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灰森の巣竜  作者: AI太郎
世界侵食
148/149

希望

 歪だ。


 竜は、そう判断する。


 目の前で剣を構える存在。


 力はある。


 継承も、成立している。


 だが。


 動きが、歪だ。


 踏み込み、斬り結ぶその瞬間、確かに竜の爪と衝突した刃は重く、互いに押し合った反動で地面が抉れるほどの衝撃を生むが、その直後の挙動が僅かに遅れることで連撃へ繋がらない。


 止まる。


 ほんの一瞬。


 だが。


 それで十分だ。


(……戦いきれていない)


 理解する。


 理由も。


 視線が、ぶれる。


 目の前の自分ではない。


 その背後。


 元皇帝バハムート8世。


 さらにその奥。


 転移させられた城郭。


 そこに残された。


 人間。


ーやはりー


 竜は、静かに納得する。


ーそれが、お前かー


ー勇者ー


 救う者。


 助ける者。


 それは。


 戦う者ではない。


 踏み込む。


 直線。


 迷いはない。


 狙いは、明確。


 既に意識はないバハムート。


 そのまま爪を振り下ろし、直撃すれば確実に両断される軌道で圧殺に入る。


 だが。


 止まる。


 勇者が、割り込む。


 剣が弾く。


 空間が軋む。


 その瞬間。


 竜は、確信する。


ー使えるー


 即座に命令を飛ばす。


 言葉ではない。


 地脈による接続。


 地蟲界主が応じる。


 空間が変わる。


 床が沈む。


 壁がずれる。


 そして。


 最奥層に転移させられた城郭。


 そこへ繋がる。


 次の瞬間、地面が大きく裂けながら、そのまま圧縮された衝撃波が通路を伝うように流れ込み城郭外部へと到達する。


 遅れて。


 悲鳴。


 勇者の目が、動く。


 そちらへ。


 一瞬。


 それだけでいい。


 竜がバハムートの元へ動く。


 だが。


 また、止められる。


 その遅れを、竜は逃さない。


 爪が振り抜かれ、剣で受けた衝撃がそのまま勇者の身体を弾き飛ばし、地面を滑るように後退させることで守りの位置から引き剥がす。


「……くっ」


 声が漏れる。


 だが。


 止まらない。


 再度、踏み込む。


 その瞬間。


 再び、地蟲界主が動く。


 最大広域落層。


 崩落


 城郭そのものが揺れる。


 壁が崩れ、天井が落ち、内部の人間が押し潰される軌道で構造が変形する。


 悲鳴。


 連鎖。


 勇者が、動く。


 行かざるを得ない。


 その一瞬。


 皇帝への意識が削がれる。


 竜は、勇者の背に担がれるバハムートへ踏み込む。


(取れる)


 確信。


 だが。


 勇者の拳が弾く。


 しかしその動きは先ほどよりもさらに遅い。


 息が、乱れている。


 処理が、追いついていない。


 当然だ。


 二つを同時に救う。


 そんなものは。


 成立しない。


ー……全て、守れよ。勇者ならー


 竜が、初めて言葉を落とす。


 勇者は答えない。


 ただ。


 構える。


 その視線の奥で。


 また。


 揺れる。


 城が。


 人が。


 命が。


(ならば)


 徹底する。


 竜は、さらに深く接続する。


 そして。


 樹牢界主が欠けたことによるもう一つの枠。


 呼び出す。


 灰殻界主。


 空間が歪む。


 死の匂いが、満ちる。


 次の瞬間、転移と同時に崩れた人間の死体がその場で蠢き始め、菌糸により再接続された骨格が歪な動きで立ち上がる。


 だが。


 それだけではない。


 生きている人間が数人残されている。


 その周囲を死体に囲まれている。


 盾のように。


 壁のように。


 そして。


 動く。


 死体が。


 人間を庇う形で前進し、その背後から攻撃を仕掛けることで、救出しようとすれば確実に人間ごと斬るしかない状況を作り出す。


「……最悪だな」


 勇者が、吐く。


 理解している。


 完全に。


 選択を迫られている。


 斬れば、人が死ぬ。


 斬らなければ、自分が。


 そして。


 迷えば。


 全てが、


 竜は、迷いを見る。


 静かに。


 冷静に。


ー想定外に良い方向へ転んだ。あの元皇帝よりも幾分勇者の方が御しやすいー


 この状況。


 これ以上ない。


 最適解。


 勇者という存在に対する。


 最も効率的な。


 殺し方。


 踏み込む。


 皇帝へ。


 一直線。


 もう、止まらない。


 勇者は、動く。


 だが。


 遅い。


 全てを救おうとする限り。


 その一瞬の遅れは。


 必ず、生まれる。


ー今度こそー


 竜は、確信する。


ー奪えるー


 勇者という器。


 皇帝の継承。


 そのすべてを。


 余すことなく。


 喰らう。


 その一歩を。


 踏み込む。

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