第3話 召喚士として
ルカたちが聞こえた悲鳴の方へ向かうと、街道で行商人の馬車が魔物に襲われていた。
街道の柵が壊れて、そこから侵入してしまったらしい。
行商人の男は攻撃を食らったのかその場で気絶しており、馬車に繋がれた馬がパニックになっていた。
大きなトカゲの魔物が5体。その内の1体は、他に比べて身体がひと回り大きかった。
「アグリザードね! ご丁寧に、ウルフみたいにリーダーに群れて……。あのおじさんを助けなくちゃ! でも、私、あの大きなアグリザードは、敵うかどうか……」
「そうだ、リゼ。ここはハクに任せよう。ハク、めっちゃ強そうだったし」
ルカがそう言うと、クゥエルもまた「そうだな。新人の腕試しにはちょうどいい」と続いた。
リーゼロッテもうんとうなずくと、ルカは地面に光る魔法陣を展開。
「おいで、ハク!」
馬よりも大きな真っ白もふもふの狼、召喚獣のハクが魔法陣から現れた。
「わんっ、わん♪」
大きな尻尾をブンブンと振って、すごぶる機嫌が良さそうだ。
ただ、その辺の草が軒並み削がれて舞うので、それがルカの小さな困りごとだった。
「ハク、アグリザードを倒して。あのおじさんと馬車を助けたいんだ!」
「わんっ!」
ハクは礼儀正しくお座りをしながら返事をすると、アグリザードの群れをキッと睨みつけた。
「ガルルッ!」
ぶわっと風を起こしながらハクが舞い、大きな爪に白い光を宿しながら、アグリザードたちへと振りかぶる。
一番大きいリーダーが初撃をかわして攻撃を仕掛けてくるが、ハクは軽くいなして、問答無用で爪を振り上げた。
アグリザードたちはなすすべなく、空を舞ってそのまま黒いモヤとなって消えていった。
「わぁ……マジか」
「強い……なんてもんじゃないわよ、ハク……」
ルカもリーゼロッテも、ハクの圧倒的破壊力に、ただただ呆然としていた。
しかしクゥエルは、少々苦い顔をする。
「こりゃ、期待以上の強さだ。無意識に、魔物特攻の聖属性をまとって攻撃もしているしな。だが、その分、こっちの魔力に負担が――」
クゥエルがルカに視線を向けると、案の定、ルカはガクッと膝を突いた。
「ルカ、大丈夫!?」
リーゼロッテが心配して覗き込む。
ハクも「くぅん……」と寂しげに鳴きながら、ルカのもとへと戻ってきた。
「……いやぁ、すごいよハク。魔物、倒してくれてありがとね。ごめんけど、魔法陣で休憩してもらえる……?」
ルカがはぁ、はぁと息を切らしながら言う。
ハクは「わん!」と返事をすると、現れた魔法陣の中へと帰っていった。
「ヤバい。めっちゃ疲れた。でも、僕にはまだ、やらなくちゃいけないことがある……」
ルカは、倒れている行商人を見つめた。
彼は、腕に傷を負っているようだった。
「ルカ……大丈夫なの?」
「大丈夫。一気に魔力を消費して疲れているだけで、死ぬわけじゃないから――おいで、ぷにぷに!」
ルカは、その場にペタンと座り込みながらぷにぷにを召喚。
ぷにぷには「きゅっきゅー♪」と、あっという間に男の傷を治してしまった。
一方で、更に消費するルカの魔力。
最後の力を振り絞って、ぷにぷにの帰還用の魔法陣を展開。
ルカは、そのまま意識を失った。
「まぁ、ひよっこにしては上出来だ。修業をして魔力を増やせば、今後はこうもならんだろう。よくやった、ルカ――」
クゥエルが、ボソッと呟いた。
◇
――夕暮れ。
ルカが目を覚ますと、町の大通りを歩くケヴィンに背負われていることに気づいた。
「だ、だから! 私がシュシュッて魔物を全部やっつけたのよ!」
リーゼロッテが必死に言い訳をしているのが聞こえてくる。
「へぇ、あの街道の柵をぶっ壊すくらいの魔物を、お嬢が、ねぇ……」
ケヴィンがだるそうに言う。
ヤバい、全然信じてない。
ルカは、リーゼロッテを擁護するようにこう言った。
「ケヴィン、本当だよ。おじさんの馬車が魔物に襲われてて、リゼが助けたんだ。本当だよ!」
「おや、ぼっちゃんお目覚めですか。では、なぜ、ぼっちゃんは倒れていたんです?」
「それは、えっと……魔物が怖くて……気絶しちゃったんじゃないかな……」
ルカが苦し紛れにそう言うと、ケヴィンは深いため息をついた。
「はぁ。もう、めんどくさいんで、それでいいです。行商人の方も、服が破れて血が付いていたのに、なぜか無傷。誰かが魔物と戦った痕跡はありますが、それ以上の被害がないので、魔物は討伐されたんだとも分かっています。今、フォルカー団長の指揮のもと、緊急で街道の柵の補強作業が行われています。丸く収まってるんで、もうそれでいいですよ」
「そっか……良かった」
ルカはホッと息をついた。
「ですが、ぼっちゃん、お嬢。俺はいつも、ぼっちゃんたちは町の中だけで遊んでいるんだと思っていました。お嬢、魔物討伐をするにしても、町からあまり離れないようにと、団長から言われていたはずです。街道のあんなところにあなたたちがいた時には、肝が冷えました。あまり、心配させないでください」
「ケヴィン、ごめんなさい……」
「そうだね、ごめん、ケヴィン……。僕たち、この町のためにできることをしようって思って、それで――」
「それは、分かっていますよ。ですが、あなた方のご両親を心配させてしまっては、本末転倒ではないですか?」
ケヴィンの言っていることは、最もだった。
彼は、いつも昼寝をしていると思っていたけど、もしかして、寝たふり……?
一体どこまで、知っているのだろうか。
ルカが召喚士だということは?
クゥエルがしゃべることは?
ルカは、ドキドキした。
その後屋敷に戻ったルカたちは、ケヴィンと共にラウレンツの部屋へと謝りにいく。
てっきりケヴィンに、ルカたちを疑うような報告をされるものだと思っていたけれど、彼の報告は当たり障りのないものだった。
ラウレンツもまた、街道の遠くの方まで行ってしまったことには少しだけ怒った。
しかし、それよりも、ルカたちが行商人を助けるために行動を起こしたことを、高く評価していた。
領主夫人であるエレオノーラは、「あなたたちが無事に帰ってきてくれて、本当に良かった……」と、泣いて喜んでいた。
ルカたちもまた、町のために行動するには、両親たちに心配をかけずにやらなくてはならないと、決心する。
◇
――翌日。
フォルカーが、領主の部屋を訪ねていた。
「報告します。本日もウィズの森を隅々まで捜索しましたが、ウルフリーダーとの遭遇はありませんでした。それに、ウルフの湧きも正常なレベルに戻っています。これなら、町の薬師も薬草の採取を再開できるでしょう」
「そうか。ウルフの湧きも通常に戻ったか。ウルフ大量発生に少し疑問は残るが、今は元に戻ったことを喜ぶとしよう。騎士団の働き、見事であったぞ。街道の柵も、昨日の補強で問題なさそうか?」
「ありがとうございます。はい。柵の確認も行って参りましたが、問題なさそうです。ただ、他の部分も経年劣化でかなりもろくなっておりましたので、少しずつ、修復をしていきます」
「そうだな。予算がかなり厳しいが、町人の安全が第一だ。一緒に計画を立てるとしよう。それと同時に、咳の対処もしていかねばならん。何か、原因があるのだろうか――」
領主の部屋の外では、ルカとリーゼロッテとクゥエルが聞き耳を立てていた。
皆で顔を見合わせて、満足そうにうなずく。
ルカの脳裏に、山賊に襲われて燃える村の記憶が、フラッシュバックされる。
その後、生き残った少年ルカの保護に関して、マギア教とラウレンツが対立。
ラウレンツはルカをかばったことで、王都暮らしから辺境の領主へと左遷されてしまった。
だからルカは、せめて領地のためにできることをしたい。
この召喚士の力があれば、領地の力になれることが分かった。
領地の人たちに笑ってほしいのは、もちろんのこと。
領地が豊かになれば、両親の恩返しにもつながる。
今残っている課題は、町で蔓延している謎の咳だ。
だから今日も、ルカたちは町へ出る。
「よし、今日こそは咳の原因を見つけるぞ!」
「おー!」
ルカとリーゼロッテが気合いを入れる一方で、クゥエルはふんと鼻を鳴らした。




