2 ◇ 発足、放課後「魔法倶楽部」
全32話(執筆済)。基本毎日投稿予定です。
ベルミーの勢いに負けて魔法を教えることになってから、何もなく丸1週間が経った。
ベルミーが「その前にやることがある」って言っていたから。
そして1週間が経った約束の日。夕方4時半、放課後。
わざわざ教室まで迎えに来たベルミーに連れられて、私は校舎の端の第3資料室に来ていた。
「…………何これ?」
「『何』って、それは当然──ボクたち魔法倶楽部の『部室』です!」
私の記憶ではこの資料室は、使わなくなった資材やら壊れた備品やらで埋め尽くされて埃まみれになっていた、先生方にとっても手付かずの間だったはず。
……それなのに、私の目の前にあるこの部屋は、スッキリ片付けられていた。
足の踏み場もなかったガラクタ類は、綺麗さっぱり無くなっている。両壁の本棚にはびっしり本が詰められていて──それはまあ、もともとあったものがそのまま置かれているようだけど──……でも、ちゃんと上からハタキで払って埃を落としたんだろうと思える程度にはなっていた。
そして部屋の真ん中には、古びた机と、種類の違う椅子が二つ。
机の古さを誤魔化すように謎の柄のテーブルクロスが掛けてあって、それがいい感じにアンティークっぽい雰囲気を醸し出していた。
……多分、机も椅子もこの謎の柄のテーブルクロスも、ガラクタの奥深くに埋まっていたんだろうな。
奥の窓は換気のためか全開になっていて、一度洗ったらしい埃を被っていない薄手のカーテンが、部屋の中に向かって風に靡いていた。
部屋を吹き抜けてくる風に、まだ少しだけカビっぽい香りが乗っている。……でも、もうそこまで気にするほどでもないくらいに、空気は入れ替えられているようだった。
圧迫感のある本棚たちのせいでだいぶ狭く感じるものの、ちょっとした書斎のよう。
広い校舎の端っこの、まるで秘密基地のようだった。
「これ、まさかベルミーが全部一人でやったの?」
私が驚きながら聞くと、ベルミーは笑顔で頷いた。
「ハイ!先生方に『魔法倶楽部』の話をして許可を取って、この部屋を貸してもらいました!
朝と放課後と、休日も丸々二日使って、頑張ってボクが片付けました!」
そして謎の紙をピロッと広げて見せてくるベルミー。
何かと思って見てみたら「倶楽部活動 発足許可書」と書いてあった。
──学内課外活動グループ「魔法倶楽部」。
平日の放課後、この第3資料室で魔法の研究・勉強を行う。実践をする場合は裏庭または校庭にて、教員の許可を得て行うこと。
活動メンバーは2名。
2学年【メリサ・ハド・ユグマネル】
1学年【ベルミー・ジ・リリアネッツ】
ご丁寧に顧問として、魔法学のベテラン、フィン先生の名前が書いてあって、先生のサインまで入っていた。
「…………さすがに頑張りすぎでしょ。」
私が軽く引きながらそう言うと、ベルミーは「先輩が引いてる〜!」と、おかしそうに笑った。
「ごめん。君のやる気を舐めてた。」
「──!ボクの本気、伝わりましたか?」
「うん。伝わった。君、そんなに魔法が好きなんだね。」
私が頷くと、ベルミーは
「魔法も好きですけど、一番は尊敬するメリサ先輩のためです!
まずは倶楽部設立とここの掃除で、誠意を見せようと思いました!」
と、不良集団の下っ端のようなことを言ってきた。
「……そこら辺の空き教室で、軽く勉強会する程度だと思ってたんだけどな。」
私がそう呟くと、ベルミーはドヤ顔で語った。
「何かを新しく始めるときは、モチベーションの上がる環境を整えることが大事です!──って、何かの本で読みました!
どうです?この倶楽部の部室!先輩もわくわくしてきませんか?」
ベルミーにそう言われて改めて部室を見渡してみたら……たしかに、ちょっとわくわくしてきた。
「うーん……うん。ちょっと。」
私が同意すると、ベルミーは「えぇ〜?こんなに頑張ったのに!ちょっとだけなんですか!?」と、悔しそうに顔をギュッと顰めた。可愛らしい顔を躊躇うことなくしわくちゃにして台無しにして、そのまま私の方を向いて「悔しい顔アピール」をしてきた。
その思い切りのいい変顔が面白くて、私はつい笑ってしまった。
こうして私はベルミーと、放課後「魔法倶楽部」を始動した。
◇◇◇◇◇◇
「それで……じゃあ、初回の今日は何をする?
何でもいいよ。ベルミーのしたいことで。」
私はベルミーに質問をした。
新入生のベルミーに勉強を教えられるように、1学年のときの魔法学の教科書と魔導書とノートも一応持ってきてはいる。
……嵩張るしけっこう重いしで、実は持ってくる途中で「何してるんだろう私」って、若干後悔しかけてた。
でも、この部室……というか、ベルミーのこれだけの熱量を見て、後悔の念はなくなった。
私は「ベルミーは学校の授業の先取りでもしたいのかな」と予想して、そういう用意をしてきていたけど。
ベルミーは私の質問を受けて、迷いなく要望を言ってきた。
「何でもいいですか?!
──じゃあ、去年の学祭でメリサ先輩が披露していた、魔法実演のパフォーマンスについて教えてください!」
◇◇◇◇◇◇
〈毎年秋にある、この魔法学校中等部の学祭。
一般公開される最終日のメインイベント『クラス別対抗戦』で行われるのが、ベルミーが私を褒めてくれた例の『魔法実演』。
まずその『クラス別対抗戦』っていうのは、その名の通り。クラスごとに縦割りでチーム分けをして、先輩後輩で団結していろんな種目で競い合って、総合優勝を目指す行事。
……例えば、『チーム1組』っていうのは、1学年1組から4学年1組までの、各学年の1組が集まったチームのこと。
そしてその対抗戦の最終種目にして、最大の目玉でもある『魔法実演』。
これは各クラスの代表者が、3分の持ち時間で独自構成の魔法パフォーマンスを披露する競技。
この『魔法実演』は、二人一組で行われる。1学年生と2学年生の下級生同士、3学年生と4学年生の上級生同士でペアになる。〉
「──基本的には、各クラスから一番魔法が上手い人が選ばれるかな。魔法学の成績優秀者。
それで、ペアになった人と一緒に一から構成を考えて練習するの。私は去年は5組で、1学年上の先輩と一緒に組んでやってたな。」
「ふんふん、なるほど。……たしかにペアでやってましたね。」
ベルミーは去年、一般客として見物に来ていたようだった。
だから知っているだろうとは思いつつ、私はまずその「魔法実演」自体が何なのかから説明を始めた。
ベルミーは大人しく「ふんふん」と頷きながら、記憶と照らし合わせて私の話を聞いていた。
「とにかく、3分間にどんな魔法を組み込むかが肝になるの。
……教科書の範囲外の魔法ももちろんアリ。高等部で習うような詠唱魔法とか、それこそ私がやった『祖伝魔術』みたいな、見栄え特化の特殊な魔法とか。
校内生、教師陣──それから、学祭に来てくれる家族や一般の方々。とにかく皆を驚かせて場を湧かせた方が勝ち。」
「去年はメリサ先輩のあの祖伝魔術が、一番盛り上がってたと思います!
1学年生だったのにスゴいです!絶対にメリサ先輩があの年で校内一の魔法使いでしたよ!」
大袈裟に褒めてくるベルミー。
私が「いや、そこまで持ち上げなくていいから。」と言ったら、ベルミーは
「持ち上げてなんかないですよ?メリサ先輩か一番すごかったのは純然たる事実です!」
と返してきた。
……褒められるのは嬉しいけど、どうもベルミーからは不良集団の下っ端っぽい精神を感じるんだよな。
私がそんなことを思っていたら、ベルミーは「あ!」と何かを閃いて、顔をパッと明るくした。
「ボク、4組!メリサ先輩と同じだ!先輩も今は4組ですもんね!?」
「そうだね。」
君、毎日のように私のクラス教室まで来て弟子入り志願してたし。今日も迎えに来てたしね。
教えた記憶はないけど、さすがに覚えてるよね。
「──ってことはボク、今年先輩と一緒にその『魔法実演』できるかな!?」
私と縦割りのクラスが同じだという事実に気が付いたベルミーが、ものすごく嬉しそうに顔を綻ばせる。
そのベルミーの子犬みたいな表情が本当に可愛くって、私は釣られて思わず自分の頬を緩めてしまった。
……周りの女子達じゃないけど。ベルミーを見て「キャー可愛いー!」って騒ぐ人達の気持ちが少し分かったような気がした。
「そうだね。
私もベルミーも、魔法学でクラス1位の成績を取ってれば、今年は一緒にやれるかもね。
だいたい1学期の期末考査後に代表者決めがあるから、そこの成績次第かな。」
私が笑いながらそう言ったら、ベルミーは「そっか!」と言って目を輝かせた。
「決めました!
ボク、この『魔法倶楽部』の1学期の活動目標は『先輩と一緒に魔法学の学年1位を取ること』にします!」
「それだと私も強制的に『学年1位』を目指すことになっちゃうんだけど。
しかもクラス1位じゃなくて、学年1位なんだ?」
思わずそうツッコむと、ベルミーは当然のような顔をして「先輩なら余裕ですよね?!ボクも1位取れるように全身全霊で頑張ります!」と、多分わざとじゃないんだろうけど、私に要らないプレッシャーを掛けてきた。
そうして図らずしも初回日の今日、すぐにこの「魔法倶楽部」の二人の活動目標が決定した。
それから私は異様に記憶力がいいベルミーに、その例の去年の魔法実演でどんな種類の魔法を使ったか、見せ場の祖伝魔術が一体どんなものだったのかを、根掘り葉掘り聞かれまくった。
キラキラと目を輝かせてバンバン質問攻めにしてくるベルミーに気圧されつつ、私は必死に記憶を辿りながら、「今日は1学年のときの教科書や魔導書やノートじゃなくて、魔法実演の構成を書いたノートを持ってくるべきだった」と、若干……本気で後悔をした。




