第一話
第一話
気がつけば二人は街の中にいた。
なぜか手を繋いで。
「ちょっと……なんで手を繋いでいるのよ。」
「い、いや、これは事故というか、なんか勢いで手を繋いでただけであって、決して下心からでは……純粋に転生という未知に対する生理現象みたいなもんだ。」
パシッと容赦なく手を払う琴葉。暁人は少し申し訳なさげにも見えた。
「大体、純粋と言い出すやつに限って不純なのよ。」
「待て待て待て、これは本当に『純粋』に気がついたら手を繋いでしまっていたんだよ!」
琴葉は目を細めて、視線を俄かに逸らす。
「つまり……ビビりってことね。」
「待て、お前はそもそも異性に突然手を握られるほど美人では……。」
と言いかけて、二度見する暁人。
「いや、そこそこ、あれ?結構美人さんなのでは?」
「美人かどうかなんて今はどうでもいいでしょ。」
「私たち、これからどうするのよ。」
「うーん、あのイカれたロン毛には特に何か指示を受けてるわけでもねーんだよな。」
「そこよね、問題は。人生やり直しとか言われたけど……。」
お互いの空間に気まずさが漂った。
暁人はそれを長く滞留させたくなかった。その雰囲気を振り払うように続ける。
「とりあえずよー。冒険者ギルド?とかあるんだろ?あいつの説明だと。」
「そこ行くしかなくねぇか。つえーんだろ、俺たち。」
「まぁあいつの説明通りなら、チートみたいなものよね。運営にBANされないといいけどね。」
「お前、かなりやり込んでたろ?」
琴葉は固まった。世界から一瞬、切り離された。
だが、すぐに帰還した。平静は取り戻したようだった。
「さ、さぁ冒険者ギルドへ行くわよ!」
琴葉は踵を返し、大通りへ向かう。それに遅れて暁人も歩き出す。
(こいつ、昔、なんかあったな……。)
(まぁ、俺も大概、か。)
冒険者ギルドはすぐに見つかった。
理由は簡単、大きい。大きすぎるのだ。
「この建物の大きさだけで、冒険者の需要が高いのがわかるわね。」
「つまり国は、あまり庶民に介入しないのか、それとも……。」
黒のセミロングがゆらゆら揺れながら、歩く。
それを眺める暁人。
(この人、本当に失敗した側なのか?)
(普通に勝ち組に見えるが。)
ナノアルドからは、世界の説明などは受けていた。装備一式も渡されていた。暁人は黒を基調とした軽装鎧にロングコート風のマント。そして腰に魔剣だかなんだか大それた肩書きのついた片手剣。
一方、琴葉は動きやすいロングコート。腰には魔道書を携え、短杖を持っている。
見てくれだけなら、世界から遊離しているということはなさそうだ。
冒険者ギルドの扉を開けると、カランと音がなり、喧騒が支配する空間だった。一瞬視線を感じたが、長くは続かなかった。
受付へと足を運ぶ二人。
「えっと……私たち、冒険者になりたいのですけども……。」
「はい、かしこまりました。登録希望の方ですね。」
「私は受付をしております、エリスと申します。こちらに必要事項をご記入ください。」
琴葉の字は異世界言語だったが、明らかに達筆だった。
しげしげと記入された文字を見るエリス。
「……はい、確かに。それではまずあなた方はFランク冒険者として活動していただきます。」
「掲示板にランク分けされて、依頼が貼り付けてありますので、Fランクの項目からお好きな依頼をお選びくださいね。」
「はい、ご丁寧にありがとうございます。」
琴葉はπ/6の会釈をした。あ、これ社会人っぽい仕草だ。
「さ、ぼーっとしてないで、依頼、受けるわよ!」
「別にいーけどさ、なんでお前、主導権とってんの?」
「え?」
「うん?」
琴葉の中で何かが逡巡した。
(あ、しまった……普通にゲームのチュートリアルみたいなノリでやってた。)
(こいつがどんなやつかもわからないのに、ちょっと迂闊だったかな?)
(まぁ……いいか。なんとなくイケメンだし。)
「あの、ええ〜と、こと……はさん?」
「あんた人の名前ぐらいちゃんと覚えなさいよ。」
「ふうん。じゃあ俺の名前言えるのか。」
言葉が詰まる琴葉。
「……。」
「ダメダメじゃねぇか。」
視線は交差する。しかし、思考はズレたままだった。
デカデカとした掲示板の前に立つ二人。
「あ、いや、これ、依頼多すぎだろ!」
「それだけこの国は冒険者への依存が強いってことよ。」
「まぁ、そうなるか……。」
Fランク向けの依頼に目をやる。
『薬草取りの護衛』『近くに巣を作ったゴブリン討伐』『魔法の実験の被験者募集』
いや、この魔法の被験者って倫理的にアウトだろ。でも……異世界なら倫理なんてないのかもな。
「うん、見事なまでに初心者向けのクエね!薬草取りの護衛、いいじゃない。なんかLV低いクエストっぽいわ。」
「いや、護衛ってことは守らないといけないんだぜ?そこんとこの配慮とか面倒だから、ゴブリン討伐の方が俺たち向きだと思うけど?」
「それもそうね……。」
「じゃあゴブリン討伐!これでいきましょう!」
なぜか燃えている琴葉をおいて、暁人は静かにゴブリン討伐の張り紙を剥ぎ取った。
続く




