序章 道化と異世界とくーはははは
序章道化と異世界とくーはははは
2026年、7月8日。22時少し過ぎ。
桐生暁人(27歳)は、交通事故でこの世を去った。
同時刻。
深見琴葉(28歳)は、交通事故でこの世を去った。
二人は同時に同じ空間に閉じ込められた。
そこに足場はなく、ところどころ扉がいくつもあった。
「くーははははは!おめでとうございます!あなた方お二人は同じ時間、同じ瞬間にお亡くなりになりました!いや、実にめでたい!」
赤髪の長髪の男性はそう言って続ける。
「あなたたちは、人生に失敗した側、ですね?」
「おめでとうございます!もう一度、人生、やり直せますよ!」
持っていたステッキをくるりと回す。いかにも機嫌良さげだ。
「おい、何言ってるんだ。このイカれたやつは?」
「私にもわからないわ。ここは一体……。」
「ふーむ?まだご自身が置かれた状況が把握してないご様子ですかあああ?」
「あなたたちは、死んだのですよ!」
きちっとした燕尾服が暁人には妙に腹立たしかった。
「おい、一発殴っていいか?」
「ええ!ええ!もちろん!」
「当たりませんけどねぇ〜」
「待って、私たち、もう元には戻れないの?」
「それはそうでしょう。あなたたちは、文字通り死んだのですから!」
琴葉は目を細める。
「じゃあ今の私たちは、何?」
「いえいえいえいえ、これはちょっとしたサービスですよ!あなたたちみたいに人生失敗した側の救済のために、素晴らしい力を与えて新しい世界で人生再建していただくための、ね!」
「あーこれ、あれか、異世界転生とか、そういうやつか?アニメとかラノベでよくあるやつだろ?」
「ええ、ええ、まずは新しい人生を!」
「この大量にある扉はなんだ?」
「くーははははは、それは候補地ですよ!ですが〜あなた方に選択権はありませんん〜いや〜茶番ですね!」
「あんた、いい性格してるな。」
「左様、左様。よく言われますよ!」
「いつも悪い意味ですがね〜」
「その先はいずれわかりますよ!」
「まぁあれですよ!魔王とかそういうのともお近づきになれますって!」
「くーはははははは、これはまたとない好機ですよ!」
「拒否権はないのか?」
「ええ、もちろんありませんとも!」
「酷い話もあったものね。」
「おやおやおやおや?それは侵害!失敗した人生を新しい世界でやり直す、素晴らしいではないですか!」
「待て、さっき、魔王とか言ったな?ということは、ファンタジーの世界なのか?」
「ご明察!」
「MMO RPGみたいなもんか……。」
「私もやってたけど……ロクな記憶がないのだけど。」
琴葉は心の中だけで付け加える。
廃人プレイヤーだったのだから、当然と言えば当然なのだけれど。
「まずは!」
「クラスを決めていただきましょう!」
暁人、琴葉は置いてけぼりにされて、話は進んでいく。
いや、そもそもこの空間は時間という概念があるのだろうか……。
「前衛、生粋の剣士。片手剣がいいな。軽装で動きやすい方が理想だ。」
「あなた判断早いわね。」
「ここでこのイカれたロン毛と話していても仕方ないだろう?」
「それともここでお互いの人生反省会でもするか?」
「それは嫌ね。じゃあ私は……。」
「あなたが前衛なら、私は後衛の方がバランスがいいんじゃないかしら?」
「魔法使い兼ヒーラーをやるわ。」
「純粋の前衛アタッカーに後衛火力兼ヒーラーか、悪くない編成だな。」
静かに見守っていたイカれた赤髪は続ける。
「くーははははははは!話が早くて助かります!それでは、あなた方は冒険者としてまず活動してもらいましょう!」
「待て、あんた名前は?」
「名前ですか?お好きにお呼びくださ〜い。」
「ああでも、ナノアルドと呼ばれてたこともありましたね。ええ。それはそれは昔にですが!」
「案内人、それで十分よ。」
そしてイカれた赤髪、もとい、ナノアルドと名乗る人物は能力の授受やスキル付与、そして伝説級の装備を渡すなど一通りの準備をこなした。
その間、何度も「くーははははは」と繰り返していたのは、暁人も琴葉も辟易させるには十分だった。
「それでは……あなた方のやり直し人生がうまくいくことをお祈りしておりますよ!」
そして転移魔法が発動し……。
二人はファンタジーの世界へ放り込まれた。
「まぁ、結局また失敗し続けることが運命付けられているのですがね!」
「ですが……果たして運命は不変なのでしょうか。それとも……。」
くーははははははと笑い声だけが空間の中を走り回っていた。
続く




