2-1. 土属性の採掘を見たい
街に行ってから1週間ほど経った頃、私はいつものように井戸で水を汲み上げ、それを畑に撒いていた。
「今日も水やり、明日も水やり…。井戸で汲み上げるのは少しずつしかできないし、こんなに広範囲に水やりをしないといけないんだもん、本当に大変だよぉ!」
私はブーブー言いながら水をまく。あ、いけない。よそ見をしていたら1ヵ所だけ多めに水をまいてしまった。
「前に、お水をあげすぎて怒られちゃったもんね。」
『たくさんお水をあげてたくさん収穫できたら1日ぐらい休んでもいいんじゃない!?』って閃いてやってみたら、作物が根腐れという病気を起こす寸前になってしまって。あのときはすごく怒られたなぁ。畑の作物は少ない水で育つ品種ばかりだから、水をあげすぎるとダメなんだって。
私は水やりを進めていく。
…あれ?向こうで歩いているのは金物屋のアレクさん?
ふと見上げると街で見た金物屋のアレクさんを見つけた。土タヌキをアレクさんの後ろをトコトコとついていく。こんなところで何をしているんだろう。
「おーい、アレクさーん。」
アレクさんはこっちに気づくと会釈を返してくれた。覚えてくれてたのかな?私は近くまでかけよった。
「お久しぶりです。サーヤの友達のルシアです。今日はどうしたんですか?」
話してみると、アレクさんは私のことを覚えていた。村以外で知り合いができるなんて、すごくうれしい!
今日はこれから金物作りに必要な鉄鉱石の採取に向かうらしい。鉄鉱石の採取は基本的に土属性の生き物に手伝ってもらうのだと、以前にお母さんから教えてもらったことがある。私はチラッと土タヌキを見た。
ふりふり
土タヌキの短いしっぽが歩く度に揺れている。
アレクさんと土タヌキは、どんな風に土属性の力を使って採掘をするんだろう?
「アレクさん、もし良ければ、採掘を見学させてもらえないでしょうか?私、見てみたいです!」
私はダメ元で見学を希望してみた。アレクさんはビックリしたようだけど、了承してくれた。
「…俺から離れないように。」
アレクさんはそれだけ言うとスタスタと進みはじめる。我が家から森の方の方向にしばらく行くと、サーヤの家がある。サーヤの声が聞こえてくる。
「あ、そこ、畑を荒らさない!ああ、せっかく汲んできた水の桶を倒さないで!もうっ、遊ぶなら畑から出なさーい!」
サーヤは弟妹がたくさんいて、そのなかの長女だ。妹たちは水やりをしているけれど、弟たちは飽きたのか畑の畝を崩す勢いで走り回っていた。
「あ、サーヤ。ちょうどよかった。これからアレクさんの採掘を見学させてもらうんだけど、一緒に行かない?」
こちらに気づいたサーヤは髪を撫で付けながら、焦ったように近くに来る。
「あ、アレクさん。こんにちは。採掘にルシアを連れて行くんですか?それなら、私も一連れていってほしいです。」
サーヤはおずおずとして、アレクさんの様子を窺うように尋ねる。アレクさんが頷いて了承した。
「ありがとうございます。」
えへへと笑って嬉しそうだ。そんなサーヤを前にアレクさんも嬉しそうだ。
サーヤはくるりと振り返り、弟妹たちに留守番を頼む。弟妹たちは文句を言っていたけど、サーヤが『私の1ヶ月分のおやつをあげるから。お願い。』と説得していたみたいで、渋々納得していた。
「…行くぞ。」
脚の長いアレクさんは歩くのが早くて、私とサーヤは置いていかれないように少し早歩きでついていく。時折振り向くアレクさんに、約束どおり離れてないですよ、というアピールだ。
そういえばサーヤもアレクさんの採掘を見たこと無かったのかな?
「私も見たこと無かったよ。うちはお父さんだけ土属性だけど、木の伐採とか整地がメインだからね。土属性で弱くなってるところを探して整地をしないと、雨が降ったときに土砂崩れが起きて街の方でも被害がでるから危険だって。」
「そっか。土属性って言っても、違う使い方があるんだね。」
話していると私もサーヤも少し息が荒くなってきた。振り返ったアレクさんは足を止め、脇の岩に座るよう促してきた。
「まだ歩く…休め。」
ちょうど疲れてきたこともあって、サーヤと2人で岩に腰かけた。ふうふうと呼吸を整える。私たちが座るのを確認したアレクさんは何かをサーヤに差し出した。
んん?サーヤにだけ?なんだろう?
サーヤは受け取ると、ぱあっと満面の笑顔になる。
「あ。はちみつクッキー!いつもありがとうございます。」
はちみつクッキーはサーヤが1番好きなお菓子だったはずだ。アレクさんは目を細めて笑顔を浮かべ、サーヤの頭をポンポンとたたく。
「わ、わわ。…も、もう!子供扱いしないでくださいってば。」
サーヤは頭を両手でおさえて拗ねたような顔をしているけれど、どこか嬉しそうだ。アレクさんは微笑ましげにサーヤを見つめている。
…あれ?ふたりとも、私のこと忘れてない?
私がじーっと見ていると、気づいたサーヤが慌てて説明してくれる。
「こ、これはね。アレクさんが採掘で村を通るときにいつもくれるの。」
サーヤが気まずげに私に言った。
「そうだったんだ!わざわざ持ってきてくれてるんだね。良かったね。」
ニコニコと私は話す。アレクさんは、はっと気付いたように私に申し訳なさそうに言う。
「ひとつしか持っていないんだ。すまない。」
「あ、欲しいとかそう言うのではないです。アレクさんはサーヤと仲良しなんですね。」
私がニコニコしながらアレクさんに言った。
サーヤは顔を真っ赤にして、座っている私の手を取って立たせた。
「ルシア、もう十分休憩できたよね。行こう!」
サーヤが私に背を向けて歩き出す。それを見てアレクさんも歩き出した。
「待ってよ、サーヤ!」
私はあわてて2人を追いかけた。




