5 金之助、診断結果を検討する
あまりの衝撃的な結果に愕然としたが、「※本判定は回答内容に基づく推定であり、医学的・心理学的な診断ではありません。」ということなので、気を取り直して冷静に検討することにした。
まず、この結果は「回答内容に基づく推定」であるから確定事項ではない。あくまで「推定」という点がミソだ。推定とは「手元にある限られた事実やデータをもとに、おしはかって物事を決めたり推測したりすること」「根拠や理由をもっておしはかる点で、根拠の薄い単なる「推量」とは区別されます」。
「推定」「推量」「推測」と似たような言葉が並んで頭が混乱するが、要は「おしはかる」ということらしい。ここで「おしはかる」とは……?、などとつづけると、これまた意味不明になってしまうので、深く立ち入らない。
次に、先に提示された結婚に必要な五箇条の御誓文を見ると、
第一、相手を現実の人間として見ること。
第二、自分の欠点を認識すること。
第三、意見の相違を処理する能力。
第四、面倒なことから逃げない姿勢。
第五、相手に対する敬意。
これまた意味不明なのだが、それでも第二条によると「欠点のある人間同士が、日常的に発生する不都合を引き受けながら生活すること」とあり、「欠点のある人間」の存在は結婚にとって必須の要素らしい。不都合も日常的に発生するようなので、結婚とは、欠点のある人間同士が不都合とともに暮らすという、かなり難易度の高い生活形態のようだ。
とすると、おれの結婚適正18点というのは、つまりこのように整理することができる。
・欠点が非常に少ない。
・日常的に発生する不都合も少ない。
18点というのは、結婚に必須の要素が欠けている、あるいはその程度が著しく低い、ということである。
先の診断は、「欠点が多く、不都合が発生する頻度が高いほど結婚適正のスコアは高くなる」という仕組みだったのだ。欠点のある人間同士が不都合とともに暮らすという結婚の枢要から考えてみれば当然の帰結だ。欠点のない人間同士が何の不都合もなく暮らしたら、それはもはや結婚生活ではない、ただの同居生活だ。
こんなことだろうとは最初から思ってはいたが、突然の不意打ちを食らって、ちょっち狼狽してしまった。
しかし、この五箇条の御誓文は参考になる。
第一条、「相手が実際に何を考え、何を望んでいるのかを確認する」。
第三条、「相手が自分と異なる意見を持っている」。
第四条、「家事、金銭、親族、将来設計など、結婚生活には避けて通れない問題が数多くあります」。
第五条、「分からないときには、推測するよりも尋ねるほうが確実です」。
第四条が日常的に発生する不都合というものだろう。次々と襲ってくる不都合に対して、欠点だらけの人間が協力して立ち向かう、しかも意見が異なるというハンディ付き。意見が異なる相手と協力して、避けては通れない問題を解決していくという。
相手が何を考え、何を望んでいるのかを確認し、推測するのではなく実際に尋ねて確認する。
なんだか非常に面倒くさくなってきた。おれのような欠点の少ない人間がわざわざ結婚する必要があるのだろうか。そもそも結婚しなければ「結婚生活において頻発する不都合な現象」に遭遇することもないわけで、ましてや意見の異なる欠点だらけの人間と共同生活を送るなどという苦行もしなくて済む。
いつもなら延々とこれらのことを検討し尽くすのだが、御誓文によると「推測するよりも尋ねるほうが確実」ということなので、詳細は熊子と検討することにした。
熊子にも当然欠点はあるはずで、まずは両者の欠点をお互いに確認する必要がある。おれほど欠点の少ない人間も少ないはずで、なぜなら18点というスコアは並大抵の数字ではなく、熊子が仮に70点だとするとおれの4倍近い欠点が存在することになる。そんなに欠点の多い人間と共同生活が送れるかという問題はさて措き、まずは熊子の欠点を洗い出さねばならない。いきなり尋ねて大人しく告白してくれるとも思えないので、まずはおれがどういう人間なのかということをよくよく知ってもらってから、そののち、じっくり吟味することにしよう。
ということで、熊子に見せるために診断結果をプリントアウトすることにした。ついでに結婚する方向へ進んだ場合に備えて、ロードマップも作成することにした。一応、脳内にはすでにあるのだが、目に見える形にしておいたほうがいいだろう。熊子の反応も反映する必要があるし、Xデーの設定が難しい。まずは手を握って、スリスリして、それから、それから……。いやいや、これもなかなか難儀な作業だ。いわゆる世にいうABC問題というものらしいが、まことにもって面倒くさい。そもそもAがチューとか意味がわからない。Aは手をにぎにぎだろう。で、次がスリスリ、これがB。Cは……。
このあたりも熊子に確認しなければならない。しかし、「嫌よ嫌よも好きのうち」ということもあるから困る。昨今のコンプライアンス問題の高まりを考えると、一瞬の判断の誤りが命取りにもなりかねない。君子危うきに近寄らずとはよく言ったものだ。
あんまりだらだらと考えていても仕方がないので、とりあえず、熊子とのミーティングをセットすることにした。まずは会って話をしてみることだ。
今日は頭が冴えてるな。




