第4話 洞窟の番人
洞窟の中に、大きな声が響き渡った。
「そこにいるのは誰だ!」
ユウは思わず後ろへ下がった。
モコもユウの肩にしがみつく。
ルルはユウの後ろに隠れた。
「だ、誰……?」
ユウが小さな声で尋ねる。
すると、洞窟の入り口から大きな影がゆっくりと近づいてきた。
一歩。
また一歩。
足音が洞窟の中に響く。
やがて、青い光に照らされて、その姿がはっきりと見えてきた。
「……え?」
ユウは目を丸くした。
そこにいたのは、大きな体をした動物だった。
体は茶色い毛で覆われていて、頭には二本の小さな角がある。
ユウの身長よりもずっと大きい。
けれど、その顔は怖いというより、どこか困っているように見えた。
「あなたは……誰?」
ユウが尋ねる。
大きな動物はユウをじっと見つめた。
「それはこちらの台詞だ」
「え?」
「ここは森の大切な場所だ。人間が入ってくる場所ではない」
ユウは少し困った。
「ご、ごめんなさい」
「ユウは悪くないよ!」
モコがユウの肩から飛び降りた。
「ぼくが連れてきたんだ!」
「モコ?」
大きな動物はモコを見ると、驚いた顔をした。
「モコ……お前だったのか」
「知ってるの?」
ユウが聞く。
「もちろんだ」
大きな動物はゆっくりとうなずいた。
「私はガルド。この洞窟を守る番人だ」
「番人……」
ユウは石の扉を見た。
「じゃあ、あの扉を守ってるの?」
「そうだ」
ガルドは扉の前へ歩いていった。
「この先には、森にとって大切な場所がある」
「どんな場所なの?」
ユウが尋ねる。
ガルドは少し黙った。
「それを話す前に、一つ聞きたい」
「なに?」
「なぜ、この森へ来た?」
ユウは答えを考えた。
最初は暇だったから森に来ただけだ。
でも、今は違う。
「助けを求める声が聞こえたから」
「……」
「誰が困っているのかは分からないけど、助けられるなら助けたい」
ガルドは黙ってユウを見つめた。
しばらくすると、ゆっくりとうなずいた。
「なるほど」
「信じてくれるの?」
「少なくとも、お前から悪いものは感じない」
ガルドはそう言って、ユウの持っている青い箱を見た。
「その箱を見せてくれ」
ユウは箱をガルドに見せた。
すると、ガルドの目が大きく開いた。
「それを……どこで見つけた?」
「森の中で拾ったんだ」
「そうか……」
ガルドは青い箱を見つめたまま、何かを考えている。
「どうしたの?」
ユウが聞く。
「その箱は、昔から森に伝わる大切なものだ」
「昔から?」
「ああ」
ガルドは石の扉を振り返った。
「そして、その箱を持つ者だけが、この扉を開くことができる」
ユウは扉を見る。
「じゃあ、僕が開けられるの?」
「試してみるといい」
ユウは恐る恐る扉へ近づいた。
扉の真ん中には、小さなへこみがある。
そこへ青い箱を近づけてみる。
すると――。
ピカッ!
箱から青い光が飛び出した。
光は扉の模様へ流れ込んでいく。
カチッ。
小さな音がした。
そして――。
ゴゴゴゴゴ……。
大きな音を立てながら、石の扉がゆっくりと開き始めた。
「開いた……」
ユウが驚く。
扉の向こうには、青い光に包まれた長い道が続いていた。
その奥から、かすかな風が吹いてくる。
そして――。
「……たすけて」
また声が聞こえた。
ユウは顔を上げた。
「この先にいる!」
モコが叫ぶ。
「うん!」
ユウは扉の向こうへ進もうとした。
しかし、ガルドが立ちはだかった。
「待て」
「どうして?」
「この先は危険だ」
ガルドの声は真剣だった。
「何があるの?」
「森を壊そうとしているものがいる」
ユウは驚いた。
「森を……壊す?」
「ああ」
ガルドは洞窟の奥を見つめた。
「そして、その者が探しているものが、この先にある」
ユウは青い箱を握りしめた。
「じゃあ、行かないと」
「怖くないのか?」
「怖いよ」
ユウは正直に答えた。
「でも、助けを求めてる人を置いていけない」
ガルドはしばらくユウを見つめた。
やがて、道を空けた。
「分かった」
「いいの?」
「ああ」
ガルドは大きくうなずいた。
「森の未来を、お前に託そう」
「僕に?」
「青い箱がお前を選んだのなら、きっと理由がある」
ユウは少し不安になった。
自分はただの小学五年生だ。
特別な力があるわけでもない。
それでも、ここまで来たのなら進むしかない。
「行こう、モコ」
「うん!」
「私も一緒に行く!」
ルルもユウの隣に並んだ。
「私だって森の仲間だもん」
ユウは笑った。
「ありがとう、ルル」
三人は青い光に包まれた道を歩き始めた。
その後ろで、ガルドは静かに扉を見つめていた。
「どうか、間に合ってくれ……」
誰にも聞こえない小さな声で、ガルドはつぶやいた。
ユウたちはまだ知らない。
この先で待っているものが、森の運命を大きく変えることを。
そして、助けを求めている声の正体が――。
ユウの想像もしていなかった存在であることを。




