第17話 ルカとクゥエルの出会い
――5年前。
まだ2歳だったルカは、ニンフ村の外れにある『精霊の森』に迷い込んでいた。
「パパ? ママ? いない、いない?」
好奇心で森へ行ってみたものの、来た道も分からず、どちらに進めば両親に会えるのかすら分からなくなっていた。
「うぅ……」
視界が涙でいっぱいになり、やがて――
「うわぁぁぁん! パパぁ、ママぁ!」
ルカはわんわんと泣きだした。
泣きながらトボトボ歩いていると、泉へとたどり着く。
すると、その泣き声に引き寄せられたのか、人魂のような魔物『ダークソウル』が数体ルカを捉えた。
「ケケッ……!」
「ケケケッ!」
「あっ、ま、まもの……こわい……!」
ダークソウルはルカを嘲笑うかのように、小さな魔法の玉を飛ばしてくる。
「うわぁ、いたいよぉ……!」
魔法の玉の衝撃で、ルカは尻もちをついた。
ダークソウルたちは、大きな魔法の玉を作ろうと、力を込める。
ルカをいじめるのに飽きたのだろうか。
2歳ながらに、死を予感する。
「っ……!」
声にならない悲鳴を上げた、その時だった――
真っ白な猫がダークソウルたちへと飛び掛かり、尻尾アタックを炸裂させる。
「キィッ……!」
ダークソウルは次々に吹っ飛んで、泉の中へと叩き落とされた。
「ったく、てめぇら、その『聖なる泉』で頭を冷やしやがれ」
白猫は吐き捨てるように言う。
不思議な力を持つ泉に、ダークソウルたちは消滅していった。
「……にゃんにゃん?」
その白猫を見たルカの鼓動が、ドクドクと高鳴る。
「よぉ。危ないところだったな。やっと見つけたと思ったら――生まれたての赤子同然じゃねぇかよ。そんななら、オレ様のことも、まぁ……覚えてねぇんだろうな」
白猫は、寂しそうに笑った。
「にゃんにゃん……おぼえて――うぅ!」
突然強烈な頭痛に襲われ、頭を抱えるルカ。
「おい、どうした、坊主。しっかりしやがれ!」
ルカの脳内に、突然色んな映像が流れ込んでくる。
ひとり寂しく生きてきた三十路の男。
生きがいは働いている猫カフェの猫たちと戯れること。
そんな猫たちのお世話中に、棚から大きなものが落ちてくる。
猫たちをかばった代わりに、落ちてきたものが頭を直撃。
打ちどころが悪かったらしい。
――ルカは、前世の記憶を思い出した。
「しお、しろ……しろねこ、ぼく、おぼえてう!」
赤ちゃんの身体のためか、上手く発音ができず、言葉が抜けてしまう。
「何っ!? 本当か!? オレ様の名前は!?」
白猫は前のめりでルカへと迫る。
すると、ルカは無邪気な笑顔でこう言った。
「あのね、猫カフェのじゅーぎょーいん、しろねこの『ましゅまろ』でしょ?」
「……何言ってんだ、てめぇ……?」
クゥエルは呆然とした。
「ぼく、ルカのまえ、猫カフェで、おちごとちてた!」
ふふんとドヤ顔をするルカ。
クゥエルは、何かを察したようにこう呟いた。
「……なるほど。別の人生が1つ挟まってんのか」
「べつのじんせーって?」
ルカは首を傾げる。
しかし、クゥエルは首を横に振った。
「いや、いい。こっちの話だ。オレ様はクゥエル。小僧の、名は?」
「くぅえる……じゃあ、くぅちゃんだね! ぼく、ルカだよ」
――それが、ルカとクゥエルの出会いだった。
◇
ルカは、街道の隅でリーゼロッテに昔の話をした。
前世の話をしても混乱するだろうから、魔物に襲われていたところを助けてもらったと、話した。
「……くぅちゃんは、僕を森の外まで連れ出してくれて、僕は故郷の『ニンフ村』に帰ることができたんだ。くぅちゃんとは、それからずっと一緒にいる。山賊に村が襲われた時も、僕たちはタンスの中に隠されていたんだけど、くぅちゃんが側にいてくれたおかげで、声を出さずに隠れ続けることができたんだ……」
「そう、だったの……。くぅちゃんは、何度もルカを助けてくれたのね」
しんみりとそう言うリーゼロッテに、ルカはこくんとうなずいた。
――一方、クゥエルとケヴィンも、同様の話をしていた。
「……まぁ、精霊の森をさまよっていたところ、そんなルカと遭遇して、それからはずっと一緒にいるってこった」
「そうでしたか。あなたは何度もぼっちゃんを助けてきたんですね。ですが、あなたはなぜ、精霊の森に?」
「……てめぇは、生まれた瞬間のことをはっきりと覚えているか?」
「いえ……なるほど。あなたも気づいたらその森にいたと」
クゥエルは、コクンとうなずいた。
「分かりました。ひとまずあなたのことは置いておいて――ぼっちゃんに、謝りに行くので、一緒に来てもらえませんか?」
ケヴィンは、そう言って立ち上がった。
「……オレ様も、ルカたちと合流したら、ひとつ提案がある。ほら、行くぞ――」
「はい」
クゥエルとケヴィンは、ルカとリーゼロッテを探しに街道へと出た。




