帝国動く
灰森外縁。
かつて森を前に広がっていた荒涼の大地は、完全に姿を変えていた。
地面は削られ、岩盤が露出し、その上に築かれたのは――
長城。
人類最大規模の防衛構造物。
数十キロに渡って連なる石壁は、ただの防壁ではない。
魔力導線が内部に張り巡らされ、砲座・結界塔・観測陣が一体化した
“戦場そのもの”だった。
その上に、帝国軍が立つ。
さらに背後には――
各国の旗。
「……ここまでやるか」
蒼天探索団の団長アルヴァレクが低く呟く。
その視線の先では、北方帝国の黒鋼騎士団、聖域魔導団、傭兵団、斥候部隊が配置を進めていた。
単一国家ではない。
これは
「ほんとーに立派な連合軍だなっ!」
副団長リディアは静かに言う。
「ええ、しかも中心は帝国」
「当然だ。ここを築いたのはあいつらだ」
長城は完成していた。
そして同時に――
戦争の形が、変わった。
巨大な円卓の上に、灰森全域の地図が展開される。
魔力投影によって再現されたそれは、常に変化していた。
森が、動いている。
「……拡張速度、上昇」
参謀が淡々と告げる。
「灰森はすでに“生態系ダンジョン”へ移行しはじめていると判断されます」
その言葉に、場の全員が沈黙する。
だが、その沈黙を破ったのは一人の男。
北方帝国皇帝
バハムート八世。
「結構」
軽く、そう言った。
「想定通りだ」
場がざわつく。
「……陛下、想定内とは?」
宰相が問う。
すると皇帝は、地図の一点――灰森の中心部を指し示す。
「敵はあくまで“ダンジョン”」
「ならばやることは一つだろう」
視線が鋭くなる。
「攻略戦に持ち込む」
その言葉に、数名の将が顔を上げる。
「待ってください陛下、現状戦力では内部侵攻は――」
「だからこそ」
皇帝は言葉を被せる。
「勇者を呼ぶ」
空気が変わる。
「すでに各国へ通達済みだ」
皇帝が続ける。
「勇者は現在、十二災冠の一柱――未の討伐に赴いている」
参謀が補足する。
「初代魔王とも称される、人類史上最大の敵。それとまともに戦える存在です。」
皇帝は笑う。
「それが“勇者”だ」
誰も否定しない。
「勇者が到着すれば」
「この長城を拠点に大侵攻を開始する」
言葉が落ちる。
それは防衛ではない。
明確な
侵略。
同時刻。
灰森深層。
主の前に、情報が流れ込む。
人類の動き。
長城。
集結する戦力。
そして――
勇者。
「……来る」
魔人が静かに言う。
「核の解析が完了したよ。」
「人類は“連合”を形成する。」
その瞬間、竜の思考が加速する。
連合。
それは単純な戦力増加ではない。
情報共有。
戦術統一。
そして何より――
“攻略”の成立。
「阻止する」
即答だった。
遅ければ終わる。
完成すれば勝てない。
だから
その前に潰す。
「全王級頂点種、を長城に向わせる。」
魔人が宣言する。
「外縁戦力を統合し、長城へ投入」
それはこれまでの戦いとは異なる。
局地戦ではない。
試験でもない。
「総攻撃だ」
つまりこれは灰森が“攻勢に転じた”瞬間だった。
_____________
帝都に報告が入る。
「灰森の王級頂点種、移動を開始」
「進路……長城方面」
ざわめきが走る。
だが
皇帝だけは笑っていた。
「やはり来たか」
静かに、そして確信を持って。
「……陛下?」
側近が戸惑う。
すると皇帝は、ゆっくりと椅子に深く腰掛けながら言う。
「やっとだ」
「やっと人間の戦争に持ち込めるっ!」
その言葉に、誰もすぐには理解できなかった。
だが皇帝は続ける。
「今までは違った」
「森に入り、相手の土俵で戦っていた」
指が長城をなぞる。
「だが今回は違う」
「戦場は我々が作った」
「補給も、配置も、戦術も」
そして何より
「敵はここへ来る」
沈黙。
その意味を理解した者から、顔色が変わる。
「……誘ったんですか」
宰相が呟く。
皇帝は笑う。
「当然だろう」
「餌につられて集まった烏合の連合など何の意味もない。完成させる必要などない。」
視線が鋭くなる。
「敵が来るなら」
「ここで叩き潰せばいいっ!」




