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第9話:波乱の送別会と、再会したアイツ

行人の送別会当日。会場は会社近くの貸切パーティースペースだった。


「三浦くんの新しい門出に乾杯!」という部長の発声とともに、華やかに宴が始まった。


あたしは、昨夜の彼の抱擁を思い出しながら、少し離れた席から行人を見つめていた。同僚たちに囲まれて笑っている彼は、やっぱりこの職場の中心にいるべき男だ。


「なっつー、今日はずいぶん大人しいじゃない」


美佳さんがグラスを片手に近づいてきた。


「三浦くんがいなくなって寂しい? 大阪なんてすぐそこよ。新幹線で二時間半だし」


「……別に、寂しくなんてないですよ。仕事は増えますけど」


「あら、相変わらずねぇ」


そんな軽口を叩いていた、その時だった。


入り口の方が何やら騒がしい。店員と押し問答をしている男の姿が見えた。


「……冬弥?!」


あたしは思わず立ち上がった。


そこには、酔っているのか顔を赤くし、ネクタイを緩めた冬弥が立っていた。招待もされていないのに、なぜここが分かったのか——。


「夏美! いるんだろ、夏美!」


会場が静まり返る中、冬弥は千鳥足であたしたちのテーブルへ突進してきた。行人が異変に気づき、すぐに冬弥の前に立ちはだかる。


「……何しに来た、お前。ここは会社の身内の集まりだ。部外者は帰れ」


「うるさい! お前に用はないんだよ。夏美、お前に言いに来たんだ」


冬弥はあたしを指差し、勝ち誇ったような、それでいてひどく惨めな笑顔を見せた。


「お前が一生懸命やってるそのプロジェクト……中止になるぞ」


「……えっ?」


「俺の会社が、お前らの取引先(クライアント)を買収することになったんだ。今進めてる大阪との合同案件も、白紙に戻すように圧力をかける。……夏美、仕事一筋のお前から、()()()()()()()を奪ってやるよ。そうすれば、お前も少しは可愛らしく、俺に泣きついてくるだろ?」


会場に冷たい空気が流れた。


自分のプライドのために、大勢の人間が関わる仕事を私物化しようとする。その身勝手さに、あたしは怒りで全身が震えた。


「……最低。本当に、最低ね、冬弥」


「なんとでも言えよ。これで三浦も大阪に行く意味がなくなる。お前らの関係も、仕事も、全部終わりだ」


冬弥が嘲笑おうとした、その瞬間。


行人が、冬弥の胸ぐらを掴んで、壁際まで押し込んだ。


「……お前、仕事(ビジネス)をなんだと思ってるんだ?」


行人の声は、今まで聞いたことがないほど低く、静かな怒に満ちていた。


「夏美が、どれだけの思いでこの企画書を書き上げて、どれだけの人間が汗を流して準備してきたか……お前みたいなやつに、壊させてたまるかよ」


「はっ、負け惜しみか? 資本の力が……」


「力があるなら、もっとマシなことに使え。……部長、こいつつまみ出してください。警察呼んでもいいですよ」


行人は冬弥を突き放すと、あたしの元へ歩み寄り、みんなの前で堂々とあたしの手を握った。


「プロジェクトが中止? 上等だよ。白紙になったら、俺がまた一から新しい企画を通す。夏美と一緒に、お前らの会社が手を出せないくらいデカい仕事をな」


その力強い言葉に、会場からパラパラと拍手が沸き起こった。


冬弥は警備員に引きずられていく間際まで何かを叫んでいたけれど、もうその声はあたしの耳には届かなかった。


行人はあたしの手を握ったまま、耳元で小さく囁いた。


「……大丈夫だ、夏美。俺が、お前の仕事も、お前自身も、()()()()()()()()()


送別会は思わぬ修羅場になったけれど、あたしはかつてないほど、自分の未来(あした)を信じられるようになっていた。

第9話をお読みいただきありがとうございました!


【次回予告】

第10話「逆転の一手」

冬弥の脅しはハッタリではなかった。実際にプロジェクトに暗雲が立ち込める中、行人の大阪出発の日がやってくる。夏美は最後の賭けに出るが……!?

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