灰森侵攻
北方帝国、帝都ヴァルグラード。
灰森侵攻の決定から、わずか三日。
帝国軍港には巨大な軍船が並び、マーレミアに向かう陸路には重装騎兵の長大な隊列が伸びていた。帝国が本気で動くとき、準備に時間はかからない。
その中でも、ひときわ異質な集団があった。
蒼天探索団。
帝国が誇る最強探索者部隊である。
彼らは軍隊のような整列をしない。整然とした隊列の横を、まるで散歩でもしているかのように歩いていた。
その先頭を歩く男が、巨大な剣を肩に担ぐ。
アルヴァレク=ノルド。
蒼天探索団団長。
二つ名
蒼天の剣皇。
彼は遠くに見える灰色の森を見つめていた。
「……国を一つ潰したダンジョンか」
背後から声がかかる。
「怖いんですか?」
振り向かなくてもわかる。副団長リディアだ。
アルヴァレクは小さく笑う。
「いや」
「楽しみなだけさ!」
その時だった。
前方の街道に、巨大な影が落ちる。
木々をなぎ倒しながら現れたのは
王種魔物。
岩角巨牛。
体高三メートルの巨大魔物だった。
帝国兵が慌てて槍を構える。
「王種だ!」
だがアルヴァレクは歩みを止めない。
「どけ」
その声は小さい。
しかし次の瞬間、彼の体から重力魔法が広がる。
大剣がゆっくり持ち上がる。
星鋼大剣。
その刃が振り下ろされた瞬間、空間が歪んだ。
「蒼天断」
一瞬だった。
しかし巨牛の身体は、中央から静かに崩れ落ちた。
切断ではない。
内側から潰れていた。
帝国兵が言葉を失う。
蒼天探索団は、そのまま歩き続けた。
灰森へ。
一方、別の街道では。
帝国黒鋼騎士団が進軍していた。
先頭を走るのは巨大な黒鎧の騎士。
団長
バルドリック=カイゼル。
鋼山の騎士王。
重騎兵の隊列は地面を震わせながら進む。
そこへ飛び出してきたのは巨大なオーガだった。
だが騎士団は止まらない。
バルドリックは槍を掲げた。
「突撃」
ただその一言で、騎兵が加速する。
魔力が連結される。
軍団奥義
黒鋼衝軍
突撃の瞬間、騎兵全体が一つの巨大な塊になる。
オーガは防御姿勢を取った。
しかし意味はなかった。
鋼鉄の山が、そのまま押し潰した。
血と肉が大地へ散る。
騎士団は止まらない。
灰森へ。
さらに南。
聖域都市の街道では、白衣の魔導師達が歩いていた。
中央に立つ女性。
セラフィナ=アルディス。
天律の大賢者。
彼女の前に、魔物の群れが現れる。
数十体。
セラフィナは手を上げる。
巨大魔法陣が展開される。
「天律裁断」
光が降る。
それは単なる光線ではない。
魔力構造を解析し、最も破壊効率の高い形で対象を切断する術式。
次の瞬間、魔物の群れは
静かに崩れた。
灰森へ向かう侵攻軍。
その数はまだ少ない。
だが
人類の中でも
最高とも言える戦力だった。
そして同時刻。
海では。
巨大な軍船が進んでいた。
黄金牙傭兵団。
船首には巨大な男が立っている。
ガルド=ベレト。
黄金の破城槌。
彼は海の先に見える森を見つめていた。
「……面白そうじゃねえか」
その後ろ。
船の影の中で。
もう一つの集団が静かに立っていた。
影潮衆。
首領
ミカゲ。
彼女は海の先の森を見つめながら、小さく呟いた。
「我々は湖の手前で降りる」
「そこからは、別々で行動する。」
影は静かに揺れる。
灰森侵攻。
その牙が
今、動き出す。




