第15話 夜の雨にうごめくもの
その日の夕方には、村人の予想通り、本当に雨が降り出した。
しばらく止みそうにないと村長が言ったため、ルカたちは夜になるまで待った。
――夜。
しとしとと雨が降る中、ルカたちはランタンを片手に畑へと向かう。
すると、真っ暗闇の中に、何か小さなものがうごめいているのに気づいた。
「な、なんかいます……! お嬢、剣構えて。ぼっちゃんは俺の後ろへ」
「分かったわ!」
「うん……!」
ケヴィンが槍を構え、リーゼロッテが剣を構える。
ケヴィンを先頭に、じりじりと詰め寄るようにそのうごめく何かに近づく。
そこにいたのは――
――大量の紫色のスライムだった。
黒いモヤをまとい、邪気に満ちて赤黒く光る釣り目。
ルカたちには見向きもせずに、狂ったようにニンジンの葉をぴょんぴょんと踏みつぶしていた。
「げっ、なんすかね、この邪気の塊みたいなスライム……!」
「うぅ、こんなにたくさん、気持ち悪いわ……」
「なるほど、臭いの原因はコイツらか……」
クゥエルだけが、なぜか納得したような表情をしていた。
「ニンジンを踏みつぶしてるし、とにかく討伐しなくちゃ。ハクは、ニンジンを全部掘り起こしちゃいそうだから、出せないな……」
ルカがそう言うと、ケヴィンとリーゼロッテが持っていたランタンをルカの足元へと置く。
「ここは、俺たちにお任せを」
「これだけの数……いい経験値になりそうね」
「ケヴィン、リゼ……! うん、お願い!」
ケヴィンとリーゼロッテは、畑に気を付けながら、紫色のスライムをどんどん討伐していく。
しかし、キリがない。
この広大な畑一面にいるのではないかというくらい――何百、いや何千……。
もはや数えることすら不可能な数が湧いている。
それに、倒しても倒しても、再び地面から湧き上がってきた。
「ちょ、なんすかこの数……!」
「はぁ、もう、限界よ……経験値、余るくらい稼いだわ……!」
ケヴィンとリーゼロッテは膝に手を突いて息切れしていた。
リーゼロッテに至っては、スライムから反撃を食らって傷だらけである。
雨にも濡れ続けている状態だし、これ以上は風邪を引いてしまうかも――
2人を止めるべきか。
そう考えていると、小雨になった雨が、ついに止んだ。
――その瞬間。
大量にいたスライムたちは、大慌てで土の中に消えていったのである。
「……!?」
突如、辺りがしんと静まり返る。
ルカはなにごとかと、目をぱちぱちさせた。
雨の音もなくなったため、ケヴィンとリーゼロッテの荒い息遣いだけが、聞こえていた。
「雨が止むといなくなんのか……厄介だな」
クゥエルが呟く。
「そうだね……。とりあえず、リゼを回復してあげなくちゃ」
ルカはぷにぷにを召喚して、リーゼロッテの傷を回復。
ついでにケヴィンにもちょっとだけかすり傷ができていたため、それも回復してあげた。
◇
村長の家に戻り、順番にお風呂で汗を流す。
村長は既に自室で休んでいるようだったが、念のため、彼らは再び外に出る。
念のため持ってきていた『魔物大全』を持って、村の外れにある、農具倉庫の裏へと回った。
「やっぱり魔物の仕業だったけど、インプとは全然違ったやつだったね……」
「スライムっぽかったけど、全然可愛くなかったわ……」
「もし可愛かったら、お嬢、『こんなの倒せないわ~』とか言い出すんで、むしろ良かったじゃないっすか。心置きなくやれますよ」
そう言って茶化してくるケヴィン。
リーゼロッテは「うるさいわよ」と、彼の足を思いっきり踏んだ。
「いって……! で、ぼっちゃん。さっきの魔物見つかりました?」
「待って。今スライムゾーンにきたから、そろそろかも――あった! こいつだ!」
皆で魔物大全を覗き込んだ。
ダストスライム。
黒い気の豊富な地面に根付くことがある。
一度根付くと、その場の植物を全て枯らすまで居座り続ける。
雨の時にしか活動できず、雨が止むと地面の中でじっと息をひそめている。
炎属性が弱点。
「うげ……なんすかコイツ。めちゃくちゃ厄介じゃないっすか……」
ケヴィンは口がへの字になった。
「あの畑……黒い気が豊富なんだ……」
ルカは呆然と呟く。
「黒い気って、魔物の素になる物質よね。なんであの畑だけ、たくさん集まっちゃってるのかしら? 普通、人里には黒い気はほとんど発生しないって言うじゃない?」
そう言うリーゼロッテに、ルカは「そこなんだよね」と相槌を打つ。
ケヴィンは無言でクゥエルへ視線を送った。
しかし、クゥエルは何かを考え込んでいるようで、その視線に気づいてはいなかった。
更に、リーゼロッテは奇抜な発言をする。
「炎が弱点なら、畑を全部焼いちゃう?」
「いや、そんなことしたら、ただの賊っすよ……」
ケヴィンは呆れるように答えた。
しかし、ルカは彼女の発言にピンとくる。
確かに、野菜が植えてある状況で畑を丸焼きになんかしたら、とんだテロリストだ。
前世でも〝焼き畑農業〟という言葉があったけど、それは畑を焼くという意味ではない。
――だけど、畑を焼くのが、一番手っ取り早い。
ルカが、口を開く。
「……例えばさ、野菜を焼かずに、地中の黒い気だけを焼く方法があったら?」
リーゼロッテの表情がパッと明るくなり、クゥエルの耳もピクピクッと反応した。




