世界会議
北方帝国、帝都ヴァルグラード。
その中央に建つ巨大石造建築、帝国戦略院。
その最奥の円卓会議室には、普段は決して同席しないはずの者達が集められていた。
帝国黒鋼騎士団の将官。
蒼天探索団の団長。
聖域都市の魔導代表。
商業同盟の外交官。
群島国家の密使。
本来ならば、彼らが一つの卓に座ることはない。
利害が違いすぎるからだ。だが今回は事情が違った。
机の中央に置かれた水晶投影の中には、灰色の森が映し出されている。
灰森。
そしてその中心には、巨大な空洞の影。
沈黙を破ったのは、帝国の軍略長だった。
「……マーレミア王国は敗北した」
その言葉に、部屋の空気が重く沈む。
王国は弱い国ではない。海軍国家として世界有数の戦力を持ち、王ヴァウデオウス5世は戦王として知られていた。その王が戦死し、遠征軍が壊滅した。
それは単なる敗北ではない。
国家が、ダンジョンに敗れた。
聖域都市の魔導代表が口を開く。
「魔王です」
即断だった。
「灰森の竜は、魔王です。国家を滅ぼす存在は人類史上それしか例がありません」
帝国の軍略長は小さく息を吐いた。
「宗教的定義は後でいい。今必要なのは戦力分析だ」
彼は指先で水晶を弾いた。
森の地形図が拡大される。
「王国遠征軍の記録から、最低でも六体の“王級魔物”が確認されている」
部屋の空気が一段階冷えた。
蒼天探索団の団長アルヴァレクが腕を組む。
「六体、だと?」
「灰森の竜を含めてだ」
水晶に次々と記録が映る。
巨大な骨の陣。
地面を崩壊させる地下震動。
森を閉じ込める巨大樹根。
そして衝撃を跳ね返す甲殻。
王国兵の記録では、それらは全て
巨大な魔物
として報告されていた。
帝国軍略長が言う。
「王国軍はこれを“層の王”と呼んでいる」
聖域魔導団のセラフィナが眉をひそめる。
「ダンジョン内部の支配者?……という意味ですか?」
「そう解釈するしかない」
実際には違う。
それは魔物ではない。
界主。
だが人類はその概念を知らない。
ダンジョンにおいて「層そのものを支配する存在」という概念を、人類はまだ一度も確認していないのだ。
群島国家の密使が静かに言った。
「つまり……王級頂点種が、複数存在する可能性がある?」
帝国軍略長は頷く。
「王国の記録では、少なくとも五体」
水晶が再び変化する。
森の空を横切る巨大な影。
湖の中心に生まれた渦。
毒沼に広がる黒い霧。
洞窟で確認された巨大狼。
そして角が結晶化した鹿。
蒼天探索団の副団長リディアが小さく呟いた。
「……これじゃあまるで生態系ダンジョンじゃない」
その言葉に、部屋が完全に静まり返る。
生態系ダンジョン。
それは、国家一つでは攻略できない十二災冠に近しいダンジョンを意味する。
帝国軍略長は言った。
「結論を言う」
彼は机に手を置いた。
「灰森の竜巣を」
「協力して攻略する。」
誰も反論しない。
商業同盟の外交官が静かに口を開く。
「交易路が断たれれば、我々は終わります」
聖域の魔導師は言う。
「魔王は討伐しなければならない」
群島の密使は笑った。
「だが帝国が独占するのは困る」
帝国軍略長は表情を変えない。
「当然だ」
彼は言った。
「だからこそ」
「共同侵攻だ」
円卓の空気が変わる。
それは協力ではない。
利害の一致だ。
帝国騎士団。
蒼天探索団。
聖域魔導団。
黄金牙傭兵団。
影潮衆。
人類の中でも最強の戦力が、灰森へ向かう。
その時、誰も気づいていなかった。
彼らが想定している敵は
まだ半分しか見えていない
ということに。




