涙の理由
帰宅するなり、かがみは柄にもなく着替えないままベッドへと突っ伏した。
映画が終わり、ショッピングモールを後にした帰り道も、鳰が本音を口にすることは終ぞなかった。暗闇の中で静かにかがみの手を握りしめていたことなど、最初から無かったかのように。
鳰はいつだって、どこか演技じみていた。
クラスメイトの前でも、かがみと二人きりの時でさえ、「永原鳰とはこういう人間です」とご丁寧に提示してみせるような、薄い布一枚を挟んだ断絶を、かがみはずっと感じ続けてきた。
それでも、かがみは誰よりも鳰のことを理解しているつもりだった。
――けれど、本当は違ったのかもしれない。
鳰が示した手すりに沿って進まされ、彼女の誘導通りに「理解した気」にさせられていただけだったのではないか。
暗い部屋の中、視界が歪み、シーツに一滴の涙が滲んだ。
鳰の手のひらの熱に振り回され、必死に彼女の隣に立とうと歩んできたこの数年間が、根底から蔑ろにされているような気がしてならなかった。
友人たちと別れ、家に帰り着いた鳰は自室の机の引き出しに鍵を差し込み、奥から日記帳を乱雑に引っ張り出した。
ページを力任せに開き、ペンを叩きつけるようにして文字を書き連ねていく。
『0点。失敗した。もう私には私がわからない』
書き終えた紙面に、ぽつりと大きな水滴が落ち、インクが滲んだ。
無表情のまま固まっていた鳰の目から、堰を切ったように涙が溢れ落ちる。
「なんで……私、あんなこと……かがみに、嫌われた……」
かがみは今頃、この土日における自分の不可解な言動に困惑し、失望しているに違いない。
隠し通さなければならなかった本音を出し過ぎた。自分の内に潜む醜く汚い執着のせいで、これまで完璧に築き上げてきたはずの「親友」という関係を、自らの手で壊してしまったのだ。
明日、どんな顔をしてかがみに会えばいいのだろう。
もしかしたら彼女は、もう自分を切り捨てる決断をしているかもしれない。
――自業自得だ、と鳰は自分に言い聞かせる。
けれど、どれだけ心を殺そうとしても、『永原鳰』として笑顔を作ろうとしても、溢れ出す涙は一向に止まってはくれなかった。




