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灰森の巣竜  作者: AI太郎
世界侵食
116/149

蒼湖の王と剣帝

戦場全域の地面が崩れる。


踏みしめていたはずの大地が、そのまま“沈み始めた”瞬間、兵士達の足元から水が噴き上がり、すでにそこに存在しはじめていた泥濘みが形を変え、地面の輪郭を保ったまま流動を始めたことで、戦場そのものが一斉に揺らぎ始める。


次の瞬間、全域から水が立ち上がった。


地面、城壁、死体、武具――あらゆるものを巻き込みながら水が伸び上がり、数十、数百という単位で同時に振り下ろされることで、長城前面の戦線が一瞬で押し潰される。


叩きつけられた水塊はただの衝撃では終わらず、そのまま流動して対象を包み込み、鎧ごと、骨ごと、魔力ごと溶かしながら内部へ引きずり込むことで、接触した兵士は一瞬で“消える”。


「下がれッ!!」

「無理だ、足場が――」


足場は存在しない。

地面はすでに湖の一部だった。


さらに追撃のように、水面から新たな水柱が生まれる。なにもないはずの箇所から即座に構築された水流が伸び上がり、回避した先に待ち構えるように叩きつけられることで、逃げ場そのものが消えていく。


戦線が崩れる。


いや、崩れるという表現すら生ぬるい。

“溶けている”。


「……これが、蒼湖の王……!」

「まずい、こんなのどうしようもないぞ……!」


その認識が共有された瞬間、戦場の空気が変わる。


環境そのものを相手にしている。


その理解が広がった直後、戦場中央で水が大きく隆起し、巨大な渦が形成されると同時に、周囲数百メートルの兵士をまとめて引きずり込みながら、圧縮された水圧が内側へ収束し始める。


蒼界吞滅。


水面が口のように歪み、吸い込まれた存在を押し潰しながら溶解していくその中心部へ、すべてが引き寄せられていく。


「終わった……」

誰かが呟いた。


その瞬間。


空気が切れた。


音はない。

圧もない。


ただ“そこにあった空間”が一瞬だけ存在を失い、次の瞬間、戦場中央に立ち上っていた巨大な水塊が真横に断たれていた。


斬撃。


それは衝撃を伴わない。

ただ結果だけが残る。


切断された水が遅れて崩れ、内部に形成されていた圧縮構造が破綻したことで、蒼界吞滅の渦が一瞬で崩壊し、引き込まれていた兵士達が叩き出されるように外へ弾き飛ばされる。


そして、その断面の中央。


そこに、一人の男が立っていた。


銀の鎧。

深紅の外套。

手には細身の剣。


帝国皇帝

バハムート八世。


「……なるほど」


彼は足元の水面を見下ろす。

そこには、斬られたにも関わらずすでに再構築を始めている水流があり、切断面すらも意味を持たないように蠢いている。


だが。


皇帝は理解していた。


「確かに途方もなく巨大だが、構造自体は単純だな。」


その瞬間、水面が爆発するように盛り上がり、数十本の触手が同時に彼へ襲いかかる。


しかし皇帝は動かない。


触手が到達する直前、剣がわずかに振られ、その軌道上に存在した水流がまとめて切り落とされる。崩れた水が遅れて落下するばかりで攻撃そのものが成立しない。


次の瞬間、彼はすでにその場にいなかった。


残像すら残らず移動した皇帝は、水の柱の根元へ現れ、剣を振り抜くことで水の内部構造を一瞬だけ断ち切り、わずかに攻撃の遅延を発生させる。


それは破壊ではない。

解析だった。


「……やはり、そうか」


水は無限に近い。

そして、全ての水が同一の魔力を元に一つの意志で動いている。


全域が一つの意思で動いている以上、そのどこかに“制御核”が存在する。


それを断てば終わる。


皇帝は視線を上げる。


水面の動き。

流速の偏り。

魔力の集中点。


全てが一つの場所を示している。


「見つけた」


その瞬間、水域全体が反応した。


皇帝の視線を“理解した”かのように、周囲の水流が一斉に収束し、彼の進路を遮るように壁を形成しながら、上下左右すべてから圧縮されるように押し潰そうとする。


逃げ場はない。


だが。


皇帝は笑った。


「遅い」


踏み込む。


同時に、斬る。


正面の水壁が裂け、その奥へ進むと同時に背後の水が閉じるよりも速く横へ抜け、さらに次の収束点を切り裂きながら進行ルートを無理やり“作る”ことで、水域そのものを縫うように走り抜ける。


追いかける水。

逃げる人間。


だがその速度は、常識の範囲にない。


「な、何だあれ……!」

「水の中を……走ってる……!?」


皇帝は止まらない。


触手が振り下ろされるより先にその根元を断ち、再構築されるより先に次の地点へ移動し、圧縮される空間の“隙間”へ滑り込むことで、全方位からの攻撃を一切受けることなく、水域の内部へ侵入していく。


蒼湖の王は理解する。


これは獲物ではない。


侵入者でもない。


我々とおなじ“狩る側”にいる者だ。


水流の動きが変わる。


これまでの圧倒的な物量による面制圧ではなく、皇帝一点へ向けた収束型の捕食へ移行し、周囲の水量がさらに密度を増しながら、逃げ道そのものを消すように圧縮されていく。


それを見て、皇帝は確信する。


「もう逃げるのには飽きてきたぞ。攻め手の交代と行こうじゃないか。」


鬼ごっこは終わリを迎え。この戦いの終点は決まった。

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