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灰森の巣竜  作者: AI太郎
世界侵食
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抵抗

 帝都魔導区。


 そこは軍事区とは異なり、帝国を“解析するため”に作られた区域であり、無数の魔導塔と術式施設が並び立つ知の集積地だったが、その静寂は空間の歪みとともに崩壊した。


空が割れる。


魔力が流れ込む。


その瞬間、誰よりも早く異変を理解したのは、塔の上層にいた老魔導師だった。


「……この魔力の流れ、ダンジョン化に近い何かが起こっている?まさかもう...」


外敵の侵入はない。少なくとも探知魔方陣には何も変化が見られない。


しかし、外の様子を見るからに空間そのものが書き換えられている。


つまり――


「件の魔物の仕業か」


その言葉が落ちた瞬間、影が差した。


 上空。


何もなかったはずの空間に、翼が広がる。


そこから降りてきた存在を見た者は、直感的に理解した。


これは迎撃対象ではない。


“逃げるべき存在”だと。


 天翼界主。


その翼が一度だけ震えた。


それだけで空間が“揺れた”。


乱れていた魔力が均され、歪んでいた視界が固定される。


そしてその中心に――


一人の少女が立っていた。


 魔人界主。


その姿は小さく、戦場に似つかわしくない。


だが、彼女が一歩踏み出した瞬間、魔導区の空気が変わる。


魔力が“従う”感覚。


「……これ、全部持って帰れるね」


軽い鈴の音のような声だった。


だがその内容は、宣告に等しい。


魔導塔の術式。


蓄積された魔法理論。


そして人類の知識。


それらすべてが“奪われる対象”として認識された。


「起動しろ!」


誰かが叫ぶ。


その言葉に、魔導区全域が反応する。


 塔の表面に刻まれた魔法陣が一斉に発光し、砲口が開き、魔砲台が天翼界主へと向けられる。

 同時に地面に刻まれた対魔術式が展開され、魔力の流れを阻害しながら、侵入した異質な魔力を押し返そうとする。


 だが――


「遅いよ」


魔人界主が手を上げる。


その瞬間、空間が書き換わる。


眼には見えない。


だが確実に。


魔導区そのものが、ダンジョン内部と同じ“規則”へと変質する。


魔力の流れが変わる。


術式の優先順位が崩れる。


制御が、奪われる。


放たれた魔砲が歪む。


本来の軌道を外れ、空間に吸い込まれるように逸れていく。


対魔術式が発動する。


だが、その効果は人に仇成すように “上書きされている”。


「……界律改写。魔法理論の極地。かの海上の覇国の魔術師が理論のみ完成させたとは聞いていたが。」


老魔導師が呟く。


理解した瞬間、絶望が走る。


これは干渉ではない。


支配だ。


「ふーん、この魔導区全域に張り巡らされている魔術式は、面白いね。どんな術式なのかな?」


魔人界主は空を歩く。


その足取りは軽い。


だが、その一歩ごとに、魔導塔の内部構造が“解析”されていく。


術式が剥がれる。


知識が吸い上げられる。


その間にも、天翼界主は動かない。


ただ、そこにいる。


だがその存在そのものが“安全装置”だった。


魔人界主に害ある何かが発生した瞬間、即座にその行動を修正される。


危険な干渉はすべて空間ごと隔離される。


つまり――


「……何も出来ない。」


誰かが呟く。


そう。


この戦場は、護衛付きだ。


そしてその護衛は、突破不可能。


「死力を尽くして止めろ!」


虚しい叫びが響く。


魔導師たちが詠唱を開始する。


個別の魔法ではない。


集団儀式。


この状況で唯一可能な“強制干渉”。


「術式、展開!」


塔と塔が繋がる。


地面の魔法陣が連動する。


魔導区全体が一つの術式として構築されていく。


その中心にいるのは――


 魔人界主。


彼女を巻き込む形で、魔法が発動されようとしている。


「……何か来るね」


魔人界主が呟く。


わずかに視線を上げる。


その瞬間、世界が落ちた。


空気が沈む。


骨が軋む。


地面が鳴る。


まだ発動していない。


だが“兆候”だけで理解できる。


 これは――


「重力系……?でも最上位のはずの魔法よりも」


 違う。


 その規模ではない。


「重圧崩壊陣、起動準備完了!」


 叫びが響く。


 魔導区のすべての魔力が、一点に集約される。


 圧縮。


 固定。


 そして――


 崩壊。


「……へぇ」


 魔人界主の声がわずかに変わる。


 興味。


 それだけだ。


 恐怖はない。


 だが――


 その瞬間。


 天翼界主の翼が、わずかに開いた。


 空間が揺れる。


 退路が、確保される。


 それはつまり――


 “必要なら逃がす”という意思表示。


 だが、魔人界主は動かない。


「まだ、いいよ」


 その言葉とともに、魔力がさらに流れ込む。


 術式の解析は終わっていない。


 奪うべきものが、まだ残っている。


 そして――


 人類の最後の抵抗が、完成しようとしていた。

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