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灰森の巣竜  作者: AI太郎
世界侵食
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希望

長城の戦場は崩壊寸前から、かろうじて“形”を取り戻し始めていた。


しかしそれは優勢になったのではなく、各戦線で「どうすれば死なずに済むか」が共有された結果に過ぎず、王級頂点種そのものを押し返したわけではないという現実は、誰もが理解した上で戦い続けていた。


「各戦線、方針を確定する! 勝とうとするな、生き残れ!」

「……それで押し返せるのか?」

「押し返すのは後だ、まずは崩れないことを考えろ!」


指揮系統が一本化されると同時に、戦場の“動き方”が変わる。


最初に変化が現れたのは空域だった。


翼王が再び急降下を仕掛けた瞬間、長城上空にはすでに複数の氷結帯と風圧干渉陣が重ねて展開されており、その空間に突入した翼王の軌道がわずかに歪んだことで、これまで完全に読めなかった突撃角度に「ズレ」が生まれる。


「今度は読めるぞ!」

「やはり速すぎる、だが十分だ!」


そのわずかなズレに、アルヴァレクが踏み込む。重力を纏った斬撃が空を裂き、今度は確実に翼の根元へ叩き込まれ、衝突と同時に空気が圧縮されて白い爆圧が広がると、翼王の体勢が初めて“崩れた”。


落ちない。だが、止まる。


その一瞬にドゥーガが前へ出て盾を突き上げ、衝突の衝撃を真正面から受け止めたことで翼王の高度が一気に下がり、長城上へ叩きつけられる直前で翼を展開して強引に持ち直すが、すでにその空域は“自由に飛べる場所”ではなくなっている。


「空を閉じろ、逃がすな!」

「氷壁を作れ、軌道を潰す!」


リディアの魔法がさらに広がり、空気そのものが重く、粘るように変質する。


翼王は再び上昇して距離を取るが、以前のような即時再突撃は行えない。空はまだ支配できている。だが、その支配は“完全ではなくなった”。


――それだけで、戦場は変わる。


正門前では、断牙の王が再び突進を試みた瞬間、すでに騎士団は長城の内側ではなく外側へ展開しており、踏み込んだ先に“長い直線”が存在しない状態が作られていたことで、その加速は途中で削がれ、衝突はするが貫通しないという状態へ変わる。


「来るぞ、正面!」

「受けるな、横へ流せ!」


ガルド・ベレドが叫ぶと同時に、盾列は真正面で受けるのではなく斜めへ滑らせるように配置され、断牙の王の突進がわずかに逸れたことで、その進路が意図的に“空いた側面”へ誘導される。


そこへ、杭と鎖が同時に打ち込まれる。


「今だ、縫い止めろ!」

「逃がすな、足を止めろ!」


断牙の王はその程度で止まる存在ではない。鎖を引きちぎり、杭を砕き、次の瞬間にはすでに別方向へ踏み込もうとするが、そのたびに進路上に騎士が割り込み、突進の軌道を歪めることで“加速のための直線”が作られない。


完全には止まらない。

だが、走り切れない。


それは断牙の王にとって致命ではないが、戦場全体から見れば“被害の速度が落ちる”という決定的な変化だった。


「これなら……抑えられる!」

「まだ抑えてるだけだ、油断するな!」


西面では、さらに明確な変化が起きていた。翠角の賢王が再び角を掲げた瞬間、地面から樹根が噴き上がるが、今回はその直後に白金の光が地面へ走り、地脈へ流れ込んでいた魔力の流れそのものが途中で断たれることで、樹海の再生速度が明らかに鈍る。


「効いているわね」

「完全じゃないが、明らかに勢いが止まっている……!」


セラフィナは即座に判断する。


焼くだけではなく、地脈そのものを“遮断する”ことで、賢王の魔法は維持できなくなる。だがそれは同時に、こちら側も膨大な魔力を消費し続けるという意味でもあり、持久戦に持ち込んだ瞬間にどちらが先に尽きるかは分からない。


「魔力を回せ、止めるな!」

「持たせるのか、ここで……!」

「ここで止めなければ、全て森になる!」


賢王は理解していた。人類が戦場を“焼く”だけでなく、“奪い返そうとしている”ことを。


そして北面。毒海の八首との戦場では、攻略法が完全に“形”になり始めていた。レグナートが踏み込み、一つの首を断ち切ると同時に影潮衆がすでに次の動きに入っており、切断面へ油と火が叩き込まれ、再生する前に完全に焼き切るという一連の動作が、ほぼ同時に成立する。


「次、左三つ!」

「分かってる、行け!」


天頂の七星の動きは速い。影潮衆はさらに速い。そして周囲の冒険者達も、その動きを“見て覚え”、同じ動作を再現し始めることで、八首の再生能力は確実に削られていく。


だが、八首は止まらない。


毒霧が濃度を増し、足場はさらに沈み込み、焼き切った首の代わりに残った頭部がより攻撃的に動き始める。攻略法は成立した。だが、それを維持するだけで人間側は削られていく。


「回せ、前に出たら下がれ!」

「交代だ、毒を浴びたやつは無理するな!」


戦場は完全に“作業”へ変わっていた。だがその作業は、一つでも遅れれば死ぬ精度で維持されている。



そして西南。


紫晶黒鉱兵との戦場では“勝たない戦い”が成立していた。


黒鉱兵が大剣を振り下ろすと同時に、ガルドが真正面で受けるのではなく斜めへ流し、その一瞬の隙に後方の砲撃が関節部へ集中し、さらに別方向から拘束用の魔法が重ねられることで、前進が一歩分だけ止まる。


それを繰り返す。


「一歩でいい、二歩進ませるな!」

「削るな、止めろ、止め続けろ!」


黒鉱兵は壊れない。だが進めない。周囲の金属を取り込み続けることで形を保ちながらも、戦場そのものが“拘束陣”として機能し始めたことで、その巨体はそこから動けなくなる。


――戦場が、敵を縛る。


この時点で初めて、人類側は理解する。


「……勝てる、のか?」

「ああ!いけるぞ!」


だが、その“形”が完成しかけた瞬間、全戦場に新たな気配が走った。


地面が震える。


それは断牙の王でも、黒鉱兵でもない。もっと粘り、もっと広く、もっと深い震動だった。


「……何だ、これ」

「地面が……濡れてる……?」


長城の外、森の中央側から、地面がゆっくりと盛り上がり始める。土ではない。水だ。だが流れない。溢れない。ただ“そこにある地面”として存在していたものが、形を変えていく。


誰かが呟く。


「……湖が、来てる」


蒼湖の王。


まだ姿は見えない。

だが、その“存在”だけで、戦場の全てが一瞬止まる。


そして、その震動を、竜と主もまた感じ取っていた。


「やっと来たね」

竜は静かに翼を広げる。

「……これで、本番までは持つ。」

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