第23話 契約と召喚士の力
ルカは、サラマンダーをわしゃわしゃしていた。
「すごい、安心するね……とっても、気持ちいい」
うっとりと目を閉じて、ルカに身をゆだねるサラマンダー。
「かゆいところはないですか~?」
まるで美容師のようにそう尋ねると、サラマンダーは「あのね、背中」と答えた。
「おっけー」
背中の鱗を、魔力を込めてわしゃわしゃとひっかく。
契約はしようとはしなかった。ただ、魔力を分けてあげているだけだ。
ルカのわしゃわしゃが終わると、サラマンダーはすっきりとした表情で起き上がった。
「なんか、ルカの力をもらったのが分かるよ。ありがとう」
自身の腹に手を当てる。
そんな彼を見て、ルカも「どういたしまして」と微笑んだ。
「オイラ……炎を吐く練習をしてみる。この洞窟にね、練習場があるんだ。ルカも一緒に来てくれる?」
「うん、もちろん」
ルカは二つ返事で答えた。
2人で部屋を出て、灼熱の通路を通って、練習場へと向かう。
すると、そこには木製の的がたくさん並んでおり、小さな幻獣たちが炎の吐く練習をしていた。
的は燃えてしまっても、しばらく経つと復活した。
不思議な魔法がかかっているのか。
すると、二足歩行の亀がノシノシとやってくる。
「サラマンダーだ! 久しぶり~」
「アーク君……ひ、久しぶり……」
サラマンダーは、さりげなくルカの後ろへと隠れた。
「今日も、たくさん燃やしちゃってさ~、大変だったよ」
「す、すごいね、アーク君は……」
マイペースにそう言うアークに、サラマンダーはへっぴり腰で答えた。
そんな彼の背中を、ルカが軽くポンと叩く。
大丈夫だよ。君にもできる。
そう視線を送ると、サラマンダーはへっぴり腰をやめて、うんとうなずいた。
そして、サラマンダーが的に向かって青い炎を噴き出すと、的は勢いよく燃えて、あっという間に塵になった。
「も、燃えた! 燃えたよ、ルカ!」
「やったね!」
嬉しそうに駆け戻ってくるサラマンダー。
ルカは、両手でハイタッチをした。
やっぱりそうかと、ルカは確信した。
魔力は送ったけど、契約はしていない。
ルカの魔力の効力は、せいぜい肩の力を抜いてあげただけだ。
「あれ、サラマンダー、燃やせるじゃん……!」
アークが驚いた表情で寄ってくる。
そんな彼に、サラマンダーは「うん、できるようになったんだ」と笑顔で返した。
「じゃあ、次は、燃やさないつもりで、的に炎の噴いてみよう」
そう言うルカに、サラマンダーは「うん!」とうなずく。
そして再び的に青い炎の噴くが、今度は的は無傷だった。
「わぁ、燃やさないのもできた!」
嬉しそうにそう言うサラマンダーに、ルカはふふっと微笑んだ。
「えっ、すご……どっちもできるの……?」
アークは目の前でキョトンとする。
他の幻獣たちも「サラマンダー君、すごいね」と駆け寄ってきた。
サラマンダーは、一瞬でその場のヒーローになった。
アークも「燃やさないって、誰にでもできることじゃないよね……今まで、バカにしてごめんね……」と謝っていた。
◇
ルカたちは、サラマンダーの家の広間へと戻った。
「ルカ、人間界で困っていることがあるんでしょ? だから、今度はオイラがルカを助けるよ。オイラ、召喚獣として、ルカと契約する」
「本当にいいの? えっと、僕と契約をすると、なぜかみんな姿が変わっちゃうんだけど……」
「うん、大丈夫。オイラ、どんな姿でもいいよ」
「ありがとう、サラマンダー……」
ルカは、今度は契約をするつもりで、サラマンダーの頬をわしゃわしゃと撫でた。
すると、クゥエルの時ほどではなかったが、ルカの中に膨大な魔力が流れ込んできた。
「うっ、やば……!」
思わず撫でる手が止まる。
「ルカ? どうしたの? 大丈夫?」
「うん、ごめんね……そうか、そういうことか――」
幻獣たちは、赤ちゃんですら、魔物よりも強大な魔力を持っているんだ。
更に、今までこの幻獣界でルカが見てきた幻獣には、いくつかのパターンがある。
ぷにぷにたちのように、言葉を話さない幻獣。
言葉を話す幻獣。
人型に近い幻獣。
多分、人により近い姿の幻獣は、よりたくさんの魔力を持っているんだ。
だから、サラマンダーの母親のファフニールなんかは、きっとルカではまだ契約はできない。
ハーピーのアリアが「いつかアタシとも契約をしましょ」と言っていたのも、ルカではまだ無理だと分かっていたからだ。
つまり、クゥエルもきっと、本来の姿は――
サラマンダーは、言語は話すけど、姿は竜。
ルカの、乗り越えるべき試練だ。
「……大丈夫。続けよう」
「うん……」
ルカは、気絶しそうになるのを必死に堪えながら、なんとかサラマンダーと契約をした。
「ふぅ、なんとかなった……」
その場に腰を下ろして脱力する。
すると、目の前のサラマンダーの頭から、猫耳がぴょこぴょこっと生えたのである。
「わぁ、見て、ルカ! ぷにぷにみたいな猫のお耳、生えた!」
サラマンダーは嬉しそうに自身の耳をピクピクと動かす。
「本当だ、可愛い!」
――その時だった。
「ルカ、いる!? 大変よ!」
リーゼロッテが大慌てで部屋から出てきた。
「どうしたの? リゼ……」
ルカは呼吸を整えながらそう返事をする。
「あら、サラマンダー……あなた部屋から出ているじゃない! それに、その姿――契約できたのね!?」
リーゼロッテの言葉を聞いて、ファフニールと、更には家に戻っていたイフリートまでもが部屋から飛び出てきた。
「ママ、パパ……オイラ、すごい炎が使えるようになってね、ルカの、召喚獣になった」
「まぁ、炎、ちゃんと使いこなせるようになったのね……? お部屋からも出て、偉いじゃない……!」
「うん。ルカと一緒なら、出ても良いって思ったの」
ファフニールとサラマンダーは、ギュッと抱き合った。
イフリートの脳内に、かつての記憶が巡る。
上手く使いこなせなかった炎。
イフリートの炎は、癒すことができるすごい炎だと言ってくれた青年。
彼によって解きほぐされた自身の心の傷。
目の前のルカとサラマンダーが、かつてのそれと重なった。
ルカは、イフリートと目が合った。
「えっと、サラマンダーのお父さんの、イフリートさん……僕は――」
名乗ろうとしたが、イフリートがルカの目の前にサッとひざまずいたので、思わず言葉を失った。
「……ルカ殿。ありがとう。息子のこと、よろしく頼みます」
「えっ、あっ――うん、僕に任せて」
見た目の威厳さよりもずっと腰の低い態度のイフリートに困惑しつつも、ルカはそう言って笑った。
「っていうか、リゼ、大変なことって……?」
ルカがリーゼロッテに視線を送ると、その奥にいるケヴィンがぷにぷにを抱えて部屋から出てきた。
そして、ぷにぷにが、いつもの鳴き声のトーンでこう発言した。
「ぷにぷに、おはなし、できるきゅ♪」
ハクも部屋から飛び出してくる。
「ボクも、おはなし、できるようになった!」
「えーっ!」
ルカは、嬉しい悲鳴を上げた。




