第20話 召喚獣と精霊
「くぅちゃん、発見!」
幻獣城のロビーに入ると、クゥエルが目の前の大階段をぴょんぴょんと下りてきた。
「おう。結構早く着いたな。もっと、見て回れば良かったのに。アリア、案内ご苦労だった」
クゥエルがそう言うと、アリアは丁寧にお辞儀をした。
「では、アタシはこれで。ルカ――いつかアタシとも、契約しましょうね」
「えっ、あ、うん! ありがとう、アリア、またね!」
バサバサと飛び去っていくアリアの背中を、ルカたちは両手を振って見送った。
ケヴィンが口を開く。
「十分、寄り道してきましたよ。ぷにぷにたちの家に、一本角の虎の住処。幻獣……こんな不思議な生き物が存在していたなんて、驚きでした」
クゥエルは、満足そうにふんと笑った。
「魔物は――オレ様たち幻獣の魂が黒い気に染まり、邪気に支配されたものだ。オレ様たちは、人間界じゃ思うように動けねぇ。ルカの言う『精霊』ってやつは、そうならないように力を抑えた状態で人間界に遊びにきている幻獣のことを言っているんだろうな」
「やっぱり……くぅちゃんも、幻獣なんだね?」
ルカのその問いに、クゥエルは「そうだ」とうなずいた。
「でも、そしたら、くぅちゃんはなんで人間界を自由に動いてるの? あと、ぷにぷにやハクだって――」
「オレ様は、自由になんて動いてねぇ。力を抑えた状態で人間界にいるだけだ。人間と契約をして『召喚獣』に進化したものは、人間の魔力に守られているから、人間界でも自由に動くことができるんだ」
「なるほど……。なら、くぅちゃんも僕と契約する? そしたら、自由に動けるかも」
曇りなき眼でそう言うルカに、クゥエルはぷっと噴き出した。
「……今のてめぇと契約しても意味がねぇんだよ。それにな、多分、できねぇぞ――契約。やってみたら分かる」
「えっ、契約してみていいの?」
ルカはキョトンとする。
クゥエルは小さくうなずき、その場にちょこんとお座りをした。
ルカが「失礼します」と言って、クゥエルの前にかがみ、頬をわしゃわしゃと撫でる。
リーゼロッテとケヴィンが緊張気味にその光景を見守っていると、ルカが突然奇声を上げた。
「うわぁぁぁっ! そーゆーことかぁ!」
ルカはそのまま、気を失った。
「ルカ!?」
「ぼっちゃん!? どうしたんです!?」
「……ほらな」
クゥエルはやれやれと首を振った。
◇
ルカが目を覚ますと、ハクの背中の上だった。
石造りの天井。
どうやら、まだ幻獣城にいたらしい。
「うっ……」
その声に、付き添っていた2人が反応する。
「ルカ、目が覚めたのね!」
「ぼっちゃん、気分はどうですか?」
「うん。大丈夫。心配かけてごめんね。ハク、寝かせてくれてありがとう」
「わんっ♪」
ハクは嬉しそうにルカの顔を舐めた。
「ぷにぷにも、あなたが倒れてすぐに回復してくれたのよ」
そう言うリーゼロッテに、側にいたクゥエルが「ま、それは気休めだけどな」と続いた。
「そっか。ぷにぷにもありがと。おかげで元気になったよ」
「きゅっきゅー♪」
ぷにぷにはルカの懐に飛び込み、スリスリしていた。
ルカは、さっきの状況を思い返して、口を開く。
「……くぅちゃんと契約しようとしたら、ありえない量の情報が頭の中に飛び込んできて、訳が分からなくなったんだ。あれは……くぅちゃんの魔力……なの?」
クゥエルは、コクンとうなずいた。
「そうだな。まだまだひよっこ召喚士のてめぇには抱えきれなかったんだろ。そういう場合、召喚士の頭がパンクして、契約が中断されるんだ。オレ様と契約したければ、もっと力をつけることだな」
「そっか……。僕、くぅちゃんと契約したい。だから、もっと頑張るね」
無邪気にそう言うルカに、クゥエルは少し寂しそうにふっと鼻で笑った。
「いや、でも……ぼっちゃんって、Sランクのジャイアントウルフと契約したんすよね……?」
ケヴィンがボソッと呟く。
「ええ。ハクは元々、Sランクだったけど……」
魔物のランクの中で一番高いSランクの魔物と、いとも簡単に契約してみせたルカ。
そんなルカが契約できなかった幻獣――クゥエル。
そのただならぬ気配に、ケヴィンもリーゼロッテも、ゴクンと息を呑んだ。
そんな2人はお構いなしに、クゥエルがルカに話しかける。
「あぁ、そうだ。ルカ。『炎の洞窟』ってところに行けば、炎の幻獣と契約できるぞ。洞窟の一番奥に、契約してくれる幻獣がいるらしい」
「えっ、そうなの? くぅちゃんのお友だち?」
「うーん……正確に言うと、ダチのダチってやつだな」
ルカは、意気込んで立ち上がる。
「だったら、その炎の洞窟に行こう。せっかくくぅちゃんの友だちが紹介してくれたんだし。僕も友だちになりたい」
「ぼっちゃん、目的、忘れてないですか? そのお友だちのお友だちと契約をすれば、畑の魔物だけを焼くことはできるんでしょうか?」
ケヴィンがクゥエルを見ると、彼は若干表情を曇らせた。
「オレ様もその幻獣とは会ったことがねぇ。だから正直、やってみるしかねぇな」
「今は、その子に賭けるしかないよ。行ってみよう」
そのルカの言葉に、ケヴィンもリーゼロッテもうんとうなずく。
こうして一行は、炎の洞窟へと向かった。




