第9話 危ないところだった
――悪魔系の魔物、インプ。
人々の負の感情に引き寄せられて人里周辺に出現することが分かった。
今回はアルメルの町に集まる負の感情に引き寄せられたんだ。
「……人の気配があるところには、魔物はダイレクトに湧くことはできません。ですので、地下水道に湧いた、ということですね」
ケヴィンが苦い顔をして言う。
「インプの息を慢性的に摂取し続けると、最悪の場合死に至ることもある、ですって!?」
リーゼロッテの顔がサーッと青ざめる。
ルカたちの血の気が引いていった原因はこれだ。
インプの息は、遭遇したその一瞬だけでは、毒と呼べるほど有害性のあるものではない。
「最初は熱が出たり、咳が出たりするだけだけど、だんだん酷くなっちゃうところだったんだ……」
魔物大全の記述を読み、ルカは思わず身震いをした。
「……あのメイドが死ななくて、良かったな」
クゥエルがそう言うと、ルカはうんとうなずいた。
ミアだけではない。アルメルの町全体で流行っていたのだから、町人にたくさんの死者が出てしまうところだったのだ。
「ぼっちゃん……めちゃくちゃお手柄っすよ。正直、これを全部俺の手柄にして旦那様に報告するのは気が引けるんですが……」
「うーん……確かに丸々嘘の報告も良くないよね。じゃあ、僕が変な臭いに気づいて、ケヴィンが地下水道の魔物を全部倒したことにして。それなら、ほとんどホントのことだし、ケヴィンだけの手柄じゃない」
ケヴィンは「分かりました。それなら、まぁ……」と返事をした。
「でも、これで一件落着ってわけでもないよね。この記事を見てるとさ……」
ルカは机に肘を突き、憂鬱そうに言った。
リーゼロッテが「どうして?」と首を傾げる。
「インプは、負の感情に引き寄せられるって、書いてあったでしょ? つまり、このアルメルの町には、負の感情が増えてしまっているってこと」
「なるほど……」
納得するケヴィン。
一方でリーゼロッテは「え、つまり、どういうこと?」と、まだ理解ができていないようだった。
ルカは彼女を諭すようにこう言った。
「つまりね、町のみんな元気で頑張っているように見えても、限界がきているってことだよ」
「あ、そういうことね……。確かに、あんな不味そうな野菜しか買えないんじゃ……ね」
ウィズの森の異常だけではない。
今回は、流行り病の原因も解決することができた。
しっかりと状況を把握して、原因を取り除いてあげれば、この町はもっと良くなる。
そんな気がする。
「僕たちで、何か、できることはないかな?」
ルカがそう言うと、クゥエルが顔を引きつらせた。
「ルカ、てめぇ……また何かめんどくせぇこと、考えてんじゃねぇだろうな?」
ルカは、ふふんとドヤ顔をする。
「次はね……農村の調査! 僕たちだけじゃ行けそうにないから、これからはケヴィンも僕たちについてきてもらうからね」
「マジっすか……。はぁ、これで俺も、立派な共犯っすね……」
ケヴィンはそう言ってため息をつくが、どこか安心しているようでもあった。
◇
ケヴィンは、ルカに言われた通りにラウレンツに報告をした。
数日前に地下水道で大量のインプを討伐したこと。
そして、魔物大全のインプの気になる記述。
これには、ラウレンツも、側にいたフォルカーも「そういうことか」と納得した。
同時に、彼らは自分の子らが町のために奔走していることを、嬉しく思うのであった。
――数日後。
「フォルカー、今日はルース村に行ってくるから、留守の間この町を頼んだぞ」
「かしこまりました。このフォルカーにお任せを。ルース村ですか……肥料の進捗状況の確認ですかな?」
ラウレンツとフォルカーのそんな会話が聞こえてきて、ルカは思わず聞き耳を立てた。
「そうだ。あれからまだ5日ではあるが、少しでも畑の状態が良くなっていないか、気になってしまってな……」
「そうですね、少しでも元気になっていると良いのですが……。また、このフォルカーめにもお聞かせください」
「あぁ。戻ったら一番に報告しよう。では、行って――」
「お父様!」
出かけようとするラウレンツを、ルカが足止めする。
「ん? どうした、ルカ?」
「あ、あの……僕も、行きたいんだけど……」
リーゼロッテとケヴィンがうなずく傍らで、クゥエルは「げっ」と顔を引きつらせた。
しかし、これもまたルカの召喚士としての修業になるかもしれない。
そう考えたクゥエルは、自分も行くぞと言わんばかりに、ルカの足に寄り添った。




