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0. いつかの未来

ダンッ


「ひぇあっ!?」


大きな音がして、私は後ろを振り返った。


「ルシア…。綺麗に片付いていたはずの部屋が、どうして一晩でここまで散らかるのか教えてくれないか。」


「ま、まぁ、騎士さま。奇妙なこともあるものですね。」


私は口元に手を当てて、顔をひきつらせてながら答える。


すると騎士さまと呼ばれた男性は、手袋をつけたその手で、私の腕を取って引き寄せた。


「あぶっ。」


私は勢いよく男性の胸に倒れ込む。


「風狼。」


男性の隣にいる銀色の狼が、フワリと毛を浮かばせた。すると、乱雑に散らばる物が次々と整理整頓されていった。


「こんなもんか。」


男性は私の腕をさらに上にひっぱりあげた。それと同時にぐっと顔を近づけてくる。


「ルシア。」


私の鼻をくすぐるように、男性から爽やかな香水の香りがする。


「離して!」


私が押しても引いてもビクともしない。私は諦めて男性の眼を見た。男性の眼に私が映っている。


「あっ…。」


ドクンッ。ドクンッ。


私はさながら、蛇に睨まれた蛙のよう。男性から『逃がさない』という強い意思を感じた。私は硬直したように動けなくなった。


「俺は、掃除係ではないからな。」


身体の芯が熱い。酸素が足りなくて頭がクラクラする。


「そんなの。当たり前でしょう!」


負けるものかと、私は男性をキッと睨み付ける。男性は口角をあげて、ひどく楽しそうに笑う。


「それなら、礼をもらわないとなぁ?」


男性がさらに1段、顔を近づけた。互いの吐息が混ざり合う。


私は数秒後の自分がどうなるかを予見して、きつく眼を閉じた。



ーーー



これは、ずっとずっと先の、未来の私の話。

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