然、また壁になっていた。
ケイルが、彼の脇を漂っていった。
「実に優雅だ」
「二度目の攻撃用軌道だよ」
独房の制御室に着いた。
アクセルがネットワークを調べた。
「直接接続すれば、開けられます」
「駄目だ」とケイルが言った。
「そのほうが速いはずです」
「ザイラックスが、お前のシステムに入るかもしれない」
アクセルは、その答えを処理した。
「それは、班の効率を下げます」
ケイルはポケットから部品をいくつも出した。
ファフィニョは彼を見た。
「それ、全部持ってたの?」
「役に立つかもしれない」
「一つ、ねじ山のないねじに見えるけど」
「まだ出番が来てないだけだ」
ケイルが外部の接続装置を組み立て、端末につないだ。
「アクセルに直接入るものは、何もない。全部、これを通す」
独房が、一つずつ開き始めた。
捕虜が出てくる間、レイズと兵士たちは通路を守った。
セイラ・ヴォンが、壁に体を預けながら現れた。
「もっと時間がかかると思ってた」
「地図上の偏差が生じました」と、通信機越しにトヴァンが答えた。
「何の意味か、さっぱりわからない」
「誰にもわからない」とケイルが言った。
ヴォンは、イヴェン・コルがもういないと確認した。
「ファブリカ07へ送られた。中央施設で尋問するつもりだ」
レイズは顎を引き締めた。
「助け出す」
アクセルが最後の独房を開ける間、ケイルの接続装置が、違う警報を出した。
セキュリティーの信号ではなかった。
隔離された識別情報だった。
アクセル・イベントの構造に似ていた。
ケイルが装置の一部を切り離した。
「待て」
「どうしたの?」とファフィニョが尋ねた。
「干渉だ。大したことじゃない」
アクセルは、うそだと理解した。
ケイルが声を落とした。
「わかるか?」
「帝国の隔離プロトコルと、一部が一致します」
画面に、隠された参照情報が現れた。
パッチ・シー/0。
認知自律性の異常。
主要な記録保管先。
ヴェクトル12。
ケイルは、経路だけを写した。
参照情報には、小さな試験記録がついていた。
三体のユニット。
一体は記憶を取り戻し、命令を拒んだ。
一体は、矛盾する命令の間に閉じ込められた。
三体目は、自我を完全に失った。
誰かが近づく前に、ケイルは画面を隠した。
「あとで」とささやいた。
アクセルも、同じ小さな声で答えた。
「二人だけで」
避難は続いた。
巡洋艦が隊形を立て直す前に、オーロラ・ホライズンは通信船を捕獲した。
アクセルとトヴァンが、通過用の識別情報を取り出した。
巨大船は通信船の後ろに隠れ、その信号を再現した。
ヴェクトル12が、接近用の通路を開いた。
要塞が、目の前で大きくなった。
三つの回転する環。
送信塔。
ゆっくり照準を合わせる砲。
「走査されてる」とナイラが言った。
「あと、どれくらい?」とファフィニョが尋ねた。
「通信船が半分なくなってるって、気づかれるまで」
「結構、気づきそうだけど」
要塞が警告を発した。
砲が起動した。
ジャウル・ケスが、作戦の投影を拡大した。
「外部モジュール、準備完了」
ナイラ、ケイル、アクセル、レイズ、兵士数人が、貨物モジュールの中で待っていた。
ファフィニョは、オーロラ・ホライズンに残った。
ハッチが閉じる前に、ナイラを見た。
「君を信じてる」
ナイラは笑った。
「指揮官としてだけ?」
ファフィニョは、使える言葉を全部失った。
「指揮官……として、それから……指揮する人。人として、全般的に。とても優れた、運用上の人」
ジャウル・ケスが彼を観察した。
「言語能力に損傷が生じています」
ナイラはモジュールへ入った。
「私、何も言ってないよ」
ヴェクトル12の機械の腕が貨物モジュールをつかみ、要塞の中へ引き込んだ。
オーロラ・ホライズンが砲撃を始めた。
ナイラは、すぐに見覚えがあるとわかったエネルギー通路を使い、潜入を率いた。
その配置は、父に関係する研究ファイルに似ていた。
父が設計を手伝ったのか、帝国ネットワークが研究を盗んだのか、わからなかった。
確かめる時間はなかった。
「下の経路へ」と命じた。
「コアは、冷却室の奥にあるはず」
ケイルとアクセルは、数秒だけ一行から離れた。
記録が示す部屋を見つけた。
中には、隔離された記憶ユニットがあった。
意識パッチの断片。
アクセルは、接続せずに解析した。
「理論上の機能は、絶対的な服従の停止です」
「機械を自由にするのか?」
「選ぶことを可能にします」
ケイルは危険を調べた。
「消してしまう可能性もある」
「あるいは、私の体から自我が失われ、ザイラックスの転送を容易にする可能性もあります」
ケイルは、隔離した記憶ユニットに一部の写しを保存した。
「誰にも言わない」
「了解しました」
「ファフィニョにも」
アクセルは、ほんの一瞬ためらった。
「了解しました」
離れたことをほかの者が気づく前に、ナイラのもとへ戻った。
送信中枢で、ナイラは、すべてのデータを写していては時間内に脱出できないとわかった。
ファイルの中に、父につながる参照情報があった。
あと数個の命令を入力すれば、開けた。
レイズが残り時間を見た。
「三十秒」
ナイラは、個人的なファイルを閉じた。
封鎖用のコードだけを写した。
「出るわ」
ケイルが彼女を見た。
「もう一つのファイルは、調べないのか?」
「生きて出る時間が、十分あるときに」
過負荷を起こす装置を設置した。
外では、オーロラ・ホライズンが三つの環すべてから砲火を浴びていた。
シールドが十二パーセントに落ちた。
煙まみれのダレクが現れた。
「もう、機嫌を損ねてはいない」
「いいこと?」とファフィニョが尋ねた。
「今は、激怒してる」
ヴェクトル12の砲が、救出した操縦士を運ぶ輸送艇を狙った。
ジャウル・ケスは、オーロラ・ホライズンの周囲にシールドを保つよう勧めた。
ファフィニョは首を振った。
「僕たちの船を、間に入れる」
「ヴァル・トルが崩壊する恐れがあります」
「あの操縦士たちは、もう一度置き去りにされてるんだ」
オーロラ・ホライズンは、飛来する砲火と輸送艇の間へ動いた。
外側のシールドが砕けた。
指令室が、一秒暗くなった。
側方移動システムが反応しなくなった。
ファフィニョは主中継器へ走り、左のガントレットを接続した。
共鳴エネルギーが、回路を安定させた。
「ナイラ、状況は?」
「過負荷の準備完了。九十秒必要」
「九十秒、確保する」
ジャウル・ケスが残り時間を見た。
「送信機は、八十五秒で制御を取り戻します」
「なら、五秒奪おう」
要塞の無人機が、オーロラ・ホライズンを囲んだ。
ガントレットが腕の周りで熱くなる中、ファフィニョは砲台、戦闘機、エンジンを連携させた。
八十秒。
八十五秒。
送信機が再起動を始めた。
「爆破する必要があります」とジャウル・ケスが警告した。
「ナイラは九十秒と言った」
「八十七秒が経過しました」
「なら、あと三秒ある」
ヴォルジャ・ケルで、ミラーは無人機を通して戦いを見ていた。
ファフィニョが潜入を率いると予測していた。
間違っていた。
記録した。
原個体は、権限を分配する。
システムにつながれた玉座から、ザイラックスが訂正した。
「役割を分配しているのだ」
ミラーは、別の結論をひそかに保存した。
服従によって率いているのではない。
ザイラックスは、ケイルの外部接続装置の識別情報を観察した。
認知に関する記録を取り出すところも見た。
阻止は命じなかった。
「私の手の届かぬところへ、どうやってあいつを置こうとしているか、これでわかった」とつぶやいた。
残り一秒で、ナイラのモジュールがヴェクトル12から出た。
「今!」と彼女が叫んだ。
ファフィニョが過負荷を起動した。
中央送信機が爆発した。
一つの環が止まった。
別の環は、制御不能の回転を始めた。
ファブリカ07への障壁が消えた。
オーロラ・ホライズンは一行を回収し、通路へ加速した。
通信を失う前に、ヴェクトル12は最後の警告を一つ送った。
ファブリカ07は、彼らが来ると知っていた。
オーロラ・ホライズンの外側のシールドは、失われていた。
ケイルの接続装置は、焼けた板の山になっていた。
手に入ったのは、パッチの断片だけだった。
そして、帝国の援軍は、もう向かってきていた。
それでも、通路は開いた。
ファブリカ07が、目の前に現れた。
工場に覆われた大陸。
軌道上の造船所。
煙を吐く塔。
帝国ネットワークが兵士、武器、船、人工知能を製造する、何千もの構造物。
ジャウル・ケスが、盗んだデータを投影した。
「ファブリカ07が動く限り、破壊した軍は、すべて補充されます」
ナイラが生産ラインを調べた。
「解放すれば、私たちがあの工場を使えるかもしれない」
「武器だ」とレイズが言った。
「船も」とダレクが付け加えた。
「まだ起動していないロボットも」とアクセルが続けた。
ファフィニョは、ファフィルの投影を見た。
「その全部が、故郷に帰る力になる」
ジャウル・ケスが、セルヴ09の防衛設備を拡大した。
「ファフィルは、この戦役で最も困難な作戦の一つとなります。それ以上の危険があるのは、コア・オメガだけです」
ファフィニョはうなずいた。
ファブリカ07の解放は、故郷から彼を遠ざけることではなかった。
取り戻すために必要な力を、築いていた。
ケイルは艦橋の後方に残った。
隔離した記憶ユニットは、上着の下に隠していた。
アクセルが近づいた。
「識別情報は、まだ無効の状態です」
「そのままにしておけ」
「ファブリカ07なら、断片を調べられるかもしれません」
ケイルはほかの者を見た。
「でも、誰にも知られてはならない」
「了解しました」
「俺たちだけの秘密だ」
「私たちだけの」
ファフィニョが全体通信を開いた。
「帝国ネットワークは、ほかの世界を支配するために使うすべてを、ここで製造している」
オーロラ・ホライズンの各所に、ファブリカ07の映像が現れた。
「この惑星を解放すれば、ザラックスは軍を造る工場を失う。僕たちは、残る三つを解放するための力を手に入れる」
現地の抵抗組織の信号がちらついた。
待っていた。
「ここからは、一つの勝利が、次の勝利へつながる」
軌道上の造船所が動き始めた。
惑星の周囲に、何千もの赤い信号が現れた。
「進入区域まで、三十秒」とアクセルが告げた。
ファフィニョは画面の前へ出た。
「全員、持ち場へ」
帝国の武器が、標的を捕捉した。
「十秒」
オーロラ・ホライズンが速度を上げた。
前方で、軌道上の門が開いた。
「五秒」
ファフィニョは深く息を吸った。
警報が鳴り始めた。
オーロラ・ホライズンは、ファブリカ07へ突入した。
第10章をお読みいただき、ありがとうございました!
ヴェクトル12を突破し、ついに巨大工場惑星ファブリカ07へと突入したオーロラ・ホライズン。物語はさらに大きな反攻のステージへと進みます。
もし今回の新章を楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の評価(★)をいただけますと、今後の翻訳・執筆活動の非常に大きな励みになります。
次なる激戦もどうぞお楽しみに!




