第22話 引きこもりの子ドラゴン
「初めまして、サラマンダー。僕はルカだよ。人間の召喚士なんだ」
ルカはニッコリと笑って自己紹介をする。
しかし、サラマンダーは石窯から出ようとせず、怯えたようにこう返した。
「……何しにきたの」
「えっとね……君のお父さんとお母さんからの紹介で――」
「じゃあ、帰って」
サラマンダーは、ルカの言葉を遮るように言った。
その瞬間、ルカは言葉を間違えたと悟る。
「君のお母さん、君が出てこないって心配していたけど、何かあった?」
「……何もない。人間に話すことなんか、何もない。出てって。ウザい」
サラマンダーは石窯の中で丸くなった。
短い尻尾が、石窯からちょこんと顔を出していた。
なるほど。
これは困った。
無理矢理撫でるのは、なんか違う。
しばらく考えたルカは、やがてこう呟いた。
「……僕のお父さんとお母さん、悪い人間に殺されちゃったんだ」
サラマンダーの尻尾がピクッと動いたのを確認すると、ルカは更に続けた。
「その時の僕は今よりもずっと小さくて、隠れるだけで何もできなかった。だけど、くぅちゃんが側にいてくれたから、僕の心は壊れずにすんだ。新しいお父様とお母様に助けてもらって、新しい家族にも恵まれた。でも、きっとくぅちゃんがいてくれなくて、ひとりぼっちだったら……新しい家族の優しさも、受け入れられなかったと思う」
「……くぅちゃんって、誰?」
石窯の奥から、そうボソッと返事が返ってきた。
「くぅちゃんも、君と同じ幻獣だよ。僕は、ひとりぼっちは寂しかった。だから、君も何か独りで抱えていることがあるんなら、僕と半分こしよう。そうしたら、きっと楽になるよ」
「……」
サラマンダーからの返事はなかった。
さすがにこれ以上は、本当にウザいか。
「……今日は、ここまでにするね。また明日来るよ。明日は、僕が初めてスライムと契約した時の話、するからね」
ルカはそう言って、部屋を後にした。
サラマンダーは石窯から顔を出すと、部屋の戸を、じっと見つめていた。
◇
翌日から、ルカは毎日サラマンダーの部屋に通って、色んな話をした。
クゥエル曰く、この世界は人間界と比べて時間の流れがゆっくりだから、村でのことは気にしなくていいとのことだ。
相手が本当にウザがっていたらやめるつもりだったが、サラマンダーは、その内に「明日は何の話するの?」と、興味を持ってくれるようになった。
時にはクゥエルを、時にはリーゼロッテを。
時にはケヴィンを。
時にはぷにぷにやハクを連れていき、毎日自分のことを話し続けた。
――やがて。
その日ルカがサラマンダーの部屋を訪ねると、彼は石窯から出てきていた。
「サラマンダー、こんにちは」
ルカは、特にそのことに過剰に反応することなく、いつものように挨拶をする。
「こんにちは、ルカ……あの、あのね」
子犬くらいの、コロンと丸い子ドラゴン。
尻尾をひょこひょこと動かして、モジモジしていた。
「うん?」
「あのね……オイラ、自分の炎が……嫌いなんだ」
サラマンダーはやっと、自分のことを話した。
「なんで、嫌いなの?」
「だって、ほら……」
サラマンダーはそう言うと、部屋の隅にボッと小さな火を噴いた。
青く煌々と燃えるそれは、何もない地面でしばらく燃え続けていた。
「わぁ、綺麗な炎だね」
嬉しそうにそう言うルカに、サラマンダーは目をぱちくりとさせた。
「綺麗って、そんなわけないよ。みんなは青くて変だって、バカにするんだ」
サラマンダーはそう言って、寂しそうにうつむいた。
そうか。幻獣の世界にも、そういうわだかまりはあるんだ。
「……それにね、その辺に生えてる木も、燃やせないんだ……」
「……なんだって?」
ルカは驚いた。
もしかして、この炎、触れるのか……?
ルカは、部屋の隅で燃えている青い炎に手を近づけてみる。
「あ、熱くない……」
思い切って手を突っ込んでみると、ほんのり温かくなる程度だった。
サラマンダーは、そんな炎を手でバシッとつぶして消した。
「何も燃やせない炎なんて、炎の幻獣として失格なんだ。オイラは、四大幻獣の息子なのに、ダメダメなんだ……」
「四大幻獣……なるほど」
確かに、クゥエルがイフリートのことを『炎の大幻獣』って言っていた。
四天王的な、そういうのがあるのか。
「……パパは、練習しないからだっていう。でも、他の炎の幻獣の子たちは、練習しなくたって色んなものを燃やしちゃう炎が出せるんだ。アーク君……えっと、炎の亀の幻獣なんだけどね、前もいっぱい燃やしちゃって大変だったって、いつも自慢してくるんだ。でも、間違って燃やしちゃうのは、危ないと思うけど……」
ルカはサラマンダーの話を聞いていて、気づいたことがあった。
「んー、そっか。サラマンダーさ。燃えちゃうのは、怖い?」
その問いに対し、サラマンダーはゆっくり「……うん」とうなずいた。
ルカは、なるほどと納得する。
「……僕、分かった気がする。君の炎は、燃やせないんじゃない。燃やさないんだ」
「え? どういうこと?」
「サラマンダーは、とっても優しいんだね。燃えたら大変だから、燃やさないんだよ。そうだとしたら――それって、すごいことだと思わない? だって、自分が燃やすものと燃やさないものを決められるんだから」
「! で、でも、オイラ……燃やそうと思って火を噴いても、燃やせないよ……」
「優しいからだよ。だから僕が、その勇気を分けてあげる。ほら、おいで」
ルカが魔力の込めた両手を前に差し出すと、サラマンダーはおそるおそるルカへと近づいた。




