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灰森の巣竜  作者: AI太郎
世界侵食
142/149

万の樹

 空間が、完全に閉じた。


 視界のすべてが“根”で覆われている。


 すべてが重なり合い、層となり、厚みを持ち、空間そのものを構成している。


 万樹封界。


 アルグレートは、静かに息を吐く。


「……閉じ込められたか」


 その声に焦りはない。


 だが。


 止まることもない。


 踏み込む。


 斬撃。


 最短距離で、空間そのものを断つ。


 衝突した刃が根の層を切り裂き、内部まで貫通しながらも、その瞬間に別の層が流れ込み、断面を埋めて再び壁を形成する。

 斬撃の余波で周囲の根が千切れ飛ぶが、次の瞬間にはさらに密度を増した構造が再構築される。


「……このまま出るのは不可能か」


 その時。


 足元が沈む。


 根が絡む。


 締め上げる。


 魔力が吸われる。


「ちっ……!」


 振り払う。


 だが、その動きに合わせて。


 さらに絡む。


 さらに重なる。


 さらに深く。


 まるで。


 空間そのものが“拒絶”しているかのように。


「なるほどな……」


 アルグレートが低く呟く。


 答えは、すぐに出る。


 その瞬間。


 空間の奥で、わずかに揺らぐ気配。


 樹牢界主。


 姿は見えない。


 だが。


 確かにいる。


 そして魔力の流れからして、


 “この空間を維持している”。


「……また時間稼ぎか」


 理解する。


 この結界は、壊せない。


 元凶ごと滅ぼさなければならない。


「なら――」


 踏み込み力を込める。


 制限を外す。


 魔力が、溢れる。


 空間が軋む。


 根が震える。


「終わらせる」


 振り抜く。


 その一撃は、空間を裂く。


 層を貫く。


 深く。


 確実に。


 だが。


 届かない。


 その奥に、さらに層がある。


 さらに。


 さらに。


 無限ではない。


 だが。


 足りない。


「……」


 アルグレートはさらに踏み込む。


 連撃。


 連続。


 速度が上がる。


 斬る。


 斬る。


 斬る。


 その全てが空間を削り取り、根の層を破壊しながら内部へと進むが、そのたびに再構築される構造が流れ込み、進行をわずかに遅らせる。

 その遅延が積み重なり、距離が縮まらない。


 その時。


 根の動きが変わる。


 今度は、刺すような鋭さのある根。


 拘束ではない。


 無数の全方位攻撃。


 アルグレートは踏み込む。


 避けない。


 斬る。


 弾く。


 砕く。


 だが、その動きの“合間”に、さらに絡む。


 魔力が削られる。


 消耗。


 それを、狙っている。


「……徹底してるな」


 その瞬間。


 空間の様子が変わる。


 圧縮。


 空間の密度が上がる。


 動きが鈍る。


「それでも――」


 踏み込む。


 魔力をさらに解放する。


 空間を“削る”のではなく


 “剥がす”。


 層そのものを引き剥がし、内部構造を露出させる。


 その先に。


 “核”。


 見える。


「そこか」


 踏み込む。


 一直線。


 その動きに呼応するようにすべての根が収束する。


 防ぎ、押し潰す。


 その密度は、これまでとは比較にならない。


 完全防御。


 アルグレートは、踏み止まる。


「まったく、本当にめんどうな...」


 振り抜く。


 最大出力。


 その一撃で、層が崩壊し、空間そのものが裂け、封界の一部が大きく抉り取られる。

 だが、その瞬間にすべての根がそこへ流れ込み、空隙を埋めながら再び封鎖する。


 届かない。


 あと一歩。


 だが。


 足りない。


 その間にも。


 時間が流れる。


 どれだけ斬っても。


 どれだけ壊しても。


 “維持される”。


 そして――


 気付く。


「……半刻か」


 静かに呟く。


 外の戦場。


 どれだけ進んだかは、分からない。


 だが。


 十分すぎる。


 アルグレートは、剣を下ろす。


 ほんの一瞬だけ。


 呼吸を整え。


 そして、再び構える。


「……あと少し」


 誰に向けた言葉かは、分からない。


 だが。


 その目は、まだ死んでいない。


 次の一撃で。


 終わらせる。


 その意思だけが、そこにあった。

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