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プライベートデンジャーゾーン  作者: MIKANBAKO
中学生の夏 初めての彼女編
4/5

あの娘のお胸はジェリコミサイル

コンビニを出た二人は店の脇に設置されたベンチに腰を下ろした。


真夏の日差しはつよかったが、頭上には大きな屋根が張り出しており、日陰に入ってしまえば幾分か過ごしやすい。


啓斗は買ったばかりのペットボトルコーラのキャップを捻る。プシュッ、っと炭酸が抜けるいい音が響く。


その隣では、少女がクッキーの箱を開けている。


「…はい」


「ん?」


差し出された箱を見れば、個包装されたクッキーが綺麗に並んでいた。


「好きなの……取っていいよ」


ニッコリ笑いながら差し出した少女の笑顔にドキッとしながら、


「じゃ、じゃあ、遠慮なく」


啓斗は二枚入りのクッキーの包装をつまんで破り、そのまま口に放り込む。


サクッっとクッキーが割れる食感と共に甘い味が口の中に広がる。


「……うん、普通にうまいな」


うまい、少なくとも軍のレーションで出てきたポテト味のスティックバーより遥かに美味い。


(って!!なんで軍役時代のことを思い出すんだよ!!)


今の自分はブラッド・ライアンじゃない、神崎啓斗なんだ。


そう何度も自分に言い聞かせながら、啓斗は口の中に残ったクッキーをコーラで流し込んだ。


「そういや、お前の名前、聞いてなかったな」


今更ながら気づいて尋ねると、少女は一瞬だけ驚いたように瞬きをし、それから胸元にだ変えていたクッキーの箱を膝の上に置き、少し恥ずかしそうに俯く。


こうも見てると、こっちまで恥ずかしくなる。


(陰キャってやつか?挙動不審すぎるだろコイツ)


「……星野」


「あ?」


「星野躑躅(ほしのつつじ)……」


「つつじ?ていうと、花の名前のか?」


「うん…」


「珍しい名前だな」


「……よく言われる」


躑躅はそう言って小さく笑った。


「そういえば……」


すると今度は、躑躅が啓斗に問いかけた。


「《《ボク君のお名前は?》》」


「………」


啓斗は固まった。


(What?このガキ今なんつった?)


「……ボク君?」


躑躅は先ほど挙動不審な態度から一変、優し気な笑顔をこちらに向ける。


まるで、年上のお姉さんが年下の子共に問いかけるように。


「お姉さんに教えてくれる?」


ニコッと先ほどまで人と目を合わせることすら苦手そうだった少女が、なぜか急に得意げになっている。


「………なぁ」


「うん?」


「こんなこと聞くの失礼かもだけど……お前歳いくつ?」


「13歳だよ……中学一年生の4月生まれ」


「……ハァ~」


「どうしたの?」


「なんだよ同い年(タメ)じゃねぇか」


「え?」


「俺も13歳だよ、8月生まれ、名前は神崎啓斗な」


「………え?」


その言葉を聞いた瞬間、今度は躑躅の方が固まった。


しばらく啓斗の顔を見つめたあと、頭のてっぺんから足先までゆっくり視線を動かし。そして、もう一度顔を見て呟く。


「……本当に?」


「何で二回確認するんだよ」


「だって……」


躑躅は少し困ったように眉を下げ、やはりかという爆弾発言をする。


「顔も幼いし……背も低いから……その…《《小学生》》かと思って…」


やはりかぁ~、と再びため息を吐く。


予想はしていたけど、面と向かって言われると少しムカつく。


「俺そんなにガキンチョに見えるか?」


「うん」


「即答かよ!」


思わずんベンチから立ち上がる。


筋力なら同年代に負ける気はしない、はっきり言って前世で培った|米国陸軍格闘術《Modern Army Combatives》は今尚健在。


特にナイフ術ならはっきり言って、身長差はあるがフォークやボールペン一本さえあれば10人くらいは一気に殺せる自信はある。


実銃はブランクがあるからどうかわからないけど、エアソフトガンなら百発百中。


勉学だって、日本史や古文以外なら常にトップクラス。


そんな啓斗の唯一のコンプレックス。


「……小学生みたい…か…」


その一言が、銃弾より深く突き刺さる。


容姿は母親の遺伝なのか中性的で綺麗な銀髪をした完璧に整った顔つきだ。


これで高身長なら完全に完璧で究極の美形(アイドル)!!!……のはずが、身長と童顔は父親譲りなのか見た目は10歳前後の少年にしか見えず、言い寄ってくる女といえば|10歳前後の幼女(ガキンチョ)くらい。


同年代からは、恋愛対象として見られたことはほとんどない。


何故、陰から『可愛い』『頭撫でたい』『弟にしたい』っと言われるのが関の山。


その度に。


(クソが!!俺中身はお前らより一回りは年上だぞ!!神崎君♡……じゃなくて神崎さんだろゴラァ!!)


っと心の中で絶叫してきたが、こんなところでも年下扱いされるとは。


つくづく自分のコンプレックスが恨めしく思う。


まぁ正直、女子大生ならまだしも、中坊にモテても小学生とさほど変わらないが。


そんな過去を思い返していると、


「ふふっ」


躑躅は少しだけ口元を緩める。


先ほどまで人と話すことが苦手そうだったくせに、どういうわけか啓斗が同い年だと分かった途端、妙に楽しそうにしている。


「…なに笑ってんだよ?」


「ううん、ごめん……ただ…」


「あぁ?」


「けいくん、小さくて可愛いなと思って」


「初対面でいきなり愛称呼びかよ!」


「だって同い年なんでしょ?」


「いや、そうだけど!!距離感がバグってるだろ!!」


啓斗が抗議すると躑躅は楽しそうに笑った。


それまで俯きがちだった彼女が初めて見せた、年相応の笑顔だ。


(……なんなんだコイツ)


つい数分前までは、人と話すことすら怖がっているように見えた。


それなのに、今は啓斗の容姿をネタに笑っている。


どうにも腑に落ちない。


「お前さっきまでめちゃくちゃきょどってなかったか?」


「……してたよ」


「じゃあ、なんで今は?」


躑躅は少し考えるように首を傾げた後、しゃがみこんで啓斗に視線をやると。


「…けいくんなら、怖くないから」


「おっ…おい…」


しゃがみこんだ際、躑躅のブラウスの隙間から豊満な胸の谷間が見える。


G?…H?……いや!!もしかしたらJとかそれ以上はあるかもしれない。


例えるならそう、その迫力はイスラエル製長距離弾道ミサイル、ジェリコ3を思わせるような。


「…ちっちゃい弟みたいで」


「帰る!」


クソが!!さっきまでエロくていい雰囲気だったのに完全に萎えてしまった。


「あっ、待って!」


歯ぎしりしながら即座に立ち上がって啓斗の服の裾を躑躅が慌てて掴む。


「冗談、冗談だから」


「………」


「……9割くらい」


「ほとんど本気じゃねぇか!!」


躑躅がまたクスクスと笑う。


啓斗は盛大にため息を吐きながらベンチに座り直した。


(ったく……変な女に捕まったな)


そう思った。…はずだった。


けれど、不思議と嫌ではなかった。


むしろ――。


(あぁ……そっか…こういうのが、《《普通の友達》》ってやつなのか)


なんの変哲もない話で共に笑い合う。


軍役時代の…ブラッド・ライアンの頃のマーカス達みたいな戦友たちとは違い、命を預け合う必要もない。


次の任務でどっちかが死ぬかもなんて考える必要もない。


ただ同じ場所に座って、クッキーを食べながら話をしている。それだけ。


………なのに…なぜだろう。


(……こういうのも……悪くねぇな…)


ブラッドの頃には得られなかった経験と居心地の良さに啓斗は安心感を得ていた。


そんな啓斗は残ったコーラを一口飲んだ。


「そういや星野」


「躑躅でいいよ」


「あ?」


「私はけいくんって呼んでるから」


「……いいのか?」


「……うん」


啓斗は少し照れ臭そうにしながら、


「じゃあ…躑躅」


自分の名前を呼ばれた瞬間、躑躅が少し嬉しそうに目を細める。


「……お姉ちゃんでもいいよ」


「断固拒否する!!」


少しがっかりする躑躅である。


「そういや、お前この辺に住んでんの?」


「うん。歩いて五分くらいのところ」


「へぇ、俺もそんなもんだな」


「……じゃあ、また、会える?」


その一言に、啓斗は一瞬だけ黙った。


「まあ、近所ならどっかですれ違うことくらいあるだろ」


「そうじゃなくて……」


躑躅は膝の上で指先を合わせながら、少しだけ俯いた。


「また……一緒にお菓子食べたりしたいなって」


「…………」


女から、それもこんな若い娘からそんなことを言われた経験など、前世を含めてもまったくない。


ブラッドだったころに寄ってくる女といえば基地の売店の下ネタトークが印象的な死にぞこないのクソババアくらいだった。


(これ…どう答えるのが正解?…)


啓斗は頭えをフル回転させながら考える。


『いいぜ、メアド交換しよう』っと聞くのはなんかキモイし、かといって『嫌だ』って言ったらもう二度とこんなチャンスこないかもしれない。


考えろ……考えるんだ神崎啓斗!!


…………………。


「…まぁ……暇だったら」


「ほんと?」


「ただし」


啓斗は躑躅を指さす。


「俺を子供扱いするのは禁止な」


「………」


「………」


沈黙が続く。


「それは無理」


「なんでだよ!!」


真夏のコンビニ前に、躑躅の小さな笑いが響いた。


でも、啓斗はその笑い声は、どことなく心地よかったのだった。


◇


帰宅後の夕暮れ。


「遅かったわね啓斗、心配したわよ」


麗奈がリビングに入ってきた啓斗を振り返った。


「コンビニに行くだけだったのに、何かあったの?」


「ん?…まぁ…その、ノーコメントで」


「もしかして如何わしいこと?」


「それはないから」


(さっき、女と知り合いになってSNS交換したなんていったらめんどくさくなるから黙っとこ)


そういって、啓斗はリビングのソファーに座り、テレビをつける。


ちょうどニュースで世界各国の情勢についてのニュースをしていた。


『アメリカ陸軍ADMS小隊は今日午後5時、中央アジア北部で活動していた反政府武装組織『マンイーター』の拠点を制圧したと発表しました』


テレビに映るのは砲撃によって散乱した瓦礫の廃墟に、スクラップと化した反政組織の赤いカラーに塗り替えられたイラク制ADMS、Ko-132(バシャール)が横たわっていおり、右腕は肩から吹き飛び、胸部装甲には巨大な穴が穿たれていた。


『今回の作戦で反政府組織側のADMSを12機撃破。米軍側に人的被害はなく――』


「………」


啓斗は無言でテレビを見つめた。


さっきまで躑躅とクッキーを食べながら笑っていた時とは違い、その瞳から感情が消えていった。


そんな時、画面の片隅に映った米軍制ADMSへ視線が止まる。


グレー寄りのカラーを基調とした機体。


GM-93(ブレイズドッグ)。


GM-91(ハウンドドッグ)の後継機に当たる機体で、ブラッドとして生きていたころには存在しない機体。


現在の米陸軍の主力ADMSだ。


基本的なシルエットは《ハウンドドッグ》を踏襲しているものの、肩部装甲は大型化され、脚部もマッシブ化されている。


何より、目についたのは背部に装備されている大型スラスターだった。


(……へぇ、今の米軍機ってこうなってんのか)


啓斗は無意識に身を乗り出した。


(姿勢制御用のスラスターを増設して、瞬間的な横移動を強化したのか。市街地戦をかなり意識してんな)


ニュース映像の数秒だけで、機体の設計思想がおおよそ読み取れる。


両肩には小型ミサイルポッド。


右腕にはGM-91時代より一回り小型化されたアサルトライフル。


脚部にも追加スラスターらしきものが見える。


(あのライフル……口径は少し落としてるな。その代わり装弾数と取り回しを優先したってところか)


「…………」


気づけば、完全に兵士の目で画面を見ていた。


操縦するならどう動かすか、敵ならどこを狙うか。


正面装甲を抜けないなら脚部関節、ビルの多い場所なら上半身を狙うより足を止めてから仕留める方がいい。


そんなことが、考えようとしなくても次から次へと頭に浮かんでくる。


そんな時だった、


「啓斗も興味あるかい!?」


祐司が、いつの間にかソファの後ろから身を乗り出していた。


「うおっ!?」


突然耳元で声を掛けられたかせいか、啓斗は思わず肩を跳ねさせる。


「父さん、いつからそこに!?」


「GMー93(ブレイズドッグ)が移った辺りから!」


「ほぼ最初からかよ」


祐司はそんな息子の講義などまるで気にせず、テレビに映る《ブレイズドッグ》を指さした。


「いやぁ~、いつ見てもすばらしいよ!!まさにGMシリーズの完成形だよね」


そんな時、啓斗はふと思い出したかのように祐司に問いかけた。


「……そういば父さん」


「何だい?」


「……GM-91は今どうなったんだ?」


かつての愛機にして、ブラッドがもっともよく搭乗した機体だ。


当時の最新鋭機でもあった機体、でも10年以上経ってる今では、


「《ハウンドドッグ》のことかい?」


祐司は待ってましたと言わんばかりに眼鏡をくいっと押し上げる。


「もちろん今でも使われているよ、けど第一線からはほとんど退いてるけどね。」


やっぱりだ。


「……俺の頃の最新鋭機が……今じゃ旧式のロートルか…」


啓斗がポツリと呟くと、祐司は首を傾げた。


「え?俺の頃って?」


「…いや、こっちの話」


危ない危ない、前世の事を知っているのは自分だけだ。


もしも、「前世は、米軍ADMSパイロットだったんだぜ」なんて言おうものなら、祐司なら大喜びで食いつきそうだが、麗奈に言えば脳外科医か精神病院に連れていかれる可能性が高い。


(この秘密は墓場まで持っていく必要があるな)


そう思うと、祐司は特に気にした様子もなく、再びテレビへ目を戻した。


「まあ、旧式といっても《ハウンドドッグ》は名機だからね。今でも後方部隊や州兵、訓練部隊なんかじゃ現役だし、近代化改修された機体なら実戦投入されることもあるらしいよ」


「へぇ……」


「むしろGM-93が出てきたのも、《ハウンドドッグ》の基本設計が優秀だったからなんだ。フレーム構造なんかはかなり影響を受けてるし――」


「父さん詳しすぎじゃね?」


祐司は待ってましたと言わんばかりに胸を張った。


「僕を誰だと思ってるんだい?」


「玩具メーカー(ダンバイ)のプラモデル事業部・開発課の主任だろ?」


「……そこはもうちょっと…何か言ってほしかったね…」


そんな時だった。


『――ただいま入った情報です』


女性キャスターの声が、啓斗の意識を現実へと引き戻した。


「ん?」


テレビ画面が切り替わる。


そこには、先ほどの映像とは違い、粗い衛星写真のような映像が表示された。


『先月二十三日、東欧旧紛争地域で確認された所属不明のADMSについて、国際連合安全保障委員会は本日、新たな調査結果を発表しました』


啓斗の手から――。


リモコンが滑り落ちた。


ゴトッ。


「!?」


テレビから目を離すことができない。


映像は遠距離から撮影されたもので、輪郭は荒く、ところどころノイズが走っている。


だが、見間違えるはずなかった。


細身の胴体、異様に発達した四肢、巨大な大剣型武装。


そして――。


紅黒い装甲に、血のような赤いカメラアイセンサー。


「…………」


喉が、一瞬で乾いた、心臓が大きく脈打つ。


ドクン。ドクン。ドクン。


(……マジかよ)


そこに映っていたのは、


13年前。


ブラッド・ライアンの人生を終わらせた、例の未確認機だった。

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