第7話 守りたいから
「ハク! その魔物をやっつけて!」
「わんっ!」
ルカは、ケヴィンが魔物にやられそうになっているのを見て、無意識にハクを召喚した。
ハクはボスインプを軽く蹴散らし、討伐する。
「ケヴィン、大丈夫!? 足、怪我してる!」
「ぼっちゃん……!? これは、一体……」
「きゃぁっ、ケヴィン! もう、だから一人で行かせるのは心配だったのよ……!」
リーゼロッテが、インプの残党を討伐しながら現れた。
「お嬢まで……」
しかし、ケヴィンが一番驚いたのは、クゥエルがしゃべることだった。
「おい、ルカ。こいつ、毒にやられてやがる。さっさと回復してやれ」
「くぅちゃんが、しゃべった……!?」
「えっ、そうなの!? 分かった! ハク、お利口さんだったね、ありがとう」
ルカがハクの首元を撫でると、ハクは「くぅ~ん」と甘えた声で鳴いた。
そして、上機嫌で魔法陣の中へと帰っていった。
「……!?」
ケヴィンは目をぱちくりとさせる。
「おいで、ぷにぷに!」
ルカは更にぷにぷにを召喚した。
「猫耳の……スライム……!?」
ひたすら驚いているケヴィンをよそに、ぷにぷには彼に回復魔法をかけた。
「きゅっきゅー♪」
「これ、教会の魔道士の使う、回復魔法っすか……!? すごい、傷が治って、身体も楽になりました……!」
「本当? 解毒もできたかな?」
ルカがクゥエルを見ると、クゥエルはコクンとうなずいた。
「あぁ、もう、本当に良かった……」
リーゼロッテが安堵する。
ルカもまた、ホッと胸を撫でおろした。
「……ぼっちゃん、お嬢。危ないところを助けていただき、ありがとうございました。それで、あの……ぼっちゃんは、魔物を操ることができるんですか……?」
すっかり元気になったケヴィンがそう尋ねると、ルカはキョトンとした。
「……あれ? ケヴィンって、全部気づいてるんじゃないの……?」
ケヴィンがただ昼寝をしていたんじゃないのは分かる。
だから、ぷにぷにに町の人たちを回復してもらっているのも、知っているんだと……。
「知りませんよ! 俺今、人生で一番驚いていますから」
いつものめんどくさそうな表情じゃない。
ケヴィンの目は真ん丸になっていた。
ルカは、ガーンと頭を抱える。
「うっそぉ! ヤバい、ケヴィンにバレた……! あぁ、お父様たちにバレたら、僕、捨てられるんだ……!」
嫌だぁ、と悶えるルカ。
リーゼロッテが「お願い、旦那様と奥様には言わないで! パパとママにも!」と懇願をしてきて、更に混乱するケヴィン。
「わ、分かりました。言いません、言いませんから」
「……ホントに?」
ルカは、ケヴィンをチラッと見上げる。
ケヴィンが「本当です」とうなずくと、ルカは再び胸を撫でおろすのであった。
◇
裏庭への帰路で、ケヴィンに語る。
「……僕は、召喚士の一族の末裔なんだって。だから、召喚獣と友だちになったの」
「はぁ、召喚士……初めて聞きました。その召喚獣というのは、魔物とは違うのですか?」
「ぷにぷにも、ハクも、元は魔物だよ。でも、邪気がないから契約できたんだ。邪気に支配されている状態では、こっちの想いを伝えることは難しいからね。でも、召喚獣がみんな元魔物ってわけじゃないんだって。いつか、精霊とかとも友だちになりたいなぁ」
ルカの脳内は、まだ見ぬもふもふの召喚獣で埋め尽くされていた。
召喚士の力で町を救いたいのはもちろんだ。
しかしそれとは別に、もふもふに埋もれるという、個人的な野望もあった。
「邪気がない……目が赤くなかったってことっすね。低級の魔物だと、たまぁに、いますよね。でも、なぜ旦那様にバレたら、捨てられると思ってるんです? むしろ、すごいことではありませんか」
ケヴィンがそう尋ねると、ルカは遠い目をしてこう答えた。
「……僕の村が山賊の襲撃にあって、生き残った僕は教会に保護されたでしょ? でもそれは保護なんかじゃなくて、異端の一族かもしれないって、魔力の検査をするためだったんだ」
「異端の一族……教会の教えに従わずに、教会の魔道書とは別の魔法を使っていたっていう、あの……?」
「そうそう。でも、その時にたまたま居合わせた『エルマン伯爵』が、『かもしれないだけで普通の男の子を拘束するなんて間違っている!』って猛反発してくれてさ……」
「それで、ぼっちゃんはエルマン家の子になったんすね」
ルカは、こくりとうなずいた。
「その異端の一族っていうのは、多分、召喚士の一族のことを指しているんだと思う。だから、お父様にも、教会にも、召喚士だってバレるわけにはいかないんだ」
「……なるほど。ぼっちゃんは、俺が思っているよりもずっと、たくさんのことを抱えていたのですね……」
ケヴィンは感心したように言う。
大人よりも、ずっと大変な思いをしてきているのではないだろうか。
しかし、ルカは無邪気にこう言った。
「それなんだけど、ケヴィンは僕が変なことをしているのを知ってて、めんどくさいから見逃してるんじゃなかったんだね……」
「町のために色々と頑張っているのだとは知っていましたが、まさか、召喚なんてしているとは思いませんよ……」
「じゃあ、ルカ。ケヴィンが召喚士のことを知らないって分かってたら、あの時、助けに行かなかったの? だって、バレるじゃない?」
リーゼロッテが問う。
ルカは、ぷっと噴き出した。
「そんなの、助けに行くに決まってるよ」
その答えを聞いて、リーゼロッテも「そうよね」と笑った。
「バレたら大変なことになると分かっているのに、なぜそんな危険を冒してまで……?」
ケヴィンは不思議そうに尋ねた。
「そんなの、ひとつ屋根の下に住む家族なんだから、当然でしょ? 守りたいから、だよ。僕は、この力を、家族のために、町のために使いたいんだ――」
「……そうでした。ぼっちゃんは、そういうお方でした」
ケヴィンもまた、感服したように笑った。
◇
ルカたちは無事、地下水道から裏庭へと戻ってきた。
ルカとリーゼロッテが屋敷の裏口から中へと入っていく。
クゥエルもまたそれに続いて建物の中へ入ろうとしたが――
「くぅちゃん、ちょっと、いいっすか?」
「……あ?」
「……あんたは、何者なんすか?」




