第16話 衝突
「野菜は焼かずに黒い気だけを焼けるなら、賊にはならずに済むわ!」
嬉しそうなリーゼロッテ。
一方でケヴィンは渋い顔をした。
「……そんな都合のいいもの、ありませんよ」
しかし、ルカの表情は希望で満ちていた。
「聖なる炎を操る『炎の精霊』なら、できるかもしれない」
「炎の精霊?」
「精霊って、あの、おとぎ話に出てくる精霊……よね?」
そう言う2人に、ルカはコクンとうなずいた。
「召喚士は、本来精霊と契約を交わすものなんだ。精霊は、おとぎ話じゃないよ。自然の魔力――つまり、『マナ』が満ちたところに、いると言われている。炎の精霊なら……火山、かな……」
ルカの表情は、話しているうちにだんだんと曇ってきた。
その訳を、ケヴィンが代弁する。
「へぇ、火山、ねぇ……。少なくともこのエルマン領にはありませんし、それに、火山って多分、人間が入れるところじゃないです」
「……だよね」
「あら……」
ガーンと落ち込むルカに、リーゼロッテが気の毒そうな視線を向けた。
「……」
クゥエルは、黙って何かを考えていた。
ケヴィンはそんな彼に再び視線を向けると、意を決したように口を開いた。
「……ぼっちゃん。もっと、現実的な方法がありますよ」
「え? 何?」
「くぅちゃんに、黒い気を消してもらえばいいんすよ」
辺りがしんと静まり返る。
クゥエルは、眉間にしわを寄せた。
「……なんだって? くぅちゃんに?」
「くぅちゃん、そんなことできたの?」
戸惑う2人。
クゥエルは短く「できん」と返事をした。
ケヴィンは、更に追い打ちをかける。
「もう、しらばっくれるのはやめてください。いい加減はっきりさせましょう。地下水道で俺は――猫のような生き物が、ボスインプの黒い気を増大させているのを見ました」
「「そうなの!?」」
「……てめぇ、なんでそんな大事なことを黙ってた」
「くぅちゃんも、おそらく大事であろうことを、黙っているからですよ。黒い気は、邪気とも表裏一体です。ぷにぷにやハクの黒い気を操り、邪気を消滅させて、ぼっちゃんに契約させたのではないですか? で、あれば、この畑の黒い気を消すこともできるのでは、と思ったのです」
止まらないケヴィンの暴露。
ルカが必死にクゥエルをフォローする。
「違うよ、ケヴィン。ぷにぷにの邪気がなかったのは、僕たちが見つけた時に、傷ついて弱っていたからであって――」
「それも、くぅちゃんがやったのではないですか? あなたは、そんなにもぼっちゃんに付きまとって、一体何を考えているのですか?」
「オレ様は――今は、言えねぇ……」
クゥエルは苦しそうに返事をした。
「ふぅん。〝今は〟ってことは……この企みが成功したら、言えるってことですかね」
そう言ってクゥエルに追い打ちをかけるケヴィン。
弁明を諦めかけているクゥエル。
そんな状況に、ルカが感情を爆発させた。
「やめてよケヴィン! くぅちゃんをそんな悪者みたいな言い方しないで!」
「ぼっちゃん……」
「ルカ、てめぇ……」
「くぅちゃんは、悪いことなんか考えてない! そんなふうにくぅちゃんをいじめるんなら、僕はケヴィンとは縁を切る! ケヴィンのバカ。ケヴィンなんか、家族じゃない!」
ルカは、月光の下、走り出した。
「えっ、ルカ。ちょっと、どこ行くのよ!?」
リーゼロッテが慌てて追いかける。
ケヴィンは、珍しく年相応な反応をしたルカに、驚いていた。
「……ぼっちゃんを、泣かせてしまいました……」
「……ずっと、一緒だったからなぁ」
「俺は、お二人の仲をよく知りません。でも、ぼっちゃんの前であなたを問い詰めるのは間違っていたということだけは、分かりました……」
「ルカとの出会いの話なら、話してやってもいいぜ」
「ぜひ、お願いします」
◇
「うっ、ぐすっ……」
ルカは、村を出た街道の隅でうずくまった。
「ルカ……」
追いかけてきたリーゼロッテもまた、彼の隣にしゃがむ。
「リゼもさ……くぅちゃんが悪いことを考えてるって、思ってた?」
リーゼロッテは慌てて首を横に振る。
「ううん。そんなこと思ってないわよ。くぅちゃんは、口も悪いし不思議な猫だけど、でも――あなたのことを想っているのは分かるから」
そう言うリーゼロッテに、ルカは泣きながら微笑んだ。
「リゼも、ずっと僕たちのこと、よく見てくれてるよね」
「私も、ずっと一緒だったもの。ルカは、くぅちゃんのことが大好きなのよね」
「うん。くぅちゃんは、僕の相棒で、僕の召喚士の師匠で、僕の――命の恩人なんだ」
「命の、恩人……? 良かったら、聞かせてくれない?」
「うん……」
ルカは、夜空に輝く月を見上げた。




